日本消化器内視鏡学会雑誌
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内視鏡室の紹介
岩手県立磐井病院 消化器科
責任者:横沢 聡  〒029-0192 岩手県一関市狐禅寺字大平17
横沢 聡
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2018 年 60 巻 9 号 p. 1625-1629

詳細

概要

沿革・特徴など

昭和初期に野山村民の医療不安からの脱出のため,「自分たちの命は自分たちで守ろう」と産業組合連盟の有志が各地で診療設置運動に立ち上がったことが契機となり,昭和7年11月,組合立一関実費診療所として開設されたのが始まりであり,昭和25年11月1日に県営移管され,岩手県立磐井病院となった.

県営移管時の概要は,病床数150床,1市7カ村54,806人の診療圏であったが,昭和41年6月に,一関駅前から山目字前田に病床数222床として新築移転し,病床数の増床,高度医療器械の整備を進めながら,平成4年7月に現在の5病棟体制305床となった.

その後,医学,医術の急速な進歩と拡大,医療需要に対応するため,数回にわたって増改築を行うとともに,診療体制の充実や高度医療器械等の整備を図り,地域医療の確保に努めてきたが,敷地及び建物が狭く老朽化し,今後の新たな医療需要に対応することが極めて困難な状況となったことから,診療圏の中核病院として機能を充分に果たすため,平成18年4月1日,一関市狐禅寺字大平及び峯下地内に標榜診療科20診療科,許可病床数315床(一般病床281床,結核病床10床,緩和ケア病床24床)の新しい磐井病院として開院した.

平成29年3月31日現在,標榜診療科21診療科を擁し,各診療科での急性期診療を中心とした専門医療の提供に加え,産婦人科・新生児科・小児科による周産期医療および小児医療の確保,がん診療においては各診療科での手術や化学療法に加えて放射線治療科での放射線治療や緩和医療科を中心とした緩和ケアの拡充も図っており,診療圏内での一貫した急性期診療を提供している.

組織

内視鏡室は独立した外来の一部門として位置づけられており,内視鏡室専属のメディカルスタッフ(内視鏡技師,看護師,看護補助者,事務)は外来部門の所属となっている.内視鏡室での検査・治療は消化器内科と呼吸器科の医師が携わっている.

検査室レイアウト

 

 

 

当内視鏡室の特徴

当院の内視鏡室は1階の外来部門に位置し,独立した内視鏡検査室が4室あり,その他にリカバリー室,カンファレンス室,洗浄室,待合室,更衣室,シャワー室,トイレ等で構成され,総面積は191.52m2である.

4室ある内視鏡検査室のうち3室は内視鏡室に並列して配置されており,患者の出入りは患者用通路と隔てている患者入退室用の引き戸となっているが,対側は患者用通路と平行するスタッフ用通路とカーテンで仕切られた状態となっており,そこから医師やメディカルスタッフが出入りすることで,患者動線と職員の動線を分けるようになっている.3室のうち1室は透視検査も可能となっており,主に大腸内視鏡検査に用いられており,腸管狭窄などの場合にはそのまま消化管透視も出来るようになっている.

内視鏡検査室のうち残る1室は隣接する放射線部門の透視室に位置し,主にERCPやEIS,消化管ステント留置術等の透視下治療を行う治療専用内視鏡室となっており,消化器科医師と内視鏡室メディカルスタッフが運用している.

前処置室にはリクライニング・チェアが3台設置され,それぞれはカーテンで仕切られており,プライバシーに配慮しリラックスした状態で問診や前処置ができるようになっており,主に上部消化管内視鏡検査の前処置に用いられている.

リカバリー室にはベッドが3台設置されており,外来患者の下部消化管内視鏡検査の前処置や内視鏡検査後の経過観察に使用されている.

更衣室は下部消化管内視鏡検査前後の着替えに用いられ,トイレは更衣室内に設置された2室を含む計4室で,2室は車椅子での使用も可能なバリアフリー対応となっている.

平日夜間や土日祝日の緊急内視鏡検査については医師2名,看護師1名で24時間対応出来るように当番制をしいている.

内視鏡室看護科の取り組みとしては,患者に寄り添える看護を目指し,入院治療に際して術前術後訪問を実施し情報共有をすると共に,安全な治療やケアの提供のためサインイン,タイムアウト,サインアウトを導入している.また,治療中は苦痛を軽減できるよう,低反発マットの使用やマウスピースによる圧迫の軽減に取り組んでいる.内視鏡の洗浄記録については,患者ID,使用スコープ,洗浄機,洗浄者について,バーコードリーダーを用いた管理システムを導入しており,一元的に洗浄記録を管理できるようになっている.

スタッフ

(2018年4月現在)

医   師:指導医1名,専門医3名,医師2名(後期研修医1名含む)

内視鏡技師:Ⅰ種2名

看 護 師:常勤4名,事務職1名,その他1名

設備・備品

(2018年4月現在)

 

 

実績

(2017年1月~12月まで)

 

 

指導体制,指導方針

当科をローテートする初期研修医については,はじめに施行医の隣での内視鏡検査の見学から始まり,次いで生検など内視鏡検査,治療の各種介助に積極的に入ってもらい経験を積み,更に消化管モデルを用いた基本的な内視鏡操作を修得し,3カ月程度の研修期間であれば上部消化管内視鏡検査のスクリーニング観察を施行医として実施してもらう.さらに当科での研修期間を長く設定した研修医など研修医本人の内視鏡診療に関する興味が高い者については,研修医の内視鏡診療のスキルに応じて下部消化管内視鏡検査を実施したり,更には消化管止血術やEMR/ポリペクトミーまで施行する場合もある.いずれの場合でも消化器内視鏡専門医や指導医の責任において内視鏡診療の質や安全性を担保しつつ,当院の初期研修プログラムの研修到達目標の一つである「On the job trainingで多数の実経験を積む」を積極的に実践し,早いうちから内視鏡検査手技を研修医に経験してもらい,消化器内視鏡に興味をもってもらう環境整備を心がけている.

一方,消化器内視鏡専攻医(後期研修医)の研修については,大腸内視鏡の挿入も含めて,まず上下部消化管内視鏡検査のスクリーニング観察を重点的に経験し内視鏡観察の基本を修得し,同時に腫瘍性病変に関する通常観察,色素内視鏡や拡大内視鏡観察をはじめとした各種消化管疾患の内視鏡診断スキルを身に付けていく.治療については消化管領域では消化管止血術やポリペクトミー/EMRから始まり,さらにPEG,EVL,EIS,ESD,消化管バルーン拡張術,消化管ステント留置術等の経験を積んでもらい,胆膵領域ではERCP時の介助を経験しつつ胆管カニュレーション操作から始まり,更にEST,EPBD,胆道ドレナージ術といった手技を修得し,専門医・指導医と共に内視鏡診療の実経験を積んでもらう.

また毎週実施している科内の内視鏡フィルムレビューにて内視鏡診療に関する振り返りを行い,更に内科と外科の術前合同カンファランスも毎週行い,症例ごとに複数の医師,診療科による多面的な検討を行い,内視鏡診療の質の向上を図っている.

院外での研修も積極的に行っており,日本消化器内視鏡学会をはじめとして消化器内視鏡関連の各種学会やセミナー,研究会,ハンズオントレーニング等への参加はもちろんのこと,研修医,専攻医に対する学会や研究会での発表に関する指導も行い,早期の内視鏡専門医の取得を促している.

現状の問題点と今後

消化器内視鏡診療に関する業務量に比して医師およびメディカルスタッフいずれも人員が相対的に不足しており,予定検査に加えて緊急内視鏡が行われるような場合など診療件数が多い日は午前中に終わるべき検査が午後にずれ込んだり,夕方には勤務時間外に引き続いて診療を行うことも多く,さらに平日夜間や土日祝日の緊急内視鏡検査を維持するための医師,メディカルスタッフの当番も少人数での割り当てとなっており,一人当たりの拘束時間が多くなっている.

政府が進めている働き方改革もあり,当科でも医師およびメディカルスタッフの業務負担の軽減が喫緊の課題となっており,実効性の高い対策としてこれまでにクリニカルパスの積極的導入や医療クラーク採用等による業務の効率化を図っており,その結果,以前に比べて業務内容は整理,分散されるようにはなってきたが,更なる負担軽減が求められる状態が続いている.根本的な解決には人手不足の解消が必要であり,医師については以前から大学からの常勤・非常勤の医師派遣による積極的な支援を得てはいるが,更に当院採用の初期研修医はもちろんのこと,他施設の初期研修医も含めて当科での後期研修に関する勧誘活動を積極的に行い,当科所属のレジデントを増やすことによる底上げ,活性化を図ることが重要と考えている.メディカルスタッフについては,県職員としての常勤採用に加え臨時職員採用も随時行っているが,昨今の医療職種の人手不足もあり,望ましい員数の確保には至っていないのが現状である.

医師,メディカルスタッフとも人材を確保するためには,魅力のある研修(就業)環境の整備が最重要であると考えており,そのためには患者さんが安心して診療を受けられるよう医療安全について最大限配慮しながら初期研修医および消化器内視鏡専攻医の内視鏡診療に対する主体性を尊重した現場重視の実践的な研修を推し進めると共に,医療職種相互の良好なコミュニケーションを醸成しつつ,それぞれの医療職が専門性を十分発揮し診療にあたっていく多職種連携をなお一層充実,発展させていき,ひいては内視鏡診療に携わる医師やメディカルスタッフの確保に繋げていきたい.

 
© 2018 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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