【背景・目的】全国規模かつ人口ベースの内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)関連手技データベースに関する報告は少ない.日本消化器内視鏡学会は全国規模の内視鏡データベース構築のためにJapan Endoscopic Database(JED)Projectを2015年に立ち上げた.今回,われわれは全国規模の内視鏡データベースを構築するにあたり,まずは多施設でのERCP関連手技データ登録システムを評価した.
【方法】最終的に,2015年1月1日から2017年3月31日の間の4施設で行われたすべての患者のERCP関連手技データをJEDプロトコールに基づき収集・解析した.
【結果】4施設にて2,173人の患者,4,104件のERCP関連手技が行われた.データ入力率は,4施設から正確に抽出された(年齢;100%,性別;100%,ASA-PS;74.5%,スコープ情報;92.7%,ERCP関連手技回数;100%,抗血栓薬;55.0%,最初の胆管へのアプローチ法;73.0%,胆管挿入までの乳頭へのアプローチ回数;67.6%,最終的な深部挿管へのアプローチ法;68.9%,手技時間;66.3%,透視時間;65.1%,偶発症;74.9%,手技翌日のアミラーゼ値;36.5%).ERCP難易度別による胆管挿管成功率は,Grade 1,2,3にてそれぞれ98.5%,99.0%,96.4%であった.造影法,ガイドワイヤー法,クロスオーバー法における最終的な深部挿管へのアプローチ法別での偶発症率はそれぞれ5.6%,7.6%,10.5%であった.
【結語】今回のJEDプロジェクト,多施設ERCP関連手技データベース登録のデータから全国規模データベース設立の可能性と課題を示した.
日本消化器内視鏡学会は全国規模の内視鏡データベース構築のためにJapan Endoscopic Database(JED)Projectを2015年に立ち上げた.本事業によってわれわれは主に3つの重要な知見をえられることができる.
第一に,直接的にネットワークを介して内視鏡レポートシステムからデータを取得できることである 1).つまりデータの再入力を行う必要がない.
第二に,本事業は臨床研究を行うための有用な解析情報を取得できうる質の高い原データが得られることである.
第三に,個々の内視鏡業績を明確にすることにより内視鏡専門医制度に関しても重要な情報が得られることである.
胆膵領域での全国規模かつ人口ベースの内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)関連手技データベースに関する報告は数少ない.Clinical Outcomes Research Initiative database,Nationalwide Inpatient Sample,National Health Insurance Research Databaseなどはデータベースに基づいた研究ではあるものの,データベース自体がやや包括的,具体性に欠けている 2)~4).われわれの知る限り,スウェーデンの登録システムであるGallRilksは正確な人口ベースのERCPデータである 5).2007年から2008年における11,074件のERCPについて胆管挿入成功率,ERCP関連偶発症率,30日以内の死亡率の有無,層別化された各病院情報などを報告している.しかし,この登録システムには限界がある.すなわちERCPに引き続き胆嚢摘出を予定している患者である必要があり,それらのデータを内視鏡部門システムに記載した上でデータ入力を別の端末で行わなければならない.理想的な内視鏡データ登録システムは別のシステムへの二重入力を必要とせず,内視鏡部門システムからのデータを直接共有できなければならない 6).
われわれは以前に,上部消化管内視鏡,大腸内視鏡,小腸内視鏡,ERCP関連手技における第1期JEDプロジェクトを報告した 7).前回の報告では,ERCP関連手技データは半年間5施設から合計1,176件を収集した.データを解析し,偶発症率,翌日の血清アミラーゼ値,手技難易度を報告した.しかし,ERCP関連手技のデータ入力は複雑であり困難である.理由としては,ERCP関連手技後のアミラーゼ値,偶発症,30日以内の死亡率の有無などを後日入力する必要があるからである.
今回,われわれは全国規模の内視鏡データベースを構築するにあたり,多施設でのERCP関連手技データ登録システムを評価した.
この研究は前向き観察研究としてデザインした.調査対象母集団はJEDプロジェクトに参加した北里大学病院,埼玉医科大学国際医療センター,虎の門病院,慈恵医大葛飾医療センターの4施設にてERCP関連手技を施行した患者とした.
本研究は人を対象とした研究委員会の倫理規定及び改訂版ヘルシンキ宣言に基づき行われ,日本内視鏡学会倫理委員会(承認番号:005)及び各施設の倫理審査の承認を得た.大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)臨床登録システムにも登録した(UMIN-000016093).
データ収集本事業におけるデータはSolemio ENDO(オリンパスメディカルシステムズ),NEXUS(富士フイルムメディカル)から抽出した.これらの内視鏡部門システムに含まれているすべてのデータはハッシュ化されたCSVファイルに変換し,インターネットを経由せずにUSBメモリーを用いて各施設から抽出した.すべてのメディアは損失する可能性も考慮し,パスワードで保護した.
抽出したデータは日本消化器内視鏡学会事務局にあるサーバーに保存し,Microsoft Excel(マイクロソフト社)で使用するため,適切にフォーマットした上でデータクリーニングを行った.
最終的に,2015年1月1日から2017年3月31日の間のERCP関連手技データをJEDプロトコールに基づき検討した 1),7).
1.基本患者情報:検査日,年齢,性別,ASA-PS Grade,抗血栓薬,喫煙歴,飲酒歴,腹部手術歴,他臓器癌既往歴,悪性腫瘍家族歴.
2.依頼情報:検査目的,予定性,外来・入院.
3.検査中薬剤:鎮痙剤,鎮痛,鎮静,麻酔薬.
4.使用スコープ.
5.手技中偶発症.
6.手技後偶発症.
7.ERCP関連手技30日以内の死亡の有無.
8.実施医.
9.看護師・技師.
ERCP関連手技項目
1.手技時間:総手技時間,乳頭までの到達時間,透視時間.
2.挿管情報:最初の挿入時のアプローチ法(例:造影法,ガイドワイヤー法),挿管までのアプローチ回数,深部挿管の最終的な方法.
3.ERCP関連手技治療歴.
4.胆管・膵管の造影範囲.
5.胆管・膵管径.
6.ERCP関連手技難易度.
7.翌日血清アミラーゼ値.
2015年1月1日から2017年3月31日の間,4施設にて2,173人の患者,4,104件のERCP関連手技が行われた(Table 1).
内視鏡的逆行性胆管膵管造影数.
Table 2に基本情報を示した.データ入力率はASA-PSの74.5%から年齢・性別・ERCP関連手技検査歴の100%までと極めて高い数値であった.年齢別では,70歳代(70-79歳)がどの施設においても高い割合を占めており(施設A,36%;施設B,31.8%;施設C,39.6%;施設D,31.5%),男女比は順に1.52,2.05,2.14,1.27であった.いずれの施設においてもほとんどのERCP関連手技はASA-PS Class 1もしくはClass 2の状態で行われた(施設A,89.0%;施設B,89.8%;施設C,81.3%;施設D,89.4%).ERCP関連手技では側視鏡が主なスコープである一方,施設Aや施設Cではバルーン小腸鏡がよく用いられていた(施設A,9.6%;施設B,0.01%;施設C,13.3%;施設D,1.4%).ERCP関連手技の検査歴に関してはすべての施設で完全に入力されていた.2,173人の患者のうち,1,171人(53.9%)は1セッションで治療が完了されていた(施設A,55.7%;施設B,59.0%;施設C,53.8%;施設D,42.9%).
ERCP関連手技データ患者基本情報.
Table 3に抗血栓薬に関する情報を示した.4,104件のERCP関連手技のうち,2,256件(55.0%)が4施設から収集された.のべ2,256人のうち,561人(24.9%)において検査前に抗血栓薬が使用されていた.561人のうち,411人(73.3%)が抗血栓薬1剤内服,次いで2剤併用の123人(21.9%),3剤併用が24人(4.3%)そして4剤併用が3人(0.5%)であった.抗血栓薬1剤内服における抗血小板薬に関しては,アスピリンが194人(34.6%)を占め,次いでチエノピリジン(38,6.8%),シロスタゾール(5,0.9%),イコサペント酸エチル(2,0.4%),その他の抗血小板薬(49,8.7%)であった.一方,ワルファリンは51人(9.1%),DOAC(43人,7.7%),その他の抗凝固薬(23人,4.1%)であった.
抗血栓薬情報.
最初の胆管へのアプローチ法,胆管挿入までの乳頭へのアプローチ回数,最終的な深部挿入時のアプローチ法の入力率はTable 4の如く,それぞれの項目で73.0%,67.6%,68.9%であった.最初の胆管へのアプローチ法に関しては,44.1%がコントラスト法,53.5%がガイドワイヤー法にて行われた.1回のアプローチによる胆管挿管成功率は55.7%であった.最初のアプローチ法で不成功の場合は別の方法を用いた.最終的な深部挿管へのアプローチ法は,ガイドワイヤー法単独が39.9%を占め,ガイドワイヤー法と造影法を組み合わせたクロスオーバー法が27.1%,コントラスト法単独が21.9%,ダブルガイドワイヤー法が6.2%,そして0.7%のプレカット法であった.
ERCP関連手技挿管情報.
ERCP難易度の項目入力率と結果をFigure 1に示した.
改Schutz分類によるERCP関連手技難易.多くはGrade 1(68%)であり次いでGrade 2(13%)and Grade 3(13%)であった.
改Schutz分類 1),8)~10)によるERCP難易度は67.8%(1,811/2,668)がGrade 1を占め,Grade 2の13.3%(355/2,668),12.5%のGrade 3(334/2,668)であった.Table 5はERCP難易度別Grade 3Xでの57.9%からGrade 2の99.0%までの胆管挿管成功率を示した.
胆管挿管成功別の改Schutz分類を用いたERCP関連手技困難度.
Table 6にERCP関連手技の手技時間及び透視時間を示した.手技時間,透視時間の入力率は66.3%,65.1%であった.ERCP関連手技時間情報を2群間に分けて検討したところ,TJFもしくはJFを使用した正常解剖でのERCP関連手技の平均手技時間は34.9分,SIFもしくはPCFを用いた術後での平均手技時間は57.9分であった.平均透視時間は,各々13.6分と26.8分であった.
2群間におけるERCP関連手技時間情報(TJFまたはJF対SIFまたはPCF).
ERCP関連手技翌日血清アミラーゼ値のデータをFigure 2に示した.血清アミラーゼ値の入力率は36.5%(1,497/4,104)であった.400IU/L以上は10.8%(161/1,497)であった.
ERCP関連手技翌日のアミラーゼ値.ERCP関連手技翌日のアミラーゼ値が400IU/L以上が10.8%,施設Cが9.4%,施設Dが16.1%であった.
ERCP後膵炎,出血,感染,穿孔などの手技関連偶発症の入力率はTable 7に示すように74.9%(3,073/4,104)であり,30日以内の死亡の有無に関しては30.0%(1,232/4,104)であった.ERCP関連手技後の偶発症は10.6%に出現しており,軽度が50.0%,中等度が14.5%,重度が0.8%であった.30日以内の死亡は14例(1.1%)に生じた.
ERCP関連手技偶発症.
Table 8に胆管挿管法別での偶発症を示した.造影法では81例(8.9%),ガイドワイヤー法では134例(8.6%)の偶発症があった.最終的な深部挿管挿入法別での偶発症は,造影法,ガイドワイヤー法,クロスオーバー法,ダブルガイドワイヤー法で順に5.6%,7.6%,10.5%,19.9%であった.ERCP関連手技後膵炎は,造影法の1.4%からダブルガイドワイヤー法の9.6%に至った.
総胆管カニューレション法別での偶発症.
今回のJEDプロジェクトでは,約2年間4施設での患者基本情報及びERCP関連手技情報を収集・解析することができた.われわれの結果から多施設からの大規模データ抽出及び臨床研究に先だった有益な原データベース構築を目的とした本事業の可能性について示すことができた.
今回解析は行わなかったが,データベースから各手技を行った内視鏡医情報を提供することができ,そのことによりERCP関連手技における医師の質もしくは “provider scorecard” を評価する一助になるかもしれない 5).今回,基本情報の結果に関しては前回と一致しており,Table 2に示したように入力率に関しては満足のいくものであった 7).年齢,性別,スコープ情報,ERCP関連手技既往歴などの基本情報は内視鏡部門システムから簡単に抽出できたからである.一方,抗血栓薬情報や手技関連偶発症などのより高次構造のデータは場合によっては抽出することが難しい場合があった.いくつかの施設での高い入力率の理由としては,検査施行医がプルダウンメニューから項目を選ばない限り内視鏡報告書を終了することができない内視鏡部門システムの必須機能の存在のためであり,この必須機能が直接的に高い質のデータ入力に結び付いていた(Figure 3).
各項目の内視鏡報告はプルダウンメニューから選択する必要がある(青印).アスタリスク(赤印)の項目はすべて記載しなければならない.
本データでは,4施設の胆管挿管方法が造影法とガイドワイヤー法で大まかに二分した結果であった.今回のような人口ベースでの挿管情報は,挿管の質や早さ,さらに偶発症などといった今後の研究において必ず助けになるであろう 4),11)~16).
別の観点として,長時間の透視は患者・医療従事者や医師双方にとって放射線障害のリスクについて知っておくべきである 11)~13).われわれのデータでは,海外と比較し長時間の傾向であった 14).健康障害の点から,われわれは手技関連の時間に関する報告はERCP関連手技レポートすべてにおいて必須項目とすべきと考えている.
今回,Figure 1のようにJEDスタンダードとして改Schutz分類を適用した 8).結果としていくつかの指標的な報告と同様であった 2),5),7),9).改Schutz分類でのERCP難易度別での胆管挿管成功率についても検討したが,データ量が少なかったせいもあり新たな傾向を見出すことはできなかった(Table 5).
日本内視鏡学会のERCP関連手技後偶発症の調査は,30日以内の死亡の有無も含め,現状5年毎で自発的である.この調査結果はERCP関連手技を予定している患者への説明時に指標的なデータとして提示されている.この報告によると,ERCP関連手技偶発症は僅か1%であるが,われわれの結果では10.6%であった(Table 7).この違いは,多くの要因によるものだと推測されるが,主な原因として,多くの不完全データと報告バイアスによるものと思われる 15).高品質のデータを取得するためには,内視鏡部門システムの必須項目設定がデータ及び報告バイアスを改善するためには必須である.しかしながら,必須項目設定は手技後の入力項目であるERCP関連手技後翌日のアミラーゼ値,偶発症,30日以内死亡の有無などの項目を制御することはできない.今回の結果はモチベーションの高い施設においても,偶発症,アミラーゼ値,30日以内の死亡の有無に関する入力率が,74.9%,36.5%,30.0%であった.われわれは内視鏡学会として,手技後翌日以降の項目の入力率を高めるためには,将来的にデータの質による各施設の格付けなどの取り組みも必要ではないかと思っている.
本事業は全国規模の内視鏡データベースの確立継続することを目的とし2015年に開始された.これまで,ERCP関連手技分野においては42施設が本事業に賛同しているものの多くのハイボリュームセンターが未だ本事業に参加していない.社会保険診療報酬支払基金によると,毎年240,000件以上のERCP関連手技が基金から支払われている.われわれは本事業の必要性・重要性を内視鏡認定施設に継続的に周知してもらうつもりである.
われわれの結果は,ERCP関連手技項目における特定の集団や場所における有用な情報を指し示している.しかしながら皆が知っておかなければいけないことは,これらのデータは実臨床データから成立しているので本質的に臨床試験データとは異なる点である.そのため本事業のデータを活用する研究者はデータの完全性,正確性,一貫性といった “使用適合性” を評価するべきである 16)~18).
われわれは全国規模内視鏡データベース構築にあたり,多施設ERCP関連手技データベースを評価した.われわれはERCP関連分野における本事業の課題とともに将来のデータベース設立の可能性を示した.
謝 辞
本論文の丁寧な校閲をしていただいたMark A. Gromski先生に感謝申し上げる.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし
補足資料
追加の支援情報は出版社のウェブサイトでのこの論文のオンライン版に表示されております.
Data S1 追加ERCP偶発症イベント