日本消化器内視鏡学会雑誌
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内視鏡室の紹介
メモリアルスローンケタリングがんセンター
責任者:Mark A. Schattner, MD, FASGE, AGAF  1275 York Avenue, New York, NY 10065
西村 誠
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2019 年 61 巻 3 号 p. 326-329

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概要

沿革・特徴など

当院は1884年に設立され,テキサスのMDアンダーソンと並びアメリカを代表するがんセンターの一つであり,マンハッタンのアッパーイーストサイドに位置している.1940年代に設立された隣接する研究所(Sloan Kettering Institute)と合併して現在の組織および名称に改名された.20階建てのメインホスピタルは473床の病床を有し,1,148名の指導医,1,749名の研修医(フェロー・レジデント),および3,721名の看護師が勤務している.2017年度の年間の入院患者数は23,506名,外来患者数は722,238名であり,400種以上の多種多様な癌に対応可能である.消化器内科部門は現在3代目のMark A. Schattner医師が部門長を務めている.上部外科や大腸・肝胆膵外科,腫瘍内科と常に密接なやり取りをしながら消化器内視鏡診療を行っている.

組織

当科は34部門ある専門部門の一つとして存在し,マンハッタン内に点在する24の建物のうち最大規模のメインホスピタルの中核を担っている部門の一つである.当科には肝臓および栄養部門も含まれており,消化器癌のみならず胆膵疾患,肝臓病およびがん患者の胃瘻や腸瘻の増設などに関しても包括的な診療を行っている.

検査室レイアウト

 

 

 

スタッフ

(2018年12月現在)

医     師:22名(うち上級医 13名,フェロー 8名,アドバンスドフェロー 1名),フィジシャンアシスタント 1名

内視鏡室看護師:27名

内視鏡室技師:4名

設備・備品

(2018年12月現在)

 

 

実績

(2017年1月~12月31日まで)

 

 

指導体制,指導方針

当院では内視鏡室が5室あり,その日の内視鏡担当の指導医(アテンディング)1名につき1名のフェローがついて内視鏡を行う.フェローは上部下部内視鏡から始まり徐々に治療内視鏡を学ぶが,同時に病棟コンサルトや週末のオンコールも兼ねているために極めて多忙である.通常は3年間のフェロープログラムであるが希望する者やその後アカデミックに残りたい者は4年目のアドバンスドフェローを選択し,特にERCPやESDなど治療内視鏡の手技を磨くことができる.

指導医になると専用のオフィスの他に一人一人に看護師および事務員がつき,外来の調整や患者からの依頼処方,患者との簡単な電話連絡や内視鏡・入院の調整,会議のスケジュール,病理結果の連絡などすべて行ってくれる.内視鏡困難例などは他の指導医のアドバイスを求めることは可能であるがそれぞれの指導医は完全に独立しており,当直もタイムカードもなく有給の範囲内であれば休みも自由に取れるという反面,患者の治療は全面的に責任を持ち,フェローへの教育,臨床研究,発表,年間の貢献度などで次年度の年棒が決められるという極めて現実的な世界であり,数年毎に常に昇進することが求められている.

内視鏡検査の内容に関しては,他のアメリカの施設と比較すると悪性消化管狭窄や悪性胆道狭窄に対するステント留置,嚥下障害のためのPEG,腸管閉塞によるドレナージPEG,内視鏡的空腸瘻(PEJ),遺伝性癌サーベイランスで発見された早期消化管癌のEMR/ESDが比較的多いのが特徴で,筆者着任後はESD紹介も増加傾向である.また必要に応じて468個の遺伝子変異を調べる病理検査(MSK-IMPACT)に検体を提出することが可能で,MSK-IMPACTのデータをASCOなどの国際学会で発表することが推奨されている.

内視鏡自体で大きく異なる一つが,麻酔科医・麻酔専門看護師(Certified Registered Nurse Anesthetist;CRNA)が全例について内視鏡の麻酔を引き受けてくれる点である.基本は内視鏡麻酔はCRNAによりプロポフォールで行われるが,長時間が予想されるESD症例や併存症の多い症例,また消化管狭窄などでfull stomachが予想される症例では麻酔科医が在室し全身麻酔のための挿管が行われ,その後はCRNAの管理になる(急変時も麻酔科医が呼ばれる).CRNAのみならず病棟業務でも同様に医師助手(physician attendant;PA)がいて回診・処方・夜勤を行ったり,また外科の場合はPAが開腹・閉腹を行ったりするところは日本と大きく異なる点であり医師の業務軽減に非常に寄与している.

またもう一つ大きく異なる点は,日本の大学病院と違い消化管/胆膵に分かれていない点である.これは指導医の専門性にもより,上部下部内視鏡・カプセル内視鏡のみ行う医師もいれば治療内視鏡医の場合は上下部消化管のEMR・ESD(施設によっては胃内バルーン留置などの減量治療)からEUS-FNA,ERCPまで全般的に行うことになり,4年目のアドバンスドフェローもこの方針で治療内視鏡医として育成している.ただ指導医の中にも得意不得意があるために指導医間での患者さんのやり取りが行われる.

現在では緊急例を除いては患者さんについての情報のやり取りや他科からの患者紹介,また病院WEBを介した患者さんからの問い合わせ等のほとんどがセキュリティのかかった院内メールで行われ,そのために1日に50-60通の臨床関連メールが飛び交うために,メールは極めて重要なツールになっている.

入局や入職すると長年にわたり人材育成する日本と違い,アメリカでは3年間もしくは4年間のフェローを終えた場合はほとんどが病院に残れずに外に出され,スタッフ(上級医)を採用する場合はすでに自立している医師が他院から一本釣りされる.このような日本社会では少ない競争・淘汰の考えが病院のみならずアメリカ社会に根付いており,この壁を乗り越えてその組織の中に入ること自体が日本人のみならずアメリカ人にとっても極めて難しい.

現状の問題点と今後

世界中から患者が集まるために内視鏡件数は増加の一途であり,当科も日本の病院と比べても決して狭くはない内視鏡スペースと48室ものリカバリールームを有しているが,増加する患者数に比してスペースが充足しているとは言い難いのが現状である.現在病院の近くに新たなビルを建築中であるが,サーベイランス内視鏡はサテライトクリニックに送ったり,良性疾患は隣接するコーネル大学に逆紹介するなどして対処している.その一方で,前述のように麻酔を一任できる点や,内視鏡後入院の場合は病棟の内科チームに一任することが可能で上級医は内視鏡に集中できる点などは日本と大きく異なるところである.山手線内と同じ面積の中に当院,コーネル大学病院,コロンビア大学病院,ニューヨーク大学病院およびマウントサイナイ病院がひしめき合うという競争の激しいマンハッタンではあるが,産学共同での新規治療の導入や臨床試験が積極的になされており,またNY内だけではなく全米レベルで他のがんセンターとの治療開発競争が行われている.

 
© 2019 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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