2019 年 61 巻 3 号 p. 309-318
【背景と目的】
内視鏡的乳頭切開術(ES)は総胆管結石に対する標準的な治療方法である.一方,内視鏡的乳頭大口径バルーン拡張術(EPLBD)は治療困難結石例に対する有効な治療法として普及している.EPLBDはESに比べていくつかの利点を有しており,また早期偶発症の発生頻度はESと同等と報告されているが,その晩期偶発症については十分な検討がなされていない.本研究では傾向スコア分析を用いて,総胆管結石治療に対するEPLBDとESの晩期偶発症について比較検討することを目的とした.
【方法】
2つの治療群間の患者背景に生じるバイアスを調整するため傾向スコアマッチング法を導入し,240例を含むコホートを作成した.主要評価項目を両治療群の累積および1年,3年後の推定晩期偶発症発生率,副次評価項目を早期偶発症発生率とした.
【結果】
累積晩期偶発症発生率はEPLBD群およびES群でそれぞれ12.5%,16.7%であり(P=0.936),経過観察期間中央値はそれぞれ915.5日,1,544.5日であった.1年後および3年後の推定偶発症発生率は,EPLBD群では8.4%,13.1%,ES群では5.0%,15.0%であった.晩期偶発症発生のリスク因子について多変量解析を行ったところ,「内視鏡的処置回数2回以上」が有意なリスク因子として同定された.全体の早期偶発症発生率は両群間で有意差を認めなかった.
【結論】
本研究では,比較的長い経過観察期間においてEPLBD後の晩期偶発症発生率は,ES後と比較して有意差を認めなかった.EPLBDは治療困難な総胆管結石に対して選択すべき有用な内視鏡的処置であると考えられた.臨床試験レジストリ:UMIN000027798.
総胆管結石に対する内視鏡的乳頭切開術(ES)は,安全で信頼性の高い治療法として広く行われている 1),2).しかしながら,ESでは限られた胆管開口径しか得られないため,比較的サイズの大きな結石など,治療困難例に対しては機械的砕石術(ML)や体外衝撃波砕石術(ESWL)のような追加処置を必要とすることがしばしばある.内視鏡的乳頭大口径バルーン拡張術(EPLBD)は,こうした治療困難な総胆管結石に対する新しい治療法として2003年に導入され 3),さらにESと比較したEPLBDの利点(手技や透視時間の短縮 4),ML使用頻度の削減 5),6),費用の削減6))が報告された.
ESとEPLBDを比較したいくつかの無作為化比較試験(RCT)では,両処置群の早期偶発症の割合は同等であるとの結果であったが 6)~8),ある1つのRCTではEPLBD後の早期偶発症発生率の方が有意に低いという結果であった 9).2つの内視鏡的処置の成績を比較したreview 10)においても,EPLBD後の早期偶発症発生率が有意に低値であった(ES:12.7%およびEPLBD(ES付加あり):8.3%;P<0.001).これら研究結果から,EPLBDは術後短期成績ではESと同等に安全であると考えることができる.しかし,現在までのところEPLBD後の晩期偶発症については十分な検討がなされていない.したがって,われわれは傾向スコア分析を用いて,EPLBDおよびES後の晩期偶発症についての比較検討を行った.
本研究は岐阜大学医学部附属病院,岐阜市民病院,岐阜県総合医療センターの3施設における後ろ向きコホート研究である.本研究に用いたデータベースには,1999年10月から2015年12月の間,われわれの施設で実施した内視鏡的逆行性胆管造影(ERCP)症例の臨床データが含まれている.適応基準および除外基準をTable 1に示す.すべての患者に,内視鏡的治療の説明を行い,書面によるインフォームドコンセントを取得した.治験プロトコールは各施設の施設審査委員会により承認され,UMIN臨床試験登録簿(UMIN000027798)に登録した.
適応基準・除外基準.
偶発症を早期(≦14日)および晩期(>14日)に分け,早期偶発症の重症度は,American Society of Gastrointestinal Endoscopy(ASGE)の内視鏡的偶発症の定義に基づいて判定した 11).晩期偶発症は,総胆管結石再発と,胆管炎および胆嚢炎を含む胆道感染症の2つのカテゴリーに分けた.総胆管結石再発はCT,MRI,EUSまたはERCPを含む各種画像検査で結石の存在が確認された例,胆道感染症は各種画像検査で結石の存在が否定され,かつ胆道に炎症をきたした例と定義した.総胆管結石性胆管炎の症例は,総胆管結石再発に含めた.胆嚢炎は採血における炎症反応の上昇と画像検査の特徴的所見の双方に基づいて診断した.患者の追跡情報は病院から直接電話で行った.また費用面では1米ドル(US$)を110円に換算して解析を行った.
内視鏡的処置ERCPでは最初に胆管造影を行い,胆管径および結石数・結石径を計測した.続いて,胆管開口部を開くためにEPLBDまたはESを行った.ESはガイドワイヤー上でパピロトーム(KD-211Q-0725 or KD-V411M-0725;Olympus,Tokyo,Japan)を使用し,乳頭を切開する標準的な方法で行った.EPLBDは,以前のESの有無にかかわらず,大口型バルーン(12-20 mm in diameter;CRE Balloon Dilation Catheter,Boston Scientific,Natick,MA,USA or GIGA,Century Medical Inc., Tokyo, Japan)を用いて行った.拡張バルーンのサイズは結石サイズおよび遠位胆管径に基づいて選択した.胆管のノッチが消えるまで徐々にバルーンを拡張し,30-60秒間拡張を維持した.その後,バスケットカテーテル,バルーンカテーテルを用いて総胆管結石を採石した.結石径が大きく,排出が困難と考えられる場合は,機械的砕石術を追加した.内視鏡的処置による完全採石は,胆管造影で欠損影がない状態と定義した.結石の完全採石が一回のセッションでは困難であると考えられた場合は,次回のセッションまでの間,胆管プラスチックステントまたは経鼻胆管ドレナージチューブを一時的に留置した.
研究デザイン・matching方法・統計分析主要評価項目はEPLBDまたはES後の晩期偶発症発生率,副次評価項目は早期偶発症発生率とした.両群間の患者背景因子の相違から生じる選択バイアスが治療効果や結果に影響を与える可能性があるため,傾向スコアマッチング法を導入した.結果に影響を与えると予想された7つの要因(性別,年齢,胆管径,結石最大径,結石数,傍乳頭憩室の有無,胆嚢の状態)について,傾向スコアマッチング法を用いて調整を行った.マッチングは以下の条件に基づいて行った.アルゴリズム:1:1 optimal match,キャリパー:推奨値(傾向スコアの推定値をロジット変換したベクトルの標準偏差に0.2を乗じた値),抽出法:非復元抽出 12).連続変数は中央値および四分位範囲(IQR)で表記し,Mann―Whitney U-testを用いて比較検討を行い,カテゴリー変数の比較検討にはFisher’s exact testもしくはPearson’s chi-squared testを使用した.連続変数の場合はMann―Whitney U-testを用いて比較検討を行った.晩期偶発症の累積発生率および1年後,3年後の推定偶発症発生率の検討にはKaplan―Meier法を用いた.さらにES群とEPLBD群の累積発生率はlog―rank testを用いて比較検討した.総胆管結石再発や胆道感染症といった晩期偶発症発生の危険因子について,Cox proportional-hazards modelを使用し,95%信頼区間(95%CI)を含むHazard ratio(HR)を検討した.晩期偶発症の発生に関与する可能性のある危険因子についても,Cox proportional-hazards modelを用いて評価した.以下の項目を晩期偶発症の発生に関与する可能性のある危険因子とした:年齢,性別,胆管径,結石数,結石径,傍乳頭憩室,胆嚢状態,内視鏡的処置回数,EPLBD前のES付加,MLの使用,内視鏡的乳頭処置.統計学的検討において,連続変数はその中央値をカットオフ値として二分変数に変換した.多変量解析では単変量解析でP<0.20であった因子と「内視鏡的乳頭処置」を検討した.P<0.05を統計学的に有意であるとした.統計分析はJMP version 10(SAS Institute,Inc., Cary, NC, USA)もしくはR ver. 3.3.1(R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria;http://www.R-project.org/)を用いて行った.
研究期間中3施設で総胆管結石に対する内視鏡的治療例は合計1,579例であり,これらのうち適応基準に基づき800例が除外され,779例で分析を行った.ESおよびEPLBDを受けた症例はそれぞれ635例および144例であり,傾向スコアマッチングを用いてES群とEPLBD群それぞれ120例ずつ,合計240例を抽出した(Figure 1).
Flowchart of the patient selection process. EPBD, endoscopic papillary balloon dilation; EPLBD, endoscopic papillary large balloon dilation. ES, endoscopic sphincterotomy.
全体(n=779)および傾向スコアマッチング後(n=240)の患者背景をTable 2に示す.コホート全体におけるES群とEPLBD群の有意差は,傾向スコアマッチングによって良好に調整された.抗血小板剤・抗凝固薬は,EPLBD群:33例(27.5%)およびES群:30例(25.0%)(P=0.769)で服用されており,全例とも内視鏡的治療に伴い中止とした.EPLBD群におけるES付加の有無および選択バルーンサイズをTable 3に示す.EPLBD群およびES群において,完全排石に必要な内視鏡的処置回数の中央値は,それぞれ1回(IQR:1-1)および1回(IQR:1-2)であった(P=0.225).機械的砕石術はEPLBD:40例(33.3%)およびES群:42例(35.0%;P=0.786)で実施した.初回内視鏡的治療の処置時間中央値はEPLBD群:30分(IQR:17-45),ES群:35分(IQR:25-56,P=0.003)であった.また内視鏡的治療に伴う費用の中央値はEPLBD群およびES群で,それぞれ2,520 US $(IQR:2,190-3,070),2,120 US $(IQR:2,120-2,640,P=0.001)であった(Table 3).
患者背景と内視鏡的処置.
内視鏡的処置.
早期偶発症発生率は,EPLBD群で7.5%(9/120),ES群で8.3%(10/120)であった(P=1.00).すべての早期偶発症(ES群の胆管穿孔を含む)は,保存的加療で軽快が得られた(Table 4).経過観察期間の中央値はEPLBD群およびES群で,それぞれ915.5(IQR:664-1,297.5)日,1,544.5(IQR:959-2,181)日であった(P<0.0001).1年後および3年後の推定晩期偶発症発生率は,EPLBD群でそれぞれ8.4%(95% CI:4.57-14.9),13.1%(95% CI:7.7-21.5)であり,ES群ではそれぞれ5.0%(95%CI:2.3-10.7),15.0%(95%CI:9.5-22.8)であった.EPLBD群およびES群の晩期偶発症の累積発生率をTable 5に示す.晩期偶発症は,EPLBD群で15例(12.5%)(総胆管結石再発:10例,胆管炎:5例)およびES群で20例(16.7%)(総胆管結石再発:18例,胆管炎および胆嚢炎:1例ずつ)に認め,ES群と比較したEPLBD群のHRは0.972(95%CI:0.479-1.945,P=0.936)であった.総胆管結石再発(HR:0.716;95%CI:0.312-1.564;P=0.405)および胆道感染症(HR:3.410;95% CI:0.685-25.67;P=0.138)の発生率に関して両群間に有意差はなかった(Table 5).Kaplan―Meier分析においても,両群間の晩期偶発症発生率には有意差を認めなかった(P=0.934;Figure 2).晩期偶発症の発生に関与する因子について単変量および多変量解析を行ったところ,「内視鏡的処置回数2回以上」が有意な危険因子として同定されたが,EPLBD手技自体は有意な因子ではなかった(Table 6).
早期偶発症.
晩期偶発症.
Kaplan―Meier analysis of the cumulative incidence of late adverse events. (red) ES, endoscopic sphincterotomy; (blue) EPLBD endoscopic papillary large balloon dilation.
単変量/多変量解析:晩期偶発症発生に関与する危険因子.
現在に至るまで,総胆管結石に対するEPLBD後の晩期偶発症については十分な検討がなされていない.Parkら 13)による後ろ向き研究では,巨大結石に対しESを加えずに行ったEPLBD後の晩期偶発症は21%(23/107:14例が結石再発,4例が胆道炎,5例が胆嚢炎)であったと報告されており,平均経過観察期間は1,398日であった.Kogureら 14)による後ろ向き研究では,平均経過観察期間22(1〜36)カ月において,EPLBD後の結石再発は42人中6人(14%)であったと報告されている.Itokawaら 15)は,ESを付加したEPLBD後の予後を後ろ向きに検討し,平均経過観察期間43.5±19.7カ月において,胆管結石再発率と胆道感染症発生率はそれぞれ4.4%(8/183)と7.1%(13/183)であったと報告した.Paspatisら 16)は,ESを付加したESLBD後の総胆管結石再発について前向き調査を実施し,平均経過観察期間30.5±5.5カ月において,再発率が7.5%(8/106)であったと報告している.患者背景や内視鏡的処置自体の違いがあるため,結果を慎重に解釈するべきではあるが,全体的にEPLBDの晩期偶発症を評価した,単施設前向きおよび後ろ向き研究では,総胆管結石再発率が4.4-14%であり,以前に報告されたESの再発率10.7-17.4%と比較して,同等もしくはやや低い結果であった 17)~20).現在までにEPLBDとESとの晩期偶発症発生率を比較した2つの後ろ向き研究が報告されている.Kimら 21)はEPLBD群100例と,ES群109例を含む合計209例の総胆管結石再発率を比較したところ,EPLBD群は平均経過観察期間32.5カ月で11.5%(11/100人)であり,ES群は平均経過観察期間31.8カ月で8%(15/109人)であった(P=0.546).Kimら 22)による別の後ろ向き研究ではEPLBD(ES付加あり)群101例とES群121例で,2群間の総胆管結石再発率の比較検討したところ,EPLBD群は平均経過観察期間25.0カ月で5.8%,ES群は平均経過観察期間13.0カ月間で6.9%であった(P=0.786).これらの2つの研究は,両群間の総胆管結石再発率に有意差がないことを示した.しかし,両群間の患者背景因子に大きな違いがあるため,結果は慎重に解釈する必要がある.
傾向スコア分析は,EPLBD群とES群との間に存在する患者背景因子のバイアスを調整するのに有効であり,本研究ではこの分析法を適用した.結果,患者背景因子の調整は良好であり,EPLBD群とES群との間で明らかな有意差を認めなかった.主要評価項目である総胆管結石再発や胆道感染症を含めた,晩期偶発症発生率は両群間で有意差を認めなかった.単変量および多変量解析では,EPLBDまたはESの内視鏡的処置のいずれも晩期偶発症の危険因子ではないことが確認された.また早期偶発症率も,両群間に有意差は認められなかった.われわれの研究結果と既報の結果を考慮すると,総胆管結石に対し,早期もしくは晩期偶発症の観点からEPLBDもしくはESのどちらの内視鏡的治療が優れているか,という結論は見出せなかった.治療困難結石と考えられる症例には,EPLBDを選択することが可能と思われるが,これらの方針を確立するためには無作為化比較試験による検討が必要である.
晩期偶発症の発生に関与する危険因子を単変量および多変量解析で評価したところ,「内視鏡的処置回数2回以上」が有意な因子であることが示された.今回の研究では,EPBD(バルーン拡張≦10mm)後の晩期偶発症発生に関連する因子として報告されている胆嚢状態は有意な危険因子ではなかった.総胆管結石再発のリスクは,胆嚢からの落石よりもEPLBDまたはESによるOddi括約筋機能の廃絶に関連している可能性がある.その機序は胆道細菌感染が生じることでbeta-glucuronidaseによるbilirubin diglucuronideの解離を介して原発性総胆管結石が形成されるというものであり 23),既にいくつかの研究によって報告されている 14),21),22).この見解は,EPLBD後の再発結石が胆嚢管からの落石ではなく,主に胆管から形成されるものであることを示唆しており,胆嚢の有無は結石再発の危険因子にはならないと考えられた.胆管結石数やML使用といった治療困難が予想される要因は,晩期偶発症発生のリスク因子となる傾向を示したが,有意な危険因子は「内視鏡的処置回数2回以上」であり,多数回にわたる内視鏡的処置を必要とする治療困難な結石は,ERCP時の最終胆管造影では認識できない,遺残結石が存在する可能性が考えられた.本研究のEPLBD群は,バルーン拡張に先行してESを付加された症例とされていない症例が含まれていた.EPLBD前にESを付加しないことは,Oddi括約筋機能を保持する可能性があり,総胆管結石再発のリスクを低減する可能性がある 18).しかし,今回のわれわれの研究においてES付加の有無は,晩期偶発症の危険因子と関連していなかった.近年EPLBD前のES付加の有無において,Oddi括約筋機能を比較評価した前向き無作為試験では,ES付加の有無に関わらず,術後1年のOddi括約筋機能が永続的かつ同等に失われた 24).これらの研究結果からEPLBD前のES付加は晩期偶発症の発生に関与しない可能性が示唆された.
今回,われわれの研究にはいくつかの制限が存在する.傾向スコアマッチングで患者背景因子が調整されていても,調整されていない交絡変数が存在する可能性がある.後ろ向き研究デザインは,統一された経過観察法が無いため,晩期偶発症の検出に偏りをもたらした可能性があり,また,適切なサンプルサイズを設定することができなかった.さらにEPLBDは研究期間の後半でより頻繁に実施されており,患者の治療と診断方法が絶えず発展していたため,研究結果に偏りが生じた可能性も考えられる.最後に,われわれの研究における経過観察期間は長期とするには十分でなく,5年以上経過した後の偶発症については評価することができなかった.
結論として,比較的長い経過観察期間を有するこの研究において,総胆管結石治療後のEPLBDの晩期偶発症は,ESと比較して有意差は認められなかった.いくつかのRCTでは,ESに対するEPLBDの臨床的有効性と,両群間で早期偶発症発生率は同等であることを既に示している.したがって,治療が困難であると予想される総胆管結石に対しては,EPLBDを積極的に行うことは妥当であると考えられた.今後は本研究結果をさらに検討するために,より長い経過観察期間を有する無作為化前向き比較試験が必要である.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし