日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
内視鏡的治療を行った魚骨による大腸穿孔の1例
林 伸泰 三代 雅明波多 豪山西 浩文
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キーワード: 魚骨, 穿孔, 穿通, 大腸, 内視鏡, 抜去
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2020 年 62 巻 8 号 p. 1481-1486

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要旨

魚骨による横行結腸穿孔に対して保存的治療を行った症例を経験したので報告する.症例は49歳男性.鯛の魚鍋を食べた1日後から腹痛が出現,急性腹症にて紹介となった.腹部CT所見では横行結腸に線状陰影を認め,その周辺に炎症所見と遊離ガスを認めた.魚骨による横行結腸穿孔と診断し,抗生剤投与にて8日間経過観察後,内視鏡的魚骨抜去を施行した.抜去後数日間経過観察するも特記すべき異常を認めず退院となった.

Ⅰ 緒  言

魚骨による下部消化管穿孔(通)は高齢者に多く,一旦腹膜炎を発症すれば重篤化する傾向にあるため,その多くが糞便性腹膜炎を予防するべく大腸切除術を目的とした外科治療が選択される.症例によっては人工肛門増設を伴う手術が施行されることもある 1.現在のところ,下部消化管の魚骨穿孔(通)における治療方針に関して共通した見解が存在しないのが現状である.今回われわれは,魚骨による大腸穿孔症例に対して内視鏡的抜去による保存的治療をなし得た1例を経験したので,その適応,注意点等文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:49歳,男性.

主訴:腹痛.

既往歴:喘息.

現病歴:鯛の魚鍋を食べた翌々日の朝から急に心窩部痛が出現.次第に腹痛の増強を認め近医受診,急性腹症にて診断,治療目的に紹介となった.

初診時現症:身長165cm,体重69kg,体温37.8度.心窩部に限局性の圧痛と軽度の腹膜刺激症状を認めた.

初診時臨床検査成績:白血球13,700/mm CRP8.8mg/dl.

初診時腹部造影CT検査:横行結腸に3cm長の高強度線状陰影を認め,その腸管周囲にガス像と脂肪織濃度の上昇を認めた.ガス像は腸間膜内に限局せず一部腸管外に遊離ガスとして認められた(Figure 1).以上の所見より魚骨による横行結腸穿孔と診断した.腹痛が限局し,画像上周辺の炎症所見が軽度であったため抗生剤投与により経過観察した.8日後のCT所見では炎症の増悪は認めなかったが魚骨の遺残を認めた(Figure 2)ため内視鏡にて魚骨抜去方針とした.

Figure 1 

初診時腹部単純CT画像(a:横状面 b:冠状面).

a,b:横行結腸壁を貫く高強度線状陰影(黄矢印)を認めた.

b:腸管周囲脂肪織濃度の上昇とガス像(白矢印)を認めた.

Figure 2 

初診後8日目腹部単純CT画像.

高強度線状陰影(黄矢印)の遺残を認めた.腸管周囲の脂肪織濃度の上昇とガス像(白矢印)は遺残していた.

内視鏡所見:横行結腸に刺入された魚骨を認めた(Figure 3-a).1襞離れた肛門側対側に点墨を行った(Figure 3-b)後,先端が肛門側に刺入された魚骨の口側端を把持し生検鉗子にて把持し口側に牽引抜去した(Figure 3-c).抜去後,抜去孔から膿等の液性成分の流入は認めなかった.抜去部周辺粘膜は浮腫状隆起を呈し,炎症性肉芽の形成を認めた(Figure 3-d).出血がないことを確認し抜去孔閉鎖とマーキングを兼ねたクリップを2カ所装着した(Figure 3-e).所要時間は25分で,手技中鎮静を必要としなかった.摘出した魚骨は35mm長であった(Figure 4).抜去後に腹部所見,検査所見の異常なく,5日後に退院となった.

Figure 3 

下部消化管内視鏡検査.

a:挿入時横行結腸に刺入された魚骨(黄矢印)を確認した.

b:刺入魚骨(黄矢印)の1襞肛門側対側に点墨を施行した.

c:生検鉗子にて魚骨を除去した.

d:魚骨刺入部には粘膜の陥凹と周辺粘膜の浮腫がみられ炎症性肉芽の形成を認めた(白矢印).

e:抜去孔にクリップを施行した.

Figure 4 

摘出魚骨.

抜去された魚骨は長径3.5cmであった.

Ⅲ 考  察

消化管異物誤飲による消化管穿孔(通)の原因として,わが国ではその食生活を反映し魚骨が最も多いとされている 2.魚骨による消化管穿孔(通)の発症部位は下部消化管が6割を占め 3),4高齢者に多い傾向がある 1.高齢者の多くは合併症を伴い一度腹膜炎が重篤化すると離脱困難なことも多いため,魚骨穿孔(通)と診断された後,重症感染症を伴わない限局的な炎症症例でも,予防的な外科治療となっている症例も少なからず存在する 1),5.しかし,手術施行となったものの腹膜炎を発症していたのはその3割との報告 1や炎症は限局され膿瘍形成のみであったとの報告もある 6)~8ことから魚骨穿孔(通)症例に対する手術適応に関して今一度議論が必要であると思われる.すなわち,汎発性腹膜炎の発症を予防するため診断直後に緊急手術を行ったものの腹腔内の汚染はごく少量の炎症性腹水貯留のみで,ドレナージや腸管切除術を施行せずとも保存的な経過観察と内視鏡による魚骨抜去のみで治療可能な症例も少なからず存在するのではないかと推察する.

魚骨穿孔(通)は大腸憩室等の穿孔(通)と違い 9,径が小さく魚骨自体が腸管の内外の交通における栓となることが多く,腸管内容物の腹腔内漏出がごく少量で限局性腹膜炎にとどまる可能性があると推測される.このような理由から,たとえ腸間膜内にとどまらない自由穿孔であっても大網等,穿孔部を被覆化する組織による炎症の限局化が期待できると思われる.自験例において来院時の腹部所見は限局性の腹膜炎を呈し腹部CT検査にて,痛みの位置に一致した線状の異物陰影周囲の炎症波及が限局していたため,抗菌薬の感染管理のもとに保存的に炎症部の限局化をはかり内視鏡的摘除を行い加療し得た.

医学中央雑誌において「魚骨」と「大腸」または「結腸」,「穿孔」または「穿通」をキーワードに検索し得た限りでは,会議録を含め本邦で24症例の報告があり,これらの報告の中で自験例の如く内視鏡的に魚骨を抜去し保存的に治癒し得た症例は会議録を除き10症例 10)~19あった(Table 1).自験例を含めた症例で,穿孔が5例,穿通が6例であり,保存的加療が必ずしも穿通例に限って施行されているわけではなかった.これらの報告から検討すると,魚骨穿孔(通)症例の初期治療において,内視鏡的抜去を前提とした保存的治療を可能とする必要条件は,全身状態が良好で重篤な既往症がなく,腹痛が限局していること,画像上遊離ガスを認めないか,または存在したとしても腸管周囲のみで穿孔(通)より距離のある腹腔内の自由空間で遊離ガスの散在を認めず,穿孔(通)部腸管壁の肥厚や周辺の液貯留等の炎症所見が限局化していることであった 10)~19.以上の条件は大腸憩室を始めとした様々な病態に発症する下部消化管穿孔(通)時の保存治療適応基準と一致する 9),20),21.すなわち初診段階で全身状態,腹部所見,検査,画像所見から炎症の波及の評価を行った結果大腸穿孔,穿通にかかわらず,また病変部位周囲に膿瘍が形成されているとしても著しい感染兆候を認めない限局性腹膜炎であれば,抗生剤投与により数日間経過観察することによって穿孔(通)部周辺に惹起された炎症の器質化が期待できる.その後に内視鏡的な魚骨抜去による治療を試みることが可能と思われる 10)~21.特にCT評価は腹水や炎症波及範囲の判定が,保存的治療を含めた治療方針の決定に有用であると考えられる 5),22

Table 1 

本邦における魚骨下部消化管穿孔(通)の内視鏡抜去による治療報告.

炎症が限局化した症例において腸管内遺残魚骨除去の必要性に関しての議論であるが,魚骨による限局性腹膜炎症例に対して経皮的ドレナージのみ施行後,遅発性に膿瘍が再発した症例 23や,魚骨遺残が原因で膿瘍の再発を繰り返している症例も報告されており 24,消化管穿孔(通)の原因となった魚骨を確実に摘出することが重要であると考えられる.

非手術治療症例における魚骨抜去までの待機期間に関して,これまでの報告から期間は様々であるが,文献上も1週間程度の待機期間をおいた症例が大半である(Table 1).これは,発症直後に抜去すると魚骨により塞がれていた腸管の粘膜は魚骨の抜去により栓がなくなり解放され,穿孔を発症し周辺の炎症を広げることになる懸念があるため 14で,数日間の待機を行い周辺組織の炎症の悪化がないことを確認して魚骨抜去を施行するのが得策と思われる.腹腔内の炎症経過に関して腹部手術後の炎症遷移を参考にすると,一般に手術野の器質化時期は術後7日程度であるといわれていることから 25),26,急性発症した炎症を周辺臓器と癒着等により限局化が見込める発症後7日以降に穿孔(通)魚骨抜去を行うことが適切と推定される.しかし,待機時期が長いと腸管外の炎症の限局化はより確実になる見込みあるものの,魚骨の脆弱化が問題となり抜去時に穿孔(通)魚骨の破損による部分的な魚骨遺残の懸念もあるためいたずらに長期間に及ぶ待機はするべきではないと考えられる.

内視鏡による異物除去に関して,適応や技術的問題点に関して共通した見解がないのが現状であるが 27),28,CT画像の進歩により詳細な画像情報から穿孔(通)位置,穿孔(通)深達長,穿孔(通)方向の同定は十分可能であり 29穿孔(通)した魚骨は腸管管腔に露出していると読影されるなら内視鏡による鉗子操作で魚骨を抜去することは,低侵襲な操作なことから試みる価値があると思われる.内視鏡で抜去する際の注意点としては,穿孔(通)した魚骨と腸管の関係を3次元的に把握し穿孔(通)と逆方向の鉗子操作による抜去が必要である.文献上,抜去孔は自験例以外閉鎖していなかったことからも抜去後に刺入部粘膜閉鎖は必ずしも必要ないと考えられる.自験例では魚骨刺入部周辺粘膜は浮腫状粘膜を形成しており,一旦炎症が惹起された粘膜に対してクリップ装着による閉鎖が抜去後の穿孔予防にどれだけ有効であったかは不明である.しかし,魚骨抜去孔に対するクリップ装着は,穿孔予防の粘膜縫縮機能としては不十分であったとしても,経過観察時,CT画像を用いた魚骨抜去部周辺炎症の経時的詳細観察におけるターゲットになりうる意味で重要であると思われた.また,待機期間中の魚骨脆弱化を原因とした抜去後の魚骨部分遺残や抜去後の腹膜炎増悪時の腹腔鏡手術に備え,魚骨穿孔(通)部周囲に点墨によるマーキングを行うことは必要と思われる.

一方,穿孔(通)した腸管に関しては,腸管穿孔(通)径が小さく防御反応により消化管壁が急速に閉鎖すると考えられる 30ため,魚骨抜去後,腸切除等を必ずしも行わなくとも,保存的治療後,魚骨除去を行うのみで治療が完了しうることが予想される.もっとも,内視鏡的抜去後,一時的に異物によって塞がれていた腸管は魚骨の抜去により穿孔し便汁の腸管外漏出により腹膜炎や膿瘍形成を再燃させ,ドレナージや結局手術を余儀なくされる可能性もあるため 31),32CT検査で慎重な経過観察を行うことは重要と考えられる.

Ⅳ 結  語

魚骨による大腸穿孔に対し内視鏡による治療を施行した症例を報告した.下部消化管魚骨穿孔(通)症例において,穿孔(通)による炎症が限局されておれば,経過観察し周辺組織の器質化を待った後内視鏡抜去による治療が可能であることが示唆された.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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