日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
大腸cold polypectomyの現状と課題
中田 昂栗林 志行浦岡 俊夫
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2020 年 62 巻 1 号 p. 7-14

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要旨

Cold polypectomyは,偶発症の少なさや手技時間の短さに加え,コストの面においても従来の通電を行うポリペクトミー(Hot polypectomy)に対して優れており,欧米はもとより国内でも徐々に普及しつつある.手技やデバイスの進歩により,Cold polypectomyの治療成績や安全性は向上しており,最近では抗血栓薬内服症例に対する安全性も報告されている.一方で,本法には病変の病理組織学的な断端評価が困難となることや,切除深度が浅くなりやすいというデメリットがあり,遺残再発率や長期予後が十分に明らかになっていないという問題点もある.こうした問題点を十分に把握したうえで,適切な病変に対してCold polypectomyを行っていくべきである.現在の本邦におけるガイドラインでは,Hot polypectomyの偶発症発生率を基に,5mm以下の病変に対する摘除は推奨されていないが,Cold polypectomyを用いることで,今後欧米のように腺腫性病変は大きさに関係なく摘除することが推奨されるようになるかもしれない.

Ⅰ 緒  言

1989年のWoodsらによる報告 1では,径5mmまでの微小ポリープに対するポリープ摘除法としてCold biopsyの有用性が検討されたが,不完全摘除の多さからポリープ摘除法としては不適切であると結論付けられた.その後,1992年にTapperoらにより,スネアを用いて通電せずに病変を摘除するCold snare polypectomy(CSP)の研究結果 2が報告された.この研究では5mm未満の微小ポリープを対象としてCSPが行われたが,後出血や遅発性穿孔といった重篤な偶発症は認められず,微小病変に対するCSPの安全性が示された.Cold polypectomyが従来の通電を行うHot polypectomyに対して,安全性や簡便さ,コストの面で優れるという結果が少しずつ報告されるようになり,欧米を中心に広く行われるようになった.本邦での導入は,欧米よりも少し遅れたが,その有用性が次第に認知されるようになり,徐々に普及しつつある.

現在,Cold polypectomyは,径10mm未満の表面型もしくは亜有茎性病変を対象に行われている.大腸内視鏡検査中に発見されるポリープの多くが10mm未満の小病変であり,多くの病変が本摘除法の適応病変であると考えられる.しかし,本邦におけるCold polypectomyは,欧米と比較するとまだ積極的に行われているとは言い難い.これは本摘除法の導入が欧米に遅れただけではなく,微小病変に対する基本的方針の違いや未解決な課題もあることから,その適応については慎重な意見があるからと考えられる.

本稿では,大腸cold polypectomyの現状と本邦での課題について述べたい.

Ⅱ 小型大腸ポリープの取り扱い

尾上らによる5mm以下の大腸ポリープを対象とした研究 3では,観察期間中に径2mm以上の増大を認めた病変の割合は全体の8.6%と低く,切除された病変に癌は認められなかった.このように,5mm以下の微小病変では担癌率が低く,本邦では癌が疑われる病変以外は経過観察されることが多い.一方,米国ではNational Polyp Studyで,発見された腺腫性病変をすべて摘除することによる大腸癌発生率と死亡率の抑制効果が示されており 4,5mm以下の微小病変もすべて摘除されている.

現在,日本消化器病学会から発刊されている「大腸ポリープ診療ガイドライン」 5では,径5mm以下の微小ポリープに対するポリペクトミーは,担癌率の低さと偶発症の発生率を考慮し,基本的には摘除を推奨していない.ただし,ここで記載されているポリペクトミーはHot polypectomyを指しており,Hot polypectomyに伴う偶発症の頻度が参考とされている.近年,通電することが後出血や腸管穿孔の原因になっている可能性が指摘されており,Cold polypectomy のような偶発症のリスクが低い治療法を用いれば微小病変の取り扱いが変わってくる可能性がある.

Ⅲ Cold polypectomyの治療成績とメリット・デメリット

Cold polypectomyの手技にはCold forceps polypectomy(CFP)と,先述のCSPの2つがあり,病変に応じてそれぞれの手技を使い分けることとなる.

a.Cold polypectomyの治療成績

1.Cold forceps polypectomy(CFP)の治療成績

通常の生検と同様に病変を把持し,通電せずに病変を摘除する方法をCFPと呼んでいる.従来の一般的な生検鉗子を用いたCFPにおける完全摘除率は20~40% 6と低かったが,本邦でのJumbo鉗子(Figure 1)を用いてCFPを行った研究 7における内視鏡的完全摘除率は,径2mm未満で100%,3mmで96%,4mmで88%,5mmで70%,全体で85%であった.CFPで一括摘除できなかった病変も追加摘除で完全摘除を得られており,遅発性出血や穿孔などの偶発症も認めなかった.この結果は近年のメタ解析 8で報告されたHSPの完全摘除率85.0~98.5%と比較しても明らかに劣らない結果である.以上から,内視鏡的に腺腫と診断された5mm未満の微小ポリープがCFPの適応病変と考えられる.

Figure 1 

Jumbo鉗子と生検鉗子.

CFP後の局所再発率について調査したLeeらの報告 9では,CFP後の瘢痕が認識できるものや,周囲にメルクマールにできるものがある,いわゆるdefinite recurrenceは4%であった.この報告では従来の生検鉗子を用いていたが,Jumbo鉗子を用いたHasegawaらによる研究 10ではdefinite recurrenceは0.8%,Kuwaiらの研究 11では2.1%であり,Jumbo鉗子を用いることにより,局所再発率が低下する可能性が示唆されている.ただ,CFP後の局所再発の判定は困難であり,報告のdata自体はあくまで参考とするのが妥当かと考える.

2.Cold snare polypectomy(CSP)の治療成績

CSPは病変をスネアリングし,高周波通電を行わずに病変を摘除する手技である.CSPが推奨される病変は,径10mm未満の表面型もしくは亜有茎性病変である.

一般的に,病理組織学的なCSPにおける完全摘除率はHot snare polypectomy(HSP)と比較して劣ると考えられてきたが,CSPとHSPにおける完全切除率を検討したQu Jらによるメタ解析 8によると,完全摘除率はCSP群77.3~98.2%,HSP群85.0~98.5%(p=0.41)と,統計学的な有意差を認めなかった.その要因の一つはCSP用スネア(Figure 2)の開発によるものと考えられる.事実,CSP用スネア使用群と従来のHSP用のスネア使用群における,CSPによるポリープの完全切除率を比較した研究 12では,ポリープ全体における完全切除率は91%対79%(p=0.015),中でも8-10mmのポリープに対する完全切除率は83%対45%(p=0.014)と有意差を認めている.比較に用いられたCSP用スネアは細さ0.30mmの細径スネアであり,従来のスネアは0.47mm径である.CSP用スネアは従来のスネアと比較して細径かつ硬めのものが多い.スネアが細いことにより鋭い切れ味を得られ,硬いことにより粘膜面に対して十分スネアを押し付けることができるようになり,より良好な病変の摘除を得られるようになった.

Figure 2 

Cold polypectomy用スネア.

3.手技のポイント

Cold polypectomyでの病変摘除直後には,粘膜欠損部にwater-jet機能で送水し,タンポナーデを形成するとoozingに対する圧迫止血が期待できる.また,タンポナーデの形成後に,粘膜欠損部周囲の粘膜に対して,画像強調観察を併用した拡大観察を行い,病変の遺残の有無を確認することが重要である.

b.Cold polypectomyのメリット

1.治療時間が短い

Cold polypectomyは一般的に粘膜下局注や基本的にクリッピングを必要としないことから従来のポリペクトミーに対して短時間で処置が終了することもメリットの一つである.CSPとEMRの治療成績を比較した報告 13によれば,1病変当たりの摘除に要する時間はCSP群で有意に短かった(36秒対87秒(p<0.01)).CFPとCSPを比較した報告 14では,1病変当たりの処置時間に有意差を認めなかった(46.9秒対44.5秒(p=0.468)).治療時間が短いことは,多数の病変を治療する場合にはより有効となり得る.

2.安全性に優れる

2018から2019年までの論文報告によると,CFPの後出血率は0.1~0.2%で,遅発性穿孔は認めなかった 10),11),15.本邦で行われた多施設共同アンケート調査 16によれば,微小病変に対するHot biopsyにおける後出血率は0.26%,遅発性穿孔率は0.01%,EMR施行後の後出血率は1.4%,遅発性穿孔は0.091%と報告されている.以上の報告の比較から,本摘除法は安全性の面でHot biopsyに対して優位性を示すと考えられる.

CSPの偶発症については,最近のメタ解析 17で,CSP群の後出血率0%,HSP群の後出血率0.78%(p=0.06)と,統計学的な有意差は認められないものの,HSP群に対して低いことが報告されている.なお,遅発性穿孔は,このメタ解析に用いられた8つの研究では認めなかった.従来の多くの報告でも,遅発性穿孔はCSPで認められず,HSPにおいて0.02~0.09%程度で認められることから 16,CSPもCFPと同様に従来のHot polypectomyに対して安全性の面で優れていると考えられる.

さらに,憩室や虫垂開口部の近傍や内部のように筋層が薄い,もしくは筋層を持たない部位に対する安全性もCold polypectomyのメリットとして挙げられる.こうした場面では,高周波通電による穿孔の危険性が高くなるため,Hot polypectomyは適応しづらい.一方,Cold polypectomyは高周波通電を用いないため穿孔のリスクが低くなり,より安全性の高い摘除を行うことができる 18

3.コストが安い

非通電のため,当然高周波発生装置は不要で,モノポーラデバイスに必須の対極板も必要ない.Cold polypectomyでは後出血率の低さから,基本的にクリッピングを要さない.以上から,Hot polypectomy後にクリッピングを用いた場合と比較すると,コストが抑えられる.

4.抗血栓薬内服症例に対する有用性

心疾患や脳血管疾患に対して抗血栓薬を内服している症例では,抗血栓薬の中止による血栓症リスクの高さから内視鏡治療前の休薬が困難であることも多い.抗血栓薬内服症例におけるCold polypectomy施行時の対応については現時点ではガイドラインに明記されていないが,従来の内視鏡的大腸ポリープ摘除術は,抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン 19において出血の高危険度群とされており,「アスピリン以外の抗血小板薬単独内服の場合には休薬を原則とする.休薬期間はチエノピリジン誘導体が5~7日とし,チエノピリジン誘導体以外の抗血小板は1日間の休薬とする.血栓塞栓症の発症リスクが高い症例ではアスピリンまたはシロスタゾールへの置換を考慮する」と記載されている.

CFPは実質大腸ポリープ摘除術であるが,手技は通常の内視鏡的粘膜生検と同様であるため,ポリープ摘除術ではなく内視鏡的粘膜生検に準じた対応を適応可能ではないかと考えられる.前述のガイドラインにおいて,内視鏡的粘膜生検は,「アスピリン・アスピリン以外の抗血小板薬,抗凝固薬のいずれか1剤を服用している場合には休薬なく施行してもよい」とされている.複数の抗血栓薬を併用している場合は例外となるが,抗血栓薬は単剤であっても休薬によって血栓塞栓症リスクが上昇するため,CFPは血栓塞栓症の発症リスクを避けることができると考えられる.

抗血栓薬内服症例に対するCSPについての研究 20では,抗血栓薬一剤内服群と複数内服群のいずれにおいても,非内服群と比較して出血リスクは増加しなかった.また,抗血栓薬休薬の際には一般的にヘパリン置換術が行われているが,ヘパリン置換術の有無におけるポリペクトミー施行後の後出血率は,ヘパリン置換群で22.2%,非置換群で1.9%(p<0.0001)と,ヘパリン置換群において有意に高くなると報告されている 21.本邦からの無作為化比較試験であるC-PAC TRIALでは,抗凝固薬内服継続下CSP群と従来のヘパリン置換下HSP群の2群における術後偶発症の発生率が比較され,後出血率において内服継続下CSP群が非劣勢を認めたことから2群間の安全性は同等であることの可能性が示されている 22.これらの結果から,CSPの適応病変に対して,抗血栓薬の中止による血栓症リスクや,ヘパリン置換術により生じる出血リスクの増加を回避したうえで本手技による摘除ができると考えられる.

平均寿命の上昇や医療の進歩により,抗血栓薬休薬困難な患者数や,休薬困難症例に対して大腸ポリープ摘除術を行う機会は増えていくだろう.そうした中で,Cold polypectomyは従来のHot polypectomyに対して,出血や血栓症のリスクがより低い状態で処置を行える可能性がある点も重要なメリットである.

c.Cold polypectomyのデメリット

Cold polypectomyには以下のデメリットもあるので注意が必要である.

1.Cold forceps polypectomy

CFPは非常に簡便に施行でき,微小病変に対して有用であるが,カップのサイズが限られているため,カップのサイズを超える病変は一括摘除できない.基本的に小さな腺腫に対して行うことから,1回目の摘除で腫瘍が残存してしまった場合には,残存してしまった部位を再度摘除すれば臨床的には問題はないが,多少なりとも局所遺残・再発のリスクが残される.

2.Cold snare polypectomy

i).通電しないことによるデメリット

Cold polypectomyでは通電しないことにより,遅発性穿孔や後出血のリスクが軽減できるが,通電しないことによるデメリットもある.一つは,burning effectが期待できないことであり,周囲粘膜を含めて切除する必要がある.

また,切除検体にthermal fulgurationが生じないために,病理標本作成の際に切り出し方向の認識が難しくなる 23.さらに,CSPでは鉗子口からの吸引により標本を回収することがその容易さゆえに多く,標本が断片化してしまうことが多い.正確な切除断端の評価が難しくなってしまう.

有茎性病変では茎部から頂部にかけて血流の豊富な太い血管が存在していることが多い.血管は周囲に結合組織を伴っており,CSPでは本病変を切除できない場合がある.また,切除できたとしても,非凝固で切除してしまうことにより,切除直後に激しい出血を来す可能性がある.欧米のガイドラインでは,有茎性病変に対してはHot snare polypectomyが推奨されている 24

ii).切除深度が浅くなりやすい

CSPでは物理的な切除のためにその深度が浅くなる傾向にある.91%のケースで粘膜筋板が残存していたとの報告もある 25ように,粘膜筋板直上からその真下が切除ラインとなる.このようにCSPでは粘膜下層を十分に含んで切除できないため,癌に対してCSPを行ってしまうと垂直断端が陽性になってしまう可能性がある.さらには癌であった場合の病理組織診断において最も重要である深達度診断が極めて困難となり,その後の治療方針に影響が出る.

以上のことは,Cold polypectomyを行う際には,術前内視鏡診断の重要性が増すことに繋がる.癌が疑われる病変には本摘除法を適用させるべきでない.特に,表面陥凹型の病変は癌の頻度が高く,5mm未満の微小病変でも粘膜下層浸潤を認める症例もあるため,拡大観察による正確な内視鏡診断が不可欠である.以上から,適切な病理組織学的診断を行うためにも,癌と術前診断した場合にはEMRでの摘除を行うべきである 26

Ⅳ Cold polypectomyにおける今後の課題

a.既存の報告の問題点

Cold polypectomy後の遺残・再発に関する報告がみられるが,前述のように認められた病変が前回の治療部位と一致しているかどうかを正確に評価できている報告は十分ない.多くの検討では,肛門やメルクマールからの距離を参考にしているが,腸管内での距離は空気量により容易に変化し得るため,正確性には問題がある.また,Cold polypectomyでは切除深度が浅く,摘除後瘢痕を指摘できない場合もあり,治療後の評価が難しい場合が少なくない.

使用するスネアは各メーカーや製品により,その細さや硬さなどが異なる.CSPによる浅い切除深度と各種スネアとの関係性に関する報告は少ない 12.また,浅い切除深度を改善する目的で,EMRのように粘膜下局注をしてからCSPを行うことにより,適切な切除深度が得られるかどうかなども検討されてもよいかと思われる.

b.抗血栓薬内服症例に対する安全性

上記のように,抗血栓薬内服症例では抗血栓薬を休薬することによる血栓症のリスクやヘパリン化による後出血のリスク上昇などを考慮すると,抗血栓薬内服下でのCold polypectomyが望ましいかもしれない.Horiuchiらによるワーファリン継続症例に対するCSPとEMRの後出血率を比較した検討 27では,CSP群における後出血率が0%であったのに対して,EMR群における後出血率は14%であり,CSPの安全性が示唆された(Table 1).少ない必要症例数でCSPの優位性が明らかとなったものの,CSP群における後出血率が認められなかったことなど考えると,もう少し多くの症例数での検討が望まれる.高齢化社会を迎えて,複数の抗血栓薬を内服している症例も増加しており,さらなる検討が望まれる 20),28)~30

Table 1 

抗血栓症薬継続症例に対するCold polypectomy.

c.長期成績の欠如

Cold polypectomyの長期成績は報告されていない.上記のように,切除後の評価が困難になることもあり,長期成績の検討は容易ではないと思われるが,Cold polypectomyのさらなる普及には,長期成績を明らかにする必要がある.

Ⅴ おわりに

上記のように,Cold polypectomyにはさまざまなメリットがあり,今後より広く普及されるであろう.一方で,克服するべき問題もある.今後,Cold polypectomyをさらに普及させていくためには,本稿で述べた問題点を解決していく必要がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:浦岡俊夫(3Dマトリック社)

文 献
 
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