日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
WONに対するステントの選択および留置のコツ
土屋 貴愛 祖父尼 淳石井 健太郎向井 俊太郎糸井 隆夫
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2019 年 61 巻 10 号 p. 2388-2396

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要旨

Lumen apposing metal stent(LAMS)である,Hot AXIOSTM(Boston Scientific社)が被包化壊死(walled-off necrosis:WON)や膵仮性嚢胞に対してEUS-TDを行う際に使用可能となり,WONの内視鏡治療戦略が大きく変化した.これまでのプラスチックステントや金属ステントよりも大口径であるため,より高いドレナージ効果を得ることができ,直接内視鏡を挿入し壊死物質を取り除くネクロセクトミーも容易に行える.また,WONへの適応を取得したデバイスが登場したことにより,安心して治療が行えるようになった.WONがそれほど大きくなく,ほとんどを液体成分が占め,ネクロセクトミーの必要がないと予想される時は,外瘻の経鼻ドレナージチューブか内瘻のプラスチックステント,または内外瘻同時留置を行い,WONが広範に及ぶ場合やネクロセクトミーの施行が予想される場合にはLAMSを留置する.WONの内視鏡治療には致死的な偶発症が起こり得るため,放射線科医や外科医のバックアップ体制を十分整えて行うべきである.

Ⅰ はじめに

近年,急性膵炎後の局所合併症である被包化壊死(walled-off necrosis:WON)に対して,内視鏡下に施行する低い侵襲度と,リアルタイムに超音波内視鏡で観察しながら施行可能である安全性から,超音波内視鏡ガイド下経消化管的ドレナージ(EUS-guided transluminal drainage:EUS-TD)が広く行われている.また,EUS-TDに引き続き内視鏡直視下に壊死物質を取り除く内視鏡的ネクロセクトミー(endoscopic necrosectomy:EN)が開発された.さらに昨年よりEUS-TDやENをより簡便で安全に内視鏡医が安心して施行できるlumen apposing metal stent(LAMS)である,Hot AXIOSTM(Boston Scientific社)が使用可能となり,本邦においても今後さらに普及していくものと考える 1)~3.本稿ではWONに対して行われるEUS-TDとENの実際を解説する.

Ⅱ WONに対する内視鏡的アプローチ

1992年にGrimmらが初めてEUS-TDを報告し 4,LAMSを用いた仮性嚢胞204例とWON 608例のメタ解析 5では,手技成功率がそれぞれ97%と98.9%,治療奏効率が93%と90%と良好な成績が報告されている.2000年にSeifertらがドレナージによって造設した瘻孔からWON内に内視鏡を挿入し,感染した壊死組織を除去するENの方法を初めて報告した 6.その後,この手技はハイボリュームセンターを中心に多施設多症例の検討や比較対照試験が報告されており,低侵襲な治療法として普及してきている 7)~10

感染兆候を呈するWONと,WONに伴う腹痛や消化管圧排に伴う通過障害,嘔気・嘔吐などの臨床症状を有するものが治療適応となる.たとえWONであったとしても小さなものや液体貯留が大半を占めるものなどは,自然に吸収されドレナージも必要ないことを経験するため,無症候性のWONはまず経過観察すべきである.注意点として,無症候性であっても経過観察にて消退せず,むしろ増大傾向であるWONは,その後に感染や出血をきたす可能性が高い.よって重篤な合併症を併発する前に治療導入を検討する.壊死組織を多く含むWONはENの良い適応と考えるが,ドレナージのみで良好な経過が得られる症例もあり,特に大口径のLAMSを留置可能となってからは,これまでのプラスチックステント留置時よりもENの必要ない症例を多く経験するようになった.一期的にドレナージとENを行う施設もあるが,先述の通りENの必要ない症例もあるため,ENの侵襲度や偶発症のリスクを考慮すると,まずはドレナージのみを行い,その後の臨床経過から慎重にENの適応を判断するstep-up approachが良いと考える.

さらに,重要事項として,膵粘液性嚢胞腫瘍などの嚢胞性腫瘍をしっかりと除外しなくてはならない.そして,EUS-TDやENを行う際には,出血や穿孔など致死的な偶発症も起こり得るため,放射線科医や外科医のバックアップ体制を十分整えるべきである.

Ⅲ ステントの選択

昨年より,本邦でもlumen apposing metal stent(LAMS)である,Hot AXIOSTM(Boston Scientific社)がWONや膵仮性嚢胞に対してEUS-TDを行う際に使用可能となり,治療戦略が大きく変化した.これまで使用してきた経鼻ドレナージチューブを含むプラスチックステントや金属ステントよりも大口径であるため,より高いドレナージ効果を得ることができると同時に,プラスチックステントや金属ステントはあくまでも胆管ドレナージ用であるため,WONへの適応を取得したデバイスが登場したことは,われわれ内視鏡医が安心して治療が行えるという意味合いも含んでいる.

具体的には,CTなどの画像所見からWONがそれほど大きくなく,ほとんどを液体成分が占め,ENの必要がないと予想される時は,外瘻である5-7Frの経鼻ドレナージチューブか内瘻である7Frの両端ピッグテイル型のプラスチックステント,または内外瘻同時に2本を留置している.WONが広範に及ぶ場合やENの施行が予想される場合にはLAMSを留置する.これまで,金属胆管ステントが用いられることもあったが,WONが縮小してきた際にWON内腔の壁に金属ステント端が接触し,出血した症例も経験しており,適応を有したより大口径でステント長の短いLAMSを使用する方が安全だと考える.ただし,使用経験はいまだ十分でないため慎重に行う必要がある.

Hot AXIOSTMの使用において添付文書に,「胃壁または腸壁に密着している,症候性膵仮性嚢胞または70%以上の液体成分を認める症候性被包化壊死に対し,経胃または経十二指腸的な内視鏡治療に使用される.」と記載があるため,これを遵守し,さらに「径6cm未満の嚢胞への留置は使用経験がなく,安全性が確立されていない.」とあるため,このデバイスが普及し安全性が確立するまでは6cm以上の径を有するWONに対し使用すべきである.また,Figure 1に示すように,サドル長が10mmであるため,EUS観察時に穿刺ルートの消化管内腔からWONの内腔までの距離が10mm以内(Figure 2-a)である部位を選択する.また,詳しくは後述するが,デリバリーシステムを3-4cm挿入する必要があるため,EUSにて4cm以上の内腔がある場所を穿刺部位として選択する(Figure 2-b).

Figure 1 

AXIOSTMの概要.

Figure 2 

WON穿刺位置の選択(EUS像).

本邦においてHot AXIOSTMはステント内径が10mm,15mm,20mmと3種類のもの(Figure 1)が使用可能である.ドレナージ効果は口径が大きいものの方が良好であるが,20mmのものは10,15mmのものと比べて展開させる際に,ゆっくりとフランジが開く傾向にあることと,ステント抜去時に内視鏡の鉗子チャネル内を通すこと(いわゆるスルーザスコープで抜去すること)が難しいことを経験する.また,EN施行時には内視鏡径との関係から15mm,20mmのものが使い勝手が良い.これらのことを総合してステント径を選択すべきである.WONに対する使用頻度が最も多いものは15mm径ではないかと推測する.

Ⅳ EUS-TDおよびENの実際

・ LAMSを用いたEUS-TD

LAMSはlumen apposingという名の通り,離れた二つの管腔を二つの大きな張り出し(flange)でしっかりと把持し,引き寄せ瘻孔を形成するため の金属ステントである 11.ステントは編込み式の記憶合金でできており,液体が漏出しないようにステントはfull-covered typeとなっている.Boston Scientific社のHot AXIOSTMは膵臓用瘻孔形成補綴(ほてつ)材という名称でそのデリバリーシステムを含めてHot AXIOSシステムという販売名で2017年10月に薬事承認を受け,昨年10月より販売が開始された.

これまでのEUS-TDと大きく異なる点は,Hot AXIOSシステムを用いた一連の手技は基本的に透視を必要とせず,主に超音波内視鏡下に操作を行うことである.手技の実際をWON症例(Figure 3)で解説する.まずワーキングチャネル径が3.7mm以上のコンベックス型EUS(GF-UCT260/GF-UCT240:オリンパス社,EG-580UT:富士フイルム社)でWONを描出し(Figure 4),なるべくWONの中央に近く,内腔が4cm以上確認できる部位を穿刺位置とする(Figure 4-c).WONの端にステントを留置してしまうと,WONが縮小する際早期にステント端とWONの壁が接触し出血をきたすことや,ステントを塞いでしまい,ドレナージできなくなってしまう.さらに,噴門に近いと胃内腔が狭くステントの展開時に内視鏡の視野が取りづらく,ENをする時にも内視鏡をステントの中に挿入しづらくなってしまうため注意が必要である.そして以上のことを確認した後に鉗子孔内にHot AXIOSシステムを挿入し,ルアーロック(Figure 5)を内視鏡に固定する.

Figure 3 

WON症例のCT像.

Figure 4 

WONに対するLAMSを用いたEUS-TDの実際.

Figure 5 

Hot AXIOSシステム操作部の名称.

次に穿刺であるが,Hot AXIOSシステムはデバイス先端に通電チップ(カッティングワイヤー)(Figure 6)があるため,穿刺針でなく直接通電穿刺が可能である.通電の設定は純切開モード(pure cut modeやauto cut mode)で,80-120W(400-500Vp)の出力で行う.われわれの施設はERBE ICC200を使用しているため,auto cut mode 100W,エフェクト4で行っている.

Figure 6 

Hot AXIOSシステムのカッティングワイヤー.

カテーテルロック(Figure 5)をアンロックとし,黒色のカテーテルハブでカテーテルを先進させる(デバイスに振ってある1-4の番号のうち1の行程).ドプラ機能で穿刺部位に血管がないことを確認し(Figure 4-d),穿刺そしてデバイスが進んでいくルートを予想し,消化管壁からWON内腔までの距離(Figure 2-a)とWONの対側壁までの距離(Figure 2-b)を計測する.通電穿刺の際に注意する点は,先端が胃壁に当たったら,あまり押し過ぎると胃壁を滑ってしまうため,胃壁にちょうど当たったところから(Figure 4-c),まず通電を行ってからカテーテル(Figure 5)を進めるon and push(push and onではない)が良い.ほぼ抵抗なく先端がWONの内腔に進むため,もし切れないと感じたら,通電コネクターの未装着や切開モードが間違っていないか,操作環境を再確認する.システムの先端がWON内腔に入ったら(Figure 4-e),通電ペダルから足を離し,WONの対側の壁ギリギリまで十分カテーテルを進める(Figure 4-f).

AXIOSTM遠位端の展開(デバイスに振ってある1-4の番号のうち2の行程)であるが,ここで注意しなければならないことがある.通常の胆管金属ステントの留置時にはステントのデリバリーシステムが固定されていないために,ステントが遠位端の方向へ進むように展開される,いわゆるジャンピングがおこる.一方Hot AXIOSシステムはデバイスが内視鏡に固定されているが故に近位端の方へ戻りながら展開され,そのデリバリーシステム先端から戻る距離がおよそ3.5cmあるためこの距離を十分確保してから展開する必要がある(Figure 7)点が大きく異なる.カテーテルの挿入が浅いと消化管内で展開されたり(Figure 8),WONでは網嚢腔に液体貯留している(すなわち胃壁そのものが嚢胞の壁となっている)ため起こり得ないが,嚢胞壁と胃壁が癒着していない貯留嚢胞の場合にはFigure 9のように腹腔内で展開することになってしまうため十分注意する.AXIOSTM遠位端の展開方法は,黄色の安全クリップ(Figure 5)を外し,補綴材ロック(Figure 5)をアンロックとし灰色の補綴材展開ハブ(Figure 5)を握るようにして展開する.完全に展開すると(Figure 4-g)カチッという音がし補綴材ロックが自動的にロックされる.

Figure 7 

遠位端の展開.

Figure 8 

遠位端の消化管内展開.

Figure 9 

遠位端の腹腔内展開.

次にAXIOSTMを消化管壁に近づける操作(デバイスに振ってある1-4の番号のうち3の行程)であるが,カテーテルロックをアンロックとし,黒色のカテーテルハブを引き超音波像でAXIOSTM遠位端がWONの近位側の壁に当たるため変形し,ラグビーボールのような形になる.目安はAXIOSTMの内腔を通っているインナーシースと超音波画面上のAXIOSTM左端がギリギリ着くか着かないかのところ(Figure 4-h)(超音波画面でインナーシースからのAXIOSTM左端までの距離と右端までの距離が1対9か2対8のイメージ:Figure 4-i)まで寄せていき,カテーテルロックをロックする(ここでロックを忘れると次の近位端の展開時にAXIOSTMがWONの内腔に迷入するため,必ずロックする).

最後にAXIOSTM近位端を展開する(デバイスに振ってある1-4の番号のうち4の行程).カテーテルロックがロックされていることを確認し,補綴材ロックをアンロックとし,灰色の補綴材展開ハブを握り,内視鏡のワーキングチャネル内で展開する(スコープ内展開).画面を超音波から内視鏡像に切り替え,十分送気しながらスコープにダウンアングルをかけて右に体を捻ると,消化管壁と内視鏡の間に距離が生まれAXIOSTMが視認でき(Figure 4-j),自然とAXIOSTMがチャネル内から展開される(Figure 4-k).上手く展開されない時は,ほんの少し内視鏡を口側に引きながらカテーテルロックをアンロックとし黒色カテーテルハブを押すとAXIOSTMがチャネル内から押し出され展開する.ここで内視鏡を引き過ぎると消化管内に脱落してしまうため,消化管と内視鏡の間に距離が取れてさえいれば,カテーテルハブで押し出す方が安全である.もう一つの方法として,AXIOSTMを消化管壁に近づける時に内視鏡画面に切り替え,カテーテルに付記されているブラックマーカーを確認して近位端を展開する方法もあるが,内視鏡の視野が取りづらいと,余計に内視鏡を引いてしまいAXIOSTMが脱落してしまう可能性もあるため,前者の方法が確実で簡便である.Hot AXIOSシステムを抜去するとWONの内容液が排出される(Figure 4-l).われわれは翌日以降のレントゲン写真での位置やAXIOSTMの拡張具合を確認する基準とするため,レントゲン写真を1枚撮影している(Figure 4-m).

・プラスチックステントを用いたEUS-TD

使用する内視鏡はLAMSを用いる際と同様である.WONへの穿刺(Figure 10-a)は超音波内視鏡下に19G穿刺針(EZ Shot 3 Plus;オリンパス社,Sonotip;MediGlobe社)を用いる.穿刺後ガイドワイヤー(0.025inch VisiGlide2;オリンパス社)を嚢胞内に挿入し(Figure 10-b,c),引き続きガイドワイヤー越しに6Frの通電ダイレーター(Cysto-Gastro-Set;Endo-Flex社)を用い穿刺ルートを拡張する.5-6Frの外瘻チューブ1本であればこのままチューブを留置し終了である.7Frの両端ピッグテイル型のプラスチックステントの留置,または複数本留置の場合には,4-6mm程度の胆道拡張用バルーンを用いて瘻孔を拡張し(Figure 10-d),7Frの1本(Figure 10-e,f)か複数本のプラスチックステントを留置する.ガイドワイヤーを2本留置する時には,Uneven Double Lumen Cannula(PIOLAX社)もしくは10Fr Soehendra Biliary Dilation Catheter(Cook Medical社)を用いると効率が良い 12

Figure 10 

プラスチックステント用いたEUS-TDの実際.

・内視鏡的ネクロセクトミー:EN

WON症例は炎症の波及から仮性動脈瘤を合併することが少なくない.そこでENの前には必ずDynamic MDCTで仮性動脈瘤の有無を確認する.仮性動脈瘤がWON内に存在する時は,事前に放射線科による血管内治療も考慮する.

通常の上部消化管内視鏡をAXIOSTM内に挿入し,内部を生理食塩水でよく洗浄し,良好な視野が得られるようになってから,スネアや生検鉗子を用いて壊死組織を取り除いていく.送水機能付き内視鏡であれば,より効率良く洗浄を行うことができ有用である.われわれは大腸ポリペクトミー用の10mm径のスネア(SnareMasterTM;オリンパス社)を愛用している.壊死物質に隠れている血管に注意しながら除去を進め,ピンク色をした肉芽が確認できれば,その部位の壊死組織除去は完了である.1回の手技時間は1時間以内を目安に,週2回程度の頻度で行っている.ENのエンドポイントに関しては,すべての壊死組織の除去に至らなくとも,発熱や炎症反応が落ち着いてきた段階で終了してもかまわないと考えている.

内視鏡的治療が完遂した後には,AXIOSTMをスネアや生検鉗子などで容易に抜去することが可能である.当科では,抜去後に再発予防や再治療時の瘻孔確保のため,ダブルピッグテール型のプラスチックステントを1本留置している.

Ⅴ おわりに

昨年新たに発売となったHot AXIOSシステムを用いたWONの内視鏡治療について概説した.WONの治療に有用なデバイスであることは間違いないが,まだ発売されてから日が浅く,今後多数例での安全性などの検証が必要である.繰り返しになるが,不成功となった場合には上手くドレナージができないだけでなく,致死的な偶発症が起こり得るため,放射線科医や外科医のバックアップ体制を十分整えて行って頂きたい.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:土屋貴愛(ボストンサイエンティフィックジャパン(株),オリンパス(株)),糸井隆夫(ボストンサイエンティフィックジャパン(株),オリンパス(株),富士フイルムメディカル(株))

文 献
 
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