日本消化器内視鏡学会雑誌
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経験
経口腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞に対するステント留置術
市田 親正 佐々木 亜希子小泉 一也木村 かれん西野 敬祥隅田 ちひろ田崎 潤一増田 作栄賀古 眞
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2020 年 62 巻 12 号 p. 3079-3084

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要旨

腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞は,一定の頻度で発生する医原性合併症である.しばしば,人工肛門造設によるQOLの低下や重篤な転帰を来すことが問題となっている.このような症例では,大腸ステント留置により緊急手術を回避できる可能性がある.当院で経験した腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞12例のうち8例にステント留置を試みた.このうち全周性2型病変による狭窄例は安全にステント留置が可能であった.経口腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞例のうち,全周性2型病変による狭窄例ではミニガイドラインに準拠してステント留置を行うことで緊急手術を回避し,閉塞を解除できる可能性があると考えられた.

Ⅰ 緒  言

腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞症例の頻度は,直近の全国調査の結果では約0.003%とされているが 1,High volume centerの報告では約0.02%と決して稀な偶発性ではない 2.また,発生時半数以上の症例は緊急手術が必要とされており 2,患者のQuality Of Life(QOL)低下も懸念される.

2012年の保険収載以降,本邦では大腸悪性狭窄に対するステント留置術が広く行われ,良好な成績が報告されている 3)~5.しかし,経口腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞に対するステント留置術に関しては,これまでに詳細な報告はなされていない.腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞は多量の洗浄剤内服の影響により急激に腸管内圧が上昇していると推測される.このため,通常の大腸閉塞に比べステント留置時の合併症リスクが高くなる可能性が考慮される.本稿では,われわれがこれまで経験した経口腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞に対するステント留置症例を呈示し,その特徴を報告する.

Ⅱ 対象・方法

2013年4月から2018年3月までの5年間に湘南鎌倉総合病院では腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞を12例を経験した.このうち,周囲臓器浸潤のためステント留置による直線化で穿孔のリスクが考慮された症例を2例(Figure 1),複数の癌による狭窄を1例,大腸穿孔症例を1例認めた.これらの症例はステント留置をせず,緊急,もしくは準緊急での外科手術の方針となった.穿孔症例は状態が悪化し死亡の転帰となった.

Figure 1 

直腸癌がS状結腸へ浸潤するT4b症例であり,ステント留置による直線化から穿孔の危険があるため留置不能と判断した.

ステント留置を試みた症例は全8例であり,これらの症例を対象とし,狭窄の原因,狭窄長,臨床病期,洗浄剤の内服量,手技的成功率,臨床的成功率,手技時間,緊急手術の回避の可否,治療後の経過について検討した(Figure 2).手技的成功とは初回のステント挿入で狭窄範囲に適切にステントを留置できたものと定義し,臨床的成功とはステントを留置した後にステント関連の合併症や内視鏡処置や手術などの介入が必要なく腸管減圧がなされている状態と定義した.

Figure 2 

腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞12例のうち大腸ステント留置を試みた症例は8例であった.

下部内視鏡検査の前処置方法は前日から任意で検査食(FG-two)を摂取し,前日21時にピコスルファート20ml,もしくは,センノシド12mg 3錠を内服し,翌朝院内で看護師の管理下でモサプリドクエン酸5mg3錠を内服後ニフレック2L,もしくは,マグコロールP等張液1.8Lを腹痛・嘔吐に注意しながら内服する.

ステント留置は,5例以上の大腸ステント留置経験のある消化器内科医が必ず1名以上参加し,大腸ステント安全手技研究会による『大腸ステント安全留置のためのミニガイドライン』 6に準拠し適応を選択し,ステント留置を施行した.ステントは全例Niti-STM Colonic D-type stent(TaeWoong Medical 社,韓国)を使用した.

Ⅲ 結  果

腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞に対しステント留置を試みた8例の臨床的特徴をTable 1に示す.ステント留置症例の内訳は男性6例,女性2例で,平均年齢は73.3歳であった.狭窄部位は横行結腸1例,下行結腸1例,S状結腸5例,直腸1例であった.狭窄の原因のうち7例はスコープの通過しない大腸癌であり,このうちの1例は巨大1型病変の重積例(Figure 3)で,それ以外の病変は全周性2型病変であった.また,大腸癌以外の1例は虚血性腸炎後と思われる良性の瘢痕狭窄であった.腫瘍による狭窄長は平均45mmであり,悪性症例の臨床病期はStage Ⅱが4例,Stage Ⅲが2例,Stage Ⅳが1例であった.平均腸管洗浄剤内服量は1.8Lであった.8例中6例(75%)で手技的成功が得られ,良性狭窄症例にはステントを留置せず,イレウス管を挿入した.巨大1型病変の重積症例ではガイドワイヤー(GW)の挿入が困難のため,緊急手術となった.全周性2型病変による狭窄例は合併症なくステント留置が可能であった.

Table 1 

経口腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞に対しステント留置を試みた8例.

Figure 3 

巨大1型病変,重積症例のためステント留置を断念した.

a:CTでは直腸に重積様の腫瘤像を認める(矢印).

b:下部内視鏡検査では口側腸管へのガイドワイヤー挿入は不可能でありステント留置は断念した.

ステント留置例はステント関連の合併症,内視鏡処置や手術などの介入が必要なく腸管減圧がなされており,臨床的成功率も同様の75%であった.ステント留置例の平均手技時間は32分であり,全例で緊急手術の回避が可能であった.ステント留置後の経過としては1例に根治外科手術待機中の死亡例を認めた.本例は人工透析中の基礎疾患を多く有する症例で原病非関連死であった.また,Stage Ⅳと診断された症例は緩和治療となった.これら以外の症例は全例手術加療となり,1例のみ人工肛門造設術が必要となったが,その他の症例は人工肛門造設を回避できた.

通常の全周性2型病変に対する腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞に対するステント留置例(Case 1~3,6~8)は合併症なく安全に施行されていた.

Ⅳ 考  察

経口腸管洗浄剤内服による大腸閉塞は一定の頻度で発生し,完全に防ぐことは難しい偶発症とされる 2.実際,当院での経口腸管洗浄剤の内服は全例院内で看護師の管理下で行い,問診表を用いてリスク患者のスクリーニングを行っているものの,一定の頻度で発生してしまっていた.当院ではスコープが通過しないような悪性大腸狭窄が既知である場合は,直腸病変ならば無前処置,S状〜下行結腸では浣腸,横行〜上行結腸であれば浣腸やBrown変法を行い狭窄部の観察を行っている.今後こうした症例を検査前に認識することが課題と思われた.

経口腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞はこれまで経肛門イレウス管留置や緊急手術がなされてきたが,経肛門イレウス管の深部結腸への留置は難しいことが多く,多くの症例で緊急手術への移行が必要となっていた 7

また,イレウス症状を伴う大腸癌の緊急手術は高い合併症率や死亡率,入院期間の延長など多くの問題を抱えており 8),9,通常検査の予定が,医原性に重篤な転帰となることや,人工肛門造設となることで著しいQOL低下につながっていた.近年の大腸ステント留置の結果からも技術的成功率は96.6%〜98.1%,短期的な臨床的成功率は91.9%〜93.8%,短期での穿孔率は1.6%〜2.3%と良好な成績を認めており 3)~5十分に標準的手技として位置付けられている.また,本検討でも1例認めたように,経肛門イレウス管では挿入は難しい深部結腸の閉塞も大腸ステントであれば対応が可能である(Figure 4).さらに通常の大腸ステント留置と同様に深部腸管の検索を含めた適切な検査・準備を経て待機的手術を行うことが可能となり,術後合併症を減らすことができると考えられる 10

Figure 4 

横行結腸癌による経口腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞症例.

a:CTでは腸管洗浄剤内服のため拡張した結腸と横行結腸に壁肥厚を認めた(矢印).

b:下部内視鏡所見では全周性2型病変を認めスコープの通過は困難であった.

c:手技時間52分でステント留置が可能であった.

腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞は通常の大腸閉塞に比べ洗浄剤により腸管内圧がより上昇している可能性が高く,ステント留置に際し穿孔など合併症が起こりやすいと推測される.しかし,本検討の結果が示すように,『大腸ステント安全留置のためのミニガイドライン』に準拠し適応を選択し,ステント留置を行えば,通常の大腸閉塞と同様に安全に留置できる可能性が示唆された.

Ⅴ 結  語

経口腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞であっても,全周性2型病変による狭窄例であれば『大腸ステント安全留置のためのミニガイドライン』に準拠し適応を選択しステント留置を行うことで緊急手術を回避し閉塞を解除できる可能性があると考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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