日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
総説
A型胃炎(自己免疫性胃炎)の診断
今村 祐志
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2018 年 60 巻 8 号 p. 1444-1449

詳細
要旨

A型胃炎とは自己免疫性胃炎のことであり,自己免疫的機序により胃底腺領域の高度粘膜萎縮および化生を認め,ビタミンB12や鉄などの吸収障害が起こり,神経内分泌腫瘍や胃癌を合併しうる.特徴的な所見は,胃底腺領域の萎縮を内視鏡や生検組織などで認め,抗壁細胞抗体や抗内因子抗体が陽性となり,ガストリン値が高値,ビタミンB12が低値となる.治療法はなく,ビタミンB12や鉄などの補充を行うとともに,胃癌のサーベイランス,合併症の検索を行う.診断されていない症例が多いと考えられ,自己免疫性胃炎を鑑別に挙げることが大切である.

Ⅰ はじめに

Stricklandらが,慢性胃炎をA型胃炎とB型胃炎の二つに分けた 1.A型胃炎の特徴は,胃幽門前庭部の粘膜が正常であること,抗壁細胞抗体が陽性であること,胃体部にびまん性炎症がみられること,胃酸分泌が高度に障害されること,とした1).B型胃炎の特徴は,胃幽門前庭部にも炎症を認めること,抗壁細胞抗体が陰性であること,胃体部に巣状の炎症がみられること,胃酸分泌が中等度に障害されること,とした 1.現在,A型胃炎は自己免疫性胃炎(A型胃炎)に,B型胃炎は,Helicobacter pyloriH. pylori)感染による慢性胃炎にそれぞれ相当する.なお,A型胃炎の英語表記は,autoimmune(metaplastic)(atrophic)gastritisが一般的であり,本稿では自己免疫性胃炎と表記する.

自己免疫性胃炎は,無症状のまま緩徐な進行を示し,病後期に出現する症状も非特異的なため,診断されていない症例が多いと予想される 2.病後期に出現する合併症のなかには,不可逆的なものもあるため,日常診療の際には,自己免疫性胃炎を念頭に置く必要がある.診断は,確立した診断基準がなく,内視鏡および病理検査のみでなく,血液検査を含めて総合的に行うため,病態の理解が必要である.自己免疫性胃炎の典型的な内視鏡像,組織像を提示するとともに,疫学,病因,病態,診断について解説し,治療・対応については簡単に紹介する.

Ⅱ 疫  学

自己免疫性胃炎は,長期間無症状のまま徐々に進行する疾患であり,病後期に出現する症状も非特異的であることから,診断されていない症例が多いと考えられ,正確な有病率は不明である 2)~4

自己免疫性胃炎の頻度を直接調査した報告はなく,抗壁細胞抗体の陽性率による報告と,自己免疫性胃炎末期の合併症である悪性貧血の頻度の報告である.

抗壁細胞抗体の陽性率を調査した報告では,50-74歳の約20% 5,18-75歳の約8%に陽性がみられた 6.他の自己免疫疾患で抗壁細胞抗体が陽性となることがあり,抗壁細胞抗体陽性例がすべて自己免疫性胃炎ではない 7ことから,自己免疫性胃炎の頻度はこれらの報告より低いことが予想される.

悪性貧血の頻度を調査した報告では,悪性貧血の頻度は60歳以上の約2%,60歳以上の女性の約4%であった 8.悪性貧血は自己免疫性胃炎の末期にみられるため,自己免疫性胃炎の頻度はこれらの報告よりも多いことが予想される.

自己免疫性胃炎の頻度は,抗壁細胞抗体の陽性率と悪性貧血の頻度の間,即ち,数パーセントと考えられる.

以前は,北欧の高齢女性に多い疾患と考えられていたが,人種差や年齢差はないと考えられている 8.性差では,他の自己免疫疾患同様に,女性の頻度が高い 9

また,1型糖尿病や自己免疫性甲状腺疾患では,自己免疫性胃炎発生率は5-10倍高くなるなど,他の自己免疫疾患との合併が多い 5),10

Ⅲ 病  因

胃壁細胞のH/K-ATPase(プロトンポンプ)と内因子が自己免疫反応を引き起こす抗原である 11.詳細な機序は不明であるが,H/K-ATPaseに対する自己免疫反応が起こり,壁細胞が破壊される.

H. pylori胃炎症例はH/K-ATPase抗体の陽性率が高い 12ことなどから,H. pylori感染と自己免疫性胃炎の関連が考えられている.H. pylori急性感染により胃粘膜障害が起こり,H/K-ATPaseが抗原提示細胞に認識されて自己免疫反応が起こるという説 3H. pyloriは,H/K-ATPaseと分子学的類似性があるとういう説 13などがある.自己免疫反応を引き起こした後H. pyloriは持続感染しなかったと考えられるが 4,自己免疫性胃炎とH. pyloriとの関連は確定的ではない.

Ⅳ 病  態

H/K-ATPaseに対する自己免疫反応が起こり,壁細胞が破壊されて酸分泌粘膜の機能が低下する.壁細胞が存在する胃底腺領域の高度萎縮および腸上皮化生が起こるが,幽門腺領域の萎縮は起こらないことが特徴である.

壁細胞の破壊により胃酸および内因子の分泌が低下する.胃酸分泌の低下により,胃幽門前庭部に存在するG細胞からガストリン分泌が増加する.鉄吸収には胃酸が重要であるが,胃酸分泌が低下することにより,鉄吸収が障害され,鉄欠乏性貧血を呈する 14),15.高ガストリン血症によりECL細胞が刺激され,その過形成から神経内分泌腫瘍が発生する 16.内因子分泌低下および抗内因子抗体によりビタミンB12の吸収が阻害され,ビタミンB12欠乏症状を呈する.ビタミンB12欠乏により,巨赤芽球性貧血などの血液学的および神経学的な異常を呈する.

また,慢性炎症により胃癌の危険度は約3倍となる 17)~20

Ⅴ 臨床症状

自己免疫性胃炎自体の自覚症状はなく,胃粘膜萎縮が高度になり,胃酸分泌低下やビタミンB12などの吸収障害による症状をきたすまで,長期間にわたり無症状である.

・胃酸分泌低下による症状

胃酸分泌が高度に低下すると,胃排出障害による腹部症状や細菌による症状(消化管内細菌過剰増殖やClostridium difficile 腸炎など)が起こり得る 9

・ビタミンB12低下による症状(悪性貧血)

貧血症状:ビタミンB12低下により巨赤芽球性貧血を呈すると種々の症状が出現し,動悸,息切れなどを呈する.

神経学的症状:指趾のしびれ,亜急性脊髄連合変性症による歩行障害,中枢神経障害などを呈する.

消化器症状:舌乳頭が萎縮し,平滑で発赤した舌(Hunter舌炎)(舌の灼熱感:比較的初期症状)などがみられる.

・鉄欠乏による症状

鉄欠乏性貧血を発症すれば動悸,息切れなど貧血症状がみられる.

・併発疾患による症状

1型糖尿病,自己免疫性甲状腺炎,白斑症の合併がある場合はそれらの症状がみられる.

Ⅵ 診  断

確立した診断基準はないため,内視鏡所見,病理所見,血液検査(貧血,抗壁細胞抗体,抗内因子抗体,ビタミンB12,鉄など),H. pylori検査をあわせて総合的に判断する.

診断の契機では,血液検査異常(貧血)が最も多く,次いで胃炎の診断であり,その他は併発疾患や神経学的症候などである 21

・内視鏡所見

特徴的な内視鏡所見は,胃底腺領域(胃体部と胃底部)に萎縮がみられ,胃幽門前庭部に萎縮がみられないことである.病初期の段階では,萎縮が軽度のため,通常観察では診断困難な場合もあるが,画像強調内視鏡による拡大観察を用いることにより,萎縮の診断が可能である 22)~24.中等度の萎縮を認める場合は,酸分泌粘膜が巣状に破壊されるため,比較的保たれた粘膜がポリープ状にみられ,胃底腺ポリープ様の所見がみられる 25.高度の萎縮を来した場合は,粘膜下層の血管が透見され,腸上皮化生を認めることもある.神経内分泌腫瘍が発生した場合は,小さな粘膜下腫瘍様の隆起を多数認める.自己免疫性胃炎にH. pylori感染を合併すると胃幽門前庭部にも萎縮が起こるため通常の萎縮性胃炎と同様の像となる.しかし,胃体部と胃底部の萎縮が高度で,小さな粘膜下腫瘍様の隆起を多数認めた場合は,H. pylori感染による慢性炎症と自己免疫性胃炎の合併を疑う必要がある.

・病理所見

自己免疫性胃炎を疑う旨を伝え,消化器医と病理医の連携が大切である 26

酸分泌粘膜に限局した炎症所見が特徴的であるが,H. pylori感染を合併した場合は幽門前庭部にも炎症所見を認める.

組織学的所見は,わずかな炎症所見を認める段階から胃体部に限局した高度の萎縮性胃炎を認める段階まで経時的に変化する.4つの段階に分けることが有用である 26

第1段階:形質細胞とリンパ球が粘膜固有層に不規則に浸潤し,粘膜固有層の肥厚を認める.

第2段階:形質細胞とリンパ球の粘膜固有層への浸潤が高度になり,萎縮した腺管の変性を認める.

第3段階:酸分泌粘膜の腸上皮化生あるいは偽幽門腺への変性を認める.

第4段階:酸分泌腺の著明あるいは完全な消失(酸分泌粘膜の萎縮)を認め,粘膜固有層は線維化や腸上皮・偽幽門腺化生に置き換わる.その他,enterochromaffin-like(ECL)細胞の過形成,炎症性あるいは過形成ポリープなどを認める.

自己免疫反応を引き起こす原因が消失するに従い,炎症は収まっていく 26

・神経内分泌細胞

初期はECL細胞の過形成がみられ,腺管径を超えない大きさ(即ち,<150μm)で基底膜周囲に認められる状態を“micronodular hyperplasia”とする.異形成(“ECL dysplasia”)は腺管径より大きくなり基底膜周囲以外にも認められ,粘膜固有層への浸潤も認めるようになる.ECL細胞が0.5-5mmは微小神経内分泌腫瘍(micro endocrine tumors)とされ,内視鏡での指摘は困難であるが,5mmを超えると内視鏡で認識が可能となり,神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumors;NETs)と分類される 26

・血液検査所見

自己抗体:抗壁細胞抗体や抗内因子抗体が陽性となる.抗壁細胞抗体は,他の自己免疫疾患でも陽性となることがあり,感度が高いが特異度が低い 27.抗内因子抗体は経過中に陽性となるため,感度が低いが特異度は高い 28

胃の萎縮:ガストリン値,ペプシノゲンⅠ,ぺプシノゲンⅡにより胃の萎縮状態が評価できるため,進行した状態では,ガストリン値高値,ペプシノゲンⅠ,ペプシノゲンⅠ/ペプシノゲンⅡ比の低下がみられる.近年,ペプシノゲン法より,ghrelinの方が胃粘膜萎縮を良好に評価するとされ 29,萎縮があればghrelin値が低下する.

鉄,ビタミンB12,貧血:進行した状態では,鉄やビタミンB12の低下を認め,鉄欠乏性貧血,巨赤芽球性貧血を認める.ビタミンB12欠乏より鉄欠乏が先行するため 15,原因不明の鉄欠乏の原因として自己免疫性胃炎を鑑別に挙げる必要がある.

Ⅶ 治療,対応

鉄,ビタミンB12,葉酸の補充療法および定期的観察を行う.

腫瘍のサーベイランス目的に内視鏡による観察を行うが,その頻度に関する一定の見解はない.アメリカ消化器内視鏡学会は定期的な検査は推奨していない 30が,ヨーロッパMAPSガイドラインでは高度萎縮や腸上皮化生を認める例は3年ごとの内視鏡検査を推奨している 31

神経内分泌腫瘍に関しては,日本神経内分泌腫瘍研究会やEuropean Neuroendocrine Tumor Societyなどから,それぞれガイドラインが出されている.

Ⅷ おわりに

無症状で緩徐に進行するため,また,本邦ではH. pylori感染に伴う萎縮性胃炎が合併することが多く,自己免疫性胃炎と診断されていない症例が多いと思われる.自己免疫性胃炎を適切に診断し,鉄やビタミンB12などの補充を早期から行うことが重要である.

 

典型例の内視鏡像および病理像をFigureに示す.

Figure 1 

自己免疫性胃炎(NET合併例)の内視鏡像.

a,b:胃体部内視鏡像.

胃体部の高度萎縮および小さな粘膜下腫瘍様隆起を多数認める.

c:胃体上部内視鏡像.

d:胃体上部色素内視鏡像.

胃体上部大彎に約5ミリの粘膜下腫瘍様隆起を二つ認める(矢印).

e:胃幽門前庭部内視鏡像.

胃幽門前庭部は正常粘膜を認める.

Figure 2 

同症例の病理組織像.

a:胃体部病理組織像.

胃体部粘膜(胃底腺組織)の高度萎縮,および微小神経内分泌腫瘍を多数認める.

b:胃体部病理組織像.

免疫染色で微小神経内分泌腫瘍はChromogranin A強陽性である.

c:神経内分泌腫瘍(NET)の組織像.

粘膜下層に主座を持つ腫瘍を認め,周囲に微小神経内分泌腫瘍を多数認める.二つの神経内分泌腫瘍径は5×3mm,3×3mmであった.

d:神経内分泌腫瘍(NET)の組織像.

腫瘍および周囲の微小神経内分泌腫瘍はChromogranin A強陽性である.

e:幽門前庭部(幽門腺組織)は正常である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2018 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top