好酸球性食道炎は主に食物抗原に対するIgE非依存型(遅延型)アレルギー反応によって好酸球浸潤を主体とする炎症が食道上皮を中心に発生,慢性的に持続し,食道運動障害や食道狭窄をきたす疾患である.元々は小児領域の疾患と考えられていたが,近年,とくに欧米において成人のつかえ感,food impactionの主な原因として注目されている.好酸球浸潤は食道に限局し,好酸球性胃腸炎とは独立した疾患単位として取扱われる.診断は自覚症状と組織学的に有意な好酸球浸潤を証明することが基本となり,内視鏡検査で縦走溝,白色滲出物,輪状溝などの特徴的な所見を認識しつつ,生検を行うことが必要となる.治療においては,原因食物の特定と除去食の有用性が確認されているが,その実施には極めて高度な医学的管理を要するため適応は限定され,薬物治療が主体となる.第一選択はPPI投与,無効な場合はステロイド食道局所(嚥下)治療が推奨されている.本邦では欧米と比較し症状や所見が強い典型例は少ないが,近年のアレルギー疾患の増加とともに今後増加してくる可能性がある.厚生労働省の指定難病としても告示されており,その病態や診断,治療について理解しておく必要がある.
食道胃接合部癌は食道と胃の接合部領域に腫瘍の中心を持ち,食道癌,胃癌が含まれる.欧米においてこの30年間に非常に増加し,本邦でも緩徐ではあるが増加傾向と報告される.Helicobacter pylori感染率の低下,食生活の欧米化による胃食道逆流症の増加もあり,食道胃接合部癌の更なる増加が予想される.
本邦のT1食道胃接合部癌を胃粘膜萎縮の有無によって2つに分けると胃粘膜萎縮のない症例では腫瘍はEGJ口側,右上方に局在し,粘膜萎縮のある症例ではEGJ肛門側に局在した.内視鏡的切除例の検討では一括切除率はどちらも100%であるが,治癒切除率は噴門部癌と比べ食道腺癌で明らかに低く,深達度診断の難しさなどが示唆された.
Barrett食道腺癌の拾い上げ診断には深吸気して,好発部位の前壁から右壁を観察する.酢酸による微細構造の強調,NBI併用拡大観察はdysplasiaの診断率を上げると報告されており診断の一助となる.
【目的】急性出血性直腸潰瘍(AHRU)に対する止血鉗子を用いた内視鏡的止血術の有効性と,AHRUの臨床的特徴を検討した.【対象・方法】AHRUと診断された45例の臨床的特徴を検討し,そのうち,止血鉗子を用いた内視鏡的止血術が施行された28例を対象として,その有効性や安全性に関して検討した.【結果】AHRUは高齢で脳血管疾患などの何らかの基礎疾患を有する患者に多くみられた.止血鉗子を用いた内視鏡的止血術は,一次止血率100%であり,偶発症はみられず,再出血率は14.3%であった.再出血に対しても,内視鏡的に止血可能であった.また,AHRUによる出血が直接の死因となった症例はみられなかった.【結論】AHRUに対する止血鉗子を用いた内視鏡的止血術は有効かつ安全である.
症例は50歳代,男性.スクリーニング目的で施行された上部消化管内視鏡検査(EGD)で,胸部上部食道に20mm大0-Ⅱc型早期食道癌を指摘されESD施行.病理組織学的にはSCC(squamous cell carcinoma)で,壁深達度pT1a-LPM(lamina propria mucosae),脈管侵襲および垂直断端は陰性であったが,水平断端は判定困難とされ,厳重に経過観察の方針となった.しかし,その後通院自己中断され,ESDを施行した3年8カ月後に頸部リンパ節腫脹を主訴に再受診し,臨床経過から食道癌のESD後再発と診断した.本症例は壁深達度LPMの食道癌に対する内視鏡切除後に多発転移再発を認めた比較的稀な1例のため報告する.
症例は好酸球性消化管障害に対しステロイド内服中の44歳男性.主訴は心窩部痛,水様性下痢,腰痛,胸部つかえ感.好酸球性食道炎に特徴的な内視鏡所見を呈し,膵炎と胃腸炎を合併していた.好酸球性消化管障害の増悪を疑い,ステロイドの静脈内投与で臨床所見は劇的に改善した.詳細な病歴聴取で,以前から非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs;NSAIDs)内服後に腹部症状を繰り返していたことが判明した.末梢血好酸球増多や多臓器に好酸球浸潤を来たしうるアスピリン不耐症は,好酸球性消化管障害を合併することがあることを認識すべきと考え報告する.
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)では安全に切開剥離を行うために剥離面の良好な視野を得ることが重要である.当科では内視鏡の出し入れの必要がなく,上部でも下部でも位置を問わずに視野展開の助けとなる方法を模索し,安価で器具の特性を問わずに使用できる牽引の工夫として輪状ナイロン牽引法(Nylon-loop Traction method:NT法)を考案した.牽引糸をナイロンの輪状とし,クリップを滑車のように使用することで常に全体に牽引力が作用することが特徴である.糸を輪状にして牽引する方法としてはMoriらがすでに報告しており,その有用性を示している.NT法では多方向への牽引を可能にするために糸の輪を大きくし,場に合わせた視野展開,牽引方向の調整を容易にしていることが先述の方法との違いである.今回,NT法を使用し,安全に施行し得た大腸ESDの2例の経験を報告する.
症例は86歳,男性.脳梗塞により,経口摂取は困難で,胃瘻造設(percutaneous endoscopic gastrostomy,PEG)状態であった.総胆管結石による胆管炎を発症したため,処置に伴う合併症を慎重に検討した上で,入院第13病日に経胃瘻的ERCP(TG-ERCP)を行った.胃瘻をダイレーターにより拡張後,Olympus GIF-XQ240を挿入した.乳頭の見上げが困難であり,パピロトミーナイフを使用して,胆管挿管し,乳頭切開の上,バルーンカテーテルにて結石除去を施行した.高齢の患者であったが,合併症なく治癒が得られた.最小限の瘻孔拡張(24Fr)で,GIF-XQ240により,パピロトミーナイフを併用することで,高齢のPEG留置患者であっても胆管結石治療が可能であり,有用な方法であると考えられた.
バレット食道癌は,特にLong segment Barrett’s esophagus(LSBE)では0-Ⅱb進展が多いため側方進展範囲診断が難しい.このため,LSBEに発生した境界不明瞭なバレット食道癌では,胃の低分化腺癌同様に周囲からの生検で陰性を確認してから,内視鏡治療に臨む必要がある.またsquamocolumnar junction(SCJ)に接したバレット食道癌では,口側に扁平上皮下進展が存在する場合が多い.上皮下進展の内視鏡所見として粘膜の色調変化,異常血管の出現,小孔が挙げられる.扁平上皮下進展距離平均値はShort segment Barrett’s esophagus(SSBE)で4(1-12)mm,LSBEで5(1~20)mmであり,注意深く,口側切開線を決定する.SSBEでは10mm,LSBEでは20mmの余裕を確保して,口側切開線を決定する.
バレット食道癌では逆流性食道炎や潰瘍瘢痕を合併していることが多く,扁平上皮癌のESDに比して,ESDの難易度が高い.
バレット食道癌は異時多発癌が10.3~21.5%と高頻度のため,欧米ではvisible lesionに対して内視鏡的治療を行った後に,残バレット粘膜に対してRadiofrequency ablation(RFA)を行うことが推奨されている.しかしRFA後に粘膜深部にバレット粘膜が残り,表層のみが扁平上皮で覆われる(baried barrett)ことがあり,RFAで完全にバレット粘膜が撲滅できるわけではないことを知っておく必要がある.日本のガイドラインでは慎重な経過観察を薦めているが,異時多発癌予防のため,全周切除,二期的に分けた全周切除,の治療戦略をわれわれは実践している.
ハサミ型ナイフを使用した大腸ESDは,通電しながら内視鏡を動かす必要がないため比較的安全かつ容易に施行可能である.しかし,先端系ナイフとは根本的な使用法が異なるため,その特徴を熟知しておく必要がある.ハサミ型ナイフの場合,切除する組織にテンションをかけ過ぎず,「紙を切る感じ」で周囲切開を行い,「至適な剥離深度を点でつないでいく」イメージで粘膜下層剥離を進めていく.本稿では,その手技にフォーカスを当て,基本から手術時間短縮に有効なコツについてまで詳細に解説した.困難な場面での2ndデバイスとしての有用性も高いため,是非とも習得していただきたい手技である.
【背景と目的】
内視鏡的乳頭切開術(ES)は総胆管結石に対する標準的な治療方法である.一方,内視鏡的乳頭大口径バルーン拡張術(EPLBD)は治療困難結石例に対する有効な治療法として普及している.EPLBDはESに比べていくつかの利点を有しており,また早期偶発症の発生頻度はESと同等と報告されているが,その晩期偶発症については十分な検討がなされていない.本研究では傾向スコア分析を用いて,総胆管結石治療に対するEPLBDとESの晩期偶発症について比較検討することを目的とした.
【方法】
2つの治療群間の患者背景に生じるバイアスを調整するため傾向スコアマッチング法を導入し,240例を含むコホートを作成した.主要評価項目を両治療群の累積および1年,3年後の推定晩期偶発症発生率,副次評価項目を早期偶発症発生率とした.
【結果】
累積晩期偶発症発生率はEPLBD群およびES群でそれぞれ12.5%,16.7%であり(P=0.936),経過観察期間中央値はそれぞれ915.5日,1,544.5日であった.1年後および3年後の推定偶発症発生率は,EPLBD群では8.4%,13.1%,ES群では5.0%,15.0%であった.晩期偶発症発生のリスク因子について多変量解析を行ったところ,「内視鏡的処置回数2回以上」が有意なリスク因子として同定された.全体の早期偶発症発生率は両群間で有意差を認めなかった.
【結論】
本研究では,比較的長い経過観察期間においてEPLBD後の晩期偶発症発生率は,ES後と比較して有意差を認めなかった.EPLBDは治療困難な総胆管結石に対して選択すべき有用な内視鏡的処置であると考えられた.臨床試験レジストリ:UMIN000027798.
【背景】現在,人工知能(AI)を活用したカプセル内視鏡診断支援システムは確立されていない.また,小腸カプセル内視鏡における異常所見の中で最も頻度が高いとされる薬剤や炎症に伴う粘膜傷害(びらん・潰瘍)は,周囲粘膜との色調変化に乏しいこともあり診断が難しいことも少なくない.
【目的】カプセル内視鏡画像の小腸びらん・潰瘍所見を自動検出するためのディープラーニングによるAIシステムを開発する.
【方法】カプセル内視鏡の小腸びらん・潰瘍画像5,360枚(115症例)を畳み込みニューラルネットワーク(CNN)システムに学習させた.本CNNシステムに,学習画像とは独立した10,440枚(65症例)のカプセル内視鏡小腸画像(びらん・潰瘍440枚,正常小腸10,000枚)を読影させ,びらん・潰瘍の自動検出能を検証した.なお,検証用画像のびらん・潰瘍の患者病態は,NSAIDs起因性(36%),炎症性腸疾患(11%),吻合部潰瘍(4%),悪性腫瘍(4%)の内訳であった.画像単位で正否を判断し,ROC-AUC,感度,特異度,正確度で評価した.CNNシステムが算出した確度(びらん・潰瘍である確率)のカットオフ値の選定にYouden Indexを採用した.
【結果】学習したCNNは,10,440枚の検証用画像の読影に233秒を要した(44.8枚/秒).びらん・潰瘍検出のAUCは0.958(95%信頼区間 0.947-0.968)であった.確度のカットオフ値を0.481とした際の感度,特異度,正確度は各々88%,91%,91%であった.読影医が正常小腸と判断していた10,000画像のうち3画像に対してCNNが新規びらんを同定した.
【結語】カプセル内視鏡の小腸びらん・潰瘍所見を自動検出するAIシステムを作成し検証した.本システムは読影医の負担軽減や見逃しを減らすことに寄与すると考えられた.