2019 年 61 巻 2 号 p. 205-208
長野県立須坂病院(旧病院名)は2010年4月に独立行政法人化された.それ以前にも内視鏡室は存在したが,それを機に,従来の「内視鏡室」を「内視鏡センター」と改名し,院内の独立した部門となった.内視鏡センター設立時の予算を使ってコンベックス型超音波内視鏡,カプセル内視鏡,小腸バルーン内視鏡などを購入して内視鏡機器を充実させた.しかし,名称は変わったものの,施設自体は旧内視鏡室(内視鏡検査室3室と洗浄室,総面積 64m2)をそのまま使用していた.2017年7月に新棟が完成し,内視鏡センターはその2階フロアへ移り,名実ともに内視鏡センター(総面積 456m2)といえる体制が整った.
当院の内視鏡診療の特徴として,安楽な内視鏡検査を患者さんに提供することをモットーとしている.そのため鎮静薬を積極的に使用しているが,安全性の確保のため①モリタニング装置の充実,②リカバリー室の設置,③検査終了後そのままリカバリー室へ運ぶことができる内視鏡検査台を兼ねたストレッチャーの購入などを図った.それ以外にも全室にCO2の配管を行い,送気はすべて吸収性に優れたCO2を用いている.
当院は須高地区3市町村(須坂市,小布施町,高山村)の基幹病院である.2018年度より長野県下では初めての対策型胃内視鏡検診を当院内視鏡センターが中心となって須高医師会,各市町村の担当者,検診機関(長野県健康づくり事業団)と協力しながら開始した.先行している大都市は医師会の力が強く,その多くは各医師会が行政から請け負って対策型胃内視鏡検診を行っているが,当地区のような山間部を含む地域でガイドラインに沿った対策型胃内視鏡検診を行っているのはまだ珍しいと思われる.そのため,当地区の取り組みが大都市以外における対策型胃内視鏡検診の新しいモデルになることを願っている.
組織内視鏡センターは健診センターなどとともに院内の独立した組織である.センター長は筆者が務め,内視鏡施行医は消化器内科医5名,消化器外科医2名,総合診療医2名の他,気管支鏡を呼吸器内科医3名,呼吸器外科医1名が担当している.また,毎年2-3人の研修医の内視鏡指導を行っている.看護体制は2017年7月より救急部より独立して師長を含む5名の看護師,1名の事務員,1名の洗浄員が専属し,臨床工学技士が毎日3-4人交代で応援に来ている.
検査室レイアウト
内視鏡センターは,3階建ての新棟(東棟)の2階にあり,その見取り図は検査室レイアウトの通りである.通常の内視鏡検査室が4室で,そのうち1室(検査室1)は緊急内視鏡,治療内視鏡,超音波内視鏡などに備えて広めに設計し,ブルーライトを設置した.X線透視室は1室(検査室5)で,Cアーム式X線透視台を導入した.検査室の南側にスタッフの通路を設け,各検査室と洗浄室間あるいは検査室間を,スタッフが被検者の動線と交じることなく自由に行き来できるようにした.待合ホールは広めに設計し,この場所で大腸内視鏡の前処置(腸管洗浄液の服用)が行えるようにした.また,壁掛けタイプの大型テレビを設置した.研修室は大型モニター,パソコン,顕微鏡などを設置し,カンファランスや会議を行っている.また,対策型胃内視鏡検診の2次読影用パソコンとカプセル内視鏡読影用パソコンを置いている.さらに,スタッフの休憩室も兼ねている.リカバリー室は内視鏡センター入り口の渡り廊下の横に設置し,セデーションを行った患者が十分に目覚めるまで休ませている.その他,患者およびスタッフ別の更衣室,トイレ(多目的トイレを含む),洗面所,説明室がある.内視鏡室へのアクセスは,南棟2階(入院患者は廊下3を通って入室する)と病院のエントランスホール(1階)からエレベーターで2階へ上がる(外来患者の多くはこれを使用)2つのルートがある.非常階段は東と西に2カ所設けた.
当院の内視鏡センターは機能性を重視したオーソドックスな設計で,1年間使用した印象では使い勝手に関して不満はない.
(2018年8月現在)
医 師:消化器内視鏡学会 指導医4名,消化器内視鏡学会 専門医1名,その他スタッフ8名,研修医など2名
内視鏡技師:Ⅰ種3名,Ⅱ種1名
看護師:常勤5名
事 務 職:1名
そ の 他:1名
(2018年8月現在)
(2017年1月~2017年12月まで)
1)初期研修医に対する指導
初期研修医に対しては,まずスコープの持ち方,胃内でのスコープの動き,撮影方法などの他,感染管理に関する知識をレクチャーする.その後上部消化管内視鏡を中心に,セデーションを行う患者を対象にして,スコープの挿入,胃角の観察(胃内でのオリエンテーション),幽門輪の通過,胃体部の観察,反転操作による噴門部の観察と徐々に観察範囲を広げて実践させ,最終的に10分以内で上部消化管のスクリーニングが一通りできるように指導している.ある程度スコープ操作に慣れたら研修医同士で上部消化管内視鏡検査を行って被検者の苦痛を体験した後,セデーションなしの患者にも検査の対象を広げている.なお当院には,さまざまなシミュレーション用の人形を設置した研修指導室があり,実践と同時にシミュレーション教育を行い,スコープ操作に慣れさせている.
2)後期研修医に対する指導
消化器病あるいは消化器内視鏡専門医を目指す後期研修医に対しては,大腸内視鏡,各種内視鏡治療,胆膵内視鏡,緊急内視鏡の他,超音波内視鏡やカプセル内視鏡といった特殊検査が習得できるようにしている.また,学会や研究会などに積極的に参加して,技術だけでなく広い知識を身につけるとともに,自ら学会発表や論文執筆を行うように指導している.
当院の内視鏡診療体制の問題点として①胃腸系の内視鏡医が中心で,胆膵系の内視鏡診療がやや手薄であること,②コ・メディカルスタッフが不足していること,③学会をリードするようなまとまった臨床研究ができていないことなどが挙げられる.胆膵系の内視鏡診療は,一般的な閉塞性黄疸に対する内視鏡的ドレナージや総胆管結石に対する内視鏡的治療は積極的に行っているが,超音波内視鏡を用いた胆膵診断や超音波ガイド下穿刺細胞診(EUS-FNA)は専用の機器を所有しているものの,それを使いこなせる常勤の内視鏡医がいないことが問題である.そのため,難しい症例は胆膵系専門医が常勤している他院へ紹介する必要がしばしば生じる.今後,常勤の胆膵系専門医を招聘する必要がある.コ・メディカルスタッフの不足は多くの施設で問題視されているが,当院の内視鏡センターの看護体制は,2017年7月に改築した時にはじめて救急部より独立したことから十分な人数が割り当てられていない.臨床工学技士の応援はあるものの,注射ができないという問題があり,4つの検査室を十分に使いこなせていないのが現状である.対策型胃内視鏡検診で内視鏡件数が増えたことやセデーションを積極的に行う体制を貫くため,今後コ・メディカルスタッフの増員を図ってゆきたい.現在の当院の学会活動は症例報告にとどまり,まとまった臨床研究ができていない.内視鏡室の改築によって今後内視鏡件数が大幅に増えることが予想されることから,日常の内視鏡診療の中から先進的な臨床研究に値するような課題を見い出してゆきたいと考えている.