日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
内視鏡像と病理組織像の一対一対応法
藤田 泰子 菅井 有
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キーワード: 内視鏡, 病理, 対比
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2019 年 61 巻 12 号 p. 2627-2633

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要旨

内視鏡の進歩に伴い,内視鏡像と組織像の関連についても多くの検討がなされてきた.しかしながら,内視鏡像と病理組織像の対比について,系統立てた方法で対比されている例は少ない.われわれは,内視鏡像と病理組織像の一対一対応法をKOTO methodとして報告しており,本稿ではその詳細を解説する.対比の方法は,次の3段階からなる.1)検体の切り出し時に水浸下で全体写真および実体顕微鏡による拡大写真を撮影し,2)組織ルーペ像と全体像を重ね合わせによる病変部位の位置合わせを行った上で,実体顕微鏡写真と組織像を重ね合わせ,1腺管単位で対応させる.3)更に実体顕微鏡写真と内視鏡写真を対応させることで,組織像と内視鏡写真の対比が可能となる.このような系統立てた詳細な対比が内視鏡診断の更なる向上に役立つと期待したい.

Ⅰ はじめに

画像強調内視鏡や拡大内視鏡など内視鏡の進歩により,内視鏡診断は飛躍的に向上してきた.VS classification 1やJNET分類 2などの内視鏡分類が示され,内視鏡像と組織像との関連も数多く検討されている.しかしながら,内視鏡像と病理組織像の系統立てた一対一の対比が行われている例は少ない.内視鏡像と組織像の一対一対応は精度の高い内視鏡診断をする上で重要であり,われわれは,内視鏡像と病理組織像の系統的な一対一対応法をKOTO methodとして提唱し,報告している 3.今回,この方法の詳細について具体例を提示し,解説する.

Ⅱ 対比方法

具体的な対比の方法を次の3段階に分けて解説する.以下,1)ホルマリン固定後検体の切り出しおよび写真撮影.2)実体顕微鏡写真と組織像の対比.3)内視鏡写真と実体顕微鏡写真,組織像の対比の順で説明する.

1)ホルマリン固定後検体の切り出しおよび写真撮影

1.固定と写真撮影

内視鏡切除検体は,10%中性緩衝ホルマリンを用い,コルク板などのホルマリンに浮く板に張り付け,粘膜面を下にした状態で固定する.固定後の検体の全体の写真を水浸下でデジタルカメラ(D7500,Nikon,Tokyo,Japan)により撮影する(Figure 1).水浸により,検体表面の反射光がなくなるため,表面の構造などを観察しやすくなる利点がある.比較的小さい検体であれば,実体顕微鏡下でも全体像を撮影しておくと,拡大写真との対応がしやすくなる.Figure 2の写真は,実体顕微鏡(SZX16,OLYMPUS,Tokyo,Japan)と顕微鏡用カメラ(DP20,OLYMPUS)を用いて撮影した全体像である.

Figure 1 

ホルマリン固定後検体のデジタルカメラ(D7500,Nikon)による水浸下全体像.水浸下での撮影により,表面の反射光がなく,表面構造や血管が観察しやすくなる.

Figure 2 

ホルマリン固定後検体の実体顕微鏡による水浸下全体像.検体が比較的小さければ,実体顕微鏡でも全体像を撮影することで,より詳細な観察が可能である.

2.割入れと染色

検体に2~3mm間隔で割を入れるが,この際,粘膜のみに割を入れ,粘膜下層を切り離さないように注意する(Figure 3).検体を完全に切り離してしまうと,各切片にずれが生じるため,表面構造が読みにくく,対応が難しくなる.逆に,割が浅すぎると切り離し時に同じ部位が切れないこともあり,粘膜層は十分に切り込んでおく必要がある.粘膜に割を入れた状態の検体を再び水浸下で全体写真および関心領域の実体顕微鏡写真を撮影する(Figure 4).0.5%程度に薄めたピオクタニンに検体を数秒浸し,すぐに水洗する.ピオクタニン染色により,表面構造が明瞭になるため,実体顕微鏡像と組織像の対応および実体顕微鏡像と画像強調内視鏡像が対応させやすくなる.ピオクタニン染色後の検体も水浸下で全体写真,関心領域を拡大した実体顕微鏡写真を撮影する(Figure 5).われわれは,拡大写真の撮影において実体顕微鏡を用いているが,解像度の高いデジタルカメラ等での撮影でも代用可能である.

Figure 3 

割入れ後の検体.粘膜のみに割を入れ,粘膜下層を繋げた状態の検体であり,検体のずれがなく,表面微細構造が保たれた写真撮影が可能となる.尚,この写真は,ピオクタニン染色後の像である.

Figure 4 

割入れ後の染色前実体顕微鏡写真.実際に割を入れた状態の検体写真を撮ることで,標本作製部位の推定が可能になる.

Figure 5 

割入れ後のピオクタニン染色後実体顕微鏡写真.ピオクタニン染色により表面微細構造が明瞭となる.

3.検体の切り離しと標本作製

写真撮影後,検体の粘膜下層を切り離し,標本作製を行う.切り離した検体を斜めから実体顕微鏡写真を撮影することで,表面から観察された血管の深さを概観することも可能である(Figure 6-a,b).標本作製の際には,できるだけ真っ直ぐな形(写真撮影時と同じ形)になるよう,検体処理にも注意が必要である.病理標本作製に際して,パラフィン包埋時の型は大きさが決まっているため,長さが超過する検体は曲げた状態で標本作製されることがある.しかし,曲がった検体では下記行程2)以下の対応が困難となるため,適宜分割するなりして,真っ直ぐな標本をつくる努力が必要である(分割する際には分割部位の割も入れた状態で上記の写真を撮ることが勧められる).

Figure 6 

切り離した検体の斜めからの実体顕微鏡写真.

a:全体像.

b:病変部拡大像.検体を斜めから観察することで,表面から見えていた血管がどのあたりの深さを走行しているか概観できる.

2)実体顕微鏡写真と組織像の対比

今回,実体顕微鏡写真と組織像の重ね合わせは,Windows 10搭載のパソコンで画像処理ソフト(Adobe Photoshop Elements 15,Adobe Systems,San Jose,CA,USA)を用いて行った.組織写真はバーチャルスライド化し(APERIO AT2,Leica Biosystems,Nussloch,German),ルーペ像や各部位の拡大像をJPEGもしくはTIFファイルとして保存した上で(Aperio ImageScope,v.12.0.1.5027,Leica Biosystems),以下の対比に用いた.

1.検体全体像と組織ルーペ像の重ね合わせ

まず,検体の全体像と組織標本のルーペ像の写真を重ね合わせ,全体の位置合わせを行う(Figure 7).Photoshopを用いて下記①~⑤の手順で重ね合わせをする.

Figure 7 

全体像の位置合わせ.全体像の写真に組織標本のルーペ像を重ね合わせ,長さやマーキング,検体の凹凸を参考に位置を合わせる.

①Photoshopで検体の全体写真と組織標本のルーペ像を開き,エキスパートモードで左側のツールバーの自動選択ツールを用いて,検体の背景を選択する(この際,検体がうまく背景から区別されるように,許容値を設定する.今回の症例では許容値20である).

②上のメニューバーの選択範囲内の「選択範囲を反転」をクリックし,標本側を選択範囲にする.

③メニューバーの編集内の「コピー」を選択し,選択範囲をコピーする.

④次に,全体写真のウィンドウに切り替え,メニューバーの編集内の「ペースト」を選択し,組織のルーペ像を張り付ける.

⑤ツールバーの選択ツールで組織像を選択し,四角いずれかのバウンディングボックスを左ドラッグにより組織像を拡大,縮小し,検体全体像の長さに合わせる.必要に応じて,組織像を回転させて方向を合わせる[バウンディングボックスの外側にポインターを移動して(ポインターがカーブした両方向の矢印になる)左ドラッグすることで回転させる]標本作製の過程で,粗削り(面だし)等により,切り出し時の割線より数百μm~1mm程度切り込んだ部位が実際の標本となっている.全体の長さやマーキングの焼灼部,検体の凹凸などを合わせ,実際の標本作製部位を推定する.

2.関心領域の重ね合わせ

次に,1)-1.①~⑤と同様の方法で,関心領域を拡大した実体顕微鏡写真と組織の拡大写真を重ね合わせる(Figure 8-a,b).全体の位置合わせを参考にしながら,マーキングや検体表面の凹凸などを合わせ,腺管開口部が一致する部位を探す.もし,実体顕微鏡写真および組織写真ともにメジャーの挿入が可能であれば,縮尺を概ね合わせてから重ね合わせる方が対応部位を探す際に手技が比較的容易となる.但し,標本作製過程で脱水やパラフィン切片の伸展などの行程もあり,検体の縮尺が必ずしも切り出し時と一致はしないため,必要に応じて特徴的な粘膜の凹凸などで対応させて補正する.ピオクタニン染色前と染色後の写真を重ね合わせることで,表面構造と血管の情報を同時に得ることも可能である(Figure 9).斜めから撮影した写真に組織像を並べることで,血管の深さのイメージもつきやすくなる(Figure 10).

Figure 8 

関心領域を拡大した実体顕微鏡写真と組織の拡大写真の重ね合わせ.

a:検体の凹凸や腺管開口部の対応.

b:実際の標本作製面の推定ライン.

実体顕微鏡写真に組織像を重ね,Figure 7の全体像の位置合わせを参考に,割入れの線から標本作製の際に切り込んだ分を想定して(a),検体の凹凸や腺管の位置が合うラインを探す(b:白線).bの赤線部は腫瘍が表面に露出した部分であり,青線部が表面に露出しない腫瘍部であることがわかる.

Figure 9 

ピオクタニン染色前と後の写真の重ね合わせ.ピオクタニン染色後の写真に,染色前写真を50%の透明度で重ねた写真である.ピオクタニン染色により,血管の走行が不明瞭になるため,関心領域に特徴的な血管がある場合には,染色前の写真を重ね合わせることで,血管と腺管開口部の情報を同時に得ることができる.

Figure 10 

斜め撮影の実体顕微鏡写真と組織像の重ね合わせ.斜め撮影の実体顕微鏡像に組織像を少しずらして重ね合わせることで,表面から観察した血管の割面における位置と標本上の血管を比較することができる.しかし,標本作製面は実体顕微鏡写真の割面よりも切り込んでいるため,全く同じ視野ではないことに注意が必要である.同じ視野での観察をするには,KOTO method 2による対比が必要である.

3)内視鏡写真と実体顕微鏡写真,組織像の対比

1.内視鏡写真との対比

マーキングの位置や特徴的な表面微細構造,血管等を対応させ,実体顕微鏡写真(Figure 11-a,b)と内視鏡写真(Figure 11-c,d)を比較する.実体顕微鏡写真で推定された実際の標本作製面に対応する部位の内視鏡写真上に組織写真を重ね合わせ,対応させる(Figure 11-b,d).内視鏡は魚眼レンズに類似した画像になっており,特に辺縁部では歪みが生じるため,対応させた実体顕微鏡写真での腺管の位置関係から実際の標本作製面や病変の範囲等を対応させる.内視鏡写真が正面視に近い状態で撮影できているか,また,特徴的な構造物があるかどうかで対比に要する労力が大きく変わってくる.

Figure 11 

実体顕微鏡像と内視鏡像,組織像の対比.

a:実体顕微鏡像.

b:実体顕微鏡像と組織写真の重ね合わせ.

c:対応する内視鏡像.

d:内視鏡像への組織写真の重ね合わせ.

実体顕微鏡像と対応する内視鏡像で特徴的な腺管(黄緑,水色矢印)や特徴的な血管(赤矢印)を対応させる(a,c).実体顕微鏡写真で推定した実際の標本作製面を内視鏡像に引き,対応する腺管を内視鏡写真上で同定する(b,d:黄矢印).b,dの赤線部が表面に腫瘍の露出した部位であり,青線部が表面に露出していない腫瘍の存在する範囲である.

1)~3)で紹介した対比方法は,切り出し時に浸水下での写真撮影を行えば,通常の病理診断業務で用いているHE標本のみで対比をすることが可能である.しかしながら,標本作製による切り込み分については,組織の形態から推測せざるを得ないため,この点を改良した,KOTO method Ⅱによる対比方法も岸本らにより提唱されている.

Ⅲ 結  語

内視鏡像と病理組織像の系統的な一対一対応法を紹介した.詳細な対比による組織像の内視鏡像へのフィードバックにより,組織学的根拠に基づいた内視鏡診断がより発展することを期待したい.

謝 辞

本稿執筆に際し,ご協力いただきました岩手医科大学医学部病理診断学講座 永塚真先生,田中義人先生および岩手医科大学医学部内科学講座消化器内科消化管分野 赤坂理三郎先生,鳥谷洋右先生,松本主之教授に厚く御礼申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2019 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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