2018 年 60 巻 8 号 p. 1502-1514
超音波エラストグラフィは組織硬度を画像化するソフトウェアである.消化器領域において超音波エラストグラフィは,主として体外式超音波を用い肝臓の線維化の線維化診断の有用性が報告されている.EUSエラストグラフィは,EUSの高い病変描出能および空間分解能を活かし,膵,胆道疾患,消化管粘膜下腫瘍診断の組織硬度情報を得る新たな画像強調法として近年有用性が報告されてきている.EUSエラストグラフィにはストレイン法が用いられ,関心領域内の相対的硬度を画像化する.本稿においては,EUSエラストグラフィの走査法並びに画像の解析,評価の実際を症例を交えて概説する.
近年の超音波画像診断は超音波観測装置,ソフトウェアの進化に伴い目覚ましい進歩を遂げている.Bモードの画質の向上を基礎として,ドプラ法及び造影ハーモニック法による血流診断,造影超音波による血流情報により超音波画像診断は飛躍的に向上した.そして新たな組織情報として組織硬度を画像化,定量化を可能とする超音波エラストグラフィが登場し,近年主として体外式超音波を用いて乳腺や甲状腺,前立腺などの臓器に対する超音波画像強調機能として有用性が報告されている.消化器領域においては肝臓において非侵襲的かつ簡便に組織硬度を基準とした肝線維化診断の有用性が報告されている 1)~6).
超音波内視鏡検査(EUS)は高い病変描出能および空間分解能を有する画像診断法であるとともに,EUS-FNAによる病理組織学的情報を入手可能なモダリティであり,消化器領域特に膵,胆道疾患,消化管粘膜下腫瘍に対する診療において必要不可欠な検査法であることは疑う余地がない.近年のEUSのスコープ性能,超音波観測装置の技術革新により,経腹超音波においてのみ実施可能であった様々な画像強調機能が使用可能となってきている 7),8).
超音波内視鏡下エラストグラフィ(EUS-elastography(EUS-EG))は,新たな画像強調法として有用性が報告されているものの,EUS-EGの描出法,その解釈や画像解析法はやや複雑である.EUSにて用いられる「Elasticity imaging」の撮像理論や特徴量の評価方法を十分に理解していなければ,この新たな画像強調法も「単なる美しいモザイク」となってしまう.本稿においてはEUS-EGの分類を示し,その撮影方法,評価方法,特徴量の意味について実際の症例を交えて解説する.
超音波画像診断はティッシュハーモニックイメージング法の開発を含むBモード画像の高画質化以外に,カラードプラ断層法,パワードプラ断層法,造影イメージング(造影ハーモニック法)という血流情報が加わり様々な領域において診断に重要な役割を果たすようになってきた.近年新たな組織情報として超音波エラストグラフィにより測定される,「組織硬度」という組織特徴を加えた診断が可能となった.
超音波エラストグラフィは測定する物理量によって大きく二つに分類される(Table 1).一つはStrain imaging(ストレイン法)であり組織硬度と負の相関関係にある「歪み」を測定する手法である.ストレイン法の撮像理論は硬軟のばねを一次元的に連結させたモデルにて表現される(Figure 1).この一次元バネを圧縮すると硬いバネはほとんど変形せず,軟らかいバネは大きく変形する.この変位分布の空間微分をとることで得られる歪みの大きさにより,硬さ,軟らかさの情報が得られる.この歪みの分布は圧縮の程度に応じて変化しうる相対的指標であり,組織に弾性分布を反映していると考えられる.ファントムを用いた超音波エラストグラフィ画像では,Bモードでは存在診断が困難な病変が明瞭に描出されている(Figure 2).更にストレイン法は対象組織に対する変形,圧迫させる手法によりStrain elastographyとARFI(Acoustic Radiation Force Impulse)imagingに分類される.
超音波エラストグラフィの分類(文献2より改変引用).
ファントムによる超音波エラストグラフィ画像.
ゲル素材内に周囲のゲルと音響インピーダンスが等しくなるように設計された内包ターゲットにより設計される.右のBモード画像ではターゲットを検出することはできないが,エラストグラフィ画像では周囲ゲルとターゲット間の硬度の違いにより鮮明に描出されている.
超音波エラストグラフィ(ストレイン法)の原理.
中心の硬いバネと軟らかいバネを一次元的に連結したモデルで示される.この一次元バネを圧縮すると各部はグラフのような変位分布となる.つまり硬いバネはほとんど変形しないが軟らかいバネは大きく変形するため各部の変位に差が生じる.これらの変位分布の空間微分をとることで得られる歪みの大きさにより,硬さ,軟らかさの情報が得られる.
もう一つの手法は組織硬度と正の相関にある「せん断波速度」を測定するShear wave imagingである.超音波は硬い組織内ほどより速く伝搬する性質を有し,対象関心領域に発生させるせん断波(Shear wave)の伝搬速度を計測することにより組織硬度を測定する手法である.客観的な硬さを表す指標である弾性率E(Young率)とせん断波(vS)はE=3(vS2ρ)の関係で表現される.Shear wave imagingではせん断波速度を測定することで弾性率の絶対値を計測することを可能とする 1),2).
現時点においてEUSではストレイン法のみが使用可能である.
現時点2018年3月時点においてEUS-EG施行可能な超音波観測装置及び対応するEUSスコープを概説する(Table 2).
EUSエラストグラフィ施行可能な超音波観測装置及び内視鏡.
①Hitachi Aloka社
超音波観測装置はHI VISION Ascendus,HI VISION Preirus,HI VISION Avius,Noblusが使用可能であり,“Real-time Tissue ElastographyTM:RTE”というソフトウェアを使用する.EUSスコープはHoya-Pentax社製EG-3270UK,EG-3630U,EG-3630UR,EG-3830UT,EG-3670URK,EG-3870UTKが対応する.
これらの超音波観測装置は超音波観測専用機であり高解像度の画像を提供する(Figure 3-a,b).Hitachi-Aloka社製の超音波観測装置を用いたエラストグラフィ画像はパターン診断,Strain ratio解析,Strain Histogram解析が可能である.
a:Hitachi Aloka社製超音波観測装置HI VISION Ascendusの外観.
b:HI VISION AscendusのEUS-EG画像.
膵尾部膵癌症例.腫瘍の領域は比較的均質な高硬度(青)に点状の緑領域を伴う所見として描出される.
②Olympus社
超音波観測装置はEU-ME2(PREMIER PLUS).超音波内視鏡はOlympus社製GF-UCT260,TGF-UC260J,GF-UCT240-AL5,GF-UC240P-AL5,GF-UE260-AL5が対応し,“ELST”というソフトウェアを用いる.EU-ME2はコンパクトな躯体の観測装置であり,エラストグラフィ画像はパターン診断,Strain ratio解析が可能である(Figure 4-a,b).
a:OLYMPUS社製超音波観測装置EU-ME2 PREMIER PLUSの外観.
b:EU-ME2 PREMIER PLUSのEUS-EG画像.
自己免疫性膵炎症例の膵体部像(治療導入前).膵実質は全体には高硬度(青)であり内部に線状,斑状の緑領域が散在する所見.
③Fujifilm社
超音波観測装置はSonart SU-1が用いられる.超音波内視鏡はFujifilm社製EG-530UR2,EG-530UT2,EG-580UR,EG-580UTが対応する.SU-1はコンパクトな躯体の観測装置であり超音波内視鏡もラジアル型は直視鏡であるため,スコープの操作性に優れる.エラストグラフィ画像は現在のところパターン診断にのみ対応する(Figure 5-a,b).
a:Fujifilm社製超音波観測装置Sonart SU-1の外観.
b:Sonart SU-1のEUS-EG画像.
膵頭部膵癌症例.腫瘍内は高硬度(青)を中心に緑シグナルの領域とモザイク状の分布を示す.
良好なEUS-EG画像を描出するためには良好なBモードイメージを得る必要がある.良好なBモード画像とは鮮明でコントラスト分解能の良好且つアーチファクトの少ない超音波画像を意味する.EUS-EGにて最大の問題となるのは超音波画像の呼吸性変動である.EUSは通常鎮静下にて施行されるため,患者の呼吸をコントロールすることは困難である.膵臓に対してEUS観察を行う場合,胃内走査は比較的呼吸変動が大きく,安定した描画に難渋することがある.一方,経十二指腸走査においてはスコープ自体で周囲組織が「ロック」された状態となり呼吸性変動が比較的少ない観察が可能となることが多い.浅い鎮静の場合にはEUS-EGを行う際,一時的に「息止め」を行っていただくことを試みてもよいが常に使える技ではない.良好で安定したBモード画像が得られた状況下にてEUS-EGに切り替えることが望ましい.良好なEUS-EG画像とは一定期間(通常5秒以上)安定した画像が関心領域(Region of Interest:ROI)全体に描出される状態を指す.EUS-EG画像は再評価が可能となるように動画またはシネループとして記録されることが望ましい.その上で連続したフレームにて安定したエラストグラフィ画像が得られた場合は信頼性の高い画像と判断できる.またエラストグラフィ画像をraw dataとして記録しておくと,検査後にStrain ratioやStrain Histogramの再解析が可能となり,EUS-EG画像の質や再現性の評価に重要である.EUS-EG画像は一画面にてBmode画像と重畳させて表示する方法と,Dual画面にてBmode 画像とEUS-EG画面とを表示する方法がある.一画面では広くエラストグラフィROIを設定できる利点があるが,限局性膵腫瘤性病変の評価としてSR測定を行う際にはBモード画像にて対象領域の位置確認を行いやすいため,Dual画面での表示が望ましい.拍動の力を評価する方法としてStrain indicatorまたはストレイングラフと呼ばれるグラフを参照するとよい.Strain indicatorは圧迫の程度を7段階表記または波形により表記され組織硬度の経時変化を示す.Strain indicatorは圧迫強度,歪みの程度を示し,大動脈の拍動による圧迫下にグラフが最大の振幅を示す時は望ましい振動エネルギーにて描画された像と判断される.グラフの波形の頂点付近での画像における評価が望ましい.Strain indicatorはHitachi-Aloka社及びOlympus社製超音波観測装置にて表示される(Figure 6).
ストレイングラフ(赤枠).
グラフの振幅の大きな画像では十分な組織圧迫,歪みが得られていると判断される.
安定したBモード画像が得られているにも関わらず,エラストグラフィ画像が得られない際には以下のような走査の工夫にて描画できる可能性がある.
①病変が異なった消化管領域より観察可能な場合には観察部位を変える.
②大動脈により拍動の方向を変えるために,患者の姿勢を左側臥位から,仰臥位または伏臥位の方向へ体位変換する.
③EUSプローブのバルーンのサイズを調整し,スコープ位置を安定させるために消化管内のエアを十分に吸引する.
④EUS-EGのFrame rateを上げ,少ない振動,歪みにて信号が検出できるようにする.
⑤超音波画像を拡大しROIをプローブ近位に置く.ただしこの方法では深部の病変に対する評価が困難となる可能性がある.
⑥EUSスコープのupアングルをかけ,対象領域に圧迫を加えてみる.圧迫が加わりや膵臓等ではエラストグラフィ画像が検出されやすくなる場合がある.
EUS-EGにおいてROIの範囲設定には2種類の考え方がある.一つは病変の領域に限局してROIを設定する方法であり,もう一方は病変部位と周囲組織を含める設定する手法である.
前者はROI内に比較的均質な組織が存在すると仮定される際に用いられ,肝や膵の線維化診断を行う際に主として用いられる.後者は腫瘍性病変など限局性病変の質的診断を行う際に比較対象領域として周囲正常組織または脂肪組織などを設定し,病変と領域との対比としてEUS-EG画像を評価する.理論上,限局性病変に対しEUS-EGを行う際には病変の面積がエラストグラフィROI中の25-50%程度を占めるくらいに設定すると良いとされている.
3)EUSエラストグラフィの解析方法EUS-EG画像(ストレイン法)には3つの解析方法が存在する.一つはEUS-EG画像を定性的に診断するパターン診断,残る二つは組織の相対硬度を示すストレイン法の画像の定量化を目的としたStrain ratioの測定およびStrain Histogramによる解析である.以下に各解析方法につき解説する.
①EUSパターン診断の実際(解析対象と方法,解釈)
EG画像の解釈は関心領域における色調(硬=青,軟=赤)と画像の不均一性により分類がなされている.膵腫瘍に対するパターン分類は,2006年Giovanniniらにより初めて報告され,歪みの程度,信号の分布により5段階のscoreに分類された 9).以後,JanssenやIglesias-Garciaらにより信号の不均一性を基準とした分類が報告され感度100%,特異度85%と高い精度で膵腫瘤に対する良悪性鑑別能を報告している 10),11).EUS-EG画像のElastic Scoreというパターン診断は理解が容易であるという利点はあるが,解釈が主観的であり且つエラストグラフィのROI中における病変と正常周囲臓器との比率が得られる画像に影響する点に注意を要する.特にサイズが大きく,不整な輪郭を有する評価には適さない場合がある(Figure 7).
Elastic Score(文献9より引用一部改変).
②Strain ratio(SR)の実際
SRはROI内の相対的硬度を画像化するストレイン法のエラストグラフィ情報をより客観化するための手法で或る.
Strain ratio=周囲組織(脂肪組織,消化管壁等)のstrain value/対象病変のstrain valueとして算出される.
個体間にて硬度差が少ないと考えられる部位を基準点として,対象領域との硬度の比により標準化する手法である.本法の活用領域としては腫瘤性病変のCharacterization,特に腫瘤の良悪性鑑別に有用性が期待されている(Figure 8).
Strain Ratio測定.
自己免疫性膵炎症例.病変内にROI(A)を設定しstrain値は0.25%と表示されている.ROI(B)は膵周囲脂肪組織(Bモードにて高エコー領域に描出され,EUS-EGでは軟(赤)で示される)に設定し,strain値は0.71%と表示される.
計算されたStrain Ratio(SR)は2.82である.
多くのSRを用いたEUS-EGの診断の有用性が報告されているが,参照領域の標準化はなされていない.膵腫瘍に対しては膵腫瘍と炎症性膵腫瘤との鑑別におけるSR測定の有用性が報告されている.これらの報告においては膵周囲軟部組織をreferenceとして定義している.これらは膵周囲脂肪組織や消化管壁を基準と主として設定されている.SRを用いた膵腫瘍と慢性膵炎(腫瘤形成性膵炎)の鑑別の報告では鑑別のcut off値は異なるものの,いずれも高い診断能を報告している.
SRは設定するreference領域において算出されるSRの数値は大きく異なる可能性があることを理解する必要がある.また測定領域のプローブからの距離もSR結果に影響がでるとの報告もあり,SRの測定ならびに解釈,特に症例間の比較においては注意を要する.
SRはHitachi-Aloka社及びOlympus社製超音波観測装置にて測定可能である.SR測定の実際としては,安定したBモード画像が描出された状態でエラストグラフィモードに変更する.エラストグラフィROIは対象病変及び周囲組織(膵臓であれば膵周囲脂肪組織,または消化管壁)を含む範囲で設定する.その上でA領域(病変部),B領域(周囲脂肪組織)にROIを設定する.通常エラストROIは円形または楕円形で設置し,ROI径は標準化されたものはない.病変内の硬度が不均一な病変を測定する際にはROI径は5mm程度に設定する.硬度が均質な病変に対しては病変全体をエラストROIとして設定する(Figure 9).
Strain Histogram解析.
自己免疫性膵炎症例.膵内に長方形のROIを設定する.ヒストグラム解析では硬度に負の相関を示すMEAN値が50.8と算出される.
Iglesias-Garciaらは SR測定により膵充実性腫瘤の良悪性鑑別における診断感度91.2%,特異度91.0%,正診率91.1%と高い診断能を報告している 12)~14).一方でEUS-EGに関するメタ解析では,SR測定を行っても,パターン分類と診断能に差はないと報告されている.パターン解析同様,EUS-EG画像の再現性,対象領域におけるheterogeneity,対象領域のROIをどの範囲に設定するかなどで,大きくSRの値が異なることにも注意を要する.
③Strain Histogram(SH)
Strain HistogramはStrain elastography imagingの定量化を目標としたもう一つの画像解析法である.エラストグラフィ画像の関心領域(ROI)内における,画像の不均一さを,硬度(カラーマップ)を256階調のグレースケールの分布として画像処理を行い,様々なパラメーターとして組織硬度の分布を表現するものである.ヒストグラムは11項目の特徴量で表現され,組織硬度情報に加えて,ROI内の組織硬度分布(homogeneity/heterogeneity)を数値化する(Table 3).Itohらは膵繊維化の線維化程度とSHとの相関を報告している.膵繊維化が進むほど,選択領域内のグレースケールの平均値であるMean値(軟らかいほど高値)が低値となり,同様に選択領域内のグレースケールの標準偏差を示すStandard deviation(不均一な組織ほど高値)も低値となる.つまり膵線維化とMean及びStandard deviationが負の相関を示す.一方でヒストグラムの歪みや不均一性を示すSkewnessとKurtosisとは正の相関を示すと報告している.Kuwaharaらは,膵腫瘍術前の非腫瘍領域の膵硬度をSH解析しmean値>70(つまりsoft pancreas)が膵頭十二指腸切除後の膵液瘻の発生の予測に有用と報告している 15),16).
Strain Histogramにおける各特徴量の意味.
SHの解析方法としてSăftoiuらはneural network analysisを用い,meanのcut offを>175と設定することで膵癌と炎症性膵腫瘤との鑑別診断能がsensitivity 91.4%-93.4%,specificity 66%-787.9%と報告している 17).
SHは現在Hitachi-ALOKA社製の超音波観測装置HI VISION Ascendus,HI VISION Preirus,HI VISION Avius,Noblusにて使用可能である.SHは設定したROI中の硬度分布を解析するため,主としてびまん性肝疾患や膵疾患における線維化程度診断などに特に有用と考えられている.よって膵疾患において慢性膵炎や早期慢性膵炎の評価においては描画されている膵臓内に可及的に大きく四角形のROIを設定して解析を行う場合と対象病変領域全体をトレースして解析を行うことも可能である(Figure 9).解析範囲を設定すると解析は瞬時に行われ結果が表示される.Hitachi-Aloka社製に超音波観測装置以外のEUS-EG画像においては,オフラインにてヒストグラム解析を行うソフトウェア(Figure 10)上にてヒストグラム解析が可能となる.
Strain Histogram解析の計測機能.
設定したROI(赤枠)内のカラーマップを256段階に数値化した後にGray-scale画像で表示し,硬さの平均や分布など11の特徴量を自動で算出する.
EUS-EGの消化器領域における有用性は膵臓に対して最も多く報告されている.通常正常膵実質は比較的均質な軟硬度(緑)で描出されることが多い.膵臓は加齢により硬度が増加すると報告されている 18),19).膵疾患は慢性膵炎や自己免疫性膵炎などびまん性膵疾患に対する診断と膵癌をはじめとする限局性膵腫瘤性病変の診断とに大別される.膵疾患に対するEUS-EGは前述のように解析方法別の有用性の報告がなされている.全体として膵癌と炎症性膵腫瘤との鑑別においては高い感度を示すが,特異度はやや低い報告がされている.
2)リンパ節腫大リンパ節の良悪性の鑑別については2006年にGiovanninniらが最初に報告している.Elastic scoreによるパターン分類にて感度100%,特異度50%と報告したが,後に多施設研究による解析では同様のパターン分類にて感度91.2%,特異度82.5%と報告しBモード診断よりも有意差をもって優れると報告している.SaftoiuらはStrain Histogram解析をリンパ節の良悪性鑑別に用い,感度91.7%,特異度94.4%,正診率92.86%と高い診断能を報告している 9),20),21).
3)消化管粘膜下腫瘍Tsujiらは25例の胃粘膜下腫瘍に対してElastic scoreを用いたパターン分類を施行した.結果,病理学的診断とElastic scoreとの対比でGISTは9例中6例はscore4,3例がscore5であり,GISTは他の粘膜下腫瘍に比して「硬い」組織として描出されると報告している.一方でIgneeらはElastic scoreによるパターン診断ではGISTと良性の平滑筋腫との鑑別は困難であると報告している 22),23).
(症例提示)
症例は60歳代男性.糖尿病の増悪を主訴に近医を受診し,膵腫大を指摘され当院紹介受診.造影CTにてcapsule like rimを伴うびまん性膵腫大を認めた.血清IgG4 352mg/dLと上昇を認めた.EUSでは膵実質はびまん性に腫大し低エコー化を呈した.EUS-FNAによる病理組織所見ではIgG4陽性の形質細胞浸潤,花筵状線維化を認め,1型自己免疫性膵炎確診と診断された.Figure 11はステロイド治療前後のEUS-EG画像である(a:治療導入前,b:ステロイド治療導入2週後).EUS-EG画像ではステロイド導入前のEG画像では膵実質は比較的均質な高硬度(青)で表示され,治療導入後は膵実質内にまだらに緑―赤の信号を認める.治療前後のSRを比較すると治療前18.82,治療後3.55と膵硬度が変化した.また,同症例のSH解析を行うと,組織硬度と負の相関を示すとされるMEAN値,SD値はそれぞれ治療前MEAN18.1,SD12.6,治療後MEAN67.7,SD60.3と治療前後において膵実質が軟らかく変化していることが示された(Figure 11-a~d).
症例:1型自己免疫性膵炎(確診).
a:ステロイド治療導入前のEUS-EG画像.Strain Ratioは18.82.
b:ステロイド導入後のEUS-EG画像.SRは3.55と治療により明らかに低下(軟化)している.
c:ステロイド治療導入前のEUS-EG画像.Strain Histogram解析ではMEAN値18.1,SD 12.6と示される.
d:ステロイド導入後のStrain Histogram解析ではMEAN値67.7と明らかに上昇(軟化)している.
これまで概説してきたように,EUS-EG画像は組織硬度の相対値を表現するモダリティである.施行時の注意点としてはストレイングラフ等を用い安定したEUS-EGを記録すること,またデータの客観化のため,SRまたはSHの解析の追加が望ましい.SRを測定する際もできるだけ個体間での比較を意識し,設定するROIのサイズや範囲を規定し,複数回測定した値の平均値を用いるなどの工夫を要する.今後EUS-elastographyは膵や消化管粘膜下腫瘍の良悪性鑑別のみならず,EUS-FNAを行う際のtargetingや,画像のみならず膵機能との相関を調査することにより,慢性膵炎や早期慢性膵炎,自己免疫性膵炎の病期診断に寄与する可能性を秘めている.更には近い将来,経腹超音波検査にて用いられている組織硬度の絶対値(Young率)の測定が可能となるElasticity imaging(Shear wave elastography)がEUSへ臨床応用されることが期待される.
本論文内容に関連する著者の利益相反:大野栄三郎(富士フイルム(株),第一三共(株)),廣岡芳樹(富士フイルム(株),第一三共(株)),川嶋啓揮(富士フイルム(株),第一三共(株)),石川卓哉(富士フイルム(株),第一三共(株)),後藤秀実(富士フイルム(株),第一三共(株))