日本消化器内視鏡学会雑誌
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米国多施設での過去20年以上のデータから確認された,バレット食道症例における初回内視鏡時の高度異形成および腺癌有病率の増加
炭山 和毅
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2019 年 61 巻 7 号 p. 1476

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【緒言】バレット食道症例の初回内視鏡時に発見された異形成や食道腺癌(esophageal adenocarcinoma:EAC)について,継時的変遷を推量できるデータは少ない.本研究の目的は,過去25年間に初回内視鏡時に発見された,バレット食道を発生母地とする異形成やEACの概要を明らかにする事である.

【方法】The Barrett’s Esophagus Studyは,大規模コホートを用いバレット食道のアウトカム評価を行うために発足した多施設共同研究グループである.研究参加施設において実施されたバレット食道症例に対する初回内視鏡所見を,異形成なし(no dysplasia:NDBE),低度異形成(low-grade dysplasia:LGD),高度異形成(high grade dysplasia:HGD),および,EACに分け,その割合を一年ごとに抽出し,さらに1990年から2010+(2010年から現在)まで5年ごとに集計した.初回内視鏡時の各異形成(LGD,HGD,EAC,and HGD/EAC)の有病割合を内視鏡所見とともに評価し,過去25年間の変遷を明らかにする事で,バレット食道を発生母地とする異形成や腺癌の検出力の変化を観察した.統計学的解析にはSAS version 9.4(SAS,Cary,NC)が用いられた.

【結果】計3,643例の初回内視鏡所見が解析された結果,NDBEが2,513例(70.1%),LGDが412例(11.5%),HGDが193例(5.4%),EACが181例(5.1%)に認められた.年代が進むに従い,バレット食道症例の平均年齢の上昇(51.7±29 vs 62.6±11.3),男性割合の増加(84% vs 92.6%),また,バレット食道長の短縮(4.4±4.3cm vs 2.9±3.0cm)が認められた(1990-1994 vs 2010-2016).1990年から2016年までの期間,LGDの有病率がほぼ一定であったのに対し,HGDとEACの有病率,およびその合計は有意に増加していた(HGD:148%,EAC:112%)(P<.001).また同時期の,初回内視鏡時に視認し得た病変の発見率も同様に有意な増加が認められた(1990-1994:5.1%,2005-2009:6.3%,2010+:16.3%).

【結語】過去25年間,バレット食道長が短くなっていたにも関わらずHGDやEACの有病率は有意に増加していた.また,この有病率の増加傾向は内視鏡的に視認可能な病変の発見率の増加傾向と類似しており,初回内視鏡時の注意深い観察の重要性を示唆する結果であった.

《解説》

バレット食道はEACの発生母地として知られ,欧米では内視鏡的サーベイランスの対象となっている.また,EACの大半は初回の内視鏡もしくは,それから1年以内に発見されることが多いと報告されている.一方,EACの4分の1は,初回内視鏡後一年以内に発見されていることから初回内視鏡時にEACが少なからず見落とされているのではないかと考えられている.American Collage of Gastroenterologyをはじめとする欧米の学会は,バレット食道のスクリーニング方法やバレット食道を発生母地とする異形成や腺癌の臨床的取り扱いについてガイドラインを提唱している.今回検討対象となった全米6施設のデータでは,過去20年以上に渡り,年々より多くのHGDやEACが内視鏡的に視認可能な病変と共に初回内視鏡時に発見されるようになっていた.ただし,今回の傾向が,内視鏡観察法や技術の改善によるものか,それともHGDやEACの有病率が増加していることによるものか,また,非バレット食道症例も含めた場合でも同様の傾向が認められるかは,今回の後ろ向き研究の結果から説明することはできない.しかし,この大規模コホート研究において,バレット食道長は短くなる傾向にあり,バレット食道長について調整後もHGDやEACの発見率の増加が確認されたことから,バレット食道症例のスクリーニング方法は年々改善傾向にあるものと示唆される.

文 献
 
© 2019 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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