日本消化器内視鏡学会雑誌
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日本住血吸虫症
山崎 健路 岩田 仁九嶋 亮治
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2019 年 61 巻 5 号 p. 1143-1144

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【症例】

症例:40代,女性.

主訴:なし.

現病歴:患者はフィリピン出身.20歳の時に日本に移住した.2017年X月,腎盂腎炎の診断.その際に施行した腹部単純CT検査で大腸壁に沿った石灰化を認めた.精査のため当科紹介となった.下部消化管内視鏡検査では直腸,S状結腸,下行結腸,上行結腸,盲腸に白色光観察で黄色調を呈する平坦な境界不明瞭な領域を認めた.NBI拡大観察で同部位にはクモ状血管様所見を伴っていた(Figure 1-a,b).周囲には網目状の構造を保った血管模様が観察された.腹部単純CT検査では同部位に腸管壁に沿った石灰化を認めた(Figure 2).腸間膜静脈にも石灰化を認めた.以上の検査所見から大腸上皮下,粘膜下に何らかの沈着物の存在が疑われた.生検による病理組織学的検査にて粘膜固有層から粘膜下層に,長径約50~100μmの円形・楕円形の卵殻様所見を多数認めた(Figure 3).本症例の出身地はフィリピン国内で知られる日本住血吸虫の濃厚な浸淫地であった.腹部CT検査・超音波検査では肝に異常所見を認めなかった.便中には虫卵を認めなかった.以上の検査所見,居住歴から陳旧性の日本住血吸虫症と診断した.

Figure 1 

a:下部消化管内視鏡検査(白色光):S状結腸の内視鏡所見.境界不明瞭で,平坦な黄色調領域を認める(黄矢印).

b:下部消化管内視鏡検査(Figure 1-aの赤点線領域のNBI拡大観察):クモ状血管所見が認められる(黄矢印).

Figure 2 

腹部単純CT:直腸,S状結腸に腸管壁に沿って石灰化が認められる(黄矢印).

Figure 3 

病理組織学的検査(HE,×200):S状結腸の黄色調粘膜所見の生検組織像(Figure 1-aの赤点線領域の生検).粘膜固有層から粘膜下層に円形,楕円形の卵殻様所見を多数認める(赤矢印範囲).

【解説】

日本住血吸虫症は1904年に日本で病原体が発見された人畜共通感染症である 1.幼虫(セルカリア)は淡水中に存在し,経皮感染した後に大循環に入り,腸間膜動脈を経て腸間膜静脈,門脈系の血管内に寄生する.成虫になると雄雌抱合し,血流に逆らい腸間膜静脈を下行,腸管壁に産卵する.急性期大腸病変の内視鏡所見はまとまった報告がされていないが,慢性期の大腸内視鏡所見として,不整形黄色斑,羽毛状・クモ状血管様の変化が知られている 2.鑑別としてアミロイドーシス,脂肪腫などが挙げられるが,患者の居住地等の問診にて本疾患を鑑別に挙げることが診断のきっかけとなる.病理組織学的に虫卵は腸管壁では粘膜下層,特に粘膜筋板直下に多く集積するとされる 3.多数の虫卵が産卵された場合,虫卵周囲の線維化・硝子化により腸管壁肥厚所見を呈する 3.本症例はフィリピン在住時,行政機関の指導で定期的に寄生虫薬の内服加療を行っていた.当院受診時,便中に虫卵は確認されず,陳旧性の日本住血吸虫症と診断した.腹部CT・超音波検査で肝に日本住血吸虫の感染を疑う所見を認めなかったが,フィリピン在住時に定期的に服用していた治療薬の影響が考えられた.

本邦ではある特定の地域に限って流行したが,1978年以降は新たな患者の報告はなく,1996年に本邦での終息宣言がなされた 1.そのため本邦での本疾患に対する認識・関心は薄くなりつつあり,本疾患に典型的な大腸内視鏡所見の認知度は低下していると考えられる.本邦で過去に感染した患者に遭遇する可能性は今後非常に稀となることが予想されるが,中国やフィリピンではいまだに流行がみられ 4),5,本症例のようにアジア諸国からの入国者,帰国者による輸入感染症として遭遇する可能性がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2019 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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