日本消化器内視鏡学会雑誌
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内視鏡室の紹介
大阪市立大学医学部附属病院 内視鏡センター
責任者:藤原靖弘  〒545-8586 大阪府大阪市阿倍野区旭町1-5-7
大南 雅揮永見 康明
著者情報
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2019 年 61 巻 8 号 p. 1599-1603

詳細

概要

沿革・特徴など

当院は,1925年10月に前身である市立市民病院(のちに市立南市民病院と改称)として創立された.1944年4月に大阪市立医学専門学校が設立され,同附属病院となり,その後,1949年4月に大阪市立医科大学が開設され,同附属病院となった.1955年4月に大阪市立医科大学は大阪市立大学へ編入されて医学部となり,これに伴い大阪市立大学医学部附属病院となった.1993年5月に現所在地に新築移転され,それに伴って内視鏡センターが開設された.1998年に内視鏡センターの大幅な増築および検査室の個別化,動線の短縮,清潔・不潔区域の明確化,洗浄室の独立,換気システム,リカバリーベッドの設置の導入などの改築が実施され,現在に至っている.

大阪市内唯一の大学病院であり,37診療科・898の病床を有し,地域医療における中核病院として,高度な総合医療機関の役割を担っている.医学部建学の精神である「智・仁・勇」を基本理念とし,市民の健康に寄与する質の高い医療の提供,こころ豊かで信頼できる医療人の育成,医療の進歩にたゆまぬ努力の継続などを基本方針として病院の体制を整備している.また,厚生労働省より地域がん診療連携拠点病院として指定を受け,日本内科学会認定施設であるとともに,日本消化器病学会,日本消化器内視鏡学会,日本消化管学会などの消化器関連の学会の認定施設としても機能を果たしている.

組織

内視鏡センターは,病院内の中央診療部門として独立した組織となっており,現在,センター長の藤原靖弘,副センター長の永見康明,看護師長の伊藤正子が中心となって運営している.業務は,消化器内科,消化器外科,呼吸器内科,呼吸器外科の各科の医師が内視鏡検査・治療などの診療を行っている.

検査室レイアウト

 

 

 

当内視鏡センターの特徴

内視鏡センターは病院の地下1階に位置し,受付,待合室,前処置エリア,内視鏡検査室(5室),X線TV室(透視室)(2室),リカバリーエリア(6床),内視鏡洗浄室,多目的トイレ(2室),カンファレンス室,医師控室,看護師控室などから構成され,総床面積は333m2である.ほぼすべての内視鏡診療を内視鏡センター内で一貫して行えるため,効率的な業務が可能となっている.

上部消化管内視鏡,下部消化管内視鏡,小腸内視鏡,カプセル内視鏡,気管支鏡など,多岐に渡る内視鏡を保有しており,様々な症例に対する内視鏡診療が可能である.内視鏡情報管理システムには富士フイルムメディカル社製のNEXUSを導入しており,内視鏡画像のファイリング,所見入力,看護記録,スコープの使用履歴,洗浄記録までのすべてを一括管理している.また,各内視鏡検査室・X線TV室には,タブレット型の内視鏡システム端末を配置しており,過去のデータを閲覧・対比しながら検査を施行することもできる.全内視鏡検査室・X線TV室の内視鏡の映像は,カンファレンス室の大型モニターから常時モニタリングできるようにしており,診療のみならず教育や指導にも広く用いている.

年間総件数は約10,000件であり,上部消化管内視鏡検査100件/週,下部消化管内視鏡検査30件/週,ダブルバルーン・シングルバルーン小腸内視鏡検査4-5件/週,カプセル内視鏡1-2件/週,大腸ポリペクトミー・EMR7-8件/週,ESD7-8件/週,ERCP 10件/週,EUS 15件/週,EBD5件/週,気管支鏡10件/週の内視鏡業務を行っている.午前は上部消化管内視鏡検査やEUSなどの診断を,午後は下部消化管内視鏡検査や治療手技を中心に行っている.X線TV室は2室が対面となっており,また内視鏡センター専属の放射線技師が1名配属されているため,ERCP関連手技や気管支鏡などの透視が必要な検査・治療を同時に並行して効率よく行うことができる.内視鏡検査数に対してリカバリーベッドが少ないため,鎮静剤の使用については症例を選定して行っている.また,夜間・休日の緊急内視鏡においては,医師3名(オンコール),看護師1名(夜勤)の体制で対応している.その他,POEMや咽頭ESDなどの全身麻酔が必要な症例に関しては,手術室で行っている.

スタッフ

(2019年1月現在)

医   師:消化器内視鏡学会 指導医15名,消化器内視鏡学会 専門医8名,その他スタッフ41名,研修医など3名

内視鏡技師:Ⅰ種2名

看 護 師:常勤11名,非常勤13名

事 務 職:1名

そ の 他:放射線技師1名,内視鏡洗浄員5名

設備・備品

(2019年1月現在)

 

 

実績

(2018年1月~2018年12月まで)

 

 

指導体制,指導方針

近年は内視鏡診療が多様化し,医療安全の重要性も認識されるところとなり,当院では内視鏡診療をトータルにマネージメントできる内視鏡医の育成を目指している.当科では若手医師の教育用として内視鏡のポケットマニュアル『上部・下部消化管内視鏡研修のskill & spirit』を出版しており,内視鏡研修の心得,基本的な内視鏡の操作法・観察法,内視鏡検査・治療の手順など,内視鏡診療の入門に必須となる項目については,これに準じて指導している.

初期研修医および専攻医は,まず上部消化管内視鏡の研修から開始する.上級医の検査を見学してレポートを作成(10症例)し,トレーニングモデルを用いて基本的操作を習得のうえ,検査を担当できるようになる.引き抜きから開始し,検査数や技量に応じて,挿入,生検手技など適宜ステップアップする.上部消化管のスクリーング検査が可能なレベルまでの技術を習得した専攻医は,下部消化管内視鏡の研修へ進む.上級医の検査を見学してレポートを作成(10症例)し,トレーニングモデルを用いて挿入法の練習を行い,当院に在籍する本学会指導医が審査するモデルを用いた大腸挿入の試験に合格したうえで,検査を担当できるようになる.時間制限を設けたうえで挿入から開始し,検査数や技量に応じて,引き抜きや生検などの簡単な手技など適宜ステップアップする.

当院での専門的な内視鏡診療の研修を希望する医師は後期臨床研究医として配属される.拡大・画像強調観察,ESD,ERCP,EUS(EUS-FNAを含む),小腸内視鏡など各専門領域における内視鏡診断・治療をほぼ並行して幅広く研修し,習熟度に応じて適宜ステップアップする.希望に応じて専門領域を選択し,より専門性の高い研修へ進むこともできる.

週3回の上部消化管内視鏡検査終了後にカンファレンスを実施し,1週間前に施行した全症例・全画像を全員で供覧し,レポートと生検診断の確認を行っている.また,週に1度,ESDカンファレンス,ERCP・EUS-FNAカンファレンスを実施し,術前後の症例提示を行っている.さらに,定期的に複数診療科合同で開催される食道・胃・大腸・肝胆膵の各カンファレンスにも参加している.不定期であるが,専攻医を対象に内視鏡診療に関する基本的知識の講義やトレーニングモデルを用いたミニレクチャーを開催したり,当院および関連病院の若手医師を対象にブタの切除臓器を用いたESDハンズオンセミナーを開催している.

臨床研究においても,内視鏡診療などを通じて得られるクリニカルクエッションを共有し,新たな臨床研究の構築・実施,学会・論文発表を積極的に行っている.また,新しい内視鏡所見や疾患を見つけ出すプロジェクト(F-PROJECT)を立ち上げ,データベースより症例を抽出している.最近では内視鏡診療に関わる動物実験なども実施しており,研究の幅が広がってきている.

現状の問題点と今後

近年の内視鏡診療の進歩は目覚ましく,多様化かつ専門性が高くなってきているが,大学病院の内視鏡センターという立場上,その需要は年々増加してきている.高度な診療レベルを維持するためには,内視鏡医やコメディカルスタッフの人員の確保や,設備・医療機器の拡充は必要不可欠であるが,現地点では十分ではなく,問題点であると考えている.

人員については,まず専門的な内視鏡検査・治療や緊急内視鏡の件数が増加している一方で,これらを施行できる医師が限られているため,内視鏡業務を並列して行えず,時間外にずれこむこともある.看護師も慢性的な人員不足であり,通常の検査枠では複数の検査室を兼務している.また,看護師の人事は勤務部署の年数で決定されることが多いため,内視鏡技師の資格を取得しても,すぐに異動となってしまうことが多く,有資格者で経験豊かなスタッフが少ないことも問題である.現状は,事前に医師・看護師のスタッフ同士で検査・治療のスケジュールを相談し,限られたマンパワーの中で内視鏡業務を安全かつ円滑に運営できるように試行錯誤しながら取り組んでいる.今後さらに多様化・専門化し,件数も増加していく内視鏡業務に対応できるように,人材面の充実に努めていきたいと考えている.

施設については,内視鏡件数の増加に伴い,それに見合うだけの前処置スペースやリカバリースペースがなくなってきている.さらに,鎮静を希望される患者が増加し,鎮静下での内視鏡検査枠を増加させているが,リカバリースペースが不足してきており,今後はリカバリー室の確保・拡充が必要である.さらに,前処置室がないため,外来で下部消化管内視鏡検査を実施する患者には,腸管洗浄剤を自宅で内服してもらっている.そのため,前処置不良であったり,定刻通りに受診できなかったりする場合があり,検査に支障が出ることがある.このように前処置の質の改善も課題のひとつである.現状のニーズに沿った内視鏡センターの増築や改装などを要望しているところである.

教育については,新内科専門医制度が開始され,数カ月毎に専攻医がローテートするため,これまでのように十分な内視鏡研修が実施できなくなることが考慮される.消化器内視鏡のサブスペシャリティ研修も含め,今後の対応を検討していく必要がある.

上記の問題点に取り組みながら,安全でかつ質の高い内視鏡診療を提供できるように,日々研鑚していきたいと考えている.また,教育システムの充実を含め,臨床研究など学術的活動も積極的に行い,国内外へ発信していけるように努めていきたい.

 
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