2018 年 60 巻 11 号 p. 2452
【背景と目的】2 cm未満の小さな膵内分泌腫瘍(PNET)に対する治療はいまだ確立されていない.本研究の目的は,小PNETに対するEUS下エタノール - リピオドールアブレーション(EUS-ELA)後の臨床経過を評価することである.
【方法】この前向きコホート研究では,EUS-ELAを受けた患者を登録し,3年以上の追跡調査を行った.主要評価項目は治療の有効性である.
【結果】病理学的に膵内分泌腫瘍(直径2 cm未満)と確定診断された33例,40病変が登録された(39病変:非機能性NET, 1病変:インスリノーマ).合計63回のEUS-ELA手技が行われた.(平均,1.9回/患者,1.6回/1病変)初回治療として計40回の局注が行われ,追加治療として23回の局注が行われた.1セッション当りに注入されたエタノール - リピオドール混合物は,中央値1.1mL(IQR 0.8-1.9mL)であった.40病変のうちの24病変(60%)に腫瘍の完全寛解が認められた.一回の局注で寛解が得られた病変は18病変(45%)であった.腫瘍内のリピオドール貯留が良好であった症例は治療効果も良好であった(P = 0.004).手技に関連した有害事象は3.2%であった.観察期間中央値は42カ月(IQR 39-46カ月)であった.悪性の転帰やリンパ節転移は観察期間内に一例も認められなかった.
【結論】EUS-ELAは60%の寛解率をもって,2 cm未満のPNET症例に対する代替治療として安全かつ効果的であることが示された.リピオドールの腫瘍内貯留は,有効性を示唆する早期の予測因子になることが示された.
腫瘍サイズの小さい機能性NETに対するEUS下エタノール局注は症状緩和および抗腫瘍効果としても有効であると報告されている.しかし著者らの施設で行った以前のパイロットスタディでは偶発症として膵炎が27%に生じている.一方リピオドールは肝臓がんの治療にも用いられ,腫瘍の治療範囲の判定やエタノールのような液体の薬剤を局所にとどめておく効果が期待される.今回筆者らは1:1の割合でエタノールとリピオドールを混注し,EUS下で病変に局注することにより60%の寛解率が得られたと報告している.またエタノールのみでは27%にみられた偶発症も今回の検討では3.6%と非常に低く,安全性も向上していることがわかる.今回の検討は単施設で行われた単一群での検討であり,結果を肯定するには不十分かもしれないが今後の更なる検討が期待される結果であるといえる.