日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
内視鏡治療にて完全切除し得た十二指腸乳頭部Gangliocytic paragangliomaの1例
岡村 卓真小澤 栄介 岩津 伸一中村 裕中鋪 卓吉川 大介吉田 亮山尾 拓史岩崎 啓介中尾 一彦
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2019 年 61 巻 5 号 p. 1115-1122

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要旨

症例は54歳男性.十二指腸下行部に隆起性病変を指摘され当科に紹介された.上部消化管内視鏡で十二指腸主乳頭部の約20mm大の粘膜下腫瘍様の病変を認めた.EUSでは20×17mmの低エコー腫瘤として描出された.リンパ節転移・遠隔転移を認めないことから診断的治療として内視鏡的乳頭切除術を行い,十二指腸主乳頭とともに腫瘍を切除した.病理組織所見でGangliocytic paraganglioma(以下GP)と診断された.GPはその多くが良性腫瘍であり,過度に侵襲的な治療を避けるため,内視鏡的乳頭切除術は診断的治療として有用であると考えられた.十二指腸乳頭部GPの内視鏡的乳頭切除術の報告例は少なく,貴重な症例と考え報告する.

Ⅰ 緒  言

Gangliocytic paraganglioma(GP)は1957年にDahlらにより報告された十二指腸粘膜の膨大部領域に好発する比較的稀な粘膜下腫瘍である 1.その多くは良性腫瘍であるが,術前診断が困難なため,治療には膵島十二指腸切除術が選択されることが多い.低侵襲な診断的治療である内視鏡的切除は有意義であると考えられるが,十二指腸膨大部領域の内視鏡治療の特殊性ゆえ報告例はいまだ少ない.今回,われわれは十二指腸乳頭部GPを内視鏡的乳頭切除術で一括完全切除し得た1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

症例:54歳,男性.

主訴:特になし.

既往歴:特記事項なし.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2005年に近医で十二指腸下行部の隆起性病変を指摘され経過を観察されていた.2013年2月,上部消化管内視鏡にて同病変の増大を認めたため精査加療目的で当科に紹介され入院となった.

入院時現症:血圧:120/72mmHg,脈拍:66/min,SpO2:96%,眼瞼結膜:貧血なし,眼球結膜:黄疸なし,胸部:呼吸音 清,心音 整 雑音なし,腹部:平坦・軟,圧痛なし.

血液検査所見:軽度の肝機能障害を認めるのみでCEA,CA19-9は正常であった.

腹部単純CT所見:十二指腸を含め腹腔内に腫瘤性病変は指摘できなかった.周辺リンパ節の腫大や遠隔転移を示す所見も認められなかった.

上部消化管内視鏡所見:十二指腸主乳頭部に表面平滑で亜有茎性の粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.病変は乳頭開口部の肛門側の隆起性病変で病変の口側に胆管・膵管開口部を認めた(Figure 1).

Figure 1 

上部消化管内視鏡検査.

十二指腸主乳頭部に径20mm程度の無茎性の粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた(赤矢印).病変の口側に乳頭開口部を認める(黄色矢印).

EUS所見:十二指腸主乳頭部に20×17mmの辺縁整で境界明瞭,内部不均一な低エコー腫瘤を認めた.胆膵管および十二指腸深部への浸潤は認めなかった(Figure 2).

Figure 2 

EUS所見.

病変は20×17mm大の境界明瞭で内部エコー不均一な低エコー腫瘤として描出された(矢印).

低緊張性十二指腸造影検査:十二指腸主乳頭部に一致して径20mm大の境界明瞭で辺縁平滑な隆起性病変を認めた(Figure 3).

Figure 3 

低緊張性十二指腸造影検査.

十二指腸乳頭部に20mm大の表面平滑な隆起性病変を認める(矢印).

ERCP所見:胆管・膵管に不整狭窄,拡張は認めなかった.

Intra ductal ultrasonography(IDUS)所見:胆管からの走査にて乳頭近傍に腫瘤性病変を認めるも全体像の把握は困難であった.胆管・膵管への腫瘍の進展は認められなかった.

以上の所見より十二指腸主乳頭部の粘膜下腫瘍と診断した.鑑別診断として本腫瘍のほかGastrointestinal stromal tumor(GIST),carcinoidを考慮した.腫瘍に可動性がありEUS,ERCP,IDUSで胆管,膵管および十二指腸壁深部への浸潤を疑う所見を認めないこと,明らかなリンパ節転移を認めないことから内視鏡的切除が可能と考え,本人,家族に腫瘍の残存および外科的追加切除の可能性について充分に説明し,同意を得たうえで,診断と治療を兼ねて内視鏡的乳頭切除術を行った.超音波内視鏡下穿刺吸引生検(EUS-FNA)は病変の可動性が高く,確実に免疫組織学的検査が可能な組織を採取することは困難と考え施行しなかった.

内視鏡的乳頭切除術:側視鏡(JF-260V;Olympus,Tokyo,Japan)で処置を行った.乳頭部粘膜下腫瘍に対して十分なマージンを確保しながら半月スネア(crescent type,φ22mm;Olympus,Tokyo,Japan)で病変を絞扼し,高周波電源はICC200(Erbe Electromedizin,Tubingen,Germany)をEndocut mode(Effect3,120W)で使用し病変を一括切除した.切除後,胆管・膵管開口部を確認し膵管に5Fr×5cm geenen type pancreatic stent(Cook medical,Winston-Salem,NC)を留置し,引き続いて胆管に7Fr×7cm flexima biliary stent(Boston Scientific,Marlborough,MA)を留置した.切除面の肛門側に拍動性露出血管および拡張血管を認めたため,露出血管を止血鉗子(Soft coagulation,30W)で焼灼し,アルゴンプラズマ凝固療法(1l/min,50W)で切除面の肛門側に予防的止血術を行った.切除径は44×30mm,腫瘍径は24×15mmであった(Figure 4).

Figure 4 

内視鏡的乳頭切除術.

切除直後断面:内視鏡的に腫瘍の遺残は認めない.切除面に胆管口(左矢印)・膵管口(右矢印)が確認できる.切除標本:腫瘍径は24×15mm,切除径は44×30mmであった.

病理組織学的所見:割面像では黄白色調の不均一な腫瘍を粘膜下に認めた.切除面に腫瘍の露出は認めなかった.ganglion-like cellとspindle cell,epithelioid cellの3種類の異なった細胞の増生を認めた.水平断端は陰性で,深部断端部では切除縁近傍(約50μm)まで腫瘍を認めるが断端面では腫瘍露出は認めなかった(Figure 5-a~c).免疫染色ではepithelioid cellがSynaptophysinとChromogranin A陽性,ganglion-like cellがSynaptphysin陽性,spindle cellがS-100陽性を示し(Figure 6-a,b),最終的にGPと診断した.

Figure 5 

病理組織学的検査.

a:弱拡大(HE,×40).腫瘍内に上皮様細胞,紡錘形細胞,神経節細胞の3成分の混在を認める.

b:強拡大(HE,×400).紡錘形細胞と神経節細胞の混在を認める.

c:強拡大(HE,×400).カルチノイド様の上皮細胞の増生を認める.

Figure 6 

免疫組織学的所見.

a:Synaptophysin染色陽性の上皮細胞を認める.

b:S-100染色陽性の紡錘形細胞を認める.

Ⅲ 考  察

GPは1957年にDahlら 1により初めて報告された十二指腸粘膜の膨大部に好発する比較的稀な粘膜下腫瘍である.無症状で発見されることが多いが消化管出血,腹痛を契機に発見されることもある.病理組織学的には1)円柱状あるいは多形性で胞巣状,リボン状配列を示す上皮様細胞,2)それを取り囲むように索条に配列する紡錘形細胞,3)散在性にみられる神経節細胞の3成分の組織が腫瘍内に混在するという特徴を持つ.症例により構成比率が異なるためこれまで様々な名称で報告されてきたが,現在はKepesらによるgangliocytic paraganglioma(GP)の名称が用いられている 2,これまでリンパ節転移の報告が散見されており,Harriesらは報告例の約7%にリンパ節転移があったとし 3,Inaiらは本腫瘍の上皮様成分にmalignant potentialがあると推論している 4.海外では膵原発のGPより胸骨転移を来した症例が報告されている.基本的には副腎髄質以外の傍神経節から発生する良性腫瘍だがmalignant gangliocytic paragangliomaに分類されるものもあり,現状では転移の有無により両悪性を分類する 5.これまで本疾患による腫瘍死の報告例はないが,少なからずリンパ節転移を伴うmalignant gangliocytic paragangliomaの報告が散見されるため,本疾患は根治的に治療すべきと考える.

GPは十二指腸,特に膨大部に好発すること,粘膜下腫瘍の形態をとること以外にCT,MRI,USなどの画像診断においては特異的な所見に乏しい.内視鏡検査では粘膜下腫瘍でありながら凹凸不整,結節・顆粒様を呈することが多く,びらんや潰瘍を伴うことがあるとされている 6,EUSでは3種類の構成成分の混在を反映し不均一な内部エコーを呈すると報告されている 7.また,生検診断においては出血症例の潰瘍底からの生検で診断された報告や 8,エタノール局注後の生検で診断された報告 9もあるが腫瘍の一部しか採取できないため標本内に3種類の細胞成分が認められずcarcinoid tumor,spindle cell tumorなどの神経原性腫瘍との鑑別が困難なことがあると報告されている 10),11

免疫組織学的にはNSEが上皮様細胞と神経節様細胞全例で陽性,S-100は紡錘形細胞でほぼ全例陽性,chromograninは上皮様細胞の約3割に陽性であると報告されており 11),12,診断には免疫組織学的検索が重要である.EUS-FNAは本疾患の診断に有用な検査と考えるが 13,3種類の成分の免疫組織学的検索が可能な組織を採取し診断を確定することは困難と考えた.

十二指腸粘膜下腫瘍は比較的稀な疾患である.Brunner腺腫,脂肪腫,リンパ腫,平滑筋腫などの良性腫瘍や,malignant potentialを有するカルチノイド,GIST,悪性リンパ腫などだが,その治療方針に関して明確なコンセンサスが得られているものは少ない.Brunner腺腫においては出血 14),15やBrunner腺癌 16),17の報告より,20mm以上のものは治療を考慮してよいとされており,脂肪腫に関しても20mmを超えると出血や腹痛などの臨床症状を生じる可能性があるとされ,治療を検討してもよいと考えられている 18),19.GISTに関しては20mmを超えるものは組織学的検査の対象とされており 20,20mmを超える十二指腸粘膜下腫瘍は組織学的検査,もしくは摘出を検討すべきであり,明らかな周辺臓器への浸潤やリンパ節転移,遠隔転移が認められない場合は低侵襲な診断的治療としての十二指腸粘膜下腫瘍の内視鏡切除は有意義であると考えた 18

PubMedおよび医中誌で“papilla of vater”,“duodenal gangliocytic paraganglioma”,“Endoscopic resection”,“十二指腸主乳頭部”,“十二指腸gangliocytic paraganglioma”,“内視鏡的切除”をキーワードに検索したところ,2018年10月までに本症例を含め22症例の報告があった(Table 1 21)~39.年齢の中央値は61.5(38-70)歳で腫瘍径の中央値は20.0(6-40)mmであった.3例が黄疸,4例が消化管出血を契機に発見されている.12例が十二指腸主乳頭原発で2例が十二指腸副乳頭原発であった.6例に内視鏡的乳頭切除術が施行され,2例の副乳頭病変には内視鏡的副乳頭切除術が施行されていた.1例で病理学的に病変の遺残が疑われ,追加治療として膵島十二指腸切除術が施行されていた 33.偶発症は,2例で出血,1例で膵炎が出現していた.これまでの報告での観察期間中に転移・再発は認めず,遠隔転移やリンパ節転移のない十二指腸paragangliomaの内視鏡治療による制御は可能と考えた.polypectomyを行ったあとに急性膵炎を発症した症例も報告されており 30,胆管,膵管が合流し開口する十二指腸主乳頭の一部を切除するpolypectomyやEMRは,切除や焼灼に伴い,乳頭内の胆管,膵管を損傷することによる合併症が出現する可能性があると考えた.

Table 1 

内視鏡的に切除された十二指腸gangliocytic paragangliomaの報告例.

内視鏡的乳頭切除術は1983年に進行十二指腸癌に対する姑息的治療として本邦より報告された手技だが 40,現在では腺種や腺腫内癌例の低侵襲な診断的治療として認識されつつある 41),42.主乳頭を腫瘍とともに切除し,切除後に胆膵管にstentingを行う内視鏡的乳頭切除術は,十二指腸主乳頭部の解剖学的構造の特殊性を勘案すると,polypectomyやEMRに比べ胆管炎や急性膵炎などの合併症が少ない安全な治療であり,乳頭部を含めた病変の切除は完全切除を行うためにも有用であると考えた.しかしながら,内視鏡的乳頭切除術はアメリカ消化器内視鏡学会(ASGE)のガイドラインでは,膵炎が8~15%,穿孔が0~4%,出血が2~13%,胆管炎が0~2%,乳頭狭窄が0~8%,稀ではあるが死亡例も存在するとされており 43)~45,この手技の十二指腸乳頭部粘膜下腫瘍への適応に関するコンセンサスが完全には確立されていない現状においては,適応や偶発症,膵頭十二指腸切除術のmortalityなどを充分に説明し,患者本人や患者家族と相互に理解することは必須であると考える.内視鏡的乳頭切除術は偶発症の発症率が高くその対応に経験を要すること,遺残病変があった場合は追加切除として膵島十二指腸切除術が必要となるため,偶発症への対応が可能な胆道内視鏡医と複数の経験豊富な外科医のいる施設への症例の集積が重要と考える.

Ⅳ 結  語

内視鏡乳頭切除術で完全切除し得た十二指腸主乳頭部GPの1例を経験した.GPは本質的には良性腫瘍であり,過度に侵襲的な治療を避けるべきと考えられることと,その多くが膨大部領域近傍に発生することより,低侵襲な診断的治療である内視鏡的乳頭切除術は十二指腸GPの治療に有用であると考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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