日本消化器内視鏡学会雑誌
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広範囲・びまん性に認められた食道異所性皮脂腺の1例
濱田 和 伊藤 透川浦 健
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2020 年 62 巻 10 号 p. 2298-2299

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症例

51歳・女性.糖尿病,脂質代謝異常,筋強直性ジストロフィー,乳癌術後などに対して当院通院中.約4カ月前から咽頭違和感,胸の詰まり感などが出現し,上部消化管精査目的に当科コンサルトされた.

上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy:EGD)を行ったところ,食道において黄白色調を呈する1~5mm大の扁平隆起性病変が多発していた.各病変は花弁状・偽足状を呈し,中央に白色の小突起を伴っていた.狭帯域光観察(narrow band imaging:NBI)において上述病変は淡い褐色調を呈する扁平隆起として描出され,また隆起内に点在する白色小突起が明瞭化された.これらの病変は咽喉頭には認められなかったが,食道入口部から食道胃接合部にかけて食道全体に分布していた.口側から胃側に進むに従い病変の数が増える傾向が見られ,上部食道では内腔の約1/4を占める程度であったが下部食道では食道胃接合部を含め全周性・びまん性に観察された(Figure 1).同病変の生検にて異型に乏しい重層扁平上皮と皮脂腺を認め(Figure 2),食道異所性皮脂腺と診断した.

Figure 1 

上部消化管内視鏡検査.

a:上部食道(通常光):全食道面積の1/4程度を占める黄白色調の扁平隆起性病変を認めた.

b:下部食道(通常光):黄白色調の扁平隆起性病変が全周性・びまん性に観察された.

c:下部食道(NBI):上述した病変は,淡い褐色調を呈する扁平隆起として描出された.また通常光観察と比べて,扁平隆起内に点在する白色小突起が明瞭化された.

Figure 2 

病理組織検査(HE染色;×100).

生検標本にて,異型に乏しい重層扁平上皮と皮脂腺を認めた.

考察

異所性皮脂腺は外胚葉由来の口腔や唾液腺などにしばしば見られるが,内胚葉由来の臓器である食道に認める事は稀である.本邦ではEGD全体0.15~0.78%に異所性皮脂腺を認めると報告されている 1),2.EGDにおいて黄白色調の扁平隆起として認識され,また皮脂腺の導管部分が隆起内に白色小突起として認められる事が多い.男性に好発し,中部食道を中心に多発する事が多いとされているが 3),4,多発例でも1~5mm程度の病変が散発,ないしは局所性に集簇している程度である事がほとんどである.食道異所性皮脂腺症例の既報49症例中3例(6.1%)で亜全周性から全周性として報告されているが,本症例のように広範囲かつびまん性に病変が存在した報告はない.

食道異所性皮脂腺の発生機序として,先天的な外胚葉組織の迷入説と後天的な化生性変化説とがある 5),6.本症例は9年前に別施設にてEGD検査歴があり,確認したところ当時既に広範な異所性皮脂腺を認めており,比較的若年の頃と比べても経時的変化に乏しい事から先天性の可能性を考えた.一方,本症例では食道の胃側に進むに従い異所性皮脂腺の範囲が増えるという,特異的な分布を呈していた.本症例において明らかな食道粘膜傷害は認めていないが,異所性皮脂腺の分布からは胃食道逆流症などの関与による後天性の可能性も推測できた.先天性/後天性の判断は困難であったが,本症例は異所性皮脂腺の発生機序の検討においても興味深い1例であると考えられる.

本症例の主訴と食道異所性皮脂腺の関連性は不明である.しかし先述の様に9年前の時点で既に広範な異所性皮脂腺を認めており,また他報告でも無症状・検診などで偶然発見された例がほとんどである事などから,関連性は低いと思われた.

謝 辞

本報告にあたり,病理学的評価において御尽力頂いた金沢医科大学病理学2 佐藤勝明先生に深謝致します.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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