日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
憩室内に形成された大腸肉芽性ポリープの3例
岩室 雅也 田中 健大都地 友紘山本 峻平平井 麻美岡 昌平平岡 佐規子河原 祥朗岡田 裕之
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2020 年 62 巻 12 号 p. 3057-3063

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要旨

大腸肉芽性ポリープは術後の吻合部や内視鏡治療後の創にみられることが多く,憩室に関連して発生した肉芽性ポリープの報告は少ない.今回筆者らは憩室関連肉芽性ポリープの3例を経験したので報告した.3例ともにS状結腸に憩室内から突出する発赤調ポリープを呈し,表面に白色付着物と蛇行する毛細血管を伴っていた.また拡大観察で表面構造は不明瞭または消失といった特徴を有しており,生検により肉芽性ポリープと診断した.また,1例ではポジトロン断層法検査でポリープに集積を認めた.上記の内視鏡所見を認める場合は,憩室関連肉芽性ポリープを鑑別に挙げるべきと考えられた.

Ⅰ 緒  言

肉芽組織は創傷治癒の過程で生じる毛細血管や線維芽細胞,炎症細胞などの集簇からなる組織である.大腸では術後の吻合部や内視鏡治療後の創に肉芽組織が過剰に増生し,ポリープ状の所見を呈することがあり,肉芽性ポリープまたは肉芽ポリープ(granulation polyp)と呼称される 1.一方,筆者らは憩室内に発生した肉芽性ポリープの1例を報告した 2.その後,同様の症例を3例経験し,既報症例と類似した内視鏡像を呈したことから,すみやかに肉芽性ポリープと診断可能であった.うち1例では過去の症例と同じくポジトロン断層法(positron emission tomography:PET)検査で集積を認めたことを契機に発見されており,悪性腫瘍との鑑別が問題となる症例であった.この経験から,内視鏡像を熟知することが憩室に関連した肉芽性ポリープの適切な診断に重要と考え,3例の内視鏡像を中心に報告する.

Ⅱ 症  例

症例1:68歳 男性.

主訴:なし.

受診目的:PET検査でS状結腸に集積.

既往歴:喉頭癌(67歳時),高血圧症,高尿酸血症,緑内障.

内服:アムロジピン,フェブキソスタット.

アレルギー:なし.

生活歴:喫煙 30本/日×44年,飲酒 ビール1,000mL/日.

家族歴:兄が悪性腫瘍(詳細不明).

現病歴:8カ月前に喉頭癌(cT3N0M0)と診断され,シスプラチンおよびフルオロウラシルによる導入化学療法ののち,セツキシマブ併用強度変調放射線治療を施行された.治療前には喉頭にPET検査で異常集積(standardized uptake value[SUV]max値17.4)を認めていたが,治療後には喉頭の集積は消失した.しかしS状結腸に新たに限局性の異常集積(SUVmax値4.7)が出現しており,造影CT検査では同部位に造影効果を伴う腫瘤影を認めた.S状結腸病変の精査のため消化器内科に紹介となった.

血液検査所見:CRP 0.16mg/dLと軽微な上昇を認めたが,WBC 4,700/μLと白血球は正常範囲であった.RBC 362万/μL,Hb 10.7g/dL,Ht 35.7%と貧血を認めた.他の生化学検査値に異常は認めず,CEA 1.01ng/mLと正常値であった.

大腸内視鏡検査:盲腸からS状結腸にかけて多数の憩室を認めた.また憩室から突出したような10mm大の発赤調ポリープを認め,表面に白色調の付着物を伴っていた(Figure 1-a).Narrow band imaging(NBI)観察ではポリープ表面に蛇行する毛細血管がみられ,表面構造は不明瞭であった(Figure 1-b).ポリープから1カ所生検したところ,血管増生とリンパ球および好中球浸潤を認め,肉芽組織の像であり,上皮はわずかにみられるのみであった(Figure 2).以上より,大腸憩室内に形成された肉芽性ポリープと診断した.3カ月後の大腸内視鏡検査では,肉芽性ポリープは縮小していた(Figure 1-c).

Figure 1 

症例1の内視鏡検査像.

a:憩室から突出したような10mm大の発赤調ポリープを認める.

b:NBI観察では蛇行する毛細血管がみられ,表面構造は不明瞭であった.

c:3カ月後の大腸内視鏡検査ではポリープは縮小していた.

Figure 2 

症例1の生検病理組織像.

血管増生とリンパ球および好中球浸潤を認め,肉芽組織の像であった.

症例2:85歳 女性.

主訴:排便時出血.

既往歴:高血圧症,高脂血症.

内服:アテノロール,オルメサルタン,プラバスタチン.

生活歴:喫煙 なし,飲酒 なし.

現病歴:これまでに消化器疾患の既往なし.排便時に鮮血が混じることが3回あり,精査目的に受診した.腹痛なし.

血液検査所見:CRP 0.30mg/dLと軽微な上昇を認めたが,WBC 5,500/μLと白血球は正常範囲であった.RBC 273万/μL,Hb 8.0g/dL,Ht 24.5%と貧血を認めた.Cr 1.16mg/dL,尿酸7.8mg/dLと上昇していたが,他の生化学検査値に異常は認めなかった.CEA(3.4 ng/mL)およびCA19-9(13.0U/mL)も正常範囲であった.

大腸内視鏡検査:S状結腸に憩室が多発していたほか,憩室内から突出する5mm大の発赤調ポリープを認めた(Figure 3-a).NBI観察ではポリープ表面に蛇行する毛細血管がみられ,白色付着物も認めた(Figure 3-b).生検では肉芽組織の増生がみられ,陰窩の構造が消失した部分を認めた(Figure 4,矢印)ことから,肉芽性ポリープと診断した.肉芽性ポリープについては無治療で経過観察の方針とした.また内痔核を認め,排便時出血の原因と考えられた.

Figure 3 

症例2の内視鏡検査像.

a:S状結腸の憩室内から突出する5mm大の発赤調ポリープを認めた.

b:NBI観察では蛇行する毛細血管と白色付着物がみられた.

Figure 4 

症例2の生検病理組織像.

肉芽組織の増生がみられ,陰窩の構造が消失した部分を認めた(矢印).

症例3:77歳 男性.

主訴:便潜血反応陽性.

既往歴:高血圧症,早期胃癌の内視鏡治療後(76歳時),右副腎腺腫(76歳時),腹部大動脈瘤(76歳時).

内服:カンデサルタン/アムロジピン配合錠,ファモチジン,アンブロキソール.

生活歴:飲酒 ウィスキー水割り2~3杯/日,喫煙 15本/日×55年.

現病歴:高血圧症,早期胃癌の内視鏡治療後,右副腎腺腫,腹部大動脈瘤で経過観察中であった.健診で実施した便潜血検査で陽性となったため,大腸内視鏡検査を実施した.

血液検査所見:RBC 389万/μL,Hb 12.2g/dL,Ht 36.5%と貧血を認めたが,白血球やCRP,CEA(1.99ng/mL),CA19-9(<2.0U/mL)も含め,他の検査値に異常は認めなかった.

大腸内視鏡検査:S状結腸に30mm大の有茎性の絨毛腺腫を認めたほか,上行結腸および横行結腸に10mm大までの腺腫を複数認めた.S状結腸に憩室が多発しており,憩室内から突出する5mm大のポリープを認めた(Figure 5-a).白色光観察では発赤と白色が混じった色調であり,NBI観察では表面構造が高度に不明瞭化していた(Figure 5-b).生検では血管増生と炎症細胞浸潤を示す肉芽組織であり,陰窩はみられなかった.肉芽性ポリープと診断し,経過観察の方針とした.

Figure 5 

症例3の内視鏡検査像.

a:S状結腸に憩室内から突出する5mm大のポリープを認めた.

b:NBI観察では表面構造が高度に不明瞭化していた.

Ⅲ 考  察

大腸において肉芽性ポリープは術後の吻合部や内視鏡治療後の創にしばしばみられるほか,潰瘍性大腸炎の治癒過程でもみられることがあり,創傷治癒過程における肉芽組織の過剰増殖により形成されたポリープ状の隆起と考えられている 1.これに対して,憩室に関連して発生した肉芽性ポリープの報告は少なく,医学中央雑誌(1983~2019年)で “大腸” ,“肉芽” および “ポリープ” をキーワードとし,またPubMed(1966~2019年)で “colon” および “granulation polyp” をキーワードとして検索したところ,筆者らの既報も含めてこれまでに報告されているのは6例のみであった(Table 1 2)~7

Table 1 

大腸憩室関連肉芽性ポリープの報告例の臨床的特徴.

憩室に関連して発生した肉芽性ポリープについて,本報告で提示した3症例と既報6症例を併せた,計9例の内訳は男性6例,女性3例,平均年齢は62歳(39~85歳)であった.ポリープの局在はS状結腸6例,上行結腸3例であり,憩室近傍に発生した症例が2例あったが 3),5,これ以外の7例は憩室内からポリープが突出する肉眼像を呈していた.ポリープのサイズについては,記載のある8例の平均は12mm(5~25mm)であった.内視鏡検査所見について,中山らの報告 3では発赤調のポリープの画像が提示されており,田村らの報告 5では “毛細血管パターンを認識できない,発赤調で光沢のない山田Ⅲ型のポリープ” と記載されている.またSeoら 6は白色付着物を伴う発赤調ポリープの内視鏡像を示している.これ以外の6例では,白色付着物を伴う発赤調ポリープで,かつ表面に蛇行する毛細血管像がみられた.表面構造は,本報告の3例と同様に,不明瞭 5または消失 4と記載されていた.以上より,憩室に関連して発生した肉芽性ポリープは,①憩室内から突出,または憩室近傍に発生するポリープで,②ポリープ自体は発赤調だが,白色付着物を部分的に伴う,③表面に蛇行する毛細血管を伴う,④拡大観察では表面構造は不明瞭または消失している,⑤好発部位はS状結腸や上行結腸である,という特徴を有しており,“大腸憩室関連肉芽性ポリープ(diverticula-related granulation polyp in the colon)” の呼称を提唱したい.

組織学的には,肉芽組織は毛細血管や線維芽細胞の増生,炎症細胞などの集簇からなる 8.自験例でも生検組織で病理学的に血管増生を認めたことから,内視鏡でポリープの表面にみられる蛇行する毛細血管は,病理組織像における血管増生を反映した所見と考えられる.また肉芽性ポリープは上皮を欠損し,内部に腺管構造を伴わないとされ 1,自験例でも上皮は消失,もしくはわずかにみられるのみであった.このような組織学的特徴は,内視鏡では表面構造の消失または不明瞭化として捉えられる.さらに創傷治癒過程において,炎症細胞の浸潤や肉芽組織の形成とともに,フィブリンが組織の修復,リモデリングのプロセスに関与する 9),10.ポリープ表面の白色付着物は,析出したフィブリンや炎症細胞集簇による所見ではないかと推測する.すなわち,表面の蛇行する毛細血管,表面構造の消失または不明瞭化,白色付着物といった所見はそれぞれ肉芽性ポリープの病理学的特徴を反映しており,これらの内視鏡所見を拾い上げることが大腸憩室関連肉芽性ポリープの適切な診断に重要と考えられる.

今回提示した症例1は,PET検査でトレーサー(フルオロデオキシグルコース:FDG)の限局性集積をS状結腸に認めた.筆者らの既報でも,肺癌化学療法中の患者にS状結腸にFDG異常集積がみられ,PET検査陽性を契機に大腸憩室関連肉芽性ポリープが発見された 2.PET検査は主に悪性腫瘍の検出を目的として実施されるが,非担癌症例でも炎症を伴う場合はFDGが集積し,偽陽性を示すことがある.これは炎症局所で糖の利用亢進と血流の増加を伴うためである 11),12.大腸憩室関連肉芽性ポリープは,肉芽組織という活動性炎症を本態とするため,PET検査で偽陽性となり得る点に注意が必要である.特に症例1および既報症例 2はいずれも悪性腫瘍を併存しており,転移性大腸腫瘍との鑑別が問題となった.現に既報症例では,肺癌の大腸転移を疑いS状結腸部分切除を実施し,最終的に大腸憩室関連肉芽性ポリープの診断に至った 2.この経験をもとに,症例1では特徴的な内視鏡所見から大腸憩室関連肉芽性ポリープとすみやかに診断し,FDG集積は偽陽性と判断し得た.

大腸憩室関連肉芽性ポリープの発生機序については,憩室炎による炎症が原因と推定している報告が散見される 3),7.本報告で提示した3例および筆者らの既報 2では腹痛や発熱などの症状は経過中に認めなかったが,これ以外の既報では全例でポリープの発見に先行して憩室炎を発症,もしくはポリープと憩室炎が併存しており,憩室炎起源説を裏付ける根拠となっている.一方,田村らは,憩室炎により憩室壁が周囲臓器と癒着し,進展性が低下した結果,腸蠕動により憩室壁が牽引され,その刺激により肉芽性ポリープが形成されたのではないかと推測している 5.前述の通り,筆者らが経験した4例では憩室炎の先行および併存を示す症状はなかったが,これらの症例で牽引刺激が原因となったのか,潜在性の憩室炎が原因となったのかは不明である.なお,既報および自験例で憩室出血を伴った症例はなく,大腸憩室関連肉芽性ポリープと憩室出血に関連はないと考えられる.

大腸憩室関連肉芽性ポリープの治療については,外科切除3例 2),3),5,内視鏡的粘膜切除2例 4),7,経過観察4例 6であった.Seoらは生検による診断後,経過観察したところ,4カ月後の大腸内視鏡検査ではポリープが消失していたと述べている 6.本症は肉芽組織を本態とする良性疾患であるため,経過観察が許容されるが,腫瘍性病変との鑑別が難しい場合には病理診断のため切除を行うことも選択肢となり得る.既報では内視鏡的粘膜切除が2例で実施されており,出血および遅発性穿孔の予防のため1例ではクリップ縫縮が 6,1例ではover-the-scope clipを用いて全層縫合が実施されていた 4.大腸憩室関連肉芽性ポリープは憩室内もしくは憩室近傍に発生するが,大腸憩室は一般的に固有筋層を欠く仮性憩室であるため,内視鏡的切除にあたっては穿孔に注意しつつ慎重に実施する必要がある.

Ⅳ 結  語

大腸憩室関連肉芽性ポリープの3例を経験した.憩室内から突出する発赤調ポリープで,表面に白色付着物と蛇行する毛細血管を伴い,拡大観察で表面構造は不明瞭または消失しているといった特徴を有していた.これらの内視鏡所見を認める場合には,本症を鑑別に挙げるべきと考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:河原祥朗(岡山西大寺病院),岡田裕之(アストラゼネカ,第一三共,EAファーマ株式会社,アッヴィ合同会社,大塚製薬株式会社,コヴィディエンジャパン)

文 献
 
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