2020 年 62 巻 6 号 p. 702-705
症例は74歳女性.便秘精査に対し大腸内視鏡検査が施行された際,横行結腸に径10mm大の顆粒型側方発育型腫瘍(Laterally spreading tumor-gllanutar type:LST-G)が認められたため内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection:EMR)を行った.退院日に悪心を伴う腹痛を訴えたため腹部超音波検査・腹部単純CT検査を施行したところEMRを施行した部位に腸重積が疑われた.理学所見及び炎症反応上昇より手術療法を行う方針となった.開腹時所見では,止血クリップ及びその周囲に形成された血腫部分により嵌頓閉塞を来たしていたため用手的にそれを解除し同部位を切除した.腸管穿孔や壊死は認められなかった.EMR後の腸重積に関し若干の文献的考察も含め報告する.
成人の腸重積は器質的疾患を有する場合以外は稀であるとされ報告例も少ない,今回内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection:EMR)後に発症した腸重積の1例を報告する.
症例:74歳.女性.
主訴:便秘.
既往歴:特になし.
内服薬:特になし.
生活歴:喫煙歴なし,機会飲酒.
現病歴:約1カ月前より便秘傾向が認められたため,便秘精査を目的に201X年11月に当院内科を受診し,下部消化管内視鏡検査が施行された.その際に大腸ポリープが3個(口側より,上行結腸に径10mmのIspポリープ,横行結腸に径10mmのIspポリープ及び径12mmの側方発育型腫瘍顆粒型(lateral spreadtumor gllanutar type:LST-G)(Figure 1)が認められたためEMRを行った.最大のLST切除の際に生理食塩水を局注したところ粘膜下注入となり血腫形成が認められたが(Figure 2),処置中に増大傾向や出血は認められなかったためクリッピングによる止血処置を行い治療終了とした.経過観察目的に入院経過観察とし,退院予定日であった入院3日目の朝に悪心を伴う腹痛を訴えたため緊急腹部超音波検査を行ったところ腹部正中部に target sign が認められたため(Figure 3),腸閉塞を疑い,さらに腹部単純CTを施行したところ腸重積の所見であり,病変部位はEMRを施行した横行結腸と考えられた.体幹断・冠状断・矢状断を示す(Figure 4,5,6).フリーエアや壊死を疑わせる所見は認められなかった.内視鏡的整復術の施行も検討したが,腹痛の訴えが強く,外科医の診察においても理学所見上筋性防御が否定しきれず,血液検査上軽度の炎症反応の上昇が認められたこと(WBC 12.8×103μl,CRP 1.4mg/dL),また,内視鏡挿入による穿孔の危険も危惧されたことなどから外科とも相談の上,同部位に対して手術療法を行う方針とした.

内視鏡検査所見.
顆粒型側方発育型腫瘍Laterally spreading tumor(LST)-gllanutar type: LST-G様のポリープを認める.

同ポリープを内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection:EMR)後,止血クリップで止血処置を行った.クリップ口側の血腫は,EMR前の局注した後にできたものである.

腹部超音波検査.
緊急腹部超音波検査において腹部正中部にtarget sign が認められる.

腹部単純CT検査体幹断.
横行結腸と思われる部位に腸重積の所見が認められる.

腹部単純CT検査冠状断.

腹部単純CT検査矢状断.
手術所見は,LST切除後に止血処置に用いた止血クリップ及びその周囲に形成された血腫が認められ,その部位が先行して嵌頓閉塞を来たしていた.同部位を用手的に解除し切除した(Figure 7).腸管壊死・血性腹水などは認められなかった.病理標本においても血腫の形成が認められた.

横行結腸切除後手術標本.
LST-Gの切除部位に止血クリップ及びその周囲に血腫の形成が認められる.
術後の経過は良好で,希望によりリハビリなども行いつつ,入院17日目に退院となった.病理組織所見では切除した3つのポリープはいずれも腺種(tubular adenoma)であり断端陰性であった.
EMR後の合併症の主なものに出血・穿孔などがあるが,同手技の合併症として血腫形成により腸閉塞を来たした症例はEMR・腸閉塞・血腫などをキーワードとして医学中央雑誌で検索したところ(1983-2019),本症例と同様な症例報告が1例 1),会議録で1例認められた.さらにPubMedにて「intussusception」AND「EMR」・「endoscopic mucosal resection」で検索したが,Mindyらのポリペクトミー後の腸重積の1例 2)が認められた.
また,腸管血腫形成による腸閉塞という観点からは,その原因が器質的疾患(上行結腸癌)であった症例が認められた 3)他,抗血小板薬及び抗凝固薬の内服加療中に腸管内に血腫が形成され腸閉塞を来たし緊急手術となった症例は散見されており,穿孔・手術に至る例も報告されているが,腸管内血腫形成による腸重積の報告例は少なく 4),本症例のようなEMR後の血腫形成による腸重積及び治療法として手術療法が選択された症例は稀かと思われた.また,内視鏡的整復術の施行も検討したが,前述の如く理学所見及び血液検査結果の悪化がみられたため内視鏡挿入による穿孔発生及び増悪の危険性も考え無理はしないことも重要と考えられたため 5)早急の手術療法を行う方針とした.
本症例において今回腸閉塞に至った機序としてはEMR局注の際に血腫が形成され,容量が増加した粘膜面が蠕動により先行し嵌頓閉塞を来たしたものと考えられる.また,患者側の要素としては,便秘がちということもあり,積極的に離床し院内を散歩歩行していたことによる腸管への物理的刺激の関与も考えられる.このような合併症は,特に後腹膜に固定されていない横行結腸,S状結腸では発生する可能性が比較的高いと予想されるため,EMR後の合併症として,血腫を形成した場合や抗血小板薬・抗凝固薬内服例などのHigh-risk症例においては緊急手術の対象ともなりうる腸閉塞の可能性も念頭に置くべきと考えられた 6),7).
成人での腸重積は稀であると考えられるが,今回は大腸EMRに伴う合併症としての血腫形成による腸重積及び手術症例を経験した.血腫以外にもEMR後の膿瘍形成による腸重積症例も少数例ながら報告されており 8),手技に関しては丁寧な操作で安全を心がけ,合併症を生じた際には外科コンサルトなども含め迅速な対応が重要であると考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし