日本消化器内視鏡学会雑誌
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原著
下部消化管内視鏡検査における女性内視鏡医へのニーズ
川崎 梓吉田 尚弘 土山 寿志
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2019 年 61 巻 7 号 p. 1388-1394

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要旨

【背景・目的】下部消化管内視鏡検査を行う内視鏡医の性別に対する被検者の要望については十分に検討されていない.女性内視鏡医へのニーズを明らかにすることを目的に本研究を計画した.【方法】下部消化管内視鏡検査を受ける1,157人(男性被検者677人,女性被検者480人)を対象に検査前後のアンケート調査を行った.【結果】検査前では,女性内視鏡医を希望する割合(男性被検者/女性被検者)は0.9%/25.8%であった(P<0.01).女性被検者のうち,50歳未満の47.3%(P<0.01),検査未経験者の39.7%(P<0.01)が女性内視鏡医を希望した.検査後では,女性内視鏡医に検査された女性被検者の52.6%(P<0.01)が次回も女性内視鏡医を希望した.【結論】女性被検者は男性被検者に比べ女性内視鏡医を希望する割合が高く,若年被検者や検査未経験者でその傾向がより顕著であった.

Ⅰ 緒  言

下部消化管内視鏡検査はスクリーニングや疾患精査において有用な検査である.2016年度の癌による死因統計では大腸癌が男性で3位,女性で1位であったこと 1や,炎症性腸疾患の罹患率が年々上昇傾向であること 2から,下部消化管内視鏡検査の重要性は増してきており,検査の対象となる被検者は男女とも増加していくものと考える.

しかしながら,下部消化管内視鏡検査は羞恥心や不安を伴うため被検者からは敬遠されやすく,この傾向は女性においてより強いものと考えられる.女性だけが受ける乳癌や子宮癌検診では,女性医師による診療を望む傾向について既に本邦で報告されており,羞恥心から診療の機会を逃すことがないように対応している施設も少なくない 3)~5.一方,下部消化管内視鏡検査については,女性被検者が女性内視鏡医を好むとする欧米の報告は多数ある 6)~9ものの,本邦では女性被検者を対象とした小数例の報告が1報 10のみであり,十分な検討が行われていないのが現状である.

今回われわれは,下部消化管内視鏡検査における女性内視鏡医への被検者のニーズを明らかにすることを目的として,下部消化管内視鏡検査を受ける男女の被検者を対象としたアンケート調査を実施した.

Ⅱ 対象と方法

本研究は単施設の前向きアンケート調査である.石川県立中央病院の倫理委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言に従って行われた.

2015年9月から2016年3月の期間に当院で下部消化管内視鏡検査を受ける予定の被検者のうち,本研究に同意を頂けた連続1,157人(男性677人,女性480人)を対象とした.緊急処置目的や重篤な基礎疾患を有する患者,その他,担当医が不適当と考える患者は除外した.本研究では若年者を含めた被検者の意識調査を行うために,年齢制限は設けなかった.

検査を担当した内視鏡医は13人で,男性医師が日本消化器内視鏡学会専門医(以下,専門医)7人と非専門医4人の計11人,女性医師が専門医1人と非専門医1人の計2人であった.すべての検査で盲腸までの全大腸観察が行われたが,非専門医が行った検査の中には専門医への交代が行われたものもあった.

下部消化管内視鏡検査の方法は,検査前日にSennoside 24mg投与,検査当日に腸管洗浄液hypertonic polyethylene glycol 2L,または腎機能障害を認める場合はisotonic polyethylene glycol 2Lを経口投与した.前投薬は,鎮痙剤への禁忌のない被検者にはScopolamine butylbromide 10mg,それ以外の被検者にはglucagon 0.5mgの経静脈投与を行った.また希望があれば検査前にdiazepam 5mgの経静脈投与を行い,疼痛が強い場合にはdiazepamやpentazocineを追加で使用した.内視鏡はオリンパス株式会社製のCF-Q260AIまたはPCF-Q260AZIを使用した.

アンケート調査は下部消化管内視鏡検査の前後に行った.検査前アンケートの項目は,年齢,性別,検査目的(腹部症状の原因精査,スクリーニング),下部消化管内視鏡検査既往,希望する担当内視鏡医の性別とその理由とした.また検査後アンケートの項目は,検査のつらさ,次回に希望する担当内視鏡医の性別とした.希望する担当内視鏡医の性別は,①男性医師を強く希望,②男性医師を希望,③男性医師をできれば希望,④どちらでもよい,⑤女性医師をできれば希望,⑥女性医師を希望,⑦女性医師を強く希望の7段階評価とし,①~③を男性医師希望,⑤~⑦を女性医師希望とした.検査のつらさは,①とても楽だった,②楽だった,③少しだけ楽だった,④普通,⑤少しだけつらかった,⑥つらかった,⑦とてもつらかったの7段階評価とし,①~③を楽だった,⑤~⑦をつらかったとした.

主要評価項目として,検査前アンケートにおける担当内視鏡医に男性医師を希望する割合と女性医師を希望する割合を被検者性別毎に検討した.また年齢,検査既往,検査目的でのサブグループ解析も行った.検査後アンケートにおいては,検査を行った医師の技量や鎮静剤の使用が回答に影響を与えると考えられたが,アンケートからこれらの項目を把握することは困難なため,被検者の感じた検査のつらさをそれらの代用としてサブグループ解析を行った.

統計処理はχ二乗検定を行い,有意水準0.05未満を統計学的に有意差ありとした.

Ⅲ 結  果

①検査前アンケート

対象(男性被検者/女性被検者)の平均年齢は63.3歳/62.0歳であった(Table 1).全被検者を対象とした担当内視鏡医の性別への希望をFigure 1に示す.担当内視鏡医として男性医師を希望する割合は,男性被検者で32.3%(219人/677人),女性被検者で12.7%(61人/480人)であった(P<0.01).一方,女性医師を希望する割合は,男性被検者で0.9%(6人/677人),女性被検者で25.8%(124人/480人)であった(P<0.01).また,担当内視鏡医として同性医師を希望する割合は,男性被検者の方が女性被検者に比べ有意に高かった(P<0.05).年代別でみてみると,女性被検者では年齢が若いほど女性内視鏡医を希望する割合が高くなる傾向があった(Figure 2).

Table 1 

被検者背景.

Figure 1 

担当内視鏡医性別に対する検査前希望.

Figure 2 

年代別の担当内視鏡医性別に対する検査前希望.

次に女性被検者(480人)におけるサブグループ解析を示す(Figure 3).年齢別では50歳未満の93人中44人(47.3%,P<0.01),検査既往別では下部消化管内視鏡検査未経験者の131人中52人(39.7%,P<0.01)が女性内視鏡医を希望したが,検査目的別では有意差を認めなかった.女性被検者が女性内視鏡医を希望する理由(複数回答あり)としては,恥ずかしくない(62人),相談しやすい(38人),リラックスできる(35人),安心できる(23人),主治医である(11人)が挙げられた.

Figure 3 

女性被検者における担当内視鏡医性別に対する検査前希望.

②検査後アンケート

女性被検者に限定し,実際の担当内視鏡医性別毎に,次回の検査で男性内視鏡医を希望する割合と女性内視鏡医を希望する割合を比較すると,女性内視鏡医による検査を受けた78人中41人(52.6%,P<0.01)が次回も女性内視鏡医を希望した(Figure 4).尚,男性内視鏡医による検査を受けた女性被検者と女性内視鏡医による検査を受けた女性被検者において,検査がつらかった割合はそれぞれ52.0%と59.0%で有意差は認めなかった(P=0.26).

Figure 4 

女性被検者における担当内視鏡医性別に対する検査後希望.

さらに男性内視鏡医による検査を受けた女性被検者402人に限定しサブグループ解析を行うと,50歳未満の66人中19人(28.8%,P<0.01),下部消化管内視鏡検査未経験者の101人中23人(22.8%,P<0.01)が有意に次回の検査に女性内視鏡医を希望したが,検査目的別では有意差を認めなかった(Figure 5).

Figure 5 

男性内視鏡医による検査を受けた女性被検者における担当内視鏡医性別に対する検査後希望.

Ⅳ 考  察

今回われわれは,下部消化管内視鏡検査における女性内視鏡医への被検者のニーズを明らかにすることを目的として,下部消化管内視鏡検査を受ける男女を対象とした大規模な前向きアンケート調査を実施した.その結果,女性被検者は男性被検者よりも女性内視鏡医を希望する割合が高く,若年または下部消化管内視鏡検査未経験者ではその傾向がより顕著になることが判明した.

女性特有の疾患である乳癌や子宮癌においては,女性医師による診療を望む傾向が強いことが以前より報告されており,同性スタッフのみで対応している施設も少なくない 3)~5.小林ら 4は,女性医師や検査技師による対応が,乳癌検診受診の促進要因であり,また渡部ら 5も,女性スタッフによる対応が安心感につながり,検診の受診率向上に大きく寄与すると報告している.さらに西村ら 3は,男性患者の59.7%がかかりつけ医の性別を問わないのに対し,女性患者の73.5%が同性かかりつけ医を希望していると報告している.一方で,下部消化管内視鏡検査も羞恥心を伴う検査であることから担当内視鏡医の性別に対する被検者の希望が存在することは容易に想像されるが,まだ十分に検討されていないのが現状である.本邦からは女性被検者110人を対象としたアンケート調査の報告が1報のみあり,女性被検者の56%が女性内視鏡医を希望すること,特に50歳未満の若年者や下部消化管内視鏡検査未経験者が有意に女性内視鏡医を希望すること,その理由として同性であるという安心感や恥ずかしくないことを挙げていることを報告している 10.われわれは対象に男性被検者を加えた上に対象数を大幅に増やしたアンケート調査を行ったところ,女性被検者は男性被検者と比較しても女性内視鏡医を希望する割合が有意に高いことが示された.また既報 10と同様に,女性被検者が,女性内視鏡医を希望する傾向は検査後でも認めた.検査後の結果は,検査のつらさには関係なく,実際の担当内視鏡医が同性医師であった女性被検者の半数が次回も同性内視鏡医を希望し,また男性医師であった女性被検者の内,特に50歳未満の若年者や下部消化管内視鏡検査未経験者において,有意に次回は女性医師を希望した.これらの結果より,女性内視鏡医の存在は女性被検者の継続的な受診に寄与する可能性が示唆された.

近年,本邦における大腸癌は,男女共に罹患率,死亡率とも増加の一途を辿っており,特に女性における部位別の罹患率は第2位,死亡率は第1位である 1.癌による死亡数減少には予防対策が重要であるが,大腸癌においては除去可能な決定的な発癌要因は不明であることから予防策を講じることは困難であり,早期発見・早期治療が重要となる.大腸癌検診が死亡率減少に効果があることは既に証明されており 11)~15,Meester 15らは,大腸癌検診率80%を達成することで,約28万人の新規発症と約20万人の死亡が抑制できると報告している.しかしながら,女性では便潜血検査受診率が40~69歳で38.5% 16,全女性に占める精密検査を受けた女性の割合は男性のそれに比べ低く0.32%であった 17.便潜血検査の受診率が低いのみならず,要精査患者における精密検査受診率が低いことは問題である.要精査となった女性の精密検査受診率が低いことについては,内視鏡検査医の多くが男性医師であるために女性被検者の同性医師を希望するというニーズを満たしていないことも一因と考えられ,女性が大腸癌の早期発見の機会を逃すことにつながることが危惧される.

女性被検者に対して内視鏡医の性別に対するニーズを満たしつつ有用な検査を提供するためには,熟練した女性内視鏡医の増加が望まれる.しかしながら,2016年時点での女性の内視鏡学会会員占有率は13.9%(4,713人)であり,皮膚科医の41.5%,小児科医の32.2%,ならびに産婦人科医の30.1% 18に比べ非常に少ない.さらに下部消化管内視鏡検査に熟練した女性医師となると,女性被検者のニーズに応えるほど充足しているとは考え難い.このような現状では,女性内視鏡医による検査を,女性被検者の中でも女性医師を希望する割合が高かった若年者や検査未経験者に絞り込むことも検討の余地があると考えられる.

本試験にはいくつかの限界がある.1つ目は,男性内視鏡医へのニーズに対する検討が不十分なことである.これは本試験が絶対数の少ない女性内視鏡医へのニーズに主眼を置いたためではあるが,同性内視鏡医を希望する割合は男性被検者が女性被検者を上回っていたことが本試験で明らかとなっており,この興味深い点については今後さらなる検討を行う予定である.2つ目は,単施設における研究であるという点である.今回の対象患者集団に偏りが生じている可能性は否定できず,多施設での検討も望まれる.

Ⅴ 結  論

下部消化管内視鏡検査における女性被検者は,男性被検者より女性内視鏡医を希望する割合が高く,若年被検者または下部消化管内視鏡検査未経験者ではその傾向はより顕著であった.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:土山寿志(オリンパス㈱)

文 献
 
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