日米における内視鏡診療において病理診断や診断の定義に相違があることは知られている.生検法や治療法が日米で異なる理由としては,早期消化管癌を内視鏡で診断し局所治療で制御する概念の本邦と,癌を発癌素地として考えランダム生検後に広範囲へ治療を行う概念のアメリカの相違が一因と思われる.ESDの対象疾患としては日本では食道扁平上皮癌やヘリコバクターピロリ感染を基とした腸上皮化成由来の分化型胃癌の比率が高いのに対し,アメリカではBarrett食道由来の食道腺癌やヘリコバクターピロリ非感染胃の胃癌の比率が高く,また最近sessile serrated polyp(SSP)も多く発見・治療されている.
ESDを取り巻く環境因子としては,本邦での内視鏡医による麻酔に対して,アメリカでは麻酔医や麻酔看護師によるサポートが可能である点が大きく異なっている.その他,健康保険や入院に対する考え方の相違も大きく,アメリカでESDを展開する際の注意すべき点である.
今後グローバル化が進むにつれ,さらにESDを含む本邦の内視鏡診療が世界中に普及することが望まれる.
胃内視鏡検診は死亡率抑制効果が明らかなので,実現可能な地域や職域では採用されるべきである.しかし内視鏡検査のcapacity,予算,受診者のアクセスなどの問題により実現不可能な場合には,胃X線検査の背景胃粘膜診断で胃炎のある人に内視鏡検査を受けてもらう方法が効率がよい.胃内視鏡検診には利点だけでなく欠点もある.とくに重大な偶発症には注意が必要である.厚労省が掲げる受診率の目標は当面40%だが,H. pylori陰性者が増加し胃がん調整死亡率の自然減少が見られる昨今,単純に受診率を上げる戦略には費用対効果に問題がある.今後H. pylori感染歴や萎縮など,胃がんリスクにより対象者を層別化し,内視鏡受検者の選別や検診間隔の決定に反映させる必要がある.これに加え,将来専門技師によるAI補助内視鏡検診により医師の負担を軽減すれば,効率的な胃がん検診により胃がん死を自然減少以上に減らせるであろう.
症例は80歳代,女性.血便のため救急搬送された.上部・下部消化管内視鏡検査では明らかな出血源は特定できなかった.カプセル内視鏡では,小腸に滞留したpress-through package(PTP)と,近傍に線状潰瘍を認めた.経口ダブルバルーン内視鏡検査ではPTPは小腸壁に刺入しており,同部の潰瘍形成と肛門側の狭窄を認めた.内視鏡的摘除は困難であり,腹腔鏡補助下小腸部分切除術施行され,約15mm四方のPTPが2つ摘出された.その後血便の症状なく経過している.PTP誤飲の診断においてカプセル内視鏡が有用であった症例であり,文献的考察を加えて報告する.
症例は74歳,男性,心窩部痛を主訴に来院.傍十二指腸乳頭憩室による急性胆管炎と考え,胆管ドレナージ目的にERCPを施行した.十二指腸主乳頭(以下,乳頭)は憩室下縁右側に位置し,背側向きに開口していたため胆管挿管はできなかった.乳頭が憩室外で観察できたのは生検鉗子で牽引していた時のみであった.そこで牽引クリップで乳頭の肛門側をさらに肛門側に牽引することで憩室内から乳頭を引き出し正面視が可能となり,胆管挿管に引き続いて胆道ドレナージを施行し得た.傍乳頭憩室を有し,乳頭開口部が正面視できない症例では牽引クリップ法がERCP関連処置を可能にする1つの選択肢となると考えられた.
症例は59歳,男性.アルコール性重症急性膵炎に対する集学的治療後に巨大な被包化壊死を形成した.経皮的および経胃的にドレナージするも効果不十分であり,lumen-apposing metal stentを用いて経胃的ドレナージおよび内視鏡的ネクロセクトミーを追加し改善を得た.Lumen-apposing metal stentは使用可能となって間もなく,その使用経験について報告する.
小児消化器診療では小児特有の疾患・鎮静法などから小児科医による消化器内視鏡検査が望ましい.本邦では小児消化器内視鏡医が内視鏡を学ぶ機会は限られ,内視鏡技術の向上・維持としての件数は小児症例のみでは十分ではない.当院では小児科医が小児科業務と平行して消化器内科の協力のもと,成人症例を対象とし,週1回の内視鏡研修,「小児科業務並行型研修」を行っている.本研修では年間300件以上の内視鏡を経験でき,技術的に十分な成果を得ている.小児科医のための内視鏡研修のモデルケースの1つとして当院の研修内容とその成果を報告する.本邦において小児消化器内視鏡研修体制の確立のためには成人消化器内科の協力が必要である.
十二指腸非乳頭部上皮性腫瘍(SNADET)が発見される機会の増加に伴い,内視鏡治療の頻度も増加している.十二指腸癌は粘膜内癌であれば転移の頻度は極めて低く,基本的に粘膜内癌であれば内視鏡治療の適応である.一般的に内視鏡的粘膜切除術(EMR)で一括切除困難な20mm以上の腫瘍に対して内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が適応となるが,十二指腸ESDは,他の消化管と比べて解剖学的な理由により難易度が高く,偶発症の頻度も非常に高いため,安全かつ確実なESDが確立していないのが現状である.今回,われわれが取り組んでいるハサミ型ナイフを用いた安全かつ確実な十二指腸ESD手技のコツについて,ESD後の潰瘍縫縮の方法も含めて解説する.
大腸腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)は,2012年に保険収載された.その後,大腸ESDは広く普及し,本邦の多くの施設で施行されている.内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection;EMR)では一括切除が困難な大型の側方発育型腫瘍などがESDの良い適応であり,切除標本における正確な病理診断が可能である.一方,胃に比べ大腸壁は薄いため,穿孔などの偶発症の発生率が高く,手技の習得や治療に時間を要するなどの問題点もある.現時点で多くの機器や手技が開発されているが,切開,剝離などの基本手技が重要であり,それらを着実に習得した上で,各術者に適した手法を選択すべきである.
奈良県は過半数の市町村が内視鏡検診実施医療機関(検診機関)を持たないため,市町村は県内すべての検診機関と委託可能とし,2017年度から内視鏡検診を導入した.市町村に対し内視鏡検診実施状況について調査を行い実施体制の問題点を明らかにした.2018年度に80%の市町村が内視鏡検診を導入していたが,その45%が検診機関を自治体内に持たず他の市町村の検診機関に委託していた.2017年度内視鏡検診の受診者数は胃X線検診の7%で胃がん発見率は0.52%と胃X線より高値であった.内視鏡検診導入に支障となった点についてのアンケート調査で,4割の自治体が「ダブルチェック体制」,6割の自治体が「検診機関が少ない」と回答し,検診機関がない自治体の6割が「検診機関が地理的に遠い」と回答した.2018年度は2割の検診機関が複数の市町村を担当し,2つの公立病院は9市町村を担当していた.地域格差の解消を目指し検診機関の拡充と体制の効率化など改善が必要である.
【目的】腸管蠕動は大腸内視鏡検査の妨げとなるが,腸管蠕動抑制薬は有害事象引き起こしうる.本研究は,プラセボを対照として,リドカイン局所投与による腸管蠕動抑制効果を評価することを目的とした.
【方法】全国5箇所の専門医療機関で,大腸病変に対する内視鏡治療を要する128名の患者を登録し,大腸内視鏡検査中に2%リドカイン溶液20mlを局所投与する群(LID群64名)または生理食塩水20mlを局所投与する群(NS群64名)に,二重盲検下にランダム化割付けを行った.大腸内視鏡検査中,検査施行医は,割付けられた溶液を撒布チューブにより病変近傍に撒布し,その領域を3分間観察した.主要評価項目は,溶液投与後1,2,3分後での蠕動抑制効果とし,3段階(excellent,fair,poor)で評価した.副次評価項目は,リバウンド収縮および有害事象とした.すべての評価項目はリアルタイムで評価した.血清リドカイン濃度は32名で測定した(LID群16名,NS群16名).
【成績】2群間で患者背景に有意差はなかった.すべての時点において,excellentの割合はNS群よりもLID群で多く,2分後(p=0.02),3分後(p=0.02)で有意差を認めた.LID群では,excellentの割合は2分後で12.5%増加し,3分後でも維持されていた.リバウンド収縮はLID群では発生しなかったが,NS群では15.6%に生じた(p=0.001).LID群で有害事象はなかった.血中リドカイン濃度は,いずれも検出限界値以下であった.
【結論】リドカイン局所投与は大腸内視鏡検査中の腸管蠕動を抑制するための効果的かつ安全な方法である(UMIN000024733).
日本消化器内視鏡学会は,食道癌に対するESD/EMRガイドラインを作成した.本ガイドラインは,食道癌内視鏡切除の術前診断,適応,切除法,治癒判定,切除後サーベイランスに関する18のclinical questionと,それぞれに対して科学的根拠に基づき系統的な手法により作成した推奨を提示するものである.
早期胃癌に対する内視鏡治療が急速な拡がりを見せている現況において,日本消化器内視鏡学会は,日本胃癌学会の協力を得て,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,“胃癌に対するESD/EMRガイドライン”を2014年に作成した.この分野においてはエビデンスレベルが低いものが多く,コンセンサスに基づき推奨度を決定しなければならないものが多かったが,近年,よくデザインされた臨床研究が増加している.新しい知見を踏まえて,適応・術前診断・手技・根治性の評価・偶発症・術後長期経過・病理の7つのカテゴリーに関して,改訂第2版を刊行し,現時点での指針とした.
【背景】急性下部消化管出血に対して,受診後24時間以内に施行する緊急下部内視鏡検査の有効性と安全性は確立されていない.
【目的】急性下部消化管出血患者において,受診後24時間以内に施行する緊急下部内視鏡検査(緊急群)による出血源同定率と受診後24時間後96時間以内に行う待機的内視鏡検査(待機群)による出血源同定率を比較検討した.
【方法】緊急下部内視鏡検査の優越性を検証する本邦15施設オープンラベルランダム化比較試験を行った.主要評価項目は出血源同定とし,副次評価項目は30日以内再出血,内視鏡治療成功の有無,追加内視鏡検査の有無,Interventional Radiologyの必要性,外科手術の必要性,輸血率,入院期間,30日以内血栓塞栓症の発生,30日以内死亡率,腸管洗浄に関連した有害事象,内視鏡に関連した有害事象を検討した.
【結果】2016年7月から2018年5月までに170例が登録され,緊急群81例,待機群81例に割り付けられた.出血源同定率は両群で有意差がなかった(緊急群17/79(21.5%)vs.待機群17/80(21.3%),差分0.3,95%信頼期間-12.5~13.0:p=0.967).30日以内再出血率(緊急群15.3%vs.待機群6.7%),内視鏡治療成功率(緊急群93.3%vs. 待機群100%),輸血率(緊急群38.0%vs.待機群32.5%),平均入院日数(緊急群7.1日vs. 7.6日),30日以内血栓塞栓症(緊急群0%vs.待機群1.3%),30日以内死亡率(緊急群0%vs.待機群0%)に両群間に差を認めなかった.腸管洗浄に関連した有害事象の発生(緊急群45.6%vs.待機群35.1%),下部消化管内視鏡検査に関連した有害事象の発生率(緊急群1.3%vs.待機群0%)であった.
【結語】急性下部消化管出血において24時間以内の緊急下部内視鏡検査は24時間後96時間以内に行う待機的内視鏡検査と比較して出血源同定率および30日以内再出血率を改善しなかった.