2020 年 62 巻 2 号 p. 294-297
神戸大学医学部附属病院は,明治2年に設立された神戸病院を前身として,兵庫県立病院,県立医科大学,国立大学病院(920床)へと発展し,平成16年からは国立大学法人の病院として運営されている.本大学病院は,設立当初から地域に根差し,地域医療に貢献することを使命の一つとし,平成6年には特定機能病院,平成19年にはがん診療連携拠点病院となり,関西医療圏においてその中核としての診療機能を担っている.光学医療診療部は平成6年に設置され,平成26年に低侵襲棟が開設されると同施設に移転し施設も拡張された.光学医療診療部では「世界をリードする最先端の内視鏡技術をベースに,疾患の本質を見る眼と患者さんを診る心を育む」をモットーに関係各科(外科,放射線部,病理部など)と緊密に連携しながら日々診療に従事している.またポートアイランド地区に診療・研究・教育の新たな拠点として平成29年4月に神戸大学医学部附属病院国際がん医療・研究センター(International Clinical Cancer Research Center:ICCRC)が設置され,平成31年4月からは消化器内科も参画し同施設でも内視鏡検査・治療が可能となっている.
組織光学医療診療部は中央診療部門に所属し,消化器内科と呼吸器内科の医師により検査・治療が行われている.光学医療診療部専属の看護師は6名,臨床工学技士は4名である.
検査室レイアウト
光学医療診療部には7室設けられており,そのうち2室はX線透視室となっておりERCP,ダブルンバルーン内視鏡,内視鏡的拡張術,イレウス管挿入,気管支鏡などが行われている.また5室の非透視室のうち2室は広く設計されておりESD,EUS,FNAなどの検査・治療用部屋として使用されている.内視鏡は全室天吊り式でオリンパスまたは富士フイルム社の内視鏡システムが導入されている.室内は内視鏡画像がよく見えるようにブルーのライトが完備され,すべての検査・治療においてCO2送気が可能である.また食道内圧検査(High-resolution manometry)も光学医療診療部で行うことができる.カンファレンスルームには各部屋での内視鏡画像をモニターで観察することができるため,進行状況や急変時の把握に有用である.ICCRCでは全症例で麻酔科医の管理による全身麻酔可能でESD等の治療内視鏡がより安全に行うことができるようになった.
(2019年7月現在)
医師:消化器内視鏡学会 指導医8名,消化器内視鏡学会 専門医18名,大学院29人,医員4人,後期研修医2名
内視鏡技師:Ⅰ種3名,その他技師2名
看護師:常勤6名,非常勤1名
事務職:1名
(2019年7月現在)
(2018年4月~2019年3月)
研修指定病院であるため初期研修医がローテートするが,その期間はほとんどの場合2カ月以内と短い.内視鏡の仕組みや取り扱いを理解し,実際の内視鏡検査や治療を見学するだけで多くが研修期間を終えてしまう.意欲のある研修医には病棟受け持ち患者の内視鏡検査時に上級医の指導の下,引き抜き操作を経験できるようにしているが短い期間ではそれ以上の研修は難しい.後期研修医はまずルーチンの上部消化管内視鏡検査を覚え,次にコロンモデルでトレーニングを積んだ後,実際に下部消化管内視鏡検査ができるように研修する.年度終了時までに,上級医の指導の下であれば止血術,大腸ポリペクトミーができることが目標となる.その後は主に大学院生が教育対象となり自分の専門を決め,それぞれの専門グループEUS,ERCP,ESDなどの専門性の高い手技の習得を目指す.
ESDに関しては,国内・世界屈指の専門施設として,多くの施設より多数の症例が紹介されている.現在年間450例ほどの治療を行っており,非常に良好で安定した治療成績が得られており,毎年国内外から多数の内視鏡医が見学に来られている.また2015年からはPOEMを開始し,これまで370例を越える症例を経験し,POEMに関しても国内屈指の専門施設となっている.ESDはまず20例の介助を行ってから実際の手技のトレーニングを行う.当院は困難症例の紹介が多いためトレーニーが完遂を行うのは難しい.したがってまずは困難例であっても難易度が高くない部分をスタッフの指導下の元で行い,習熟度に合わせて難易度の高い部分を任せていくよう教育している.またPOEMについては食道ESDが完遂できるようになった医師に研修を開始している.
胆膵内視鏡検査はEUS,ERCPを合わせて年間1,500症例を行っている.大学病院という特性から,切除範囲決定を含めた術前診断から緩和内視鏡治療まで幅広く行っている.さらには診断困難例や治療困難例も積極的に受け入れており,兵庫県内の最後の砦としての役割を果たしている.EUSや小腸内視鏡を併用した診断治療を積極的に導入しており,それぞれの病態に合わせた最適な方法を選択できることが強みである.胆膵内視鏡の研修について,EUSにおいてはまず当科で確立しているスクリーニング法を習得する.昨今膵癌が増加している中でEUSによるスクリーニングは早期発見に欠かせないものであり,その重要性の意識付けを行う.その後EUS-FNA,Interventional EUSと段階的に習得していく.ERCPにおいては各病態に対するストラテジーを理解した上で処置を開始する.若手医師は指導者のもとで,数多くの症例を経験することにより,早い技術習得が可能である.
消化管,胆膵のそれぞれのグループでカンファレンスや抄読会を行い,週1回外科,腫瘍内科,放射線科との合同カンファレンスにて治療方針を議論している.
・年々,鎮静剤希望者が増加してきている中,現在5台のリカバリーベッドしかなく対応に限界がある.しかしながら光学医療診療部にリカバリーベッドを追加できるスペースがないため抜本的なレイアウトの再検討が必要かもしれない.
・内視鏡業務の件数は年々増加傾向であるが,内視鏡件数に対する看護師の人員が不足している.日々の業務は光学医療診療部専属の看護師と病棟と兼務の看護師の計7人で行っているが各内視鏡室に看護師1人が就くには不十分であり複数のベッドを掛け持ちで担当していることが多い.
・緊急症例や困難症例が多いため検査や処置が夜間までかかることがしばしばみられる.夜間は看護師が1名しかいないため安全面を担保するためにも通常の業務時間内に終わることが望ましい.ESDに関しては予定表を作成し長時間の治療が予想される症例が重ならないように調整している.また定期的に医師,看護師,臨床工学技士による多職種ミーティングを開催し光学医療診療部のより良い運用を目指している.
・平成26年に低侵襲棟に光学医療診療部が移転して以来,通常の内視鏡検査は1カ月以内に行うことができるようになったがESD入院は症例によっては2カ月前後待っていただいたのが問題点であった.しかしながら2019年4月からICCRCでもESDを行うことができるようになったため待機期間は飛躍的に短くなってきている.『ESDの待機時間を2週間以内』を目標にICCRCと連携を行っていく予定である.