日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
内視鏡的粘膜切開後の細胞診が診断に有用であったimplantation cystの1例
鈴木 貴久 高士 ひとみ三宅 忍幸村山 睦平井 恵子髙橋 秀和澤口 洋視呉原 裕樹溝口 公士
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2018 年 60 巻 12 号 p. 2512-2518

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要旨

症例は37歳,男性.201X年S状結腸癌のため手術を施行.2年後のCTで吻合部に径16mm大の腫瘤が出現したが経過観察.201X+7年大腸内視鏡検査で吻合部近傍に径30mm大の粘膜下腫瘍を認めた.EUSで腫瘤は嚢胞状であった.高周波ナイフで腫瘍の表面を切開し吸引すると粘稠な内容液が排出された.細胞診で異型細胞はなくimplantation cystと診断した.本邦におけるimplantation cystの報告は24例と少ない.術後の吻合部に粘膜下腫瘍を認める場合には,EUS後に病理組織検査を検討すべきである.大腸の手術後の症例ではimplantation cystを念頭におく必要がある.

Ⅰ 緒  言

implantation cystは大腸手術後の比較的稀な合併症である.大腸癌術後経過観察中に大腸粘膜下腫瘍を形成し,内視鏡的粘膜切開後の細胞診にてimplantation cystと診断された1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:37歳,男性.

主訴:腹腔内嚢胞性腫瘤の精査.

既往歴:うつ病.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:201X年S状結腸癌のためS状結腸切除術,Double Stapling Technique(以下,DST)吻合を施行された.病理組織学的検査所見は,type2,well differentiated adenocarcinoma,SS/SE,int/sci,INFc,ly2,v2,n1,StageⅢaであった.術後補助療法としてテガフール・ウラシルとロイコボリンを半年間内服治療した.201X+2年CTにて吻合部の右側に径16mm大の嚢胞性腫瘤が出現し癌の再発の可能性を指摘されたが,大腸内視鏡検査で異常所見は認めず,CEA4.2ng/ml,CA19-9 19U/mlと正常であり,FDG-PETでも腫瘤に異常集積がなかったため,経過観察となった.201X+4年に行った大腸内視鏡検査では異常所見はなかったが,201X+7年大腸内視鏡検査で吻合部近傍に粘膜下腫瘍を認め,CTで腫瘤が径30mm大に増大していたため,当科に紹介となった.

血液生化学検査所見:ALT58U/lと軽度の上昇を認めたが,腫瘍マーカーもCEA3.8ng/ml,CA19-9 9U/mlと正常であった.

腹部造影CT所見(Figure 1):201X+2年に直腸吻合部の右側に径16mm大の囊胞性腫瘤が見られた.腫瘤は201X+7年には径30mm大に増大した.

Figure 1 

201X+7年に行った造影CTで吻合部右側に径30mm大の嚢胞性腫瘤(矢印)を認めた.

FDG-PET所見:囊胞性腫瘤に異常集積は認めなかった.

大腸内視鏡検査所見(Figure 2):201X+7年の内視鏡検査では吻合部の肛門側に粘膜下腫瘍を認めた.表面粘膜にびらんや潰瘍はなかった.クッションサインは陽性であった.

Figure 2 

201X+7年の大腸内視鏡検査では吻合部(矢印)の肛門側に粘膜下腫瘍を認めた.

EUS所見(Figure 3):12MHz細径プローブによる観察で,腫瘤(**)は嚢胞状であり充実成分はなかった.腫瘤の主座は第3層以深と考えられた.同部位よりボーリング生検を行ったが,内容液は排出されず,正常組織が採取されるのみだった.

Figure 3 

EUS所見.

12MHz細径プローブによる観察で,腫瘤(**)は均一な無エコー像を呈していた.腫瘤の主座は第3層以深と考えられた.

経過:ボーリング生検で診断不能であったため,3週間後に入院し,内視鏡的に粘膜切開を行った上で病理組織検査を行うことになった.

内視鏡検査過程と経過(Figure 4):粘膜下腫瘍の表面は前回行ったボーリング生検のため一部が発赤し,瘢痕化していた(Figure 4-a).高周波ナイフ(SOUTEN:カネカメディックス)を用いて粘膜下腫瘍の表面を5mmほど線状に切開(使用機器はERBE社製VIO300Dを用いEndocut Ⅰ,effect2,duration3で設定)し吸引すると透明で粘稠な内容液が少量流出した(Figure 4-b).さらに切開を追加しスコープによって吸引を行う(Figure 4-c)と粘稠な内溶液が鉗子孔を介して回収され粘膜下腫瘍は縮小した(Figure 4-d).所要時間は10分で,出血,穿孔などの合併症はなく翌日退院となった.

Figure 4 

内視鏡検査過程.

a:粘膜下腫瘍の表面はボーリング生検後の部位が発赤していた.

b:粘膜下腫瘍の表面を5mmほど線状に切開し吸引すると透明で粘稠な内容液が少量流出した.

c:切開を追加し吸引を行うと粘稠な内溶液が鉗子孔を介して排出された.

d:粘膜下腫瘍は縮小した.

病理組織検査所見(Figure 5):PAS染色で陽性を示す高粘稠度の粘液を背景に,マクロファージや血球成分を認めた.異型のある上皮細胞は見られなかった.

Figure 5 

病理組織検査所見.

PAS染色で陽性を示す粘液を背景に,マクロファージや血球成分を認めた.異型のある上皮細胞は見られなかった.

以上の検査結果より,大腸癌術後に合併したimplantation cystと診断した.2週間後に行ったCTで腫瘤は縮小しており,4カ月後に行ったCTでも増大は認めなかった.今後も外来にて経過観察する予定である.

Ⅲ 考  察

Implantation cystは,吻合操作によって,腸粘膜上皮が粘膜下層以深に置換され,置換された上皮が持続的に粘液を産生し,嚢胞を形成したものと考えられている 1.大腸の粘膜上皮は元来viabilityが高く,術中操作によって迷入しても壊死に至らず生着しやすいことが理由であると考えられている.1929年にDukes 1が最初の報告をし,本邦では1990年に古川ら 2が器械吻合後に遅発性に形成された吻合部嚢胞として最初の報告をしている.1983年から2017年12月まで,キーワードをimplantation cyst,吻合部,嚢胞として医学中央雑誌を用いて検索すると,会議録を除き,implantation cystの本邦報告例は自験例を含め24例に過ぎない(Table 1).

Table 1 

本邦におけるimplantation cystの報告例.

発症年齢は,31~77歳(平均63歳)であり,性別は,男性17例(71%),女性7例(29%)と男性に多い.症状は記載がある11例中,3例(27%)に認められるのみである.

原疾患は,直腸癌19例(79%),S状結腸癌3例(13%)と癌が22例(92%)と大半を占めており,良性疾患はS状結腸憩室炎と内痔核が1例(4%)ずつ存在するのみである.直腸やS状結腸の頻度が高い理由は,直腸からS状結腸にかけての吻合は,両側腸管の口径が異なることが多く,大きな口径の腸管側の粘膜が一部吻合時にめくれこみ,または折り重なって粘膜下層にもぐりこみやすいためと考えられている 3

吻合は,Hartmann手術を行った1例を除く23例(96%)で器械吻合が行われている.古くは手縫い吻合や,single stapling technique(SST)でimplantation cystの合併が見られた.DSTによって,口径差のある腸管が確実に短時間で吻合され,implantation cystの予防につながることが期待されていたが 2),3,近年の報告はほとんどDSTにより吻合された症例であり,どの吻合法を用いてもimplantation cystは起こりうると考えられている 4

手術から本症の発症までの期間は4〜91カ月(平均26カ月)であり,嚢胞の大きさは記載があった14例では13〜45mm(平均30mm)である.

診断方法については,画像診断が10例(42%)と最も多く,術後の診断およびEUS-FNAが,それぞれ6例(25%)ずつ存在するが,粘膜切開による細胞診を行ったのは本症例のみである.

大腸癌術後の発症が大部分であるため,本症の診断には,大腸癌の局所再発を否定することが重要であり,腫瘍マーカー,大腸内視鏡検査,CT,MRI,FDG-PETなどの検査が行われる.本症例においても,大腸癌の手術から2年後に嚢胞性腫瘤が初めて指摘された際には,CEAは正常であったが,局所再発が疑われた.しかし,FDG-PETで腫瘤に異常集積がなかったために,慎重に経過観察された.小泉ら 5は,血清CEAの上昇,FDG-PETで集積を認めたimplantation cystの症例を報告しており,implantation cystと局所再発の鑑別におけるCEA,FDG-PETの有用性は低いとしている 5),6.本症例では大腸癌術後7年経過していたが,大腸癌の局所再発は完全には否定できなかった.その他に鑑別すべき疾患としては,重複腸管があげられる.中村ら 7は,CTで直腸または小腸由来の粘膜下腫瘍が疑われ,小腸部分切除を行って重複腸管由来の小腸癌と診断された症例を報告しており,腫瘍マーカーの測定の有用性を指摘している.腫瘍マーカー,画像検査のみでimplantation cystと確定診断することは難しい 8.本症例では,前回の大腸内視鏡検査では異常所見なく,3年以内に発症した径30mm大の粘膜下腫瘍であり病理組織検査が必要と考えた.

Implantation cystの治療としては,本来良性疾患であるため,無症状であれば経過観察でよい 7.しかし,報告例をみると経過観察は16例(67%)と3分の2であり,切除手術が7例(29%),ドレナージが2例(8.3%)で行われている.小林ら 9の報告は,内痔核治療後の症例であるが,穿刺ドレナージ後に再発し嚢胞切除に至っている.ドレナージでは,嚢胞を構成する細胞が残存するため,再発しやすく治療としては不十分と考えられている 4),10

Implantation cystの大腸内視鏡検査所見は粘膜下腫瘍の形態を呈する 9.大腸術後の吻合部にCTなどで嚢胞性腫瘤を認める場合には,大腸内視鏡検査を行い,粘膜下腫瘍が認められればEUSを行うことが勧められる 3),7),11.EUSで粘膜下腫瘍が嚢胞状で,第3層または4層に連続して認められ,充実成分を認めなければ,implantation cystと考え経過観察を行う.比較的大きな病変や増大傾向のある病変は,悪性も念頭におき,病理組織検査を行うべきである 7.最近ではEUS-FNAを行った報告も散見される 4),8),11.EUS-FNAは比較的新しい検査手技であり,専用のコンベックス型超音波内視鏡スコープが必要ではあるが,大腸や大腸壁外性腫瘤の診断,大腸癌術後吻合部病変の良悪性の鑑別におけるEUS-FNAの有用性が報告されている 8),12),13.コンベックス型超音波内視鏡スコープがない施設や,深部大腸に大腸粘膜下腫瘍が存在する場合でも,粘膜下腫瘍を覆う正常粘膜に切開を加えれば,直視下に内溶液を採取し細胞診を行える可能性がある.また処置中に出血した場合には出血部位を確認し,止血処置が可能である.そういった点から,粘膜下腫瘍に粘膜切開を加える部位は,正面視しやすい部位を選択するべきである.粘膜切開の欠点としては,切開に伴う組織の瘢痕が形成され,その後の治療に影響する危険がある.またドレナージと同様に,嚢胞を構成する細胞が残存するために再発の可能性がある.しかし病理組織検査を行うことができれば,EUS-FNAと同様に,不必要な手術を回避できる可能性があり,手術を行う前に試みるべき検査法と考える.

Implantation cystは大腸の手術後に比較的稀に合併することがあり,消化器内科医,外科医ともに念頭におく必要がある.

Ⅳ 結  語

S状結腸癌術後7年で大腸粘膜下腫瘍を形成し,内視鏡的に粘膜切開を行うことによりimplantation cystと診断された1例を経験したので報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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