日本消化器内視鏡学会雑誌
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大腸内視鏡切除後の予防的クリッピングは大型近位側大腸ポリープの出血を防ぐ:無作為化試験のメタ分析
貝瀬 満
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2020 年 62 巻 11 号 p. 2994

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【背景と目的】大腸ポリープ切除後出血予防のための内視鏡クリップの利点は不明である.予防的クリップの有効性を明らかにするために,対象ポリープ全体およびポリープサイズと部位別に,ランダム化試験に対する最新の手法によるメタ分析を行った.

【方法】MEDLINE / PubMed,Emase,Scopusデータベースを用いて,大腸ポリープ切除後出血予防の内視鏡クリップ効果についてクリップ実施 vs 非実施をランダム化比較した試験(RCT)を検索した.登録基準は,年齢制限のないRCTで後出血(内視鏡/IVR/外科処置を要した切除後の血便,またはHb 2g/dl以上低下した血便)を一次評価項目とした研究.95%信頼区間(95%CI)でプールされた相対リスク(RR)を生成するために,変量効果モデルによるメタ分析を行った.マルチレベル変量効果メタ回帰分析を使用して後出血率とポリープの特徴との関連を推定した.

【結果】検索された1,112研究の中から,2003年から2019年に報告された71,897結腸直腸病変を含む9つのRCTのデータを分析した(日本5,米国2,スペイン1,中国1).解析病変の22.5%は20mm以上の大型病変,49.2%は近位大腸病変(盲腸から横行結腸).クリップ実施は非実施と比較して,切除後出血の全体としてのリスクを減少させなかった(実施群後出血率2.2% vs未実施後出血率3.3%;RR,0.69;95%CI,0.45-1.08;P=.072).層別解析を行うと,20mm以上の大型病変切除後出血のリスクはクリップ実施によって有意に減少した(実施群後出血率4.3% vs 未実施後出血率7.6%;RR,0.51,95%CI,0.33~0.78,P=.020).または近位大腸病変切除後出血のリスクはクリップ実施によって有意に減少した(実施群後出血率3.0% vs 未実施後出血率6.2%;RR,0.53;95%CI,0.35-0.81;P<.001).病変サイズと病変部位を調整したマルチレベル変量効果メタ回帰分析では,大型近位大腸病変に対して,予防的クリップは切除後出血のリスクを有意に減少されたが(RR,0.37;95%CI,0.22-0.61;P=.021),小型近位大腸病変ではリスクの低減はみられなかった(RR,0.88;95%CI,0.48-1.62;P=.581).

【結論】無作為化試験の最新手法によるメタ解析では,予防的内視鏡クリップを日常的に使用しても大腸ポリープ切除後出血のリスク全体が低下しないことがわかった.しかし,予防的内視鏡クリップは20mmを超える大型の近位大腸病変切除後出血を軽減すると考えられた.

《解説》

大腸ポリペク・EMR後出血に対する予防的内視鏡クリップについて,これまでに非常に多くの臨床研究が行われてきた.しかしながら,その有効性について一定の結論が得られていない.本メタ解析に採用された最も大きなRCT(DEN 2016,Matsumoto M, et al)であっても,予防的内視鏡クリップによる後出血予防効果は必ずしも証明されていなかった.本研究は,71,897結腸直腸病変を含む9つのRCTに対して,最新の手法であるマルチレベル変量効果メタ回帰分析を行った点でこれまでの解析とは異なっている.全体として予防的内視鏡クリップの後出血低減効果はなかったが,20mm超大型近位大腸病変の切除後出血を予防的内視鏡クリップによって約半分に低減することが示された点は臨床的に重要な情報と考えられる.一方,抗血栓薬内服患者での予防的内視鏡クリップの後出血低減効果については本研究で検討されていない.このため,本研究成果を抗血栓薬内服患者に演繹し,全体として予防的内視鏡クリップの後出血低減効果はないと解釈することは妥当ではない.抗血栓薬内服患者における予防的内視鏡クリップの有効性に関するメタ解析を期待したい.

文 献
 
© 2020 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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