日本消化器内視鏡学会雑誌
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アジア諸国における内視鏡スクリーニングは胃癌死亡率の減少と関連している:メタ解析とシステマティック・レビュー
貝瀬 満
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2019 年 61 巻 1 号 p. 89

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要旨

【背景および目的】胃癌の内視鏡的スクリーニングが罹患率または死亡率にどのように影響するかは明らかではない.胃癌に対する内視鏡的スクリーニングと死亡率および発生率との関係を評価するためのシステマティック・レビューおよびメタ解析を行った.

【方法】PubMedとEMBASEを比較し,2018年3月8日までに死亡または発症の転帰を報告した,少なくとも1回は内視鏡的スクリーニングを受けた成人のコホートおよび症例対照研究を個別にレビューし,関連するデータを抽出した.評価する効果見積りは相対リスク(RR)であり,RRと95%信頼区間(CI)を組み合わせるためにランダム効果モデルを使用した.

【結果】最終解析にはアジアからの342,013人を含む6つのコホート研究と4つのコホート内症例対照研究が含まれていた,対象6研究を統合した結果(RR,0.60;95%CI,0.49-0.73)は,内視鏡的スクリーニングが胃癌死亡率の40%相対リスク低下と関連することを示した.内視鏡的スクリーニングと発生率の関連は観察できなかった(RR,1.14;95%CI,0.93-1.40).サブグループ分析では,スクリーニングなし(RR,0.58;95%CI,0.48-0.70)またはX線スクリーニング(RR,0.33;95%CI,0.12-0.91)と比較して内視鏡スクリーニング後の胃癌死亡率が有意に減少した.しかし,内視鏡的スクリーニングは,期待死亡数と比較して死亡数は有意に低下させなかった(RR,0.67;95%CI,0.38-1.16).

【結論】システマティック・レビューとメタ解析では,アジア諸国において内視鏡スクリーニングは胃癌による死亡リスクを低下させ,胃癌発生率に影響を与えないことがわかった.本知見の裏付けには地域集団ベースの前向きコホート研究が必要である.

《解説》

2015年3月,国立がん研究センターによる政策提言である「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年度版」が公表された.その中で,上部消化管内視鏡(EGD)は胃癌死亡を減少させることが示され(証拠のレベル2+),胃がん検診のモダリティとして推奨グレートBとされた.これを受けて,2016年以降EGDによる胃がん検診が各地で一斉に開始されている.

本論文では,「胃がん検診ガイドライン2014年度版」作成以降に発表された論文を含めた計6個のコホート研究およびコホート内症例対照研究を用いて,メタ解析とシステマティック・レビューが行われた.その結果は,少なくとも1回はEGDスクリーニングを受けた成人では胃癌死亡率の40%相対リスク低下が示された.EGDによる胃がん検診の根拠を更に確実なものとするエビデンスを示す重要な論文といえる.

本論文は,EGDスクリーニングが胃癌死亡を減少させることは示したものの,どのような間隔でEGDを行うべきか,という疑問には答えていない.また,胃癌罹患率の高い東アジア(日本,韓国,中国)で行われた研究に基づくものであり,胃癌罹患率の低い地域に普遍化できるものではないことに注意する必要がある.Markov modelを用いたEGD胃がんスクリーニングの費用対効果を検討した論文 2では,胃癌高危険群である人種や民族でのEGDスクリーニングは良好な費用対効果が示されたが,胃癌低危険人種や民族では高コスト低効果であると論じられている.

文 献
 
© 2019 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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