日本消化器内視鏡学会雑誌
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資料
大腸ポリープに対するコールドスネアポリペクトミーとホットスネアポリペクトミーの有用性と安全性の比較検討:システマティックレビューとメタ解析
篠﨑 聡小林 泰俊林 芳和坂本 博次レフォー アラン 瓦井山本 博徳
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2019 年 61 巻 6 号 p. 1272-1281

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要旨

【背景と目的】大腸ポリープに対する内視鏡的切除において,熱凝固を加えないでスネアで切除するコールドスネアポリペクトミー(CSP)と熱凝固を加えながらスネアで切除するホットスネアポリペクトミー(HSP)の比較研究がなされてきた.CSPとHSPの有効性と安全性をシステマティックレビューとメタ解析を用いて評価した.

【方法】大腸ポリペクトミーに関してCSPとHSPを比較したランダム化比較研究(RCT)のみを解析の対象とした.評価項目は,完全切除率,ポリープ回収率,遅発性出血率,穿孔率および所要時間である.Mantel-Haenszel random effect modelを用いてpooled risk ratio(RR)と95%信頼区間(CI)を算出した.

【結果】8つのRCT(症例数1,665名,切除ポリープ3,195個)に対しメタ解析を行った.完全切除率において,CSPとHSPは同程度であった(RR 1.02,95%CI 0.98-1.07,p=0.31).ポリープ回収率もCSPとHSPは同程度であった(RR 1.00,95%CI 1.00-1.01,p=0.60).遅発性出血率は,統計学的有意差を認めなかったもののHSPのほうがCSPより多い傾向にあった(症例単位:RR 7.53,95%CI 0.94-60.24,p=0.06,ポリープ単位:RR 7.35,95%CI 0.91-59.33,p=0.06).すべてのRCTで穿孔は報告されなかった.大腸内視鏡時間はHSPでCSPより有意に長かった(平均差 7.13分,95%CI 5.32-8.94,p<0.001).ポリペクトミー時間もHSPでCSPより有意に長かった(平均差 30.92秒,95%CI 9.15-52.68,p=0.005).

【結論】今回のメタ解析ではHSPと比較してCSPで所要時間が有意に短かった.また,遅発性出血率もHSPと比べてCSPで低い傾向にあった.したがって,小さな大腸ポリープに対するポリペクトミーにおいてCSPを標準的治療として推奨する.

Ⅰ 緒  言

大腸ポリペクトミーは大腸がんの罹患率ひいては死亡率を減少させることが知られている 1.たとえサイズが小さくてもすべての腺腫性ポリープを切除することをほとんどの内視鏡医は日常的に行っている.20世紀においては,熱凝固を加えながらスネアで切除するホットスネアポリペクトミー(HSP)が幅広く用いられていた.しかしながら,内視鏡医の技術にかかわらず1%未満の遅発性出血が避けられない.なぜならば,焼灼することによりHSP後に潰瘍が徐々に広がっていき粘膜下層の血管を損傷するからである 2),3.21世紀になってから,熱凝固を伴わずスネアでポリープ切除を行ういわゆるコールドスネアポリペクトミー(CSP)が,安全性の高さと所要時間の短さから欧米諸国からアジア各国で広く用いられるようになってきた 3),4

これまでにもCSPとHSPの有用性と安全性を比較した研究がいくつか報告されてきた.CSPの低い遅発性出血は報告されてきたものの 2),5,CSPは熱凝固を加えないため完全切除率が低いのではないかと疑問視されてきた 6.低い完全切除率は局所再発の危険性を高めてしまい,実際に局所再発が発生した場合には長時間かつ侵襲的な手技が必要になる場合がある.当然ながら,消化管腫瘍に対してポリペクトミーをするからには一括切除かつ病理断端陰性(R0 resection)は達成するべきである.安全性に関しては,HSPを施行する以上1%未満の遅発性出血は一般的に避けられない 4.サイズの小さい大腸ポリープにおけるmalignant potentialは一般的に低く,このようなポリープ切除において偶発症ゼロを目指すことは合理的である.今回のメタ解析の目的は,CSPとHSPの有効性と安全性を比較することである.

Ⅱ 方  法

今回のシステマティックレビューとメタ解析はInternational Prospective Register of Systematic Reviews(PROSPERO)に登録してから行われた(ID:CRD42018083234).本研究では,大腸ポリープの内視鏡的切除を対象としたCSPとHSPを比較したランダム化研究(RCT)のみを解析の対象とした.評価項目は,完全切除率,ポリープ回収率,遅発性出血率,穿孔率,所要時間とした.

検索条件

2018年2月20日の時点でMedline(PubMed),EMBASE,ISI the Web of Science,Cochrane Libraryを検索した.キーワードは以下の記載を用いた:(“colon”[MeSH Terms]OR “colonic polyps”[MeSH Terms])and(“humans”[MeSH Terms]AND English[LA]OR Japanese[LA])and(“adult”[MeSH Terms])and(“endoscopy,gastrointestinal”[MeSH Terms])and(“therapeutics”[MeSH Terms]).学会発表に関しては,米国消化器病学会週間(Digestive Disease Week),欧州消化器病学会週間(United European Gastroenterology Week),アジア太平洋消化器病学会週間(Asian Pacific Digestive Week)を検索した.言語は英語と日本語に限定した.

研究の絞り込み

二人の筆者(S.S.とY.K.)が独立してタイトルと抄録を評価した.重複のある出版・研究は除外した.抽出した論文の全文を評価し,さらに絞り込みを行った.二人の意見が一致しなかった時には,この二人以外の共著者と協議して同意を得た.

データ抽出および質の評価

以下のデータを抽出した:筆頭著者,出版年,研究期間,研究形態,研究が行われた国,症例数,年齢,性別,内視鏡的切除方法,スネアの種類,ポリープ数,大きさ,粘膜下局注,切除範囲,完全切除率,ポリープ回収率,遅発出血率,穿孔率,大腸内視鏡時間,ポリペクトミー時間.断端不明は,不完全切除に分類した.大腸内視鏡時間は,内視鏡が肛門に挿入されてから抜去されるまでの時間と定義した.共著者(Y.K.)がデータの確認を行った.記載されているデータで不明確な部分があった際には,直接著者に連絡をとりデータを提供していただいた.

バイアスリスク

バイアスリスクは,Cochrane risk of bias criteriaに基づいて評価した 7.この基準は,ランダム系列の生成,割り付けの隠蔽化,参加者と研究スタッフのブラインド化,アウトカム評価者のブラインド化,不完全なアウトカムデータ,選択的報告,その他のバイアスで構成されている.

統計学的解析

解析にはReview Manager 5.3 statistical software(Cochrane,Copenhagen,Denmark)を用いた.有用性と安全性は,95%信頼区間(CI)を用いたpooled risk ratio(RR)で評価した.研究間の多様性が大きいと判断したためRRの評価をMantel-Haenszel random effect modelを用いて行った.研究間異質性は,カイ二乗検定およびI2統計量で記載した.P値が0.05未満を統計学的に有意であると判断した.

Ⅲ 結  果

研究の絞り込み

メタ解析に必要な研究はFigure 1の手順で絞り込んだ.最初に選択された832個の研究のうちから,題名と抄録で816個除外した.残りの16個の研究から,4個の観察研究 8)~11,3個の熱凝固を伴わない鉗子ポリペクトミーとの比較研究 12)~14,1個の熱凝固を伴う鉗子ポリペクトミーとの比較研究 15の計8個を除外した.結果として8個のRCTが最終的にメタ解析の対象となった 2),5),16)~21

Figure 1 

メタ解析のフローチャート.

各RCTの特徴

研究が実施された国では,1つが中国 20,2つがギリシャ 16),21,4つが日本 2),5),18),19,1つがアメリカ 17であった.出版されたのは2011年~2018年であり,研究期間は2008年~2017年であった.1つのRCTで,CSPとHSPと熱凝固を伴わない鉗子ポリペクトミーの3群の比較研究があり,このRCTに関してはCSPとHSPの比較データのみ抽出した 17.その他は,CSPとHSPの2群のRCTであった.ポリープサイズは5-7mmが中心であった.完全切除率は7つ,ポリープ回収率は8つ,遅発性出血率は7つ,大腸内視鏡時間は3つ,ポリペクトミー時間は2つのRCTで評価されていた(Table 1).このメタ解析では1,665症例,3,195のポリペクトミーが含まれている.

Table 1 

メタ解析に含まれた8つのランダム化比較研究の背景.

スネアの種類

使用されたスネアはTable 2のとおりRCTにより多様である.1つのRCTではCSP専用スネアが一部の症例に用いられていた 21.それぞれのStudyで使用されたスネアの種類は異なるが,3つのRCTでCaptivator Ⅱ(Boston Scientific,Natick,MA,USA)が共通して用いられていた 18),19),21

Table 2 

大腸ポリープ切除に用いられたスネアの種類.

完全切除率

完全切除率は本研究における主要評価項目である.8つのうち3つのRCTで完全切除率の記載がなかったため,著者に完全切除率を問い合わせたところ2つのRCTに関して回答があった 2),5.結果として7つのRCTにおいて完全切除率を評価した(Figure 2-a).7つのうち3つのRCTでHSPの一部でポリペクトミー前に粘膜下局注を行っている 18),20),21,また1つのRCTでCSP前に粘膜下局注を行っている 21Table 1).7つのうち3つのRCTで過形成性ポリープを除外しているが 18)~20,残りの4つのRCTでは過形成性ポリープを含んでいる(Table 1).今回のメタ解析では「extended resection」の定義を1mm以上の周辺正常粘膜を巻き込んで切除することと定義した 22.この「extended resection」が記載されていたのは5つのRCTで,残りの3つのRCTでは詳しい切除方法については記されていなかった(Table 1).完全切除の定義については7つのうち3つのRCTでポリペクトミーした粘膜欠損辺縁からの生検に腫瘍性変化がないことをもって「完全切除」としており 18),20),21,残りの4つのRCTでは切除検体断端に腫瘍性変化がないこと(R0 resection)をもって「完全切除」としている 2),5),17),19Table 1).HSPとCSPで完全切除率は同程度であったが(95% vs 94%,RR 1.02,95%CI 0.98-1.07,p=0.31),研究間の異質性は高いと評価された(I2=61%)(Figure 2-a).

Figure 2 

メタ解析のフォレストプロット:hot snare polypectomy(HSP)とcold snare polypectomy(CSP)の比較.

a:完全切除率.

b:ポリープ回収率.

c:遅発性出血率(症例単位).

d:遅発性出血率(ポリープ単位).

e:大腸内視鏡時間(分).

f:ポリペクトミー時間(秒).

ポリープ回収率

8つすべてのRCTでポリープ回収率を報告していた.HSPとCSPでは,ポリープ回収率は同程度であり(97% vs 97%,RR 1.00,95%CI 1.00-1.01,p=0.60),研究間の異質性は低いと評価された(I2=0%)(Figure 2-b).

遅発性出血率

7つのRCTで遅発性出血率を報告しているが,実際に遅発性出血が発生したのは7つのうち2つのRCTで発生した.症例単位でもポリープ単位でもHSPのほうがCSPより多い傾向にはあったが統計学的に有意差は観察されなかった(症例単位:0.8% vs 0%,RR 7.53,95%CI 0.94-60.24,p=0.06[Figure 2-c],ポリープ単位:0.4% vs 0%,RR 7.35,95%CI 0.91-59.33,p=0.06[Figure 2-d]).また,研究間の異質性は低いと評価された(I2=0%).

穿孔率

8つすべてのRCTで穿孔の報告はなかった.したがって,比較は行っていない.

所要時間

所要時間は5つのRCTで検討されており,3つのRCTで大腸内視鏡時間,2つのRCTでポリペクトミー時間が報告されていた.大腸内視鏡時間は,HSPがCSPに比べて有意に長いことが示され(平均差 7.13分,95%CI 5.32-8.94,p<0.001),中等度の研究間異質性を示した(I2=41%)(Figure 2-e).2つのRCTでポリペクトミー時間を評価していた.1つのRCTではポリペクトミー時間の中央値のみの報告であったため,著者に問い合わせ,平均と標準偏差のデータをいただいた 18.1つのRCTでは,ポリペクトミー時間を鉗子口へのスネア挿入からポリペクトミー終了までと定義しており 18,もう1つのRCTでは,ポリープ発見からポリペクトミー終了までと定義している 20.ポリペクトミー時間は,HSPのほうがCSPより有意に長く(平均差 30.92秒,95%CI 9.15-52.68,p=0.005),研究間異質性は中等度と評価された(I2=53%)(Figure 2-f).

Ⅳ 考  察

今回のメタ解析ではHSPとCSPで完全切除率は同程度であった.ポリープ回収率もまたHSPとCSPで同程度であった.統計学的有意差を認めなかったものの,遅発性出血はCSPと比較してHSPに多い傾向にあった.また,CSPの所要時間はHSPと比較して有意に短かった.

完全切除は病変を適切に治療できたかどうかを評価する点で重要である.たとえ,ポリープが小さくかつ腺腫であったとしても,病理で断端不明あるいは断端陽性になることによりフォロー大腸内視鏡の間隔が狭まり,それ自体が患者の身体的負担増加および医療費増加につながっていく.熱凝固を伴わない鉗子によるポリペクトミーと比較して,CSPは所要時間を延長させることなく完全切除率を改善させることができることが報告されている 23),24.ちなみに熱凝固を伴わない鉗子によるポリペクトミーは,断端評価が困難となり残存腫瘍組織を増やす可能性があるため大腸ポリープ切除方法として推奨されない.今回のメタ解析では,HSPとCSPで完全切除率に有意な差は認められなかった.

今回のメタ解析では完全切除率の解析において強い研究間異質性を認めた.第一に,それぞれのRCTで切除範囲(粘膜欠損)が異なることがこの異質性が強くなる原因と考えられる.HSPにおいては,切除範囲および焼灼の度合いは内視鏡医によって異なり,それらが完全切除率に影響を与えている可能性がある.こういった切除方法の違いはHSPよりCSPにおいてより重要と考えられる,なぜならばCSPは焼灼効果がないため組織学的評価の際に切除断端の評価を困難にする可能性がある.われわれはCSPを行う際に周囲に1mm以上の正常粘膜を巻き込んで切除する「extended resection」により,遅発性出血を増加させることなく断端陰性でかつ一括切除(R0 resection)を増加させることができることを報告した 22.今回の7つのRCTのうち4つでこの「extended resection」が施行されているが,一方で残りの3つのRCTではこの「extended resection」を行っていたかどうか不明である.第二に研究間異質性が強くなる因子としては粘膜下局注の有無が挙げられる.7つのうち3つのRCTでHSP施行前に粘膜下局注した症例が含まれている.粘膜下局注による粘膜挙上は周辺粘膜マージンを確保することを容易にすると考えられている.しかしながら,中国からのRCTでは粘膜下局注をしてもしなくても完全切除率に影響を与えないとされている 25.それゆえに,HSPにおいて各RCTで粘膜下局注がどれだけ完全切除率に影響を与えたかどうかは不明ではある.とはいえ,ポリペクトミー前の粘膜下局注がこのメタ解析の異質性を強めた可能性は否定できない.第三に,「完全切除」の定義が各RCTにより異なることがさらに異質性を高めると考えられる.7つのうち3つのRCTで,ポリペク後粘膜欠損辺縁からの組織生検で腫瘍組織が得られないことをもって「完全切除」と定義している.一方で残りの4つのRCTでは一括切除できてかつ断端に腫瘍性病変を認めないこと(R0 resection)をもって「完全切除」と定義している.この異なる定義での「完全切除」の評価が研究間異質性を増幅していると考えられる.第四に,Table 2で示すように様々なタイプのポリペクトミースネアが用いられている.最近の日本のRCTではCSPを施行する際に従来のスネア(Snare Master,Olympus,Tokyo,Japan)と比較して専用スネア(Exacto cold snare,US Endoscopy,Mentor,Ohio)のほうがR0 resection rateが高いとの報告がありスネアの種類により「完全切除」が影響を受ける可能性がある 26.第五に,過形成性ポリープを含むRCTと含まないRCTが混在している.これらの因子が完全切除率における研究間の異質性が強いことを説明しうる.

ポリープ切除後の回収率は組織学的評価に必須であり,最適な内視鏡フォロー期間や追加治療を検討したりするために重要である.今回のメタ解析ではHSPとCSPでポリープ回収率は同程度であった.近年,“predict-resect-and-discard”という「組織型を予測し切除し回収しない」という方法も提唱されている.これは,近年の拡大内視鏡およびnarrow band imagingやflexible integrated color enhancementなどの画像強調観察内視鏡の進化により過形成性病変と腫瘍性病変を鑑別しやすくなったことに由来する考え方である 27.しかしながら,この方法は進行した腫瘍性病変の不完全切除を見逃すリスクを負っている.たとえ小さな大腸ポリープが悪性である可能性が低いとしても無視できるものではない.Repiciらは5mm以下の大腸ポリープの9%(43/492)はhigh grade dysplasiaなどの進行腫瘍病変を含んでいることを報告している 28.完全な病理検査のためのポリープ回収の重要性については今後十分に検討されるべきである.

大腸ポリープ切除後の遅発性出血は大量の血液による視界が悪いなかで止血を目的とした緊急大腸内視鏡が必要となる場合がある.また,遅発性出血により緊急入院や輸血を必要とする場合もある.HSPと比較してCSPにおいてはポリペクトミー施行中の出血が多いことが指摘されている 16.しかしながら,一般的にポリペクトミー施行中の出血に関しては内視鏡医の目の前で発生しておりクリップや焼灼で容易に止血できる.翌日以降に発生する遅発性出血は電気焼灼による組織損傷・壊死の拡大により血管が傷つけられ発生すると考えられている.Suzukiらはポリペクトミー後の翌日以降の粘膜欠損の変化をHSPとCSPで比較し,HSP後において翌日粘膜欠損が拡大しており,CSP後においては縮小していた 19.また,HSPで切除した標本ではCSPで切除した標本より多くの粘膜下層組織を含んでいた 19.Horiuchiらは組織評価においてCSPで切除した標本よりHSPで切除した標本でより粘膜下層の動脈が傷害されていることを報告している .それゆえに,HSPは熱凝固により粘膜下層の動脈を傷害しやすい傾向にあり,切除後に拡大する組織変性が動脈を傷つけ遅発性出血が発生すると推定される.最近の傾向スコアを用いた大規模後方視研究ではCSPと比較してHSPで有意に出血が多かったが 11,今回のメタ解析では統計学的有意差まで達しなかった.CSP後の遅発性出血は非常に頻度が低いと考えられているものの,HSP後遅発性出血の頻度がそもそも低く,RCTに含まれる人数は後方視研究より少ないことからRCTのみのメタ解析では有意差を出すまでの症例数が十分でなく有意差が出なかったと考えられる.遅発性出血におけるCSPとHSPの頻度の比較に関してはより今後も多くの研究が必要と考えられる.

今回のメタ解析では,3つのRCTでの大腸内視鏡時間を,2つのRCTでのポリペクトミー時間を解析した.すべてのRCTでHSPと比較してCSPでより短い所要時間であった.CSPは熱凝固が必要ないため,HSPを施行するのに必要な高周波焼灼電源装置の準備や患者への電極板装着が必要なく時間短縮になる.また,CSPは電極板のコストを削減することができる.長い時間の大腸内視鏡は患者の腹部不快感や腹痛につながり,短い時間の大腸内視鏡は医療機関にとって一日の大腸内視鏡件数を増加させることができる.短いポリペクトミー時間は患者と医療機関の双方にとって有益である.

当然のことながら,CSPの適応は悪性の疑いのない小さな大腸ポリープに限られるべきである.たとえ小さな大腸ポリープであっても悪性を疑う所見が少しでもある場合には迷わず粘膜下局注後に熱凝固を用いたポリペクトミーを行うべきである.なぜなら,CSPでは粘膜筋板が切れない場合が多いからである 29.CSPによる浅い切除は,進行した腫瘍性病変の垂直断端を陽性あるいは不明にしてしまう可能性がある.最近の報告では5mmの直腸ポリープでさえ,CSP施行後に3カ月で局所再発し,その後手術してみると漿膜浸潤癌であったという報告もある 30.それゆえにCSP前の慎重な内視鏡観察が重要である.また,粘膜不整を詳細に観察するために特殊光を用いた拡大観察を日常的に行うべきである.

今回のメタ解析ではいくつか限界がある.第一に,解析に入ったRCTが8つと比較的少ない.第二に,スネアの種類,ポリープのサイズ,ポリペクトミーの方法,粘膜下局注の有無,内視鏡医・病理医の技量がRCT間で異なる.第三に,局所再発の有無といった長期予後が評価されていない.R0 resection自体は未来の局所再発の可能性は排除できるものではない.また,R0 resectionの達成はHSPよりCSPでより重要だと考える,なぜならばHSP後の焼灼効果は顕微鏡的残存病変を排除できる可能性がある.また,小さな大腸ポリープに対する2mm間隔の病理診断は残存病変の存在を完全に否定できるとは限らない.それゆえに,大腸内視鏡による長期的フォローで局所再発を評価することのほうがR0 resection達成率よりも局所再発リスクを正確に評価できる.第四に,1つのRCTのみ抗凝固薬を内服した患者を対象としており,そのRCTは遅発性出血率において有意な差を示している

今回のメタ解析は,HSPと比較してCSPにおいてより短い所要時間を示した.また,CSPは遅発性出血率がHSPと比較して少ない傾向にあった.CSPは小さな良性の大腸ポリープを切除するのに標準的な方法となりつつあるが,完全切除率の改善のためには専用スネアを用いて周囲の正常粘膜を巻き込んで切除する方法が検討されるべきである.小さな大腸ポリープ切除に際して,注意深い内視鏡観察により進行癌が除外される場合に限り,処置時間の短いCSPが第一選択となりうる.

謝 辞

出版されていないデータを提供していただきました昭和伊南総合病院消化器病センターの堀内朗先生と京都第二赤十字病院消化器内科の河村卓二先生に深く感謝します.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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