日本消化器内視鏡学会雑誌
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食道アカラシアにおける腹腔鏡下Heller筋層切開術と経口内視鏡的筋層切開術との治療成績の比較
小熊 潤也小澤 壯治
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2018 年 60 巻 6 号 p. 1280

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【目的】食道アカラシアに対する治療法として,経口内視鏡的筋層切開術(peroral endoscopic myotomy;POEM)と腹腔鏡下筋層切開術(laparoscopic Heller myotomy;LHM)の治療成績を比較することを目的とした検討である.

【背景】約20年にわたり食道アカラシアに対する治療法の第一選択はLHMであったが,2010年にPOEMが初めて報告され,それ以降は広く行われるようになった.しかしPOEMの長期成績はいまだ不明で,両者のランダム化比較試験も行われていない.

【方法】食道アカラシアに対する治療法としてのLHMおよびPOEMに関する論文をMedlineより検索した.主な評価項目は,嚥下障害の改善と術後の胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease;GERD)である.

【結果】LHMに関する53論文(5,834例)とPOEMに関する21論文(1,958例)を対象とした.経過観察期間の中央値は有意にLHMの報告で長かった(41.4カ月 vs. 16.2カ月,p<0.0001).治療後12カ月での通過障害の改善割合はPOEMで93.5%,LHMで91.0%(p=0.001),治療後24カ月ではPOEMで92.7%,LHMで90.0%(p=0.001)であった.POEMを施行した症例は術後のGERD症状(OR=1.69, 95%CI:1.33-2.14,p<0.0001),びらん性食道炎(OR=9.31,95%CI:4.71-18.85,p<0.0001),pHモニタリング上の胃食道逆流(OR=4.30,95%CI:2.96-6.27,p<0.0001)の頻度が有意に高かった.平均在院日数はLHM群よりPOEM群で1.03日長かった(p=0.04).

【結論】今回の検討により,嚥下障害の改善という短期成績の結果はPOEMの方が良好であるが,一方で術後逆流の頻度が非常に高いことが示唆された.

《解説》

食道機能性疾患の代表格である食道アカラシアの治療目的は通過障害の改善で,従来から外科的な筋層切開(Heller myotomy)が治療の中心とされてきており,近年は内視鏡下手術の普及により腹腔鏡下筋層切開術(LHM)が標準治療として定着していた.しかし,2010年に井上らにより報告された経口内視鏡的筋層切開術(POEM)は ,内科的疾患である食道アカラシアに対する低侵襲性および根治性を兼ね備えた究極的な治療法として,世界中に広く行われるようになり,その良好な治療成績が数多く報告されるようになった.最近ではその長期成績の報告も散見されるようになり,本報告はこれらの結果をまとめたメタアナリシスの1つである.

通過障害の改善については,LHMに比べてPOEMの方が良好な結果であった.筋層切開の長さについては通常POEMの方が長い傾向があるが,両者ともLESの弛緩不全を筋層切開により症状改善を図る治療法であるにも関わらず,このように差がみられた理由については不明である.一方で,治療後pHモニタリング上の逆流の頻度はLHMで11.1%であったのに対しPOEMでは47.5%と高かった.近年はLHMではDor法やToupet法などの噴門形成を付加していることも要因として考えられているが,両者の比較については今後RCTによる長期的は治療成績を検討する必要がある.

POEMは食道アカラシアに対する低侵襲かつ有効性の高い治療法として近年急速に普及してきているが,本報告で示されたように治療後のGERDの発症についても十分留意する必要がある.食道運動機能の評価方法として,高解像度食道内圧検査が普及しつつある今日においては 3),食道アカラシアの病態と各治療法の特徴を加味し,より個別化した治療法の選択が望まれる.

文 献
 
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