2019 年 61 巻 2 号 p. 186-191
大腸癌術後吻合部狭窄に対する狭窄解除術としてこれまで内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilation:EBD)が施行されてきたが,再狭窄のため治療に難渋する症例を経験し患者のQOLの低下につながってきた.
今回,われわれはITknife nanoTMを用いて大腸癌術後吻合部狭窄瘢痕部位を切開(切れ込み)し削ぎ落としていくradial incision and cutting(RIC)法を経験したので手技の解説などを中心に報告する.
大腸癌術後吻合部狭窄に対してEBDを施行しても治療に難渋する症例を経験する.中でも瘢痕性狭窄では再狭窄のため何度もEBDを行うことで患者のQOLが低下する.2012年,Mutoら 1)は食道の術後難治性吻合部狭窄に対する治療法としてITknifeを用いたRIC法の有用性を報告している.
今回われわれは大腸癌術後吻合部狭窄に対してITknife nanoTMを用いたRIC法を経験したので手技の解説を中心にわかりやすく報告する 2).
吻合部狭窄のため内視鏡前処置は施行しない.直腸の吻合部狭窄以外の症例にはグリセリン浣腸を施行している.抗コリン剤は直腸以外の症例に使用している.
2)デバイス大腸ESDで使用しているITknife nanoTMを使用.ブレード部分のみを狭窄瘢痕部分にあてて切開と削ぎ落としを行う.局注液は使用していない.ITknife nanoTMのball tipが狭窄部に入らないようなpin hall様の狭窄は経験したことがない.垂直方向に深く切開が入りすぎないように安全性を担保する必要があるため,先端系デバイスは使用していない.
3)高周波電源装置VIO 300Dを使用している.狭窄部瘢痕組織の切開,削ぎ落としに関して出血が問題となることはないが,出血を認めた場合はESDに準じて止血鉗子による止血を行う.われわれの施設における設定は切開:DRY-CUT I,effect 2,30W,削ぎ落とし:Swift coag effect 2,30Wである.
4)鎮痛剤,鎮静剤全例鎮痛剤を使用している.直腸の吻合部以外の症例で縫合不全などにより挿入時に疼痛を伴う場合は鎮静剤を使用している.
5)外科医の立ち会い大腸RIC時には外科医の立ち会いのもと切開,削ぎ落としのラインについて議論しながら実施することが望ましい.特に1例目に関しては外科医立ち会いのもと施行することは必須と考える.
6)日程RICは入院のうえ施行しており翌日まで絶食とし炎症反応,発熱,腹部症状の増悪がなければ常食を開始し退院としている.RIC後すみやかに腹部症状は軽快し排便困難感なども消失している.
大腸癌術後吻合部の膜様狭窄と瘢痕狭窄.狭窄径はITknife nanoTMのball tipが挿入可能な2mm以上,狭窄長は20mm未満までとしている.
ITknife nanoTMのブレードを瘢痕組織に対し並行にあて,慎重に垂直方向に切開を4方向に入れていく(Figure 1).最初は瘢痕部も固くなかなか切開が難しいが中途半端な切開は再狭窄の原因となる.しかし一度に深く切開してしまうと穿孔のリスクがあるため,狭窄部を越えた口側の粘膜面の高さを意識してそれよりも深く切開をしないことが大切で,目安は狭窄部の口側と肛門側の粘膜面の高さが一致するように切開することがポイントである.器械吻合のステープルが露出したらそれ以上は切開しないようにする(Figure 2).
狭窄部にInsulation Tip(IT)knife nanoTMを挿入し,狭窄部を4カ所放射線状に切開する.
Staple lineを目安として同部付近まで切開を行うことで,穿孔の危険もなく安全に切開が可能.
①で入れた切開の最深部にITknife nanoTMを挿入し,隣の切開部の最深部とつなげるように,管腔の弧に沿うように瘢痕組織を削ぎ落としていく(Figure 3).最初の切開の深さよりも深く切り込まないように管腔のカーブを常に意識して慎重にゆっくりとknifeを進めて削ぎ落とす.切除する瘢痕組織の厚みが全周にわたって均一でないこと,固さも一定でないことからスコープが予想に反して一気に進んでしまうこともある.吻合部狭窄のため削ぎ落とす幅も一定でないことの方が多い.常に削ぎ落とすラインをイメージしておく必要がある.切除を終了する目安として通常径のスコープが通過する程度としている(Figure 4).
その後切開部位と切開部位をつなげるようにして狭窄部を切除する.
切開の目安は,内視鏡の通過が容易になるまでとし,内視鏡通過が可能となるのを確認し終了する.
対象は大腸癌術後吻合部狭窄4例で男性3例,女性1例,平均年齢71歳であった.大腸癌発生部位はS状結腸2例,横行結腸1例,直腸1例で手術術式は腹腔鏡下3例,開腹下1例でそのうち縫合不全を2例に認めた.症状は排便困難,腹部膨満感,腹痛を認めた.RIC前治療として1例にEBDが施行されていた.外科手術からRICまでの期間は6カ月から30カ月であった.再狭窄を1例に認め,合計6回のRICを施行していた.RICの治療時間は10分から25分で偶発症は1例も認めなかった.RIC後の経過観察期間は2カ月から46カ月であった.RIC後再狭窄を認めなかった3例では,排便困難などの症状も消失し内視鏡も吻合部を通過し経過は良好である.
症例は60歳代,女性.S状結腸癌で開腹外科手術施行.大腸癌術後6カ月後に腹部膨満感出現し大腸内視鏡検査を施行し吻合部狭窄を認めた(Figure 5).注腸検査では狭窄径6mm,狭窄長10mmの狭窄を認めた(Figure 6).狭窄部に対してITknife nanoTMを用いて4方向に放射状に切開を行う(Figure 7-a~c).次に隣の切開部の最深部とつなげるように,管腔の弧に沿うように瘢痕組織を削ぎ落としていく(Figure 7-d,e).Petzが見える深さまで削ぎ落としていく(Figure 7-f).スコープが通過可能となった時点で治療を終了した.RIC終了2年後の大腸内視鏡検査では再狭窄は認めず,内視鏡も通過し症状も消失していた(Figure 8).
大腸癌術後6カ月後の大腸内視鏡検査.
大腸癌術後6カ月後の大腸内視鏡検査.
大腸RICの実際.
大腸RIC前(左図),大腸RIC2年後(右図)の大腸内視鏡検査.
RICの限界として高度な厚みのある瘢痕部狭窄症例と屈曲部にあり内視鏡の操作性が不良な症例は限界と考えられる.大腸癌術後縫合不全後の狭窄は瘢痕部分が厚くかつ固く治療に難渋する印象がある.今後の課題としてRICを施行しても再狭窄を呈する症例 3),4)があり食道RIC時に使用しているステロイド局注も有効である可能性がある.今後は,多施設における症例の蓄積と前向き試験が必要と考えられる.
RIC法は大腸癌術後吻合部狭窄に対する治療法の選択肢の1つである.偶発症もなく安全かつ低侵襲な治療法であり患者の症状も改善する.しかし,誰でも施行可能ではなく最低限大腸ESDが問題なく施行出来る術者が行うべき手技と考える.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし