日本消化器内視鏡学会雑誌
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大腸カプセル内視鏡におけるヒマシ油を用いた腸管洗浄の多施設共同研究
大宮 直木堀田 直樹光藤 章二中村 正直大森 崇史前田 晃平奥田 孝太郎八谷 寛田尻 久雄
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電子付録

2019 年 61 巻 12 号 p. 2646-2655

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要旨

【背景と目的】大腸カプセル内視鏡検査(CCE)の問題点は下剤の量が多いこと,記録時間内排泄率が低いことである.本研究の目的はヒマシ油のブースターとしての有効性を調べることである.

【方法】日本の4病院で,CCE検査を行った319人が遡及的に登録された.ヒマシ油の導入前後で,他の薬剤は変えなかった.

【結果】319人中,152人(2013年11月~2016年6月)がヒマシ油なし,167人(2015年10月~2017年9月)がヒマシ油有りのレジメンを使用した.ヒマシ油群とヒマシ油未使用群の記録時間内カプセル排泄率は97%と81%であった(P<0.0001).多変量解析で年齢65歳未満(調整オッズ比3.00;P=0.0048),男性(調整オッズ比3.20;P=0.0051),ヒマシ油使用(調整オッズ比6.29;P=0.0003)が記録時間内カプセル排泄の予測因子であった.また,ヒマシ油群は小腸通過時間が有意に短く,腸管洗浄剤および水分摂取総量は有意に少なかった(P=0.0154,0.0013).ヒマシ油群とヒマシ油未使用群の適切な内視鏡的腸管洗浄は,それぞれ74%と83%で達成されており,有意差はなかった(P=0.0713).ヒマシ油の有無にかかわらず6mm以上のポリープに対する被験者当たりの感度は83%および85%,特異度は80%および78%であった.

【結論】ヒマシ油を用いた腸管洗浄は,記録時間内カプセル排泄率を向上させ,腸管洗浄剤の減量に有効であった(UMIN 000031234).

Ⅰ 緒  言

全大腸内視鏡観察が不成功,もしくは大腸内視鏡検査を受けることが困難な場合 1)~3,大腸カプセル内視鏡検査(CCE)は大腸CT,S状結腸鏡,便潜血・便DNA検査同様,大腸がんスクリーニング検査の代替となり得る 4.CCEは受容性の向上が期待される大腸がん検診法であるが 2,大腸内視鏡と異なり送気・吸引ができないため,粘膜面の残渣の除去やカプセル内視鏡の排泄を促すために大量の洗腸が必要であることが欠点である.洗腸は,最初にポリエチレングリコール(PEG),次いでブースターを内服しカプセル内視鏡の排泄を促す.ブースターは当初リン酸ナトリウム製剤が使用されていたが,アスコルビン酸を含むマグネシウム製剤と蠕動亢進薬の併用が期待されている.ただ,大量の洗腸は被験者ならびに医師の検査意欲を低下させる 5.CCEのもう1つの欠点は,記録時間内にカプセル排泄や痔核描出ができず,全大腸観察に失敗することである.Kakugawaらの報告では健常者および患者を対象とした多施設共同無作為割付対照比較試験において,3.8L(2.9~4.1L)に減量したPEGを主とした腸管洗浄は十分な洗浄レベルを達成したが,記録時間内カプセル排泄率は71%と明らかに低かった 6.Hottaは最近,ヒマシ油を用いた腸管洗浄がカプセル排泄率の改善効果(ヒマシ油群100%[20/20]対ヒマシ油未使用群63%[46/73])と腸管洗浄液の減量効果があると報告した 7.ヒマシ油はトウダイグサ科ヒマの種子より抽出される中性脂肪で,何千年もの間小腸刺激性下剤として使用され,安全性が確認されている.そこで今回,筆者らは多施設共同遡及的可能性研究において,CCE排泄率,腸管洗浄剤使用量,内視鏡的洗浄度,および大腸ポリープ描出率におけるヒマシ油のブースターとしての有効性を検討した.

Ⅱ 方  法

研究デザインと被験者

本研究は多施設共同オープンラベル遡及的観察研究である.研究デザインをFigure 1-aに示す.Figure 1-aは,2013年11月~2017年9月に日本の4病院でCCEを受け登録された408人と解析対象319人の被験者の内訳である.4病院は2016年8月,2016年3月,2015年10月,2016年7月にそれぞれヒマシ油をブースターとして導入した.記録時間内カプセル排泄率,水分摂取量,内視鏡的大腸洗浄度をヒマシ油導入前後で比較した.この研究は藤田医科大学医学部倫理審査委員会により承認され,大学病院医療情報ネットワークに登録された(UMIN 000031234).

Figure 1 

試験デザインと腸管洗浄手順.

a:研究デザイン.

b:ヒマシ油を用いた腸管洗浄手順.

大腸カプセル内視鏡検査手技

CCEはPillCamTMCOLON2(メドトロニック社,ミネソタ州ミネアポリス)を使用した.検査は既報の如く実施した 8.各病院で,日本カプセル内視鏡学会認定医2人がカプセル内視鏡画像を評価し,作成された最終診断結果を用いた.年齢,性別,身長,体重,体格指数(body mass index),CCEの検査契機,開腹術の病歴,検査時間,腸管洗浄剤の種類・使用量,記録時間内カプセル排出の有無,内視鏡的大腸洗浄度,CCE所見,CCE後に施行された大腸内視鏡所見を分析した.幽門~回盲弁の全小腸通過時間は,カプセル内服前にadaptive frame rate機能をオンにして検査を実施した.大腸通過時間は,全大腸観察成功例のみで算出した.総検査時間は,カプセル内服から排泄までの時間とし,排泄未確認例ではカプセル内視鏡作動時間とした.腸管洗浄の概略をFigure 1-bに示す.蠕動亢進薬・刺激性下剤は病院間で異なるが,検査前日の180mLのクエン酸マグネシウム高張法(50g/水180mL)と検査当日のモビプレップ(EAファーマ,東京,日本)は同じであった.ブースターとして,原則30mLのヒマシ油を使用した.カプセルが午後4時までに排泄されなかった場合,ヒマシ油をさらに30mL毎に追加した.ヒマシ油の導入前後で,腸管洗浄法・ブースター法は同じであった.ポリープの大きさ測定は,ソフトウェアのポリープサイズ推定機能を用いた.

腸管洗浄度

大腸の各セグメント(盲腸,上行結腸,横行結腸,左側結腸,直腸)および全体的な内視鏡的洗浄度を4段階(excellent,good,fair,poor)で評価した 9),10.全体的な洗浄レベルは,大腸の5セグメントで最も多い洗浄度と定義した.「excellent」または「good」と評価された場合は「適切」とし,「fair」または「poor」と評価された場合は「不適切」とした.

大腸カプセル内視鏡と大腸内視鏡における大腸ポリープ一致基準

CCEで6mm以上の大きさのポリープまたは腫瘍が検出された場合は,大腸内視鏡検査が行われた.大腸内視鏡所見をゴールドスタンダードとし,以下の3つの基準を満たした場合,検出されたポリープまたは腫瘍は同一とした.1)肉眼型が一致,2)占拠部位が同じまたは隣のセグメント,3)CCEの測定サイズが大腸内視鏡のサイズの50~200%.大腸内視鏡で指摘され,CCEと同一と判断された6mm以上または10mm以上のポリープは真陽性とした.大腸内視鏡で指摘され,CCEと一致しなかった6mm以上または10mm以上のポリープは偽陰性とした.CCEで指摘され,大腸内視鏡検査と一致しなかった6mm以上または10mm以上のポリープは偽陽性とした.CCE,大腸内視鏡とも6mm以上または10mm以上のポリープを検出しなかった場合,真陰性とした.

統計解析

本文中の数字は,中央値,四分位範囲(IQR),範囲で示した.ヒマシ油の有無別の比較はMann-Whitney U検定を用いた.被験者の割合の比較はFisherの正確確率検定またはχ 2検定を用いた.記録時間内カプセル排泄に関与する候補因子を年齢,性別,BMI,ヒマシ油使用の有無,開腹術の既往歴とし,ロジスティック回帰モデルを用いて,粗オッズ比,調整オッズ比を計算した.大腸内視鏡において6mm以上または10mm以上のポリープを少なくとも1個有する被検者の感度・特異度を2×2分割表を用いて算出した.傾向スコアは,ヒマシ油との関連が推定される要因について多変数ロジスティック回帰モデルを用いて解析し,交絡を減らすために逆確率重み付けサンプルを使用した.有意差はP値0.05未満とした.

Ⅲ 結  果

CCEの被験者

Table 1にヒマシ油群152人とヒマシ油未使用群167人の臨床的特徴を示す.

Table 1 

大腸カプセル内視鏡被験者の臨床的特徴.

CCEにおけるヒマシ油の効果

Table 2にCCE検査と腸管洗浄剤におけるヒマシ油の効果を示す.使用したヒマシ油の量中央値(IQR,範囲)は,60(90,15-180)mLであった.ヒマシ油有り群の記録時間内カプセル排泄率は,特に女性で有意に高かった.カプセル内視鏡内服10時間以内のカプセル排泄率はヒマシ油群で145/152(95%),ヒマシ油未使用群で130/167(78%)であった(P<0.0001).カプセル内服直前にadaptive frame rateをオンにした188人での幽門~回盲弁の小腸通過時間はヒマシ油群(n=122)の方がヒマシ油未使用群(n=66)より有意に短かった.カプセル内服~排泄までの総検査時間(全大腸観察失敗の場合は記録時間)は,特に女性においてヒマシ油群で有意に短かった.大腸通過時間はヒマシ油の有無別で有意差はなかった.40分未満の大腸通過時間はヒマシ油群で29人(19%),ヒマシ油未使用群で29人(17%)であった.さらに,大腸通過時間が40分未満で不適切な内視鏡的洗浄度はヒマシ油群で11人(7%),ヒマシ油未使用群で5人(3%)認められた.腸管洗浄剤の量,水分量,ブースター量はヒマシ油群で有意に少なかった.検査当日のモビプレップ,追加のクエン酸マグネシウム溶液の量は,ヒマシ油の有無で有意差はなかった.

Table 2 

ヒマシ油の効果.

記録時間内カプセル排泄に関与する因子

多変量解析により,年齢(65歳未満),性別(男性),ヒマシ油の使用は,記録時間内カプセル排泄の有意な予測因子であったが,BMI,開腹術の既往とは無関係であった(Table 3).

Table 3 

記録時間内カプセル排泄.

カプセル内視鏡的大腸洗浄度

Figure 2に大腸の各セグメントの内視鏡的洗浄度を示す.ヒマシ油群での大腸全体の適切な洗浄度の割合は74%(112/152)であり,これはヒマシ油未使用群と有意差はなかった(83%,138/167,P=0.0713).ヒマシ油群とヒマシ油未使用群の適切な洗浄度の割合は,盲腸,上行結腸,横行結腸,左側結腸,および直腸でそれぞれ74%(113/152)対80%(134/167,P=0.2607),73%(111/152)対86%(143/167,P=0.0107),71%(108/152)対85%(138/162,P=0.0037),74%(112/151)対81%(130/160,P=0.1722),69%(103/150)対70%(101/144,P=0.8829)であった.

Figure 2 

内視鏡的洗浄度.

傾向スコアを用いた逆確率重み付け分析

ヒマシ油が記録時間内カプセル排泄率を高め,小腸通過時間および総検査時間を短縮し,かつ腸管洗浄剤・ブースター量を減らすという効果は逆確率重み付け分析でも確認された(補足Table 1~3)(電子付録).内視鏡的洗浄度も,ヒマシ油の有無で有意差はなかった(補足Figure 1)(電子付録).

大腸カプセル内視鏡における大腸ポリープの感度,特異度

大腸内視鏡検査はCCE後にヒマシ油群の44人,ヒマシ油未使用群の73人に施行された.CCEと大腸内視鏡検査の間隔は49日(中央値).ヒマシ油の有無にかかわらず,最大サイズ6mm以上および10mm以上のポリープ・腫瘍を少なくとも1つ有する被験者を検出する感度(95%信頼区間)はそれぞれヒマシ油群で83(69-97)%,85(75-96)%,ヒマシ油未使用群で82(64-100)%,83(66-101)%であった.特異度(95%信頼区間)はヒマシ油群で80(63-103)%,78(64-100)%,ヒマシ油未使用群で93(83-92)%,91(83-91)%であった.ヒマシ油の有無で,感度と特異度に有意差はなかった.4人の被検者で大腸癌(上行結腸の粘膜内癌2例,上行結腸進行癌1例,下行結腸進行癌1例)が発見されたが,すべてCCEで検出されていた.

有害事象

出血,穿孔,激しい腹痛,嘔吐,誤嚥性肺炎,アナフィラキシーなど,ヒマシ油とCCEに関与する合併症は認めなかった.

Ⅳ 考  察

CCEは大腸内視鏡の合併症を回避し,侵襲のない大腸スクリーニング検査を可能にするという利点を有するが,記録時間内カプセル排泄率は低く,また大量の腸管洗浄剤を必要という欠点を有する.本研究は,CCEにおける新たなブースターとしてヒマシ油が記録時間内カプセル排泄率を向上させ,かつ腸管洗浄剤や水分内服量を減らすことを実証した.カプセル排泄率または全大腸観察率は報告によって異なる.ヨーロッパでは従来4.5-6Lもの高容量PEG製剤と1.5-2Lのリン酸ナトリウム製剤によるブースター,さらにドンペリドンなどの蠕動亢進薬を使用し,10時間以内または記録時間内カプセル排泄率は,van Gossumらの93% 11,Sacher-Huvelinらの95% 12という例外的に良い結果を除いて,一般的には70-88%と報告されている 9),13)~21.これら既報のデータをすべて併せると88%(1,243/1,407)である.近年,リン酸ナトリウム製剤の使用は急性リン酸腎症や電解質異常の危険性があるため使用が制限されている 22)~24.これらの有害事象を回避するために,PEGアスコルビン酸ベース,硫酸マグネシウムベース,ガストグラフィン(水溶性ヨウ素化放射線不透過性経口造影剤)ベースの方法が試みられている.しかし,全大腸内視鏡観察率はPEGアスコルビン酸のみで76%(37/49) 25,PEG+クエン酸マグネシウムブースターでは71%(合計3.8Lで22/31),55%(合計4.8Lで16/29)と低い 6.一方,硫酸塩ベースのブースターSUPREP(PEG4L,500mLのSUPREP,および1Lの水)の記録時間内カプセル排泄率は,92%(636/629)と高かった 26

Spadaらは,CCEと同日にガストログラフィンによるタグ付け大腸CTを施行する臨床研究において,PEG4L+リン酸ナトリウムブースター1.5Lでの10時間以内のカプセル排泄率は93%(93/100)と報告した 3.Togashiらは,PEGアスコルビン酸2L+クエン酸マグネシウム0.9-1.8Lにブースターとしてガストログラフィンを用い,記録時間内カプセル排泄率は97%(28/29)と報告した 27.ガストログラフィンの使用はX線造影検査で承認されているが下剤としての承認はなく,またヨウ素アレルギーには禁忌である.このような状況下で,下剤として承認されているヒマシ油を30~60mL内服するだけで腸管洗浄剤の服用量を減量させ,かつCCE排泄率を97%(147/152)まで向上できたことは有意義であり,ヒマシ油は安全かつ有望なブースターになり得る.

ヒマシ油は,Ricinus communis「トウダイグサ科トウゴマ属,別名ヒマ(蓖麻)」の種子から得られ,3,500年以上にわたり治療薬として使用されてきた 28.ヒマシ油は,水酸化不飽和脂肪酸であるリシノール酸ricinoleic acidからなるトリグリセリドで,内服後に小腸内腔リパーゼによりリシノール酸が管腔内に放出され腸で吸収される 29.リシノール酸は,プロスタノイド受容体EP3を介して小腸平滑筋細胞を刺激することによって強い下剤効果を発揮する 30.子宮収縮による子宮破裂の可能性があるため妊娠中の女性には禁忌だが 31,他の副作用はなく,幼児でも使用できる安全な刺激性下剤である.本研究で,小腸通過時間は短縮するが,大腸通過時間には影響を及ぼさなかったことはヒマシ油のこの薬理学的代謝作用部位と一致する.大腸通過時間の短縮は病変の見落としにつながるため,その点でもCCEレジメンのブースターとして適切である.

大腸全体の適切な内視鏡的洗浄度の割合はヒマシ油群74%,ヒマシ油未使用群83%と有意差はなかった.ヒマシ油群で上行結腸,横行結腸で不適切な洗浄度の割合が高いのは,腸管洗浄剤の減量によるものと推測される.ただし,ヒマシ油の有無で6mm以上,10mm以上のポリープの感度と特異度に有意差はなかった.過去に報告されているCCEにおける大腸全体的の適切な内視鏡的洗浄度の割合は52-94%であった 3),6),11),12),14),16)~21),25),26.ヒマシ油は腸管洗浄剤の服用量を減量させたにもかかわらず,内視鏡的洗浄度には影響を与えなかったが,ヒマシ油を用いたレジメンの内視鏡的洗浄度は平均的であった.既報において,6mm以上のポリープを少なくとも1つ有する被験者を検出する第二世代CCEの感度は84-94%,特異度64-94%であった 8),14),16),25),26),32.本研究における6mm以上のポリープを有する被験者の感度が83%,特異度が80%であること,内視鏡的洗浄度が中程度であることを考慮すると,リアルタイムモニターで残渣が残っている場合はさらなる腸管洗浄が必要であろう.

本研究は遡及的分析かつ多数の除外症例を含んでいる点で内在的な限界を含んでいる.さらに,すべての被験者に大腸内視鏡検査を施行していないので,結果は補足的である.結論として,ヒマシ油を用いたブースターレジメンがCCE排泄率の改善と腸管洗浄剤の減量に効果的であった.この効果が今後より多数かつ他民族でも裏付けられれば,より適切なCCEレジメンになるであろう.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

補足資料

補足Table 1 傾向スコアを用いた逆確率重み付けサンプルの臨床的特徴.

補足Table 2 傾向スコアを用いた逆確率重み付けサンプルを用いたヒマシ油の効果.

補足Table 3 傾向スコアを用いた逆確率重み付けサンプルを用いた記録時間内カプセル排泄.

補足Figure 1 傾向スコアを用いた逆確率加重逆確率重み付けサンプルを用いた内視鏡的洗浄度.

文 献
 
© 2019 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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