日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
大腸ポリープに対するunderwater EMRのコツと実際
赤坂 智史竹内 洋司 上堂 文也
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電子付録

2018 年 60 巻 2 号 p. 174-179

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要旨

Underwater EMR(以下UEMR)は消化管の管腔内を水で満たした状態で粘膜下局注を行わずに病変をスネアで絞扼し,高周波手術装置を用いて通電切除する方法である.消化管内腔を脱気し水で満たすと,粘膜・粘膜下層が固有筋層から管腔内に浮かぶ様に突出し,スネアによる絞扼が容易となる.本稿では大腸ポリープに対するUEMRの処置の実際について解説する.

Ⅰ はじめに

大腸ポリープに対する内視鏡的摘除法として,わが国ではホットバイオプシー,ポリペクトミー,内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection;EMR)が行われてきた.径20mmを超えるような大きい病変に対しては,対象病変を吟味した上での分割EMR(endoscopic piecemeal mucosal resection;EPMR)や,内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)などが用いられてきた.処置の難易度等の問題によりESDは欧米では日本ほど普及していないが,近年,広基性大腸ポリープの切除法としてUnderwater EMR(以下UEMR)が報告され注目を浴びている 1.従来,大腸ポリープの内視鏡的摘除において通電を伴う摘除,摘除前の粘膜下局注は当然と考えられていたが,近年のcold polypectomy,UEMRの出現により,それらの考え方は変容を遂げつつある.本稿では大腸ポリープに対するUEMRの処置の実際について解説する.

Ⅱ Underwater EMRとは

UEMRは消化管の管腔内を水で満たした状態で粘膜下局注を行わずに腫瘍をスネアで絞扼し,高周波手術装置を用いて通電切除する方法である.2012年Binmoellerらが初めて報告した処置法で 1,その後他のグループからもUEMRの実施可能性及び有用性についての報告がされている 2),3.消化管内腔を水で満たすと粘膜・粘膜下層が管腔内に突出し,それに伴い病変は隆起性病変や亜有茎性病変のような形態を呈し,スネアによる絞扼が容易となる.この際,固有筋層は輪状となり,粘膜・粘膜下層とは異なり管腔内に突出しないため,スネアで絞扼する際に筋層を巻き込むリスクが少ないというのが安全に切除できる理論である.従来のEMR(Conventional EMR:CEMR)では粘膜下局注を行うことで筋層との距離を保ち穿孔を回避する努力がなされてきたが,局注の成否によりEMRの成否が大きく左右される不確実な側面があった.UEMRは局注を行わないことで絞扼を容易にし,穿孔を回避するために浸水下での処置を行うという逆転の発想に基づく手技である.また,浸水下で処置を行うことによって過剰な貫壁性の熱を抑える効果も期待できる.

Ⅲ 浸水下の腸管

浸水法による腸管の状態をシェーマで示す(Figure 1).通常送気では管腔全体に圧がかかり,風船のように一様に膨らんで腸管の緊張が高い状態となり,たとえ局注した後でも膨隆全体が圧により平低化してしまう.また脱気する際も全体に管腔が潰れてしまうので微調整しにくい上に,単に脱気すると筋層の緊張が緩んでスネアで絞扼され穿孔しやすい状態となる.しかし,浸水下では水は送気に比べて局所的にたまるので,より限局的に腸管を広げることができ,腸管の緊張が緩い状態で視野を確保できる.また水の吸引による微調整もしやすい上,超音波内視鏡検査の際に観察されるように筋層自体の緊張は保たれるため筋層が輪状となり,スネアで絞扼し難く穿孔しにくい状態となる.

Figure 1

a:脱気状態の管腔.

b:通常送気では管腔全体に圧がかかり,風船のように一様に膨らんで腸管の緊張が高い状態となってしまう.

c:浸水下では水は送気に比べて局所的にたまるので,より限局的に腸管を広げることができ,腸管の緊張が緩い状態で視野を確保できる.

CEMRの場合,粘膜下局注をすると,膨隆によって病変と正常粘膜との段差が小さくなりスネアが滑りやすくなったり,病変自体のサイズが大きくなり分割切除になったりすることがある.また,粘膜下層に繊維化を伴うような病変では,局注によって繊維化部分が挙上せずに周囲のみが挙上され,そのまま絞扼するとドーナツのように中心部だけを取り残してしまうような切除になることもある.局注なしで浸水状態にすると,粘膜の緊張が緩み,病変が管腔の内側に浮き上がるような状態になるので,同じスネアでも容易に病変を絞扼できる(Figure 2).

Figure 2

a:粘膜下局注前.腫瘍はスネアの大きさより小さい.

b:粘膜下層に局注すると,膨隆によって病変と正常粘膜との段差が小さくなりスネアが滑りやすくなったり,病変自体のサイズが大きくなり分割切除になったりすることがある.

c:粘膜下局注なしで浸水状態にすると,粘膜の緊張が緩み,腫瘍が管腔の内側に浮き上がるような状態になるので,同じスネアでも容易に病変を絞扼できる.

Ⅳ 適応病変

UEMRは局注をしないため切除深度があまり深くないと考えられるので,UEMRの良い適応病変は腺腫,sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P),もしくは癌でも粘膜下層浸潤がないと予測される病変と考えている.径10mm未満の病変は近年Cold Snare Polypectomyの良い適応として考えられているため 4)~6,径10mm以上でスネアでの一括切除が可能な大きさ(径25mm程度まで)が妥当なサイズである.また,内視鏡切除後再発の表在病変や繊維化及び瘢痕を伴うような局注による挙上不良が予想されるような病変はCEMRより摘除しやすいため,良い適応である 7.さらに臓器は異なるが,一般的に合併症が多いといわれる十二指腸腫瘍に対しても良好な成績が報告されており,良い適応である(Table 1 8),9

Table 1 

Underwater EMRと従来のEMRの相違点.

Ⅴ 内視鏡の選択

送水機能がないと腸管内に水を貯めるのは煩雑であり,送水機能付きの内視鏡が理想であるが,超音波内視鏡の際に使用するようなコネクターをつけた送水装置を用いて鉗子孔から注水することも可能である.大量に注水した水を吸引するため鉗子口は口径が大きいものが便利ではあるが,通常径のものでも十分に吸引可能で処置に支障はない.

Ⅵ 注  水

Binmoellerらの報告 1では電流の散逸を考慮して滅菌水を用いているが,注水量が多くなった際は水中毒(低ナトリウム血症)の危険性を伴う.また,万が一穿孔が発生した際のことも考慮すると,清潔で刺激の少ない生理食塩水が安全である.当院では生理食塩水を用いているが,電流の散逸はほとんど感じず切除の感覚としては滅菌水と違いはない.

Ⅶ 高周波手術装置の設定

当院では特にUEMR用に設定を変えておらず,各施設においてもCEMRと同じ設定でUEMRは実施可能と考えられる.当院での高周波手術装置の設定は以下のとおりである.

VIO300D(Endo Cut Q Effect 3,Duration 2, Interval 4)

ICC200(Endo Cut Effect 3,80W)

Ⅷ スネアの選択

対象の病変によってスネアの径は適したものを選択する.UEMRではCEMRより小さめの径で病変を絞扼できるので,病変径と同じ位のスネアを選択している.当院ではUEMRの際に術中穿孔を2例経験しているが,ともに右側結腸で硬いスネアを用いていたため,同じ径のスネアでも比較的柔らかいスネアが望ましいと考えている.当院でUEMRの際主に使用しているスネアは以下の通りである:キャプチベーターⅡ(ボストン・サイエンティフィック),スネアマスター(オリンパス)

Ⅸ 汚染対策

注水量や腸管の蠕動の程度,肛門機能などにより,しばしばベッド上が腸管から排出されてきた腸液によって汚染される.事前に吸水用のシートなどを敷いておくと良い.

Ⅹ 手技の実際(症例提示:上行結腸の径15mm大の広基性病変,Figure 3電子動画1
Figure 3

a:上行結腸に存在した径15mm大の広基性病変.従来のEMRでも切除可能ではあるが,局注によってよりサイズが大きくなり,分割切除になる可能性もある.

b:NBI観察.通常観察より境界が明瞭となる.浸水下で行えば乱反射がなくなり,拡大効果も相まって境界がより明瞭になる.

c:浸水状態.病変自体が水中で管腔の内側に浮かぶようになり隆起して見える.

d:スネアの展開.口側の辺縁がスネアに入るよう確かめながらスネアを展開する.

e:スネアの位置決め.側方の辺縁も入っていることを確認して位置どりを決定する.

 f:スネアの絞扼.肛門側もスネアの中に入ったことを確認しスネアを絞扼する.

g:切除後粘膜欠損部.周囲粘膜に病変の遺残がないか,確認する.この場合も浸水下でNBIを用いて観察するとより遺残を発見しやすい.

h:切除後粘膜欠損部.粘膜欠損の大きさは従来のEMRより小さく平坦である.

 i:クリップによる縫縮.粘膜欠損部が小さく平坦なため,クリップを用いた縫縮が容易である.

電子動画1

UEMRの際,病変の境界を認識しやすくするため,当院ではNBIモードを好んで使用している.浸水下では水と空気の屈折率の違いによる視野の拡大効果(約1.3倍)もあり,もう一つのUEMRの利点とされている 1.病変をスネアで絞扼する際には病変口側が観察できないため,まず口側の辺縁がスネアに入るよう確かめながらスネアを広げ,ゆっくりと側方及び肛門側を確認しつつ絞扼していく.スネアは粘膜面を軽く抑える程度を維持し,過度に強く押さえつけないようにする.切除の際は十分にスネアを絞扼してからEndocutで通電する.切除後は粘膜欠損部周辺粘膜に遺残がないかを確認する.切除後の潰瘍はCEMRより小さく,また周囲に局注による膨隆がないため,クリップでの縫縮も容易である.UEMRは局注をしないので,局注により条件を悪くすることがなく,何度でも絞扼,注水量の調整が可能である.分割切除になってしまった場合の追加切除の容易さも,UEMRの利点の一つとして捉えている.

UEMRのデメリットとしては1)水を貯めるまでに時間がかかることがある2)屈折率による拡大効果で,逆に視野は狭くなる3)前処置不良時は,浸水下で残渣が混じってしまうことで透明度が落ち,視野が悪くなる4)検査ベッド上が腸管から排出された水で汚染することなどであるが,体位変換や手技に対する慣れ,事前の準備などで十分対応可能であり,われわれの施設では多くの症例で日常診療として実施している.

Ⅺ 注意すべきポイント

UEMRは筋層を把持するリスクが少ないとされているが,術中穿孔例の報告もある 10.当院で経験した術中穿孔症例も右側結腸であり,解剖学的に壁の薄い右側結腸病変の処置には慎重な操作が必要と考える.切除時に通電時間が長くかかる症例などでは筋層を巻き込んでいる可能性も考え,ためらわずに分割切除や,CEMRに切り替えるなど柔軟に対応するべきである.先にも述べた様に,固いスネアで強く押し付けると,筋層を把持し穿孔させてしまうリスクがある.また術中穿孔した際には管腔内の水が腹腔内に漏れて,CEMRより炎症が波及する恐れがある.穿孔を疑った場合には迅速に注水した液体を吸引し,二酸化炭素を送気することで液体の漏出を避けるべきである.

Ⅻ おわりに

UEMRは報告されてから数年のまだ新しい切除法であり,長期成績や安全性はまだ明らかではなく,現在CEMRとの比較試験(UMIN000018989)を実施中である.どのような手技にも習熟曲線は必要であり,当初はその有用性に疑念を抱くこともあるかもしれないが,われわれの施設ではすでに日常診療の一部として欠かせない手技となっており,繰り返し経験していただくことによりその有用性を肌で感じていただけるに違いない.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2018 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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