非特異性多発性小腸潰瘍症は,病理組織学的に特異的所見のない潰瘍が小腸に多発するまれな疾患である.近年,プロスタグランジン輸送体をコードするSLCO2A1遺伝子の変異を原因とする疾患であることが明らかとなり,chronic enteropathy associated with SLCO2A1 gene(CEAS)と呼称されるようになった.本症は女性に多く,ほぼ全例に貧血を認めるが肉眼的血便は少なく,炎症所見は比較的低値にとどまるという特徴を有する.小腸病変は終末回腸を除く回腸を中心に多発し,輪走ないし斜走する比較的浅い開放性潰瘍,偏側性ではない変形が特徴である.臨床経過ならびにX線造影検査や内視鏡検査による消化管病変の所見から本症が疑われる場合,SLCO2A1遺伝子変異の検索を行うべきである.そのほか上部消化管病変の検索,ばち指,皮膚肥厚や骨膜症など消化管外徴候の評価も本症を鑑別する上で参考所見となりうる.
症例は60歳代,女性.下部消化管内視鏡検査で肛門管に発赤調の隆起性病変を認め,その近傍に淡発赤粘膜がみられた.Narrow-band imaging(NBI)併用拡大観察では隆起性病変と発赤粘膜ともに食道表在癌にみられる上皮乳頭内血管ループ(intra-epithelial papillary capillary loop:IPCL)に類似した微細血管を認めた.両病変ともに日本食道学会拡大内視鏡分類のType B1血管類似の所見であり,多発肛門管扁平上皮内癌と診断した.Endoscopic submucosal dissection(ESD)で一括切除を行い,病理所見は両病変ともに扁平上皮内癌であった.NBI併用拡大観察が診断に有用で多発肛門管扁平上皮内癌をESDで一括切除し得た1例を経験したので報告する.
症例は62歳の女性.潰瘍性大腸炎・全大腸炎型の治療中に近医で青黛を含む漢方薬による治療が開始された.3週間後より嘔吐,黒色下痢,腹痛が出現した.前医で青黛は中止され,入院加療で一旦軽快するも1カ月後に嘔吐,腹痛を生じた.当院へ転院して精査したところ,小腸造影で上部空腸に長径10cmに渡る求心性狭窄を,また経口的ダブルバルーン小腸内視鏡検査で周囲に発赤を伴う全周性潰瘍を認め,虚血性小腸炎と診断した.外科的治療適応と判断し,腹腔鏡下小腸切除術を施行した.これまで青黛による消化管関連副作用として腸重積症や虚血性大腸炎の報告はあるが,小腸に副作用を来たした報告はなく,稀な経過を辿った症例と考えられた.
魚骨による横行結腸穿孔に対して保存的治療を行った症例を経験したので報告する.症例は49歳男性.鯛の魚鍋を食べた1日後から腹痛が出現,急性腹症にて紹介となった.腹部CT所見では横行結腸に線状陰影を認め,その周辺に炎症所見と遊離ガスを認めた.魚骨による横行結腸穿孔と診断し,抗生剤投与にて8日間経過観察後,内視鏡的魚骨抜去を施行した.抜去後数日間経過観察するも特記すべき異常を認めず退院となった.
内視鏡による整復を行い,待機的に定型的な腹腔鏡下手術を施行し得た盲腸癌による成人腸重積症の1例を経験したため報告する.症例は81歳,女性.来院3日前より上腹部痛を認め,精査にて盲腸癌による腸重積症と診断された.腹部造影CT検査で明らかな腸管の血流障害は認めず,緊急大腸内視鏡検査を施行し,送気により腸重積を整復した.生検で粘液癌の診断となり,待機的に腹腔鏡下回盲部切除術(D3郭清)を施行した.病理学的検査所見は盲腸癌,pT2(MP)N0M0,pStageⅠであった.術後経過は良好であり,術後20カ月現在無再発生存中である.大腸癌による腸重積症の術前整復に一定の見解はないが,整復することで正確な術前診断に基づく適切な手術が可能となる.
近年バルーン内視鏡検査は小腸疾患精査・治療には不可欠の手技となった.大腸挿入法との共通点も多いが,小腸挿入時における相違点も存在する.また複数回の開腹手術歴,放射線治療の既往,内臓脂肪型肥満の患者などは時に挿入困難例となり,スコープの選択,体位変換・用手圧迫などを駆使して挿入するが,膵炎などバルーン内視鏡特有の合併症に注意が必要である.オーバーチューブを利用する特殊な挿入であり,通常の上下部消化管内視鏡検査より煩雑であるが,その分,スコープとオーバーチューブとの相対的な位置の組み合わせによる腸管短縮にはバリエーションが存在する.常に今あるスコープの状態を把握して,スコープが進まない時はその理由を考えて,挿入法を補正しながら検査を行っていくことが小腸内視鏡挿入の最大の “コツ” と言える.
【目的】初学内視鏡医に対する頭頸部内視鏡サーベイランス方法の教育研修の有用性を評価すること.
【方法】この多施設共同前向き研究では,10施設,13人の初学内視鏡医に対して,実技指導を含めた系統的な観察方法と診断基準の教育研修を実施した.2016年5月から2017年2月まで,食道扁平上皮癌と診断されている,初発もしくは既往のある登録患者に対して,narrow band imaging(NBI)を用いた頭頸部内視鏡サーベイランスを行い,病理学的に診断された頭頸部扁平上皮癌(head and neck squamous cell carcinoma(HNSCC))の検出割合,内視鏡画像の質,検査時間を研修前(A群)と研修後(B群)で比較した.内視鏡画像の質は30点満点とした.
【結果】A群181例,B群149例の合計330例が登録された.HNSCC患者は,A群で3例(1.7%),B群で3例(2.0%)であった(P=1.000).平均検査時間±標準偏差(SD)は,A群157±71秒,B群174±109秒であった(P=0.073).内視鏡画像の質の平均点±SDは,A群25.04±5.47点,B群27.01±4.35点であった(P<0.001).
【結論】初学内視鏡医に対する教育研修によって,食道扁平上皮癌患者におけるNBIを用いたHNSCCの検出割合は向上しなかった.一方,内視鏡画像の質は有意差をもって向上した.
日本消化器内視鏡学会は,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」を作成した.大腸がんによる死亡率を下げるために,ポリープ・がんの発見までおよび治療後の両方における内視鏡によるスクリーニングおよびサーベイランス施行の重要性が認められてきている.この分野においてはレベルの高いエビデンスは少なく,専門家のコンセンサスに基づき推奨の強さを決定しなければならないものが多かった.本診療ガイドラインは,20のclinical questionおよび8のbackground knowledgeで構成し,現時点での指針とした.
【背景と目的】大腸腺腫の検出率(ADR)は下部消化管内視鏡検査の質を担保する重要な要素の一つである.高いADRは,下部消化管内視鏡検査後の大腸癌死の抑制に繋がる事が証明され,英国ではS状結腸内視鏡検査で大腸癌スクリーニングプログラムとして55歳時に1回限りの内視鏡検査が行われている.しかし大腸内視鏡検査はADRにばらつきがある事が問題となっている.大規模研究では大腸内視鏡スクリーニングでエンドカフを使用する事によりADRが向上する事が報告されたが,S状結腸内視鏡検査では,その有用性は証明されていない.そこで,本研究では,英国のS状結腸内視鏡のスクリーニングプログラムでADRに対するエンドカフの有用性を証明することを目的に行われた.
【デザイン】エンドカフを使用したS状結腸内視鏡検査時におけるADRの検討を英国の16施設にて多施設共同無作為化比較試験にて行われた.対象者はエンドカフ使用群と通常内視鏡群の2群にランダムに分け,ADR,ポリープの検出率,1施行毎の腺腫検出数,ポリープの特徴,局在,施行者の経験,内視鏡検査の施行時間,合併症を評価項目として,比較検討をした.
【結果】53%の男性を含む3,222人を1,610人のエンドカフ使用群と1,612人の通常内視鏡群に分割した.対象者の背景因子は両群間で有意差は認めなかった.エンドカフ使用群のADRは13.3%,通常内視鏡群のADRは12.2%と両群間で差は認めなかった(p=0.353).他の評価効果項目であるポリープ検出率,1施行毎の腺腫数,ポリープの特徴,局在,施行者の経験,施行時間,合併症の出現率も両群間で差は認めなかった.通常内視鏡群のADRは,一般臨床で行われている際のADRよりも3.1%高いものであった.
【結論】S状結腸内視鏡検査でのスクリーニングプログラムでは,エンドカフの使用によるADRの有益性は認めなかった.今回の検討でのADRは一般臨床で行われている際のADRよりも高率であり,今回の検討のようにADRが高い場合には,更なる検出率の向上を証明することは困難と思われた.(臨床研究登録情報:NCT03072472,ISRCTN30005319,CPMS ID 33224)