日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
2チャンネルスコープを用いたダブルバルーン拡張術が奏効した腸石嵌頓の1例
于 志峰 柴田 亮介西田 悠野村 祐介多田 秀敏前田 哲男
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2020 年 62 巻 1 号 p. 59-64

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要旨

70歳男性,肺炎で入院中,腹痛が認められたために当科に紹介となった.腹部単純CTでは回腸末端に複数の腸石が認められた.また,下部消化管内視鏡を実施したところ,バウヒン弁の狭窄が認められた.バウヒン弁を18ミリバルーンにて拡張術を施行したものの腸石を回収できなかった.拡張径をより大きくする目的で2本拡張バルーン(15ミリと20ミリ)を同時に使用するダブルバルーン拡張術を試みたところ,計7個の腸石を胆道用砕石バスケット鉗子で回収した.バウヒン弁に対しダブルバルーン拡張術の報告がなく,手術を回避できた腸石嵌頓の1例を報告する.

Ⅰ 緒  言

内視鏡的バルーン拡張術(Endoscopic balloon dilatation)は内視鏡を介して誘導したバルーンカテーテルを用いて消化管狭窄を拡張する治療手技である.循環器領域では古くからダブルバルーン拡張術(Double Balloon Dilation,以下DBD)の有用性が報告されているが 1)~3,消化管領域では,術後狭窄や食道アカラシアにDBDの応用 4)~6があるが,バウヒン弁拡張や腸石除去に使用した例の報告はない.今回,DBDが奏効し,手術を回避できた腸石嵌頓の1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:70歳,男性.

主訴:腹痛.

既往歴:特記なし.

現病歴:201X年11月X日より肺炎にて当院内科に入院となった.抗菌薬投与にて,解熱し肺炎は沈静化していた.しかし,X+10日より排便がなくなり,X+14日目に臍周囲に腹痛が出現した.

当科受診時現症:身長160cm,体重50kg,血圧117/72mmHg,脈拍75/min,体温36.8℃.腹部触診で臍周囲に圧痛と腸管蠕動音の減弱を認めたが筋性防御や反跳痛は認めなかった.

臨床検査成績:白血球6,800,CRP1.1と軽度上昇,腎機能や肝機能の異常は認めなかった.

腹部単純X線:小腸拡張と右下腹部に高吸収の類円形構造物を複数個(Figure 1-a)を認めた.

Figure 1 

a:腹部単純X線検査.niveau形成を伴わないが,小腸拡張を認めた.右下腹部に高吸収の類円形構造物複数個を認めた.

b:下部内視鏡検査.バウヒン弁に輪状びらん,狭窄を認め,スコープ通過が困難であった.

腹部単純CT:回盲部末端に輪状高吸収の類円形構造物7個を認め,バウヒン弁で嵌頓していると考えられた.回腸末端の壁肥厚と拡張を認めた.

経過:発症翌日(X+15日)に前処置なしで下部消化管内視鏡検査(CS)を施行し,バウヒン弁に輪状びらんと狭窄(Figure 1-b)を認めた.内視鏡的に腸石除去を試みたが,除去困難だったため,断念した.検査後に腹痛が改善し,炎症反応の上昇はなかった.腹部単純X線検査で小腸拡張が消失したため,流動食から食事を再開した.食事開始後も腹部症状がないため,消化器内科外来にて腸石フォローの予定であったが,X+20日に腹痛が再度増強し,腹部単純CTを撮影したところ腸石が回腸末端に嵌頓し,小腸イレウスを呈している状態であった.同日に再度経鼻イレウス管を空腸まで留置し,消化器内科に転科となった.

X+24日にはイレウス症状は改善し,腹部単純X線検査にてイレウス管先端が回腸末端まで到達したことを確認した.そこで,再度,CSによる腸石除去を行うこととなった.CS前処置はイレウス管のバルーンを縮め,マグコロールPを少量ずつ合計1Lを注入することで実施した.X+26日にCSを施行し,回腸末端に硬い腸石7個を認め,いずれも20mm以上(最大径約35mm)であった.バウヒン弁が潰瘍/びらんの影響か,狭窄を認め,スコープ通過も困難であった.内視鏡的バルーン拡張術(Boston Scientific社15mm~18mmCRE下部消化管拡張バルーンカテーテル)でバウヒン弁を18mm(7気圧)まで拡張した.胆石砕石用バスケット(Stone Buster,Medi-Globe社)を使用したが腸石が非常に硬く,砕石できず,腸石回収も試みたが,バウヒン弁を通過できなかったため断念した.

内科的治療は困難な状態で,外科対応が必要だろうと家族と本人に説明したが本人が手術を回避したいためDBD術を提示した.腸管損傷/穿孔のリスクがあり,緊急開腹手術に移行する可能性があることなども十分に説明し,同意を得た.

術前検査(心機能,呼吸機能評価)を完了後,X+29日に外科医待機のうえでダブルバルーン拡張術を施行した.ミダゾラムとペンタゾシン鎮痛鎮静下で上部用の2チャンネルスコープ(OLYMPUS GIF TYPE 2T240)を盲腸まで挿入した.透視下でJagwire(0.035 inch,Boston Scientific社)を1本ずつ左右の鉗子孔から回腸末端まで留置後,12mm~15mm CRE下部消化管拡張バルーンカテーテル2本をバウヒン弁まで挿入(Figure 2-a)し,同時インフレーション(1分間保持*2回)で30mm(15+15)まで拡張し,ノッチ消失を透視下で確認した.

Figure 2 

a:12mm~15mm CRE下部消化管拡張バルーンカテーテル2本をバウヒン弁まで挿入した.

b:12mm~15mm拡張バルーンカテーテルの1本を抜去後,18mm~20mm拡張バルーンカテーテルへ入れ替え,両バルーンを再度同時インフレーション(1分間保持*2回)でバウヒン弁を35mm(15+20)まで拡張した.

c:Stone Buster砕石バスケットを使用し,腸石を1個ずつ(合計7個)盲腸まで運んだ.

d:回収された腸石の長径が約35mmであった.

12mm~15mm拡張バルーンカテーテルの1本を抜去後,18mm~20mmCRE下部消化管拡張バルーンカテーテルへ入れ替え,両バルーンを再度同時インフレーション(1分間保持*2回)し,バウヒン弁を35mm(15+20)まで拡張した(Figure 2-b).

ダブルバルーン拡張術後に内視鏡を回腸末端まで挿入し,把持力が強いStone Buster砕石バスケット(把持鉗子やネットも試みたが,いずれもバウヒン弁通過時に腸石が脱落した)を使用し,腸石を1個ずつ(合計7個)盲腸まで運んだ(Figure 2-c).回盲部に造影剤(ガストログラフィン®)を注入し,明らかな造影剤漏れや腹痛がないことを確認し終了した.最大(長径約35mm,Figure 2-d)の腸石を内視鏡抜去時に回収した.

X+30日にレントゲンでniveauや残留腸石がないことを確認し,イレウス管を抜去した.食事を再開後腹部症状を認めないためX+35日に退院となった.回収した結石の成分分析でシュウ酸カルシウム結石(98%以上)と判明した.内視鏡的採石後,約2年間が経過するが現在までに腹痛,腸閉塞,腸石の再発は認めていない.

Ⅲ 考  察

腸石は真性腸石と仮性腸石に分類され,真性腸石はその構成成分の違いにより,カルシウム塩腸石と胆汁酸腸石に分けられる.カルシウム腸石はアルカリ性条件下,狭窄,憩室などの物理的因子も加わり特に回腸で形成されやすい 7),8.バウヒン弁びらんの発症原因は,感染性腸炎(Campylobacter腸炎,Salmonella腸炎など),クローン病,べーチェット病,腸結核などによる腸内高圧が知られている 9.本症例は結核やクローン病などの治療歴はなく,10年前から腹痛の断続的発症歴があり,自然治癒しうる感染性腸炎が原因で,バウヒン弁にびらん及び狭窄を形成したではないかと推測する.また結石分析でシュウ酸カルシウムを主体とする成分であったことから,バウヒン弁狭窄による腸内容の停滞を背景としてカルシウム塩腸石が形成され,長年結石による直接的な刺激と腸閉塞時の腸内高圧が輪状びらん(Figure 1-b)の原因ではないかと考える.

2000年から2019年までの腸石症例を医学中央雑誌にて「腸石」をキーワードに検索した68例(会議録を除く)と自験例1例を加えた計69例に関して検討(Table 1)したところ,年齢は8歳~94歳(中央値70歳),性別は男性44例,女性25例,閉塞部位は回腸が一番多く,約半分(47.8%)を占めた.真性腸石が42例(60.9%),サイズは10mm~65mm(中央値32.5mm)であった.原因疾患は憩室(十二指腸憩室,Meckel憩室など)が39.1%で一番多く,続いて術後狭窄と小腸潰瘍・狭窄が12例(17.4%)と11例(15.9%)であった.その他,術後空腸挙上や重複腸管による腸管走行異常,薬剤性(炭酸カルシウム,マグネシウム)腸石症例も認めた.

Table 1 

腸石69症例の年齢,性別,閉塞部位,腸石種類,原因疾患,穿孔の有無,治療手段の要約.

腸石のほとんどが腸閉塞による腹痛と嘔吐にて受診され,21.7%の症例が穿孔を起こし,緊急手術を要している.自然排出例がほとんどなく,手術(82.6%)か内視鏡処置(15.9%)を要している.

内視鏡処置を受けた11例の内,8例が鉗子やバスケットを使用し,2例はレーザーを使用していた.自験例以外はいずれも十二指腸か直腸などの内視鏡到達が容易な部位であった.レーザー照射 10,電気水圧衝撃波破砕法 11は特殊な設備が必要であることや,処置具到達困難な空回腸腸石嵌頓症例に対しては適応が限られている.

今回バウヒン弁狭窄の拡張に応用したDBDは循環器領域で拡張目標径が大きい血管/動脈弁では有用であると報告されている 1)~3.消化管領域では,De Langeらが1991年に初めて結直腸術後狭窄のDBD使用例を報告 4している.Diらは2005年に17例の結直腸術後狭窄のDBD症例を報告し 5,有効率が100%,穿孔率が0%,狭窄再発率が6%であった.

今までバウヒン弁狭窄に対するDBD使用例がなく,安全性の検討もなかったため手術待機でDBDを施行し,偶発症もなく腸石を内視鏡的に除去できた.しかし自験例に用いた内視鏡が上部用2チャンネルスコープであり,硬度可変がなく,挿入部の有効長が1,030mmしかないため大腸での挿入困難例や,結石が深部小腸に存在する場合はDBD施行が困難と推察される.Diらが報告した17例と本症例では穿孔例がなかったが,バルーン拡張径が穿孔率と相関 12するため,拡張する前に腸石最大径を測定し,拡張径を決定すべきである.過度の疼痛がみられる場合には穿孔が危惧されるため,deep sedationは行わず,軽度の鎮静にとどめ,疼痛の程度を慎重に観察しながら拡張を行う.また一つの狭窄病変に対して,1日の治療で拡張が不十分な場合には,無理せずに,数日~1週間あけて再度拡張を行うことも重要である 13

穿孔のような緊急性のある状態でなければ,狭窄や憩室などの病変を検索したうえ,内視鏡治療を行うことで,侵襲的な外科処置を回避しうる.バウヒン弁狭窄による腸石嵌頓ならバルーン拡張術など内視鏡的治療を選択肢に入れることや深部小腸狭窄例ではバルーン過剰拡張による腸管損傷が懸念される場合は,レーザー照射,電気水圧衝撃波破砕法などを選択するか,外科手術に移行するのが望ましいと考えられる.

Ⅳ 結  語

今回われわれはDBD術が奏効し,手術を回避できた腸石嵌頓の1例を経験した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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