2020 年 62 巻 4 号 p. 512-515
加古川中央市民病院は,加古川西市民病院(旧加古川市民病院:1950年10月開設)と加古川東市民病院(旧神鋼加古川病院:1974年2月開設)が,地方独立行政法人加古川市民病院機構の下で2016年7月に統合して開設された.施設の概要としては,5大センター(消化器センター,心臓血管センター,こどもセンター,周産母子センター,がん集学的治療センター)を中心に32診療科から構成され,600床を有する総合病院である.加古川市を中心とした東播磨地域の高度急性期医療を担うことを目的として診療を行っている.
組織内視鏡センターについては,消化器センターに属する一部門として位置づけられている.内視鏡センターの専従医師は配置されていないが,消化器内科の常勤医師を主体として院外の非常勤医師の応援も仰ぎながら,検査および治療が施行されている.さらに,内視鏡センター担当の看護師,臨床工学技師,内視鏡洗浄員,事務職員らにより,日常の運営管理が行われている.
検査室レイアウト
内視鏡センターは,外来診察室および各種検査室と同じ2階フロアに設置されている.X線透視が必要な内視鏡処置における利便性を重視して放射線検査室と隣接した配置が行われている.内視鏡センター内は,7つの独立した検査室,前処置・回復室,説明室,洗浄・消毒室,機材室,トイレ,更衣室,カンファランス室,などで構成され,前述したX線透視室を含めると総面積は約949m2である.検査室周囲に専用の通路を確保して患者とスタッフの動線を完全に分離している.各々の検査室には,電子カルテの端末および内視鏡ファイリングシステムが設置されている.両者は連動しており,病理検体のオーダーはファイリングシステムを介して行うことになっている.
通常検査には内視鏡室1-4を用いて午前中に上部消化管,午後に下部消化管検査を施行している.室内面積の広い内視鏡室6/7は治療内視鏡用として整備され,内視鏡室6では午前中に主として外来症例のEUSを行い,午後にはEUS-FNAやESDなどを施行している.また,内視鏡室7は救急部や病棟と連絡する搬送用エレベーターに直結するベッド搬入口が設けてあり,吐下血などの緊急症例を中心に使用している.さらに,透視装置が付加された内視鏡室5は透視を要する下部消化管検査に使用されている.一方,胆膵内視鏡検査はC-arm透視台が設置された透視室1を主体として利用し,バルーン内視鏡などの透視下内視鏡処置は透視室2/3を主に使用している.
リカバリールームは,簡易ベッド4台,リクライニング・チェア10台の各々をカーテンで仕切ることができるように配置して,検査後はモニタ管理の下で十分な安静が保たれるように配慮している.トイレは8室であり,4室は車椅子で入室可能である.
看護師の統括リーダーが当日の予定検査および緊急検査の管理を行い,各検察室に1名ずつ配置された看護師が,患者背景や内服薬剤などの情報伝達,検査の介助,などを担当している.また,3-4名の臨床工学技師が内視鏡機器や機材の準備や運搬,さらに生検,各種内視鏡処置の介助,高周波発生装置の条件設定などを行っている.
時間外や休日における緊急検査時には,医師,看護師,臨床工学技師の3者ともが臨場するオンコール,あるいは当直体制が確立しており,平日の日中と同様の条件で緊急内視鏡処置が施行可能である.
月に1回程度,消化器内科医師,内視鏡センター担当の看護師,臨床工学技師が集まってワーキング会議を行い,運営上の問題点を議論して診療体制の見直し,および医療安全体制の向上を試みている.
(2019年10月現在)
医 師:指導医4名,専門医4名,その他スタッフ1名,専攻医など8名
内視鏡技師:I種10名,その他3名
看 護 師:常勤13名(他部署と兼任)
事 務 職:3名
そ の 他:洗浄員2名
(2019年10月現在)
(2018年4月~2019年3月まで)
当院は臨床研修指定病院であり,内科研修の一環として消化器内科での研修を受け入れており,1年目は1カ月間,2年目には希望に従って1-3カ月間のローテートが可能である.内視鏡研修に関しては,1年目は指導医や上級医とともに検査の見学,処置の介助を行って内視鏡所見や処置の方法について解説を受けて理解を深める.2年目も同様に検査および処置の見学,介助を行うが,その目的や方法,結果について1年目よりも高度の指導を受ける.病棟の担当症例では,鎮静下に上部消化管内視鏡の引き抜き操作を経験させることも多い.一方,希望者には上部消化管モデルの挿入練習も指導している.消化器内科の後期研修医は,1年目に内科全体を研修するため,消化器内科のローテート期間は上部消化管内視鏡検査を中心に研修を行い,他科のローテート期間も週1回は上部消化管内視鏡検査に携わるようにしている.上部消化管内視鏡検査の経験が200例前後を目処に下部消化管内視鏡研修を開始している.上部消化管と同様に,当初は上級医の見学,介助が主体であり,下部消化管モデルで挿入練習を繰り返した後に実症例の引き抜き操作から始める.次に,概ね15分の時間制限を設けて挿入操作へ移ることとしている.また,上下部消化管内視鏡におけるスコープ操作技術の習得と同時に,通常光観察,画像強調観察,拡大観察,色素内視鏡観察の読影力を向上し,鑑別診断できることを目標としている.新しい内科専門研修プログラムの導入により,2年目以降の1年間は外部の連携施設での研修が義務付けられているが,現状では引き続き上下部消化管内視鏡検査の研修を行っていることが多いようである.新しい内科研修プログラム下の3年目研修は来年度以降であるが,従来の研修法では上部消化管については,治療内視鏡を含めた技術の修練を図り,最終的には基本的なESD手技の習得を目標としていた.また,下部消化管については,全大腸を丹念に観察し,ポリペクトミーやEMRを施行できることを目標としていた.一方,EUSおよびERCP関連手技については,2年目の連携施設研修の導入により,当科で本格的な研修を開始するのは3年目以降となるため,指導方針について若干の変更が必要と考えている.従来の指導方針では,2年目の半ば以降にEUSの研修を開始して膵胆道および上部消化管病変を確実に描出して鑑別診断できるように努める.また,EUS-FNAについては,穿刺が比較的容易な病変に対して単独で手技を完遂できることを目標としていた.また,ERCP関連手技についての従来方針は,1年目から介助に参加して各種処置の手順や留意点を把握させる.また,各種処置具の選択目的や使用方法について理解できるように指導を行う.2年目以降に側視鏡の挿入,主乳頭の正面視,処置後乳頭に対する挿管,などから開始して練度を向上させ,次いで時間制限下に未処置乳頭に対する挿管へと進めていた.
現状の問題点としては,第一に人員の確保があげられる.消化器内科に所属する個々の医師は外来診療,病棟の症例管理,日中の救急当番,当直およびオンコール対応などのきわめて多忙な業務の中で,内視鏡診療を行っている.また,高齢化社会の進展に伴って内視鏡診療の需要は増大しており,日々の予約検査に加えて緊急検査も増加傾向にある.特に,後者は多数の背景疾患を合併した重症例も多く,対応に難渋することも少なくない.さらに,内視鏡診療の高度化により,高い専門性が要求される処置を施行する機会も多い.以上より,内視鏡診療に従事する専門医師の確保が最も重要な点であり,若手医師に対する積極的な研修指導が必須であるが,前述した多忙な業務との融合に苦慮している.内視鏡センター担当の看護師についても,内視鏡診療に関わる看護業務の複雑化に伴って必要人員がいまだ不足しているのが現状である.さらに,臨床工学技師も多様な内視鏡設備や機材への対応に追われ,包括する業務が拡大している.
第二の問題点としては,検査室の運営に関することがあげられる.鎮静下内視鏡検査の需要が急速に増大し,リカバリースペースを拡大したが,いまだ需要のすべてに対応できていないのが現状である.効率的なスペース運用を試みているが,十分に解決されていない.X線透視室については,気管支鏡検査や各種の透視検査,処置と兼用しているが,いずれも増加傾向にある.このため,胆膵疾患の緊急処置の際に透視室の確保に悩むことも少なくない.
一方,今後の目標としては,他科と共同する内視鏡処置の導入があげられる.当院では,全身麻酔下の内視鏡治療がいまだ導入できていない.長時間化が想定されるESD処置では全身麻酔下の治療が望ましいと考えられるため,十分な検討を要する.さらに,腹腔鏡・内視鏡合同手術の導入についても検討課題である.
また,新しい内科専門研修プログラムと内視鏡研修プログラムの融合が最大の課題である.前項で述べたように,両者を融合させるためには,従来の指導方針の改変が必要である.十分な内科専門研修を行うと同時に,内視鏡診療における質の向上と専門性の確保を図るためには,今後も繰り返し検討すべき重要な問題である.
最後に,今後も当院の内視鏡センター全体で研鑽を重ねて,地域で完結できる内視鏡診療を提供できるように努力していきたいと考えている.