日本消化器内視鏡学会雑誌
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60 巻, 11 号
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総説
  • 清水 誠治
    2018 年 60 巻 11 号 p. 2357-2368
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/20
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    collagenous colitisは非血性の慢性下痢をきたし,病理組織学的に大腸の上皮基底膜直下に膠原線維束を認める疾患であり,おもに生検組織で診断される.CCはlymphocytic colitis(LC)とともにmicroscopic colitis(MC)に包括されている.MCは欧米で1980年代から1990年代にかけて経年的に罹患率が増加していたが,2000年以降はほぼ一定の水準であり,CCよりむしろLCの方が多い.病因は未だに明確ではなく発症には多因子の関与が想定されているが,欧米では複数の症例対照研究でNSAID,PPIがCCの発症リスクを高めることが示されており,近年はとくにPPIの関与が注目されている.

    本邦では2000年代に入って以降CCの報告が増加している.本邦には疫学的データは存在しないが,頻度は欧米に比べかなり低率である.LCは本邦でほとんど報告がなく,CCもほとんどがPPI(とくにランソプラゾールやNSAID)などの薬剤に関連して発症しており,欧米より薬剤起因性と考えられる症例の割合がかなり高い.このように欧米と本邦ではMCに関する実態に大きな乖離がみられる.

    CCでは元々,画像上異常を認めないと記載されていたが,内視鏡所見の異常がまれでないことが明らかになってきた.内視鏡所見としては,1)色調変化:発赤,発赤斑,褪色など,2)血管像の異常:血管透見低下・消失,血管増生など,3)粘膜表面性状の異常:浮腫,易出血性,粗糙粘膜,顆粒状粘膜,偽膜,粘膜裂創(線状・縦走潰瘍/瘢痕,“cat scratch”),ひび割れ様所見など,4)その他:ハウストラ消失,が挙げられる.とくに粘膜裂創と顆粒状粘膜は本症を疑う上で重要な所見である.内視鏡的有所見率は欧米で約20%と報告されているのに対して,本邦では70%以上である.

    治療としては,原因と考えられる薬剤を中止することでほとんどの症例で下痢が軽快する.

    MCの病態に関してはなお不明な点が多く,疾患のheterogeneityを含めた問題点の解明を期待したい.

  • 藤田 朋紀, 根本 大樹, 冨樫 一智, 勝木 伸一
    2018 年 60 巻 11 号 p. 2369-2376
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/20
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    免疫学的便潜血反応検査が大腸癌のスクリーニング検査として国内外で行われ,精密検査として大腸内視鏡検査が行われる機会が増している.大腸カプセル内視鏡検査は,スクリーニング検査の一翼を担っている.大腸カプセル内視鏡検査は偶発症が少なく,大腸腫瘍性病変に対する6mm以上の大腸ポリープの感度は84〜94%,特異度は64〜88%と報告されており,大腸内視鏡検査とほぼ同等のポリープ検出率を有し,大腸CT検査より優れている可能性がある.一方で①本邦における保険診療は大腸内視鏡検査が困難な場合に限定されている,②医療費が比較的高額である,③腸管洗浄液の飲水量が多い,などの課題も残っており,広くは普及していない.しかし,2018年2月 日本カプセル内視鏡学会(JACE)推奨レジメンが決められるなど腸管洗浄液量の問題は克服されつつある.大腸内視鏡専門医が不足する現状を鑑みると,大腸カプセル内視鏡検査も大腸内視鏡検査や大腸CT検査と同様の基準で保険収載されることが望まれる.炎症性腸疾患におけるカプセル内視鏡検査の評価は定まっていないが,潰瘍性大腸炎においては大腸内視鏡検査より低侵襲なモダリティとして活動性を評価する役割が期待される.

原著
  • 宮里 賢, 名富 久義, 城間 裕子, 與那嶺 圭輔, 西澤 万貴, 馬渕 仁志, 金城 譲, 仲地 紀哉, 島尻 博人, 豊見山 良作
    2018 年 60 巻 11 号 p. 2377-2386
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/20
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    【方法】内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)を施行した総胆管結石性胆管炎の症例で血液培養が採取されていた241例を対象に,菌血症の頻度や起因菌ならびに重症度との関連や菌血症群の特徴について検討した.【結果】対象群の35.2%が菌血症を合併した.菌血症の頻度は胆管炎の重症度に比例し重症例では65%に達した.起因菌はEscherichia ColiKlebsiella属等のグラム陰性菌が多くを占め,起因菌の中に耐性菌の一種であるextended-spectrum β-lactamase(ESBL)産生菌がみられた.菌血症合併例は非合併例と比較して,高齢で重症度が高く抗菌薬投与期間が長い結果となった.【結論】総胆管結石性胆管炎の重症例では菌血症を合併することが多く,速やかな胆道ドレナージと共に起因菌を想定した強力な抗菌薬治療が重要である.

症例
  • 高田 智司, 桐山 正人, 稲田 悠記, 東 友理, 金本 斐子, 東 勇気, 岩田 啓子, 月岡 雄治, 辻 宏和
    2018 年 60 巻 11 号 p. 2387-2392
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/20
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    80歳男性.肺転移を伴う胃癌に対し胃全摘術を施行し,化学療法の2次治療としてRamucirumab(RAM)単独療法を施行したところ,8コース投与後に黒色便を認めた.カプセル内視鏡検査で上部空腸からの出血が疑われ,シングルバルーン小腸内視鏡検査で小腸angioectasiaと診断し止血を行った.本症例ではRAMの血管新生阻害作用により出血が遷延した可能性があり,積極的な出血源の検索と止血処置が有効であった.また,angioectasiaは再出血のリスクがあるため止血後も経過観察が必要である.

  • 國司 洋佑, 松林 真央, 太田 光泰, 大石 梨津子, 日下 恵理子, 田中 聡, 柳橋 崇史, 羽尾 義輝, 加藤 佳央, 前田 愼
    2018 年 60 巻 11 号 p. 2393-2400
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/20
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    症例は92歳男性.入院前9カ月間にS状結腸軸捻転症で6回の緊急入院を繰り返した.重度の認知症で手術は困難であり,毎回内視鏡的整復術,減圧術で治療していた.7回目の入院時に重度の粘膜虚血性変化を認めたが,保存的治療で改善した.家族と十分に相談した上で再発予防目的に経皮的内視鏡的結腸瘻造設術(PEC)を施行した.合併症はなく,術後は他病死するまでの3年間無再発であった.合併症を有する高齢者に多いS状結腸軸捻転症は根治的手術が困難なため内視鏡的治療が行われることが多いが,その再発率が高いことが課題である.繰り返すS状結腸軸捻転症に対してPECは有用な治療選択肢となりうると考えられた.

  • 今井 祐輔, 廣岡 昌史, 黒田 太良, 大野 芳敬, 小泉 光仁, 小泉 洋平, 熊木 天児, 藤山 泰二, 高田 泰次, 日浅 陽一
    2018 年 60 巻 11 号 p. 2401-2406
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/20
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    症例は49歳,女性.直腸癌肝転移に対し前区域切除術を施行.術後後区域と総胆管の間に良性狭窄をきたし胆汁瘻も見られた.胆汁瘻の経皮的ドレナージで一旦は改善したものの再燃.後区域枝と総胆管のbridgingが必要と思われたため,内視鏡的胆管ステント留置術(EBS)を試みたが,後区域枝と総胆管は断裂し,断裂部位に胆汁瘻が形成されており,断裂部位より末梢側胆管へのガイドワイヤーの誘導は困難であった.そこで,後区域枝の胆管より経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)を行い,PTBDチューブよりガイドワイヤーを胆汁瘻内まで進め,経乳頭的に胆汁瘻まで挿入したスネアで把持し十二指腸内に誘導した.後日内瘻化に成功した.胆汁瘻を伴う肝外科手術後胆道合併症に対するEBSは技術的に困難な症例が多い.PTBDを併用した胆汁瘻内でのランデブー法によりガイドワイヤー操作が安定し内瘻化が可能であった.

手技の解説
  • 西田 淳史, 今枝 広丞, 馬場 重樹, 安藤 朗
    2018 年 60 巻 11 号 p. 2407-2415
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/20
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    抗菌剤などの投与が原因となって発症するクロストリジウム・ディフィシル腸炎(Clostridium difficile infection,CD腸炎)は,高齢者や免疫不全患者では重症化し死に至ることもある.CD腸炎,特に難治性再発性CD腸炎に対する高い有効性から注目されているのが糞便微生物移植法(fecal microbiota transplantation,FMT)である.FMTは,内視鏡や経鼻チューブを用いて健康なドナー便を患者の消化管に直接投与する治療法である.最近では,カプセル化した便の経口投与や凍結ドナー便を用いたFMTも報告もされている.重篤な副作用はほとんどなく,CD腸炎に対する有効率は約90%に達する.一方,腸内細菌叢の変化が病態の形成に関与することが示されている炎症性腸疾患などについては,その有効性は未だ確立されていない.ここでは,当科で行っている潰瘍性大腸炎に対する内視鏡を用いたFMTの実際を解説する.

資料
  • 林 智之, 稲邑 克久, 土山 寿志, 松田 充, 蓑内 慶次, 青柳 裕之, 北方 秀一, 藤浪 斗, 太田 肇, 辻 宏和, 宮森 弘年 ...
    2018 年 60 巻 11 号 p. 2416-2427
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/20
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    【背景・目的】抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡の現状を把握するため,現行ガイドラインの普及率と生検・処置に対する休薬の状況を調査した.

    【方法】2017年2月,日本消化器内視鏡学会北陸支部所属専門医にアンケートを送付し,調査を行った.

    【結果】回答は78施設から得られた.ガイドライン導入施設は病院79.2%,診療所48.3%であった.抗血栓薬服用者において継続下で生検する割合は,低用量アスピリン(A)71.4%,チエノピリジン誘導体(T)62.3%,ワルファリン(W)54.5%,Direct Oral Anticoagulant(D)57.1%,複数の内服例では14.3~20.8%であった.血栓塞栓症リスクが高い患者に,内服継続下にて処置を行う割合は内視鏡処置によって大きく幅があり,(A)17.5~78.4%,(T)0.0~78.4%,(W)0.0~64.9%,(D)0.0~64.9%であった.

    【結論】病院よりも診療所の方が抗血栓薬継続下での処置に慎重な傾向を認めた.また出血高危険度の処置によって休薬状況に大きな差異を認め,誰もが納得するエビデンスの構築のため,今後さらなる継続的な検討が必要と考えられた.

  • 新倉 量太, 山田 篤生, 馬來 康太郎, 中村 正直, 渡部 宏嗣, 藤城 光弘, 岡 志郎, 江崎 幹宏, 藤森 俊二, 中島 淳, 大 ...
    2018 年 60 巻 11 号 p. 2428-2439
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/20
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    電子付録

    【背景・目的】いくつかの薬剤は小腸粘膜障害を引き起こすことが知られているが,これらの粘膜障害が小腸出血と関連しているかについては明らかではない.本研究は薬剤と小腸粘膜障害の関連と小腸粘膜障害と小腸出血の関連を検討することである.

    【方法】2010-13年に小腸カプセル内視鏡検査が行われた患者を後ろ向きに解析した.薬剤使用,併存疾患,喫煙,飲酒を評価した.小腸粘膜障害に対する補正オッズ比と信頼区間,小腸出血に対する補正オッズ比と信頼区間を各々算出した.

    【結果】850人を解析した.平均年齢は64歳,男性544人(64%)であった.小腸粘膜障害患者60人と小腸粘膜障害を認めない患者705人の比較において,NSAIDs使用者は非使用者と比べて小腸粘膜障害のリスク(補正オッズ比1.8)の増加に有意に関連していた.小腸粘膜障害患者において,小腸出血患者85人と小腸出血を認めない患者60人の比較において,NSAIDsを含むすべての薬剤は小腸出血のリスクの増加と関連を認めなかった.

    【結論】NSAIDsは小腸粘膜障害のリスクを有意に増加させたが,これらの薬剤と小腸出血の間には有意な関連は認めなかった.

内視鏡室の紹介
最新文献紹介
  • 蘆田 玲子
    2018 年 60 巻 11 号 p. 2452
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/20
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    【背景と目的】2 cm未満の小さな膵内分泌腫瘍(PNET)に対する治療はいまだ確立されていない.本研究の目的は,小PNETに対するEUS下エタノール - リピオドールアブレーション(EUS-ELA)後の臨床経過を評価することである.

    【方法】この前向きコホート研究では,EUS-ELAを受けた患者を登録し,3年以上の追跡調査を行った.主要評価項目は治療の有効性である.

    【結果】病理学的に膵内分泌腫瘍(直径2 cm未満)と確定診断された33例,40病変が登録された(39病変:非機能性NET, 1病変:インスリノーマ).合計63回のEUS-ELA手技が行われた.(平均,1.9回/患者,1.6回/1病変)初回治療として計40回の局注が行われ,追加治療として23回の局注が行われた.1セッション当りに注入されたエタノール - リピオドール混合物は,中央値1.1mL(IQR 0.8-1.9mL)であった.40病変のうちの24病変(60%)に腫瘍の完全寛解が認められた.一回の局注で寛解が得られた病変は18病変(45%)であった.腫瘍内のリピオドール貯留が良好であった症例は治療効果も良好であった(P = 0.004).手技に関連した有害事象は3.2%であった.観察期間中央値は42カ月(IQR 39-46カ月)であった.悪性の転帰やリンパ節転移は観察期間内に一例も認められなかった.

    【結論】EUS-ELAは60%の寛解率をもって,2 cm未満のPNET症例に対する代替治療として安全かつ効果的であることが示された.リピオドールの腫瘍内貯留は,有効性を示唆する早期の予測因子になることが示された.

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