2018 年 60 巻 6 号 p. 1249-1271
日本消化器内視鏡学会は,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「POEM診療ガイドライン」を作成した.POEM(Peroral endoscopic myotomy)は,食道アカラシアおよび類縁疾患に対して本邦で開発された新しい内視鏡的治療法であり,国内外で急速に普及しつつある.したがって,本診療ガイドラインの作成が強く望まれた.しかしながら,この分野においてこれまでに発表された論文はエビデンスレベルの低いものが多く,また長期成績はまだ出ていないため,専門家のコンセンサスに基づき推奨の強さを決定しなければならなかった.主として,トレーニング,適応,検査法,前処置,麻酔,方法,成績,有効性,偶発症,他治療との比較などの項目について,現時点での指針をまとめた.
食道アカラシアおよび類縁疾患に対する治療法として,これまでに薬物療法,ボツリヌス毒素注入法,バルーン拡張術,外科手術(腹腔鏡下Heller-Dor法など)が一般的であった.このなかで外科手術のHellerの筋層切開にあたる手技を,経口内視鏡で行ったのがPOEM(Peroral endoscopic myotomy,経口内視鏡的筋層切開術)である.POEMは,筋層切開の長さの設定が比較的自由であること,体表に傷を残さないことなどの利点により,国内外で急速に普及しつつある.このような背景のなか, POEMを安全かつ確実に実施するためには,基本的な治療指針の作成が望まれた.そこで,日本内視鏡学会ガイドライン委員会は,POEM診療ガイドラインを,EBM(evidence based medicine)やコンセンサスによる科学的な手法にのっとって作成することとした.なお,この領域は比較的新しい分野であり,エビデンスレベルの高い文献や長期成績の報告は少なく,そのような部分に対しては専門家のコンセンサスに基づき推奨レベルを決定するという科学的手法をとった.また用語は,食道アカラシア取扱い規約第4版(日本食道学会編),食道運動機能障害診療指針(日本消化管学会編集)に準拠した.本ガイドラインが,POEMの診療において,有用な指針となり,患者利益に反映することを期待する.
日本消化器内視鏡学会より,ガイドライン作成委員として消化器内視鏡医7名が作成を委嘱された.また評価委員として,消化器内視鏡医5名が評価を担当した(Table 1).
POEM診療ガイドライン委員会構成メンバー.
作成委員により,チーム体制,教育およびトレーニング法,適応,術前検査,前処置,手技,偶発症,治療成績,術後の経過観察に関して9つの項目が設定された.それぞれの項目について,CQを作成し,評価委員会の評価を参考に修正を加え,最終的に22個となった.そして,各 CQに対して,Medline, The Cochrane Library,医学中央雑誌を用いて,初めてPOEMが報告された2010年から2017年4月までの期間で,系統的に文献検索を行った.不足の文献に対してはハンドサーチも採用した.検索した文献を評価し必要な文献を採用し,各CQに対するステートメントと解説文を作成した.そして,作成委員は各担当分野の各文献のエビデンスレベルおよびステートメントに対する推奨の強さとエビデンスレベルを,Minds診療ガイドライン作成の手引き 2014に従って設定した(Table 2) 1).
推奨度とエビデンスレベル.
作成されたステートメントと解説文を用いてCQ形式のガイドラインを作成し,ステートメント案に対して,作成委員と評価委員の合計13名 により修正Delphi 法による投票を行った.修正Delphi 法は,1-3:非合意,4-6:不満,7-9:合意,として,7以上のものをステートメントとして採用した.完成したガイドライン案に対し,評価委員の評価を受けた上で修正を加えた後,学会会員に公開され,パブリックコメントを求めた上で,その結果に関する議論を経て本ガイドラインが完成した.
3.対象本ガイドラインの取り扱う対象患者は,POEMによる治療を受ける患者とする.また,利用者はPOEMを施行する臨床医およびその指導医とする.ガイドラインはあくまでも標準的な指針であり,個々の患者の意思,年齢,偶発症,社会的状況,施設の事情などにより柔軟に対応する必要がある.
■CQ1-1:POEMを行う上での現行の施行条件は?
ステートメント1-1:
世界的にコンセンサスの得られた施行条件の報告はないが,わが国では,「平成28年3月4日保医発0304第2号特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」により,施設基準が義務付けられている.
解説:
「平成28年3月4日保医発0304第2号 特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」では,以下の施設基準が義務付けられている1).
(1)消化器内科または消化器外科及び麻酔科を標榜している病院であること.
(2)当該医療機関において,当該手術が10例以上実施されていること.
(3)消化器外科または消化器内科について5年以上の経験を有し,内視鏡的食道粘膜切開術(早期悪性腫瘍粘膜下層剥離術に限る)について20例以上の経験を有する常勤の医師が1名以上配置されていること.また,当該医師は,当該手術について術者としてまたは補助を行う医師として15例(このうち5例は術者として実施しているものに限る)以上の経験を有していること.
(4)実施診療科において,常勤の医師が3名以上配置されていること.ただし,消化器外科において,医師が1名以上配置されていること.
(5)常勤の麻酔科標榜医が配置されていること.
(6)緊急手術体制が整備されていること.
一方,米国では,消化器内視鏡医と消化器外科医がチームとなっていることが理想であり,看護師などとも知識や訓練の共有が必要であるとされている2).
■CQ2-1:POEMのトレーニングや教育はどのようなものが勧められるか?
ステートメント2-1:
POEMのトレーニングには,エキスパートのPOEMの見学,ドライラボ,ex vivoモデル,もしくは生体動物でのトレーニングを経て,最初の数例はエキスパートの監視のもとPOEMを行うことが提案される.
解説:
POEMの習得には,生体動物モデル(ブタ)が勧められており,ドライラボや臓器モデルのトレーニングツールもいくつか報告されている1)~3).また,エキスパートのPOEMの見学を行い,最初の数例はエキスパートの監視のもとで,POEMを行うことが勧められている4),5).
ESDやNOTESのエキスパートを対象としたPOEMのlearning curveに関する研究では,到達基準が各々異なるが,7~40症例が必要とされている6)~9).
■CQ3-1:POEMの適応は?
ステートメント3-1:
POEMの適応は,食道アカラシア及び食道アカラシアの類縁疾患である.
修正Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9
推奨度:2 エビデンスレベル:B
解説:
食道アカラシアは,下部食道括約部(lower esophageal sphincter;LES)の弛緩不全と食道体部の蠕動運動の障害を認める原因不明の食道運動機能障害である1),2).経口内視鏡的筋層切開術(Peroral endoscopic myotomy;POEM)が登場するまでは,①薬物治療,②バルーン拡張術,③外科手術が主な治療法であった3)~7).なかでも治療の効果や恒久性という点では,外科手術が最も優れており,一般的なのはHeller-Dor手術である.POEMは,このHeller筋層切開術を体表に傷つけることなく,経口内視鏡を用いて行うものであり,2008年にInoueらによって初めて報告された8).それ以降,国内外の多数の施設でPOEMが施行されるようになり,現在では食道アカラシアに対する標準治療の一つとして行われている.
多数のPOEMを検討した報告は国内から3編あり,その短期(治療後6カ月以内)の奏効率はそれぞれ,Inoueら:91.3% (500例の検討.Eckardt score(以下ES)≤2もしくはESが4点以上改善を奏効と定義),Minamiら:100%(70例の検討.ES≤3を奏効と定義),Shiwakuら:99%(100例の検討.ES≤3を奏効と定義)であったと報告している9)~11).また3年以上の長期成績については,Inoueらが88.5%(500例の検討.ES≤2もしくは4点以上改善を奏効と定義)であったと報告している9).またAkintoyeらは,世界12カ国の36施設,計2,373症例に対するメタ解析の結果を報告しており,それによるとPOEMの奏効率は98%(95%CI :97-100%)であったと述べており,国内外を問わず,POEMは食道アカラシアに対する有効な治療法であることが示された12).
また食道アカラシアの類縁疾患(びまん性食道痙攣症やジャックハンマー食道など)に対しても,POEMの有効性が報告されているが,症例数が少ないため,今後の症例の蓄積が待たれる13)~17).
■CQ3-2:直線型アカラシアに対するPOEMは有効か?
ステートメント3-2:
直線型の食道アカラシアに対するPOEMは有効である.
修正Delphi法による評価 中央値:8 最低値:7 最高値:9
推奨度:2 エビデンスレベル:B
解説:
直線型の食道アカラシアに対するPOEMの報告は数多くあり,その有効性,安全性に関しては,論を待たない1)~10).食道の軸が直線となっているため,シグモイド型の食道アカラシアに対するPOEMに比べると,技術的難易度は高くない.そのため,POEMを開始するにあたっては,直線型の食道アカラシアから開始することが勧められる.ただし,シカゴ分類 typeⅢの食道アカラシアに対するPOEMは,長い筋層切開を要することや,手技中に食道体部に強い収縮を伴うこと,管腔の拡張がなくワーキングスペースが限られることにより,同じ直線型でも技術的難易度が高いので注意を要する11)~13).
■CQ3-3:シグモイド型に対するPOEMは有効か?
ステートメント3-3:
シグモイド型の食道アカラシアに対するPOEMの有効性を述べた論文もある.シグモイド型に対 するPOEMは高度な技術が要求されるため,十分な経験のもとに行う.
修正Delphi法による評価 中央値:8 最低値:7 最高値:9
推奨度:2 エビデンスレベル:C
解説:
食道アカラシア取り扱い規約(第4版)では,シグモイド型の食道アカラシアはSg型とaSg型にわけられている1),2).それらはPOEMが初めて報告されたInoueらの論文でもSigmoid type1(取り扱い規約ではSg型)とSigmoid type 2(取り扱い規約ではaSg型)に分けて検討され,Sigmoid type 2はPOEMの適応から除外されていた3).しかし,その後のPOEM 500例の治療成績をまとめた論文では,当初の適応を拡大し,Sigmoid type 1:48例,Sigmoid type 2:29例を含めた形で検討を行っており,Sigmoid type 2までPOEMの適応を拡大しても,安全性,有効性ともに問題なかったと報告している4).またHuらは32例のシグモイド型の食道アカラシア(Sigmoid type1:29例,Sigmoid type2:3例)を前向きに検討した結果,全体の奏効率は96.8%(30/31)で,Sigmoid type2:3症例においても症状の軽快が得られたと報告している5).一方,Haito-Chavezらは,各国12施設1826例のPOEMの結果を統計学的に解析した結果,シグモイド型の食道アカラシアが偶発症の危険因子として同定されたと報告している6).シグモイド型の食道アカラシアに対するPOEMは,食道の屈曲や長期にわたる食道炎のため,高度な技術が要求される.そのため,シグモイド型の食道アカラシアに対するPOEMを施行するにあたっては,十分な経験のもとに行うことが勧められる.
■CQ3-4:外科手術が有効でなかった食道アカラシア症例にPOEMは有効か?
ステートメント3-4:
外科手術が有効でなかった食道アカラシア症例に対するPOEMは有効であり,短期成績は良好である.
修正Delphi法による評価 中央値:8 最低値:7 最高値:9
推奨度:2 エビデンスレベル:C
解説:
食道アカラシアは患者数が少なく,外科手術は一定の効果を有することから,外科手術が有効でなかった食道アカラシアに対するPOEMの報告は少ない1).
単施設での検討では,外科手術後のPOEMは,外科手術の筋層切開痕を避けて筋層切開を行うことで安全に施行することができ,その短期成績は92~100%とされている2)~5).
多施設での後ろ向きの検討(外科手術が有効でなかった食道アカラシア対するPOEM:90例と,外科手術歴のない食道アカラシアに対するPOEM:90例を比較検討)では,前者の奏効率(ES≤3を奏効と定義)が81%であったのに対し,後者の奏効率は94%という結果となり,有効性については,外科手術後のPOEMが劣る結果となったが,安全性や偶発症に関しては有意差を認めなかったとされている6).
また多施設での前向きの検討(51症例)では,外科手術が有効でなかった食道アカラシアに対するPOEMの奏効率(ES≤3を奏効と定義)は94%であったと報告している(検索期間外文献7)).
一方で,3年以上の治療成績を検討した報告はなく,長期成績はいまだ不確かである.
■CQ3-5:POEMは食道アカラシア以外の食道運動機能障害にも有効か?
ステートメント3-5:
食道アカラシア以外の食道運動機能障害に対するPOEMの有効性を述べた報告もあるが,症例数が少ないため,今後の検討が望まれる.
修正Delphi法による評価 中央値:8 最低値:7 最高値:9
推奨度:なし エビデンスレベル:D
解説:
食道アカラシア以外の食道運動機能障害に対して,外科的筋層切開を行った報告は少数であるが存在する.Leconteらは20例のびまん性食道痙攣症に対し,開腹下で筋層切開術および噴門形成術を施行し,その奏効率は80%(16/20)であったと報告している1).またPattiらは,びまん性食道痙攣症19例に対し,胸腔鏡下筋層切開術もしくは腹腔鏡下筋層切開術および噴門形成術を行った結果,つかえ感が86%,胸痛が80%の患者で改善したと報告している2).POEMでも同様の筋層切開を行うため,複数の施設が,びまん性食道痙攣症に対するPOEMの有効性を報告している3)~6).最近では,高解像度食道内圧検査でジャックハンマー食道と診断された症例に対するPOEMの有効性を報告した論文も散見される7)~10).Khanらのシステマティック レビュー(8論文,179症例)によると,Eckardt scoreが3以下を奏効と定義した場合,シカゴ分類 typeⅢのアカラシア:92%,びまん性食道痙攣症:88%,ジャックハンマー食道:72%であったと報告している11).しかしながら,食道アカラシア以外の食道運動機能障害に対するPOEMの報告例は少なく,現時点ではエビデンスレベルは低いと言わざるを得ない.そのため,食道アカラシア以外の食道運動機能障害に対してPOEMを施行する時は,より十分なインフォームドコンセントのもと,行われることが望まれる.
■CQ3-6:食道アカラシア患者に対するPOEMはバルーン拡張術,外科手術に比べ有効か?
ステートメント3-6:
食道アカラシアに対するPOEMの短期治療成績(2年)は,シカゴ分類typeⅠ,typeⅡの食道アカラシアでは,バルーン拡張術(40歳以上)および腹腔鏡下手術と同等であるが,typeⅢの食道アカラシアについては,バルーン拡張術および腹腔鏡下手術に比べ良好である.
修正Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9
推奨度:2 エビデンスレベル:B
解説:
食道アカラシアの主な治療としては,バルーン拡張術,腹腔鏡下手術に加え,近年,Inoueらにより開発されたPOEMがある.
【治療法による比較】
(1) バルーン拡張術と腹腔鏡下手術
食道アカラシア患者に対するバルーン拡張術と腹腔鏡下手術の効果をランダム化比較試験により検討した報告では,治療後1年(バルーン拡張術 90%, 腹腔鏡下手術 93%),2年(86%,90%),5年(82%,84%)の治療成功率は両群間に差がなかったと報告されている1),2).しかし,1-2年の両治療法の短期成績をメタ解析により検討した報告では1年,2年の短期間の成績では,腹腔鏡下手術がバルーン拡張術を上回るとする報告もある3),4).バルーン拡張術の効果に関連する因子として,年齢が挙げられ,40歳以下の症例では再治療の可能性が高い1).
(2) 腹腔鏡下手術とPOEM
腹腔鏡下手術とPOEMの治療効果をシステマティックレビュー,メタ解析により検討した報告では,POEMの効果は短期間(1-2年)の報告のみであるが,治療効果(LES圧低下,Eckardt score,安全性)は腹腔鏡下手術と同様であることが示されている5)~8).嚥下障害の改善に関しては,POEMが腹腔鏡下手術を上回るとする報告もあるが,胃食道逆流症の合併に関しては逆に高いとする報告もある6),7).また,80歳以上の高齢者においても腹腔鏡下手術と同様な成績が報告されている9).
【食道アカラシアの内圧分類による治療(POEM,腹腔鏡下手術)効果の違い】
バルーン拡張術,腹腔鏡下手術,ボツリヌス毒素局注治療によるアカラシアの治療効果は,食道内圧検査によるアカラシアの病型分類(シカゴ分類,TypeⅠ:嚥下波の100%がfailed peristalsis,TypeⅡ:嚥下波の20%以上に食道全体の内腔圧の上昇,TypeⅢ:嚥下波の20%以上がspastic contraction(distal latency4.5秒未満))により効果が異なる.治療効果はTypeⅡが最も高く91-100%,TypeⅠでは56-85%,TypeⅢの効果は最も悪く29-86%であると報告されている10),11).一方,POEMでは,内圧分類による違いはないと報告されている12),13).
■CQ3-7:高齢者に対するPOEMは有効か?
ステートメント3-7:
高齢者の食道アカラシア患者に対して,POEMは安全かつ有効である.
修正Delphi法による評価 中央値:8 最低値:7 最高値:9
推奨度:2 エビデンスレベル:C
解説:
Castellらは,食道アカラシアの罹患率は,30-40歳台と60歳以降の二峰性のピークがあると報告している1).また,Gennaroらは,高齢者群(75歳以下)は中年者群(45歳以下)に比較して4倍の罹患率を持つと報告しており,高齢者にも,食道アカラシアは多く存在する2).高齢者の食道アカラシアでは,食道内容の口腔内逆流に伴う誤嚥性肺炎を繰り返していることがしばしばみられるため,高齢の食道アカラシア患者に対する治療は,臨床上,看過できない問題である.
Liらは,65歳以上の食道アカラシア患者15名に対し,POEMを行った結果,奏効率(Eckardt score3以下を奏効と定義)は100%であり,POEMに伴う重篤な偶発症は認めなかったと報告している3).
TangらはPOEMを行った60歳以上の食道アカラシア患者18名と60歳未満の食道アカラシア患者95名を,後ろ向きに比較検討した結果,前者の奏効率(Eckardt score3以下を奏効と定義)は92.9%,後者の奏効率は89.9%であり,両群に差はなかったと報告している.また偶発症についても,両群に差は認めなかったとしている4).
Wangらは65歳以上の食道アカラシア患者について,POEMを行った21症例とバルーン拡張術を行った10症例を,後ろ向きに比較検討している5).その結果,奏効率(Eckardt score3以下を奏効と定義)はPOEM群で95%,バルーン拡張群で80%であったと報告している.またこの報告でも重篤な偶発症は認めていない.
以上,高齢者に対するPOEMの報告は,症例数が少なく,観察研究が中心となっているため,信頼性としては限定的ではあるが,いずれの報告でも有効性と安全性が示される結果となった.しかしながら,実際に高齢者に対してPOEMを行う場合は,耐術能の評価をより厳密に行い,治療の安全性を確保することが重要である.症例によっては,技術的難易度の高い症例も存在するため,十分な経験のもと行うことが望まれる.
■CQ4-1:POEM前にはどのような検査を行うべきか?
ステートメント4-1-1:
上部消化管内視鏡検査と食道X線造影検査を行う.さらに,食道内圧検査を行うことが望ましい.
修正Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9
推奨度:1 エビデンスレベル:C
解説:
上部消化管内視鏡検査は食道胃接合部癌による偽性アカラシアや食道アカラシアに合併する食道癌を除外する目的で必須となる.食道アカラシア典型例では,食道は拡張し,食道胃接合部で管腔が狭まり,スコープの通過に際して抵抗を認めるが,約半数の症例では内視鏡所見に異常を認めないとされている.また,esophageal rosette(深吸気時に下部食道で認められる全周性の放射状のひだ像)やpinstripe pattern(食道の細かい縦しわ)が食道アカラシアに特徴的な内視鏡所見として報告されている1),2).術前の内視鏡検査は,食道内の食物残渣や液体の貯留の程度を把握し,POEM前の絶食期間や食道洗浄の必要性を決定する上でも有用である.
食道X線造影検査で,食道アカラシアの典型例は,拡張した食道に造影剤の停滞を認め,食道胃接合部にかけて鳥のくちばし状の狭小像(bird beak sign)を認める.進行した食道アカラシアではシグモイド型の陰影像が特徴的である3).
食道内圧検査は食道アカラシアと他の食道運動機能障害を鑑別し,食道アカラシアの型(typeⅠ~typeⅢ)を判定するために有用である4).
上部消化管内視鏡検査と食道X線造影検査はそれぞれ食道アカラシアの診断感度が十分とはいえないが相補的な役割を持つ5),6).食道内圧検査も含めた3つの検査を行うことが望ましい.
■CQ4-1:POEM前にはどのような検査を行うべきか?
ステートメント4-1-2:
全身麻酔のリスク評価を行う.
修正Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9
推奨度:1 エビデンスレベル:C
解説:
食道アカラシア患者においては,繰り返す誤嚥やそれに伴う肺炎により呼吸機能が低下していることがある.また,POEMの麻酔には全身麻酔が選択される.そのため,問診や診察により,全身麻酔に対し高リスクであると判断された患者に対しては,胸部X線検査やCT検査による画像評価に加え,耐術能の評価が必要である.CT検査はシグモイド型の食道アカラシアの評価にも有用である 1),2).抗凝固薬,抗血小板薬内服の有無も確認する 3).
■CQ5-1:POEM前の適切な欠食期間は?
ステートメント5-1:
POEM施行時には食道内に残渣がないことが前提である.
修正Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9
推奨度:1 エビデンスレベル:D
解説:
POEMでは食道内腔と,縦隔や腹腔とが交通するため,食道内に溜まった内容物をきれいに洗浄しておく必要がある.しかしながら,食道アカラシア患者では,数日間,欠食の状態にしていても,食道内に溜まった残渣が胃内まで流れないことが少なくない 1).特にシグモイド型の食道アカラシアでは,食道内に固形の残渣を多量に認めることがある.
そのため,POEMの前処置としては,前日の内視鏡による洗浄とその後の欠食管理が最も推奨される 2),3).ただし,患者や医療機関によっては,同様の前処置が難しい場合もあるため,事前に行った上部消化管内視鏡検査やCT検査において,食道内に残渣が認められない時は,POEM前日の内視鏡による洗浄は省略しても良い.大切なことは,POEM施行時には食道内の残渣がないよう,患者の病型に応じて適切な準備を行うことである.
■CQ6-1:POEM施行時のCO2送気は必要か?
ステートメント6-1:
POEMは必ずCO2送気下で行う.空気送気下でPOEMを行うことは禁忌である.
修正Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9
推奨度:1 エビデンスレベル:C
解説:
仮に空気送気でPOEMを行うと,空気はCO2に比べ吸収速度が遅いため,ガス塞栓症,重篤な気胸や皮下気腫,腹部コンパートメント症候群を惹起しやすくなり,その結果,致命的な状態になる可能性がある 1)~4).そのため,POEMを空気送気下で行うことは禁忌であり,必ずCO2送気下で行う.ただし,ガス塞栓症,気胸,皮下気腫,腹部コンパートメント症候群は,CO2送気下でPOEMを行っていても起こりうることであり,POEM中に循環呼吸動態の悪化を認める場合は,一旦手技を中断し,その原因検索を直ちに行う必要がある.
■CQ7-1:POEMの麻酔法はどのようにするのか?
ステートメント7-1:
気管内挿管のもと,全身麻酔で行う.
修正Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9
推奨度:1 エビデンスレベル:C
解説:
【麻酔の導入について】
POEM前日に食道内を洗浄し,欠食管理にしたとしても,疾患の特性上,一晩のうちに食道内に残渣(主に唾液)が貯留していることがしばしばある.この状態で通常の麻酔の導入を行うと誤嚥する可能性がある.そのため,食道内に残渣があると予測される場合には,輪状軟骨圧迫下での迅速導入を行い,食道から口腔内への逆流の防止を図ること勧められる 1)~4).
【術中の麻酔について】
現在,POEMで用いるCO2送気システムは,鏡視下手術で用いる機材とは異なり,流量を自動調整し,圧を一定に保つような機能は備えていない.筋層切開を行った後は,食道内腔と,縦隔・胸腔・腹腔とが交通した状態となるため,持続的なCO2の送気は,重篤な縦隔気腫,気胸,気腹の原因となる可能性がある.そのような状況を招かないよう,POEM中の麻酔は,気管内挿管のもと陽圧換気の状態で全身麻酔を行う.また術中の気腹については,定期的にその程度をチェックし,循環動態に影響があるような気腹が生じた場合には,腹腔穿刺による脱気も検討する 5).詳細は『気腹への対応』の項を参照されたい.
■CQ7-2:POEMの体位はどのようにするのが適切か?
ステートメント7-2:
POEMは仰臥位あるいは左半側臥位で行う.
修正Delphi法による評価 中央値:8 最低値:7 最高値:9
推奨度:2 エビデンスレベル:D
解説:
基本的には仰臥位あるいは左半側臥位でPOEMを行う 1)~3).仰臥位あるいは左半側臥位で行うことで,術前のCTの情報を手技に反映することができるほか,気腹になった際の腹腔穿刺も,迅速かつ安全に施行することができる.手技中の気腹の程度を確認するために上腹部を露出することも忘れてはならない.
■CQ7-3:POEM中に起こる気腹への対応はどのようにしたら良いか?
ステートメント7-3:
循環動態に影響があるような気腹が生じた場合には,腹腔穿刺による脱気を行う.
修正Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9
推奨度:1 エビデンスレベル:D
解説:
POEMでは食道および胃の筋層切開を行うため,気腹が必ず起こる.そのため,CO2送気下で手技を行うことに加え(詳細はCO2送気の項を参照のこと),術中に気腹の程度を確認できるよう,上腹部を露出した状態で手技を行う.術者,助手,介助者,麻酔科との間で
ⅰ)空気送気でなく,CO2送気で行われていること,
ⅱ)高度な気腹が起こっていないこと,
を定期的に確認することも強く勧められる 1).
軽度の気腹であれば,一旦手技を中断し,CO2が吸収されるのを待つことも可能であるが,循環動態に影響があるような気腹が生じた場合には,腹腔穿刺による脱気を行う 2),3).
■CQ7-4:POEMにおける筋層切開の長さや方向はどのようにして決めるのか?
ステートメント7-4:
筋層切開の長さについては,食道体部の責任部位の口側から胃側まで,食道の長軸方向に連続して行う.筋層切開の方向は,前壁もしくは後壁が勧められる.
修正Delphi法による評価 中央値:8 最低値:7 最高値:9
推奨度:2 エビデンスレベル:D
解説:
筋層切開の長さや方向を自在に調整できることは,POEMの特長の一つである.筋層切開の始点を決めるために,問診,食道X線造影検査,上部消化管内視鏡検査,食道内圧検査で得られた情報を元に,症状の原因となっている責任部位を同定する.食道体部の責任部位の口側から胃側1-2cmまで,食道の長軸方向に連続した筋層切開を行う.特にシカゴ分類typeⅢの食道アカラシアやびまん性食道痙攣症,ジャックハンマー食道と診断された症例では,通常より長い筋層切開が求められる 1)~4).
筋層切開の方向については,POEM後の憩室を予防するために,解剖学的に裏打ちのある前壁もしくは後壁で行うことが望ましい.但し,食道炎や前治療に伴う瘢痕が原因で,前壁もしくは後壁で筋層切開を行うことができない症例については,その限りではない.胸部上部食道の前壁側には気管膜様部があり,この領域の筋層切開は,術後の食道気管廔を招く可能性があるため,胸部上部食道を含む長い筋層切開を行う場合は,後壁切開を第一選択とする.食道の拡張や屈曲を伴う症例では,食道と周囲の重要臓器との位置関係が通常と異なっている場合があるため,術前のCT検査で予めそれらの情報を確認しておく.
■CQ7-5:下部食道括約部(Lower esophageal sphincter:LES)の切開はどのような方法で確認するのか?
ステートメント7-5:
下部食道括約部(Lower esophageal sphincter:LES)の切開を確実に行うため,胃側1-2cmまで筋層切開を行う.胃側まで筋層切開が完了したことを確認できる方法を選択する.
修正Delphi法による評価 中央値:8 最低値:7 最高値:9
推奨度:2 エビデンスレベル:D
解説:
Heller 筋層切開と同様に,POEM においても,下部食道括約部(Lower esophageal sphincter: LES)の完全切開を行うことが,治療の大きな鍵となる.Heller筋層切開術では,食道の筋層切開に加え,胃側1-2cmまで筋層を行うことで,その治療効果を担保してきた 1).
Heller筋層切開術とPOEMは,基本的には同じコンセプトの治療法であり,POEMにおいても胃側1-2cmまで筋層切開が求められる.但し,POEMは食道内腔からの手技であるため,胃側の操作を行っているかどうかについては,Heller筋層切開術に比べると認識しづらい.そのため,POEM では,以下の方法をもって,胃側まで操作が進んでいるかどうかを確認する 2)~8).特にダブルスコープ法は,直視下で,胃側まで筋層切開ができているかどうかを確認することができるため,有用な方法である 9),10).
ダブルスコープ法による確認
①メインスコープとは別に,セカンドスコープ(経鼻内視鏡)を胃内に挿入し,噴門部を観察する(メインスコープとセカンドスコープを逆にしても良い).POEMの操作が胃側まで到達していれば,粘膜下層トンネルの終点にあるメインスコープからの透過光を,胃内で確認することができる.胃内に挿入したスコープの径を基準として,胃側2cm前後まで筋層切開を行う.
内視鏡の挿入長による確認
②POEM前に切歯列から食道胃接合部までの長さを計測し,粘膜下層トンネル内におけるスコープの位置の目安とする.ただし,シグモイド型のように食道が屈曲した症例では,スコープにたわみができるため,この方法は必ずしもあてにならない.
解剖学的メルクマールによる確認
③粘膜下層トンネル内から粘膜の血管像を観察し,柵状血管(解剖学的にLESに相当)から胃側の血管像に変わったことを確認する.
④胃側(小彎側)に入ると,食道では存在しないような大きな血管(左胃動脈からの分枝)や斜走筋の存在が確認できるが,粘膜下層トンネルの方向によっては,それらを確認できないこともある.
スコープの抵抗感による確認
⑤粘膜下層トンネルの作製の際に,LESの粘膜下層は非常に狭くなっているのに対し,胃側に入ると粘膜下層の間隙が広くなることが確認できる.
⑥筋層切開を終えた後,食道内腔から胃内腔にスコープを挿入すると,LESの抵抗がなくなっていることが確認できる.
その他,胃側の粘膜下層にインドシアニングリーン溶液を事前に局注し,粘膜下層の色調の変化により,胃側に到達したことを確認する方法もある 4).
■CQ7-6:POEM後の術後管理はどのようにするのか?
ステートメント7-6:
手術当日は,バイタルサインのモニタリングが必要である.原則として,術後は上部消化管内視鏡検査と食道X線造影検査を行い,問題がなければ食事を開始する.
修正Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9
推奨度:1 エビデンスレベル:D
解説:
手術当日は,バイタルサインのモニタリングが必要である.意識が清明になった後は水分摂取を行っても良い.術後の疼痛については,鎮痛剤を使用し,適切な疼痛コントロールを図る 1),2).疼痛による浅い呼吸や胸水貯留による圧迫性の無気肺により,血中酸素濃度の低下がみられることもあるので,必要に応じて酸素投与を行う.入院中は定期的に胸部X線検査を撮影し,胸水の貯留や無気肺,気胸の有無について評価を行う.必要に応じて単純CT検査も考慮する 3).食道と胃の評価には,原則として,上部消化管内視鏡検査と食道X線造影検査を施行する 4).上部消化管内視鏡検査で,粘膜損傷や出血,クリップの脱落がないことを確認し,問題がなければ,バリウムによる食道X線造影検査を行う.食道から胃内への造影剤の流れが良好であること,縦隔への造影剤の流出がないことを確認する.これらの検査で問題がなければ,食事を開始する.食事開始後もクリップの脱落や遅発性粘膜穿孔の可能性があるため,症状や熱型に十分留意する.術後3病日を過ぎても熱型が安定しないときは,原因検索を行う.
■CQ8-1:POEMの偶発症としてどのようなものがあるか?
ステートメント8-1:
POEMに関連した偶発症には,粘膜損傷,粘膜穿孔による縦隔炎,粘膜下血腫などがある.
修正Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9
解説:
POEMに関連した主な偶発症は,粘膜損傷,粘膜穿孔,出血(術中の大出血,術後の粘膜下血腫),気胸,胸水貯留などがある.Akintoyeらの報告(メタ解析)によると,その頻度は粘膜損傷4.8%,粘膜穿孔0.2%,出血(大出血)0.2%,気胸1.2%,胸水貯留1.2%とされている 1).またHaito-Chavezらの多施設共同研究(12施設,1,826例)では,粘膜損傷2.8%,粘膜穿孔0.7%,術中出血0.3%,術後出血0.2%,気胸0.1%,胸水貯留0.2%であったと報告している 2).
術後早期の粘膜穿孔は,消化管内腔と,縦隔もしくは腹腔とが交通し,縦隔炎,腹膜炎の状態となるため対応に注意が必要である.炎症が限局し,患者の全身状態が安定している場合は保存的治療も容認されるが,経過によっては,重篤な状況に移行していく可能性もあるため,外科的な加療を行う時期を逸してはならない.術中の出血で問題となるのは,胃側に存在する左胃動脈からの分枝を損傷した場合である 3).そのため,胃側の操作においては,盲目的な操作を行わないよう注意する.気胸に関しては,その成因については,不明な点もあるが,粘膜切開部を閉鎖した後は,CO2の吸収とともに自然軽快する.胸水の貯留,またそれによる圧迫性の無気肺は,炎症所見や全身状態の改善とともに軽快していくが,遷延傾向が見られる場合は,CTによる精査も考慮し,必要に応じてドレナージ術を行う.
■CQ8-2:POEM後の胃食道逆流症(GERD)への対応はどのようにすればよいか.
ステートメント8-2:
POEMを行った後は,問診および上部消化管内視鏡検査で胃食道逆流症(GERD)の評価を行い,必要に応じて,酸分泌抑制薬を投与する.
修正Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9
推奨度:1 エビデンスレベル:C
解説:
Heller筋層切開術では,胃から食道への逆流を予防する目的で噴門形成術(主にDor手術)の追加が行われる 1).一方,POEMでは,Heller筋層切開術と,ほぼ同様の筋層切開を行うにも関わらず,噴門形成術の付加は行わない 2).そのため,POEMが始まった当初は術後の胃食道逆流症(GERD)を危惧する声もあった.
Akintoyeらの報告(メタ解析)によると,POEM後のGERDは,びらん性食道炎は13%,症候性GERDは8.5%に発症したが,いずれも酸分泌抑制薬の投与で対応が可能であったと報告している 3).またPOEM後に外科的な噴門形成術が必要だったという報告例もこれまで認めていない.POEMで噴門形成術を必要としない理由として,横隔膜食道靭帯の温存が関わっているのではないかという意見もあるが,詳細については分かっていない 4).
前述のようにPOEM後には一定の割合で酸分泌抑制薬の投与が必要となる症例もあるが,その危険因子は今のところ明らかになっていない 5),6).そのため,POEM後は問診および上部消化管内視鏡検査によるGERDの評価を行うことが勧められる.
■CQ9-1:経過観察の期間や方法はどのようにするのか?
ステートメント9-1:
定期的に問診と上部消化管内視鏡検査を行う.
修正Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9
推奨度:1 エビデンスレベル:C
解説:
POEM後の経過観察の期間や方法は,施設や患者ごとに決められているのが現状である.一般的には,POEM後2-3カ月目と,POEM後1年毎に,問診や上部消化管内視鏡検査,それらに食道X線造影検査,食道内圧検査が組み合わされ施行されている.問診では,症状(嚥下困難や胸痛など),食事摂取量,体重の推移などについて聴取し,術前と比較する.上部消化管内視鏡検査では食道胃接合部が開放されていること,逆流性食道炎の有無,程度を確認する.
食道アカラシアは食道癌の危険因子であり,POEM後も食道癌の発生には注意が必要である.しかしながら,食道癌のサーベイランスを目的とした食道アカラシア治療後の経過観察の期間や方法は決まっていない 1),2).
■CQ9-2:POEM後の治療成績は?
ステートメント9-2:
POEMは食道アカラシアに対して安全かつ有効な治療法であり,その短期成績は良好である.
修正Delphi法による評価 中央値:8 最低値:7 最高値:9
推奨度:2 エビデンスレベル:C
解説:
Akintoyeらのメタ解析によると,POEMの奏効率(1年後のEckardt score[ES]≦3)は98%であり,術前のES:6.9±0.15は1年後ES:1.0±0.08と改善が得られている.術中の偶発症は,粘膜損傷:4.8%,粘膜穿孔:0.2%,大量出血:0.2%,皮下気腫:7.5%,気胸:1.2%,縦隔気腫:1.1%,気腹症:6.8%,胸水:1.2%であった.また,術後8カ月の観察期間で症候性GERD:8.5%,びらん性食道炎:13%と報告されている 1).
1年を超える経過観察の報告は少ない.Inoueらの単施設の報告では,奏効率(ES≦2,または,術前と比べESが4以上低下)は1-2年後:91%,3年後:88.5%であった 2).Teitelbaumらの単施設の報告では奏効率(ES≦3)は5年後:83%であった 3).
本ガイドライン作成委員,評価委員の利益相反に関して各委員には下記の内容で申告を求めた.
1.本ガイドラインに関係し,委員または委員と生計を一にする扶養家族が個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:役員・顧問職(100万円以上),株(100万円以上),特許等使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料等(50万円以上),研究費(個人名義100万円以上),その他の報酬(100万円以上)
アストラゼネカ,EAファーマ,エーザイ,大塚製薬,オリンパス,グレイス・ヘルスケア・ジャパン,第一三共,武田薬品工業,ツムラ,トップ,メディカルレビュー
2.本ガイドラインに関係し,委員の所属部門と産業連携活動(治験は除く)を行っている企業・団体について:寄附講座(100万円以上),共同研究・委託料(100万円以上),実施許諾・権利譲渡(100万円以上),奨学寄附金(100万円以上)
旭化成メディカル,アステラス,アストラゼネカ,EAファーマ,エーザイ,オリンパス,大塚製薬,ジョンソンエンドジョンソン,JIMRO,第一三共,武田薬品工業,富士フイルム,ボストンサイエンティフィックジャパン
本ガイドライン作成に関係した費用は,日本消化器内視鏡学会によるものである.