日本消化器内視鏡学会雑誌
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アカラシアに対する経口内視鏡的筋層切開術:日本における多施設前向き研究
阿部 展次
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2020 年 62 巻 3 号 p. 404

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【背景と目的】海外における経口内視鏡的筋層切開術(peroral endoscopic myotomy:POEM)に関する多施設前向き研究 2では,POEM施行1年後の奏効率(Eckardt score≦3)は82%と示されているが,日本における1,300例を越える症例を検討した後ろ向き研究3)では95%とされ,国内外でその奏効率に乖離がみられる.本研究は,日本におけるPOEMの真の有効性を明らかにすることを目的とした多施設共同前向き試験(single-arm)である.

【方法】2016年4月から2017年3月の期間で8施設において前向きにPOEMが行われた食道アカラシア症例を検討し,その安全性と有効性を検討した.適応および除外基準は海外における多施設前向き研究 3における基準を踏襲した.Primary outcomeはPOEM施行1年後の奏効率(Eckardt score≦3)とし,secondary outcomeはPOEM施行1年後の逆流性食道炎・胃食道逆流症の有無やプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor;PPI)服用率などとした.

【結果】233症例にPOEMが施行され,手技成功率は100%であった.粘膜損傷などの偶発症は24例(10.3%)に認められたが,外科的介入を要した症例は認められなかった.海外の多施設前向き研究 2の適応基準を満たした207例における1年後の奏効率は97.4%(95.3-99.7%)であり,術前Eckardt score(6.6±2.0)はPOEM後に有意に低下(1.1±1.1)した.POEM施行1年後の逆流性食道炎,有症状胃食道逆流症,PPI内服はそれぞれ54.2%(高度食道炎は5.6%),14.7%,21.1%の症例で認められた.

【結論】海外から発信された多施設前向き研究結果に比べ,日本での優れたPOEMの治療成績が示された.POEMは少なくとも術後1年間は安全で奏効率がきわめて高い治療法と言える.

《解説》

POEMは食道アカラシアおよび類縁疾患に対してわが国で開発された内視鏡的治療法であり,国内外で急速に普及している.この潮流は,従来アカラシアの標準治療であったHeller筋層切開術と同等あるいはそれ以上の奏効性がより低侵襲で得られることに起因している.世界12カ国の36施設,計2,373症例に対する後ろ向き研究を集積したメタ解析の結果では,POEM奏効率は98%(95% CI:97-100%)であることが示されている 4.また,腹腔鏡下手術とPOEMの治療効果は同等であったこともシステマティックレビュー,メタ解析により明らかにされている 5.本報告はPOEMが開発された日本から発信された初の多施設前向き研究結果であり,海外の多施設前向き研究より優れた成績が示されたことは意義深い.著者らは,研究に参加した術者らがPOEM開発者に少なくとも一年間はその手技を学び,訓練された術者が定型化された手技を行っていたことをその理由として述べている.また,多くの症例で,胃側の不十分な筋層切開を避けるためにダブルスコープ法を用いていることも優れた奏効性に寄与していると考えられる.日本では,POEMの技術が安全かつ効果的に伝達されていることを強く印象づける論文である.

文 献
 
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