2020 年 62 巻 5 号 p. 570-571
アレルギー歴のない60歳代男性で,軽度の間欠的な心窩部痛を時々自覚するようになり,症状の改善がないため精査目的で当科を受診された.初診時の理学的所見では心窩部に軽度の圧痛を認めたが,四肢や体幹に皮疹はなく,関節痛も認めなかった.血液検査で白血球数8,230/μl(好酸球:16.0%),CRPが0.18mg/dlと軽度上昇,アルブミンは3.9g/dlとやや低下していた.上部消化管内視鏡検査(Figure 1,2)で十二指腸下行部に正常粘膜を背景に,辺縁隆起を伴わない,陥凹境界が非常に明瞭な白色絨毛に縁取られた類円形の発赤調びらんが不均一に多発していた.病理組織検査(Figure 3,4)で粘膜固有層に好酸球が強拡大(high power field;HPF)で最大106個/HPFの浸潤を認め,好酸球性胃腸炎の診断指針 1)に従い,軽症の好酸球性胃腸炎(eosinophilic gastroenteritis:以下EGE)と診断した.また検索範囲内でフィブリノイド壊死や血管への炎症細胞浸潤はなく,血管炎は否定的であった.

上部消化管内視鏡検査(通常光観察)における十二指腸下行部の内視鏡像を示す.十二指腸下行部に正常粘膜を背景に,辺縁隆起を伴わない,陥凹境界が非常に明瞭な白色絨毛に縁取られた類円形の発赤調びらんが不均一に多発していた.

上部消化管内視鏡検査(インジゴカルミン散布)における十二指腸下行部の内視鏡像を示す.インジゴカルミンを散布したところ,病変の中央はわずかに陥凹していた.背景粘膜の炎症や浮腫は認められなかった.

びらんの辺縁から採取した弱拡大の生検組織像(ヘマトキシリン・エオジン染色)を示す.上皮の一部に腺窩上皮の減少と核異型を伴う部分があり,反応性の異型と考えられた.黄色四角部分を強拡大(high power field;HPF)で観察した.

びらんの辺縁から採取した強拡大(high power field;HPF)の生検組織像(ヘマトキシリン・エオジン染色)を示す.粘膜固有層に好酸球は最大106個/HPFの浸潤を認めた(黄色矢印).フィブリノイド壊死や血管への炎症細胞浸潤は認められなかった.
EGEは食物などに対するアレルギー反応が主因となって,好酸球が消化管壁局所へ異常集積することで組織が傷害される疾患である 2).好酸球浸潤の部位によって粘膜層や粘膜下層優勢の場合,筋層優勢,漿膜下層優勢に分類され 3),病態によって様々な臨床症状を呈する.
EGEの内視鏡像として,様々な形態を呈する境界不明瞭なびらんや発赤,浮腫などを認めるものの,いずれも特異性は低く内視鏡所見のみで確定診断できないと報告されている 4).本症例では視認性の高い陥凹境界が明瞭で辺縁が整った類円形の発赤を伴うびらんが多発しており,その点が従来の報告と異なる特徴的な内視鏡所見と考えられた.びらんの辺縁から採取した病理組織検査の所見では,陥凹部の発赤は粘膜固有層に好酸球浸潤に伴う活動性の炎症と上皮の破壊,そして白色に変化した絨毛には炎症による構造異型が認められた.木下ら 2)が提唱する好酸球性食道炎及びEGEの病態モデルを元に考察すると,これらの病変はアフタのような攻撃因子による物理的な表層の粘膜欠損ではなく,背景にある粘膜固有層以深からの炎症が湧出するように粘膜上皮の破綻として表層に出現し,形成されたのではないかと推測する.さらに病変が十二指腸下行部より肛門側に出現していることから,摂食物が消化や吸収の過程を経ることで初めて抗原性を獲得し,抗原の不均一な暴露を契機にさらに強い好酸球浸潤による炎症が粘膜上皮まで惹起されることで,多数の点在するびらんを形成するのではないかと考えられた.医学中央雑誌で2000年から2019年までの期間に「好酸球性胃腸炎」と「十二指腸」のキーワードを用いて検索を行ったところ,会議録を除く論文による症例報告の中で本症例と類似する内視鏡所見を提示していた症例は43例中,小児の1例のみであった 5).本症例のような軽症のEGEの報告例が少ないことからpublication biasの存在は否定できないものの,成人例では比較的まれな所見と考えられる.しかし,EGEの内視鏡像として病態解明への示唆に富む興味深い病変であり,認識しておくべき所見の一つと考えられたため報告をした.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし