日本消化器内視鏡学会雑誌
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ガイドライン
胃癌に対するESD/EMRガイドライン(第2版)
小野 裕之八尾 建史藤城 光弘小田 一郎上堂 文也二村 聡矢作 直久飯石 浩康岡 政志味岡 洋一藤本 一眞
著者情報
キーワード: 早期胃癌, ESD, EMR, ガイドライン
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2020 年 62 巻 2 号 p. 273-290

詳細
要旨

早期胃癌に対する内視鏡治療が急速な拡がりを見せている現況において,日本消化器内視鏡学会は,日本胃癌学会の協力を得て,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,“胃癌に対するESD/EMRガイドライン”を2014年に作成した.この分野においてはエビデンスレベルが低いものが多く,コンセンサスに基づき推奨度を決定しなければならないものが多かったが,近年,よくデザインされた臨床研究が増加している.新しい知見を踏まえて,適応・術前診断・手技・根治性の評価・偶発症・術後長期経過・病理の7つのカテゴリーに関して,改訂第2版を刊行し,現時点での指針とした.

はじめに

早期胃癌に対する内視鏡治療は日本を中心に発展してきた.特に1990年代に日本で開発された内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は,従来外科切除が行われてきた早期胃癌に対してその適応を大きく拡大してきた.日本のみならず,まず中国,韓国をはじめとしたアジアに急速に広まり,次第に欧米諸国にも受け入れられつつある.このような状況において,日本消化器内視鏡学会は臨床場面での有用な手引きとなることを目指して,「胃癌に対するESD/EMRガイドライン」を2014年に刊行した 1.内視鏡治療は,早期胃癌に対する治療の6割以上を占めると推計されており 2,ガイドラインの重要性はさらに増している.そこで初版刊行から5年が経過したのを契機に「胃癌に対するESD/EMRガイドライン(第2版)」を作成する運びとなった.

診療ガイドラインは,「診療上の重要度の高い医療行為について,エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価,益と害のバランスなどを考量して,患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」 3と定義されている.本版は「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」 3に従い,EBMに基づいたガイドライン作成を心がけた(Table 1).この分野におけるエビデンスは少なく,コンセンサスを重視せざるを得なかったのは初版と同様であるが,徐々に質の高い研究が集積されつつあり,本版でもその成果が反映されている.

Table 1 

推奨の強さとエビデンスレベル.

手技の具体的な手順や機器,デバイス,薬剤の種類や使用法などは消化器内視鏡ハンドブック改訂第2版 4にゆずり,本ガイドラインは,基本的な指針となるものとした.ただし,「病理」の項目については,切除標本の処理や病変の計測法など,具体的な手順を記載した.これは,標本の取扱いについての系統的な記述が他書にあまりみられないことから,消化管病理が専門でない病理医や海外の病理医の一助となることを目的としたためである.また,病理の項に関しては,多くがコンセンサスに基づき行われており,エビデンスレベルの検討が困難であったため,エビデンスレベルについては記載しないこととした.本ガイドライン作成にあたり,すでに刊行されている胃癌学会の「胃癌治療ガイドライン(医師用)第5版」 5との整合性についても配慮した.日常臨床における早期胃癌に対する内視鏡治療を行うにあたって,最低限必要な基本事項を網羅しており,十分に活用していただくことを期待する.

本ガイドライン作成の手順

1)委員

ガイドライン作成委員として,消化管内視鏡医5名と消化管病理医1名の計6名が作成を委嘱された.また評価委員として,消化管内視鏡医4名,消化管病理医1名が評価を担当した.また,外部委員として,胃癌外科,腫瘍内科,放射線診断科,各1名が評価を委嘱され,計8名が評価を担当した(Table 2).

Table 2 

胃癌に対するESD/EMRガイドライン作成委員会.

2)推奨の強さ,エビデンスレベル,ショートステートメント,クリニカルクエスチョン(CQ)

作成委員により,適応,術前診断,手技,根治性の評価,偶発症,術後長期経過,病理の7つの項目が設定された.それぞれの項目について,「リンパ節転移の可能性が極めて低く,病巣が一括切除できる大きさと部位にある場合は,原則,内視鏡治療を行う」というように,ショートステートメントを作成した.そのステートメントに対して,推奨の強さとエビデンスレベルを設定した(Table 1).また,重要な臨床課題と考えられる事項(Key Clinical Issues)について,CQを設定し,解説文を作成した.

ショートステートメントおよびCQに対して,PubMedおよび医学中央雑誌にて遡及可能な限り古い年代から2017年10月までの期間で,系統的に文献検索を行った.不足した文献に対してはハンドサーチも採用した.検索した文献を評価して必要な文献を採用し,解説文を作成した.そして,作成委員は各担当分野の各文献のエビデンスレベルおよびステートメントに対する推奨の強さとエビデンスレベルを「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」 3に従って設定した.

3)評価の手順

作成されたステートメントと解説文を用いて総説形式のガイドラインを作成し,ステートメント案に対して,作成委員と評価委員の合計14名により修正Delphi法による投票を行った.修正Delphi法は,1-3:非合意,4-6:不満,7-9:合意,として7以上のものをステートメントとして採用した.6点以下の評価がある場合および委員のコメントから再検討が必要とされたものは,ディスカッションを行いステートメントあるいは推奨の強さ,エビデンスレベルを修正し,7点以上となるまで投票を繰り返した.完成したガイドライン案は学会会員に公開されてパブリックコメントを求めた上で,それぞれの結果に関する議論を経て修正を加え,本ガイドラインが完成した.

4)本論文内容に関連する著者の利益相反

本ガイドライン作成委員,評価委員の利益相反に関して各委員には下記の内容で申告を求めた.本ガイドラインに関係し,委員個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:報酬(100万円以上),株式の利益(100万円以上,あるいは5%以上),特許使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料(50万円以上),研究費,助成金(100万円以上),奨学(奨励)寄付など(100万円以上),企業などが提供する寄附講座(100万円以上),研究とは直接無関係なものの提供(5万円以上).

八尾建史(講演料:オリンパス,奨学寄付:日本イーライリリー),藤城光弘(講演料:武田薬品工業,EAファーマ,日本製薬,研究費・助成金:HOYA,奨学寄付:EAファーマ),小田一郎(研究費・助成金:カイゲンファーマ,セルシード),岡 政志(講演料:マイランEPD),藤本一眞(講演料:ツムラ,EAファーマ,アストラゼネカ,第一三共製薬,奨学寄付:アストラゼネカ,第一三共製薬,アステラス製薬,武田薬品工業,EAファーマ,旭化成メディカル)

5)資金

本ガイドライン作成に関係した費用は,日本消化器内視鏡学会より提供された.

Ⅰ 適  応

1.基本的な考え方

早期癌と診断された場合,内視鏡治療もしくは外科治療を検討する(evidence level B,推奨度1).

胃癌に対して内視鏡治療を行うことで生命予後や生活の質(QOL)の改善に寄与すること,または,内視鏡治療と外科手術を比較し,両者における生命予後やQOLの違いがあることを,明確に示した研究は存在しない.しかし,早期胃癌の診断後,6カ月以上無治療であった71例の予後を10年目以降に検討した研究によると,5年後の進行癌移行率が63%[95%信頼区間(CI):48~78%]であった.早期胃癌を治療せずに放置されていた場合と,経過中,治療を行っていた場合では,予後に有意な違いがあり,診断後6カ月以降でも治療介入により予後が改善することを示すデータがある 6),7

リンパ節転移の可能性が極めて低く,病巣が一括切除できる大きさと部位にある場合は,原則,内視鏡治療を行う(evidence level B,推奨度1).

内視鏡治療では胃が温存されることから,比較試験を待たずしても内視鏡治療は外科治療よりQOLが良好であることが推察されるため,内視鏡治療で根治が得られる可能性が高い病巣に対しては内視鏡治療を行う 8.しかし,上述の進行癌移行率が5年で63%という数字が示すとおり,早期胃癌と診断されても全例が早期に胃癌死に至るとは考えにくい.病巣に対する術前診断に加え,患者条件を加味し,リスク・ベネフィットを総合的に考慮して治療適応を決定する必要がある.具体的な腫瘍因子による適応は,絶対適応病変,適応拡大病変,相対適応病変に分類する(Figure 1).

Figure 1 

腫瘍因子による適応の分類.

2.絶対適応病変

リンパ節転移の危険性が1%未満と推定され,外科的胃切除と同等の長期成績が得られている病変を指す.EMR/ESDの絶対適応病変は,「長径2cm以下のUL0の肉眼的粘膜内癌(cT1a),分化型癌」,ESDの絶対適応病変は,「①長径2cmを超えるUL0のcT1a,分化型癌,②長径3cm以下のUL1のcT1a,分化型癌,③長径2cm以下のUL0のcT1a,未分化型癌」とする(evidence level B,推奨度1) 9)~11.胃癌に対するESD/EMRガイドライン2014年版 1でESDの適応拡大病変として扱われていた病変(局所再発病変を除く)は,JCOG0607およびJCOG1009/1010による多施設共同前向き臨床試験の結果によりESDの絶対適応病変に組み込まれた 10),11

3.適応拡大病変

上記のごとく,胃癌に対するESD/EMRガイドライン2014年版で腫瘍因子により適応拡大病変とされた病変すべてが絶対適応病変に組み込まれた.しかし,今後,新たな適応拡大を目指した研究が行われることを想定し,リンパ節転移の危険性は1%未満と推定されるものの,長期予後に対するエビデンスに乏しい病変を適応拡大病変と定義する.ESD技術の安定に伴い,再ESDの安全性,有用性は高まっていることから,分化型癌に限っては,初回のESD/EMR時に絶対適応病変で,かつ根治度が内視鏡的根治度(endoscopic curability:eCura)C-1で,その後に粘膜内癌で局所再発した病変であれば,ESDの適応拡大病変として取扱うことが可能である(evidence level C,推奨度2) 12),13

4.相対適応病変

標準治療が外科的胃切除である早期胃癌の一部は,治癒率は下がるものの内視鏡治療で根治の可能性がある.また,術前診断の不確実性は「術前診断」の項目で詳述したとおりであり,特にpT1bの正診率は十分ではない 14.よって,内視鏡治療の絶対適応,適応拡大条件を満たさない早期胃癌に対して,患者の状況や診断的意味合いを加味して内視鏡治療が適応される場合もある.

Ⅱ 術前診断

胃癌のESD/EMRに必要な術前内視鏡診断は,大きく分けて,「1.適応を決定するための診断」,「2.切除範囲を決定するための診断」,である.

1.適応を決定するための診断

ESD/EMRの適応を決定するためには,(1)組織型,(2)大きさ,(3)壁深達度,(4)潰瘍合併の有無を診断する必要がある(evidence level D,推奨度1).

まず,癌の組織型(分化型癌 vs. 未分化型癌)の診断は,生検組織診断により行うのを原則とする.内視鏡である程度組織型診断の推測ができることも報告されているが,まだ十分なエビデンスがない 15)~20.原則として,内視鏡的鉗子生検による病理組織診断を参照して癌の組織型の診断を行う.

通常の内視鏡観察法により計測した大きさには,誤差があることが指摘されている 21)~23.正確に大きさを計測することは困難なので,最終的には切除標本の組織学的所見が判明した後に大きさの判定をするという前提で診断・治療を行う.

潰瘍合併の診断は,癌巣のなかに,明らかな活動性潰瘍または潰瘍瘢痕の所見をもって行う.病理組織学的に,潰瘍はUl-Ⅱ以深の粘膜の欠損と定義される.術前の内視鏡観察では,活動性潰瘍は,浅いびらんを除く,ある程度深さのある白苔を伴った開放性潰瘍を指す.また,治癒期または瘢痕期の潰瘍は,1点に集中する粘膜やひだ集中の所見を有する場合,潰瘍と定義される.

早期胃癌の壁深達度診断は,原則として,通常内視鏡観察により行い 24)~27,インジゴカルミン色素散布法を併用することが推奨されている 26.通常内視鏡観察により早期胃癌の壁深達度診断が困難な場合には,超音波内視鏡が補助診断として有用な場合がある 28)~35

2.切除範囲を決定するための診断

切除範囲診断は,原則として,色素散布法を併用した通常内視鏡観察,または画像強調観察を併用した拡大内視鏡を用いる(evidence level B,推奨度1).

癌の水平範囲診断には,原則として,最も普及し簡便な色素散布法を併用した通常内視鏡診断を用いる.ESDの適応となりうる早期胃癌を対象とし本方法を用いれば,約80%の病変において,水平方向範囲診断ができると報告されている 36),37

通常の内視鏡観察のみで切除範囲診断が困難な場合は,equipment-based image enhanced endoscopy(IEE)を併用した拡大内視鏡観察が,補助診断法として有用であると報告されてきた 37.その後,色素散布法を併用した通常内視鏡観察とIEEを併用した拡大内視鏡観察についての無作為化比較試験の結果が報告された.ESD例のみを対象にした単施設の無作為化比較試験でIEEを併用した拡大内視鏡観察は,色素散布法を併用した通常内視鏡観察と比較して正診率が優れていた(89.4% vs. 75.9%,P=0.007) 38,しかし,ESD例と外科切除例を対象とした多施設の無作為化比較試験によると,2つの方法の正診率に有意差を認めなかった(88.0% vs. 85.7%,P=0.63) 39

一部の分化型癌と,未分化型癌の範囲診断は,内視鏡観察のみでは困難なことがあり 37,病変周囲から生検し,病理診断を参照することが望ましい.

Ⅲ 手  技

ESDの絶対適応病変,およびESDの適応拡大病変はEMRでは不完全切除となる可能性が高いため,EMRではなく,ESDを行うべきである(evidence level B,推奨度1).

患者の状態や病巣条件,施設の治療環境,術者の習熟度に応じて,最良と思われる内視鏡治療法を選択する.EMRは,病巣を挙上して鋼線のスネアをかけ,高周波により焼灼切除する方法である 40)~42.ESDは,高周波デバイスを用いて病巣周囲の粘膜を切開し,さらに粘膜下層の剝離をして切除する方法である 8),43)~51.EMRとESD,また,EMR間,ESD間での治療成績の違いを無作為化比較試験で検証した研究は存在しないが,一般に,ESDはEMRより良好な一括切除率が得られることがメタ解析で示されている 52)~55.また,腫瘍サイズが長径1cmを超えると,EMRにおける一括切除率がESDに比し有意に低下することが報告されている 56)~58

ESD/EMR時の周術期管理については,日本消化器内視鏡学会卒後教育委員会編の消化器内視鏡ハンドブック改訂第2版 4や日本消化器内視鏡学会の各種ガイドラインを参照して行う 59)~61

Ⅳ 根治性の評価

局所因子とリンパ節転移リスクの因子で内視鏡的根治度を評価する(evidence level B,推奨度1).

1.内視鏡的根治度A(eCuraA):治癒切除

外科切除した場合の予後と同等以上の長期成績が検証されている 10),11.腫瘍が一括切除され,UL0の場合,①腫瘍径を問わず,分化型癌優位で,pT1a,HM0,VM0,Ly0,V0,もしくは,②長径2cm以下の未分化型優位でpT1a,HM0,VM0,Ly0,V0 62,UL1の場合,③長径3cm以下の分化型癌優位で,pT1a,HM0,VM0,Ly0,V0,であった場合を指す 62),63.ただし,未分化型成分が混在する分化型癌症例に関してのエビデンスはいまだ十分とはいえず,①で,未分化型成分が長径で2cmを超えるものはeCuraC-2(Figure 6の測定方法参照)とする.

2.内視鏡的根治度B(eCuraB)

いまだ十分な長期成績が得られていないものの根治が期待できる.腫瘍が一括切除され,長径3cm以下の分化型癌優位でpT1b1(SM1)(粘膜筋板から500μm未満),HM0,VM0,Ly0,V0であった場合を指す 64.ただし,SM浸潤部に未分化型成分があるものはeCuraC-2(Figure 6の測定方法参照)とする.

3.内視鏡的根治度C(eCuraC)

胃癌に対するESD/EMRガイドライン2014年版 1における非治癒切除に相当する概念である.上記のeCuraA,Bのいずれにも当てはまらない場合であり,遺残の可能性がある.そのうち,分化型癌の一括切除で側方断端もしくは分割切除のみがeCuraA,Bの基準から外れる場合をeCuraC-1とし,それ以外をeCuraC-2とする.

eCuraC-1であった場合は,転移の危険性は低く,追加外科切除のみならず,施設の方針により,患者へのインフォームドコンセントの後,再ESD,焼灼法,無治療経過観察も選択肢となりうる.ただし,1)長径3cm以下,分化型優位,pT1a,UL1,2)長径3cm以下,分化型優位,pT1b1(SM1),の場合は,内視鏡を再検し遺残の大きさと標本内の大きさの合計が3cmを超える場合,または,SM浸潤部で分割切除あるいは断端陽性になった場合は,原則,追加外科切除の対象となる(Figure 23).

Figure 2 

腫瘍因子による根治性の評価.

Figure 3 

ESD/EMR後のフローチャート.

eCuraC-2は,転移・再発のリスクを考慮し,原則として追加外科切除の対象となる(evidence level C,推奨度1).何らかの理由で追加外科切除を施行しない場合は,以下に示すリンパ節転移頻度の報告などを参考に根治性の評価を行い,再発した場合は根治が困難な可能性が高いことなどを十分説明の上,患者の同意を得る必要がある.リンパ節転移頻度は,脈管侵襲がみられない場合のリンパ節転移頻度の報告例をTable 3に示す 5),62),63.また,1,101人の胃ESD後追加外科切除例の検討から,長径3cm超,深部断端陽性,静脈侵襲あり,pT1b2(SM2)以深の場合にそれぞれ1点,リンパ管侵襲ありの場合に3点を付与した合計点によるスコアリングにより,リンパ節転移リスクを層別化することができるとの報告がある(Table 4 65

Table 3 

リンパ節転移頻度(文献56263のデータを基に作成).

Table 4 

リンパ節転移頻度(文献65のTable 3を改変して引用).

Ⅴ 偶発症

代表的な偶発症としては,出血と穿孔があり,約1万件が登録された多施設前向き研究によると後出血4.4%,輸血0.7%,術中穿孔2.3%,遅発性穿孔0.4%,偶発症による緊急手術0.2%と報告されている 66.その他,頻度は低いが留意すべき偶発症として,狭窄,肺炎,空気塞栓の報告がある 67)~72.胃癌ESD/EMRを施行するにあたり,偶発症の危険性について常に念頭に置く必要がある.

1.術中出血の対応

ESD/EMR中の出血,特にESD中の軽微なものを含めると出血は,ほぼ必発である.しかし,その対応が不適切な場合には,循環動態などに影響を及ぼし,輸血,緊急interventional radiology(IVR),手術を要する偶発症となる可能性がある.よって,胃癌に対するESD/EMRを安全に施行するためには,ESD/EMR中の出血に対する対応は極めて重要である.特にESDではその後の切除の妨げにならない止血鉗子による凝固処置が第一選択となる 73.状況によってはクリップ法,局注法も選択肢となる.

2.後出血の予防

切除後の潰瘍面に残存する血管に対して適切な予防処置を行う(evidence level C,推奨度1).ESD後出血は,切除後の潰瘍面に残存する血管に対して,止血鉗子などを用いて血管凝固処置を行うことにより,7.4%から3.2%に低下したと報告されている 74.一方で,過度な血管凝固処置は,遅発性穿孔の危険があり注意が必要である.

また,ESD/EMR後は,酸分泌抑制剤の投与を行う(evidence level B,推奨度1) 75)~87.H2ブロッカーと比較し,プロトンポンプインヒビターが後出血予防に効果的であることが無作為化比較試験により報告され 79,メタ解析においても同様の結果が報告されている 88.後出血予防の観点においては,ESD/EMR後のセカンドルック内視鏡は行わなくてもいい(evidence level B,推奨度1).無作為化比較試験により抗血栓薬服用者などを除いたaverageリスク症例においては,セカンドルック内視鏡を行う群に比較し,行わない群の後出血予防における非劣性が報告され 89,メタ解析においても同様の結果が報告されている 90

3.穿孔の対応

ESD/EMR中に穿孔した場合は,まず内視鏡的閉鎖を考慮する(evidence level B,推奨度1).内視鏡的クリップ閉鎖に成功した場合は,禁飲食の上で経鼻胃管挿入,抗菌薬投与などによる保存的加療を行う.保存的加療にて経過観察が可能な場合が多いが 49),91)~106,穿孔を閉鎖できなかった場合や,閉鎖できても腹膜炎の所見が疑われる際には,手術を検討する.

Ⅵ 術後長期経過

1.治療後経過観察

「根治性の評価」の項目に示すように,ESD/EMR後は,切除標本の病理診断により根治度を判定し,その後の方針を決定する.治療後の経過観察は治療対象胃癌の遺残・再発と異時性多発胃癌の発生を念頭に置いた経過観察をする.胃癌ESD/EMR後には,異時性多発胃癌発生のリスクがある 107)~110切除後の病理診断で内視鏡的根治度A(eCuraA)の場合でも,異時性多発胃癌の発見を主目的に上部消化管内視鏡検査を行う(evidence level B,推奨度1).経過観察の間隔について,日本胃癌学会編の胃癌治療ガイドライン(医師用)第5版では内視鏡的根治度A(eCuraA)の場合,年に1~2回の上部消化管内視鏡検査による経過観察を推奨しているが 5,年に1回と2回の内視鏡検査による経過観察を比較した報告は存在しない.年に1回の内視鏡検査による経過観察により,異時性多発胃癌の95%以上が,ESD/EMRにて治療が可能であったとの報告がある 108.経過観察の終了期間について,内視鏡治療後234例の経過観察(中央値5年間)で,10年以上経過すると異時性多発癌発生のリスクが下がることを示唆する報告がある 111.しかし,さらなる多数例の長期間(観察期間中央値6.8年)の成績では異時性多発癌の発生頻度は継続的に上昇し,中には異時性多発胃癌による死亡例も発生したことが報告されている 110.治癒切除の場合には局所の遺残再発の有無を診断する内視鏡検査は不要だが,異時性多発胃癌発生のリスクから年に1度程度の内視鏡検査が必要である.

切除後の病理診断で内視鏡的根治度B(eCuraB)の場合は,上部消化管内視鏡検査に加えて,腹部超音波検査,CT検査などで転移の有無を調べることが望ましい(evidence level C,推奨度2).

水平断端陽性または分割切除では,局所再発が生じ 43),112),113,特に水平断端陽性距離が6mm以上 114,腫瘍長径2cm以上 115で局所再発のリスクが高い.切除後の病理診断で,内視鏡的根治度C-1(eCuraC-1)で,追加外科切除を行わずに経過観察が選択された際は,上部消化管内視鏡検査で慎重に経過観察する(evidence level C,推奨度2)

2.ヘリコバクター・ピロリ菌除菌

3つの無作為化比較試験 116)~118とそのメタ解析 118)~122,また観察研究を含むメタ解析 123),124で,早期胃癌内視鏡治療後例の異時性多発胃癌の発生頻度はヘリコバクター・ピロリ除菌により有意に低下することが報告されている.そのため,ヘリコバクター・ピロリ感染陽性症例では,除菌が推奨される(evidence level A,推奨度2).しかし,多くの無作為化比較試験やメタ解析の成績から,除菌後であっても異時性多発癌の発生はゼロにはならず,その発生リスクは長期にわたって継続するため,除菌後も異時性多発胃癌の発生に留意した定期的な上部消化管内視鏡検査が必要である.

Ⅶ 病  理

切除標本の処理方法および病理所見の記載方法は,胃癌取扱い規約第15版 125に準じる(推奨度1).

1.切除標本の処理

正確な病理診断のためには,標本処理の適切な方法が重要で,その過程には以下の内容が含まれる.

1)新鮮標本の伸展と台板への張り付け

新鮮標本を台板(発泡スチロール,ゴム板,コルク板)の上で虫ピンを用いて内視鏡観察時における腫瘍径と矛盾しない程度に伸展し,粘膜面を上にして台板に張り付ける(Figure 4).

Figure 4 

切除標本の伸展方法.

新鮮切除標本は台板の上で虫ピンを用いて適度に伸展し,粘膜面を上にして速やかに台板に張り付ける.

2)ホルマリン固定

台板ごと新鮮標本を速やかに10%中性緩衝ホルマリンに浸漬して固定する.固定時間は,室温で約24~48時間を目安にする.ホルマリンは毎回新しいものを使用する 126

3)固定標本の切り出し

病巣の辺縁部と水平断端の距離が最も短い部分を組織学的に観察できるように最初の割を入れる.つぎに,2.0~3.0mmの間隔で最初の割線に平行に割を入れる(推奨度1)Figure 5-a,b).

Figure 5 

固定標本の切り出し方法と腫瘍の拡がりの再構築図(例).

a:水平断端に最も近接している病巣に接線(図中の破線)を想定し,この接線に対して垂直に最初の割を入れる.

b:2.0~3.0mmの間隔で最初の割線に平行に割を入れる.スケールを添えて,割を入れた状態の固定標本の肉眼写真を撮る.そして,各切片に番号を付ける.

c:割を入れた状態の固定標本の肉眼写真上に,腫瘍の範囲や壁深達度のほか,未分化型癌混在部を書き込む(これを再構築またはマッピングという).この再構築図を用いて長径を計測する.図中の矢印は薄切開始方向を示し,切片1は切片2-8の反対側から薄切することを意味する.

4)写真撮影

腫瘍の範囲・壁深達度および未分化型癌混在部を再構築(マッピング)するために,割を入れた状態の固定標本の肉眼写真を撮影することが望ましい(推奨度2)Figure 5-c 127)~134.その際,目盛が明瞭な定規を添えて撮影する.割入れ後の写真は癌の拡がりを再構築する際に用いる.

2.病理所見の記載方法

病理診断報告書に記載すべき項目には,腫瘍の占居部位,肉眼型,大きさ,組織型,未分化型癌の分布,壁深達度,癌巣内潰瘍併存の有無,脈管侵襲の有無,切除断端の評価が含まれる 125

1)腫瘍の占居部位,肉眼型は胃癌取扱い規約第15版 125に準じる.

2)腫瘍の大きさは,「再構築図上の腫瘍の最大径(長径)とそれに直交する短径」に相当する.

3)腫瘍の組織型は,胃癌取扱い規約第15版 125に準じて分類する.癌巣内に複数の組織型が併存する場合,各組織型を面積的に優位な順に,すべて記載する(例:tub1>pap>por)(推奨度1).本ガイドラインでは,高分化管状腺癌,中分化管状腺癌あるいは乳頭腺癌が優勢な胃癌を分化型癌とし,低分化腺癌,印環細胞癌あるいは粘液癌が優勢な胃癌を未分化型癌とする.

4)組織型のheterogeneity

分化型癌と未分化型癌が混在し,それぞれの範囲が明瞭な例では未分化型癌の存在範囲も再構築し,当該部の長径を計測・記載する(Figure 6-a 134)~136.もし,未分化型癌が癌巣内で複数箇所に存在する場合,それぞれの長径を計測し,これらを合算した数値を記載する(Figure 6-b 135.ただし,未分化型癌の占有面積が極めて狭く,再構築図上でその長径を計測することが困難な場合はその旨を記載する.また,分化型癌と未分化型癌が種々の程度に入り交じったり,表層は分化型癌が主体だが,深層は未分化型癌から構成されていたりするものもある.そのような場合は,当該範囲全体を未分化型癌とみなし,その長径を計測・記載する 135

Figure 6 

未分化型癌混在部の大きさの計測方法.

a:未分化型癌の存在範囲を再構築し,当該部の長径を計測する.

b:未分化型癌が複数箇所に存在する場合,それぞれの長径(x,y,z)を計測し,これらを合算した数値を記載する.

5)壁深達度の判定

壁深達度は癌浸潤の及んだ最も深い層をもって判定し 125,T分類で記載する.なお,本ガイドラインでは,TisはpT1a(M)として表記する.癌が粘膜下異所性胃腺を置換しながら粘膜下組織まで発育しても,明らかな間質浸潤を伴わないものはすべてpT1a(M)と表記する 125.また,癌巣の連続浸潤部の最深部よりも深い部位に脈管侵襲が確認された場合,その脈管侵襲が存在する層を壁深達度として記載する 125.たとえば,連続浸潤部の最深部は粘膜筋板であっても,粘膜下組織の1カ所に明らかなリンパ管侵襲像が確認されれば壁深達度はpT1b(SM)と表記する.

粘膜下組織浸潤癌では,粘膜筋板下端から最深部(癌浸潤の最も深い部分)までの距離(μm)を計測し,その実測値が500μm未満の場合をpT1b1(SM1),それ以上の場合をpT1b2(SM2)と判定・表記する 125

上記の距離は,接眼マイクロメーターを用いて検鏡下で計測する.なお,癌の浸潤によって粘膜筋板が断裂・消失している場合,最表層を起点として最深部までの距離を計測する.また,癌巣内の潰瘍瘢痕のため粘膜筋板が不明瞭となっていても,癌が瘢痕部を覆う再生粘膜内に限局し,明らかな粘膜下組織への浸潤が認められない場合はpT1a(M)と判定・表記する.一方,瘢痕部粘膜下組織に癌が浸潤している場合,同部に近接する既存の粘膜筋板を結んだ仮想線を起点として最深部までの距離を計測し,pT1b1(SM1)なのかpT1b2(SM2)なのかを判定する.なお,粘膜筋板の同定に抗desmin抗体を用いた免疫組織化学染色が有用なことがある.

6)癌巣内の潰瘍または潰瘍瘢痕の判定

根治性評価において必須の検索項目である.癌巣内に潰瘍または潰瘍瘢痕が確認される場合はpUL1,確認されない場合はpUL0と表記する 125.通常,pUL1ではUl-Ⅱの瘢痕がほとんどで粘膜筋板の断裂部から粘膜下組織全層性かつ末広がりに線維症を伴っている.一方,生検に起因する生検瘢痕は粘膜筋板直下の狭い範囲に限局した線維化巣として視認される 137.しかし,線維症が消失したUl-Ⅱの瘢痕では,生検瘢痕との区別に苦慮することがある.その場合は,pUL1として扱う 5

7)脈管侵襲の判定

内視鏡的切除標本の病理診断では,脈管侵襲の有無の検索結果は追加外科切除の判断材料となる.そのため,脈管侵襲の有無は,特殊染色を併用して判定することが望ましい(推奨度2).リンパ管の同定にはD2-40を用いた免疫組織化学染色,静脈の同定には弾性線維染色(Elastica van Gieson染色やVictoria-blue/Hematoxylin-Eosin重染色)が有用である 125),138.また,粘膜内癌であっても脈管侵襲が疑われる場合は前述の特殊染色を施行して検索することが望ましい(特に未分化型癌が混在する場合).リンパ管侵襲を認める場合はLy1,認めない場合はLy0,静脈侵襲を認める場合はV1,認めない場合はV0と表記する.

8)切除断端の判定

切除断端には水平断端(HM)と垂直断端(VM)とがある.これらの切除断端に腫瘍組織を認める場合,それぞれpHM1,pVM1と表記し,認められない場合はpHM0,pVM0と表記する.一般的に,切除断端の組織は切除時の高周波通電・焼灼によって種々の程度の傷害を受けている.強く傷害を受けた既存の粘膜上皮細胞は腫瘍細胞と紛らわしいことがあるので注意を要する.切除断端における腫瘍組織の露出の有無を評価できない場合は,pHMX,pVMXと表記する.

文 献
 
© 2020 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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