2020 年 62 巻 9 号 p. 1600-1606
68歳,女性.急性膵炎を繰り返すため,造影CTを施行したところ,膵頭部背側に乏血性腫瘤を認めた.EUSで膵頭部に12×11mm大の低エコー性腫瘤を認め,同膵腫瘤に対してEUS-FNAを施行したところ,悪性を疑う異型細胞集塊と破骨型巨細胞を認めた.以上より破骨型多核巨細胞を伴う退形成性膵癌と診断した.幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行したところ,腫瘍は13×12mmであり本邦報告例で最小であった.患者は半年間S-1による術後補助化学療法を受け,術後4年9カ月経過した現在も無再発生存中である.
破骨型多核巨細胞を伴う退形成膵癌は膵癌取扱い規約第7版では浸潤性膵管癌の1亜型に分類されている 1).退形成膵癌は稀な疾患であるが,診断時には巨大な腫瘤となっていることが多く 2),通常型膵管癌と比べて予後が悪い 3).今回,われわれは術前にEUS-FNAにてTS1(13mm)の破骨型多核巨細胞を伴う退形成膵管癌を診断し切除しえた1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
症例:68歳,女性.
主訴:心窩部痛.
既往歴:24歳;虫垂炎に対して手術,43歳;子宮筋腫に対して手術,64歳;左側乳癌に対して手術.
家族歴:特記すべきことなし.
嗜好歴:飲酒なし,喫煙なし.
現病歴:2013年8月に心窩部痛が出現した.近医を受診したところ血清Amylaseが370U/lと上昇しており,急性膵炎と診断し,保存的治療を受け治癒した.しかし,同年9月に再度心窩部痛が出現し,血液検査で再度血清Amylaseの上昇を認めたため,精査加療目的に当科紹介受診となった.
入院時現症:身長152.0cm,体重52.9kg,脈拍75回/分,血圧112/75mmHg,体温36.5℃,体表リンパ節触知せず.眼瞼結膜に貧血なく,眼球結膜に黄染を認めなかった.腹部は平坦・軟で,腫瘤は触知しなかった.
臨床検査成績(Table 1):Amylase,膵Amylaseが軽度上昇,Lipase,Elastase1が著明に上昇していた.腫瘍マーカーはCA19-9,DUPAN-2,SPAN-1が軽度上昇していた.

臨床検査成績.
腹部造影CT所見(Figure 1):膵頭部背側に乏血性腫瘤を認め,早期相から後期相にかけて周囲は僅かに漸増性に造影された.同腫瘤より尾側の主膵管は拡張していた.他臓器やリンパ節への転移を疑う所見は認めなかった.

造影CT.
a:早期相.
b:後期相.
膵頭部背側に早期相から後期相にかけて僅かに漸増性に辺縁が造影される乏血性腫瘤を認めた.
MRI/MRCP所見(Figure 2):膵頭部で主膵管は狭窄し,尾側膵管は拡張していた.膵臓は全体に腫大し,拡散強調画像では膵全体が高信号を呈しており,膵炎による変化と考えられたが,T1・T2強調画像では膵頭部の腫瘤は指摘できなかった.

MRI/MRCP.
主膵管は膵頭部で狭窄し(黄矢印),尾側膵管は拡張していた.
以上の検査所見より膵頭部癌を疑った.
EUS(Figure 3):ラジアル型EUSでの観察では膵頭部に12×11mm大の低エコー性腫瘤を認め,周囲膵実質との境界は明瞭で,内部には僅かに高エコーな部分が混在していた.腫瘤より尾側の主膵管は5mmと拡張していた.コンベックス型EUSにて同膵腫瘤に対してEUS-FNAを施行したところ,細胞診では核腫大を呈した異型細胞の集塊を認め,悪性を疑う所見であった.その中に多核巨細胞を多数認めたが,クロマチンの増量は目立たず核小体は明瞭であり,破骨型多核巨細胞と考えられた.組織診で前述の破骨型多核巨細胞は免疫染色でCD68(+),AE1/AE3(-),EMA(-),EA(-),CEA(-)であった(Figure 4).以上より,破骨型多核巨細胞を伴う退形成膵癌と術前診断し,EUS-FNAの41日後に幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.

EUS.
膵頭部に12×11mm大の低エコー性腫瘤は周囲膵実質との境界は明瞭で,内部には僅かに高エコーな部分が混在していた.また,同腫瘤より尾側の主膵管は5mmと拡張していた.

EUS-FNA検体の病理組織学的検査所見.
多核巨細胞を散在性に多数認めたが,クロマチンの増量は目立たず核小体明瞭であり,破骨型巨細胞と考えられた.
手術所見:膵頭部に腫瘤を触知した.随伴性膵炎の影響か,膵体尾部が硬化していた.腹水や腹膜播種,肝転移は認めなかった.
手術標本の病理組織学的検査所見(Figure 5):膵頭部に13×12mmの腫瘍を認め,被膜を形成していた.また,腫瘍内に著明な出血を伴っていた.組織学的には破骨型巨細胞を多数認め,その間には単核の細胞が増生していた.単核の細胞は核小体が明瞭で類円形の核を持ち,核分裂像を散見した.免疫染色では単核の細胞にp53が陽性であり,破骨型多核巨細胞にCD68が強陽性を呈していた.膵管腺癌成分は認めなかった.以上より破骨型多核巨細胞を伴う退形成膵癌と最終診断した.膵癌取扱い規約第7版,Ph,TS1(13mm),nodular type,INFb,ly0,v0,ne0,mpd(+),pT1c,pCH0,pDU0,pS0,pRP0,pPV0,pA0,pPL0,pOO0,pPCM0,pBCM0,pDPM0,R0,pN0(0/29),M0,StageⅠAと診断した.

手術標本の病理組織学的検査所見.
(a),(b)腫瘍は被膜を形成し,内部に明らかな出血を認めた.(c)破骨型巨細胞が多数認め,その間に単核の細胞が増生し,核分裂像を散見した.
術後経過:合併症なく良好に経過し,術後第27病日に退院した.退院後にS-1(100mg/日,4週投薬2週休薬)による術後補助化学療法を半年間施行した.術後4年9カ月を経た現在まで再発・転移なく生存中である.
退形成膵癌は1954年にSommersらによって肉腫様形態を呈する膵癌として初めて報告された 4).退形成膵癌は浸潤性膵管癌の0.16%と稀な疾患である 5).膵癌取扱い規約第7版では浸潤性膵管癌の一亜型として分類され,細胞形態により多形細胞型pleomorphic type,紡錘細胞型spindle cell type,および破骨型多核巨細胞osteoclast-like giant cell typeを伴う退形成癌(以下,破骨型退形成膵癌)の3つに分類されている 1).
退形成膵癌は発症早期から血行性・リンパ行性に転移を来しやすい.また,急速に膨張性発育し 6),診断時には巨大な腫瘤となっていることが多い 2).本症例は急性膵炎を契機に診断に至った症例であるが,退形成膵癌の20%に急性膵炎を認めると報告されている 7).膵癌は閉塞性膵炎の原因となりえるが,Minatoらによると1,504例の膵癌全体のうち急性膵炎を発症したのは1.2%であり 8),退形成膵癌における急性膵炎の発症率は高率である.これは腫瘍の増大に伴い,急速に主膵管が閉塞している可能性が考えられる.
退形成膵癌の多くは多血性だが,急速な膨張性発育のため腫瘍内部に出血壊死を高頻度に伴い,膵管内乳頭粘液性腫瘍や漿液性嚢胞腫瘍・粘液性嚢胞腫瘍などの嚢胞性腫瘍や嚢胞変性を来す神経内分泌腫瘍や腺房細胞癌,充実性偽乳頭状腫瘍などとの鑑別は困難と考えられている 9),10).出血を反映して中心部は乏血性パターンとなることが多い.そのような場合には通常型膵癌との鑑別が困難となることがあるが,腫瘍辺縁が造影されることがある 11).本症例でも乏血性腫瘤の辺縁が造影されていた.しかしながら辺縁造影の所見は僅かであり,一見通常型膵癌と鑑別が困難であった.その理由としては腫瘍サイズが小さかったために辺縁造影と周囲膵実質とのコントラストが不明瞭となったものと推測している.また,本症例のEUS所見では腫瘤と周囲膵実質との境界が通常型膵癌と比較すると明瞭であった.これは被膜が存在し膨張性に発育することからそのように見えたと考える.また,腫瘤内部に僅かに認めた高エコー部分は出血壊死を示していた可能性があるが,切除標本で認めた腫瘤内部の壊死性出血性変化はEUS所見よりも明瞭かつ広範囲であり,EUS所見と乖離していた.このことは出血壊死を伴い急速増大するという本腫瘍の特徴を示唆していると考えるが,EUS-FNA時の穿刺によって腫瘤内部で出血を助長した可能性は否定できない.
Kagawaらは退形成膵癌の手術切除44症例の検討で,生存期間中央値は11.0カ月と,通常型膵管癌と比べて予後は極めて不良であったが,破骨型退形成膵癌に関しては他の組織型と比較して有意に生存期間が長く,10年生存率は56.8%であったと報告している 12).破骨型退形成膵癌の予後が比較的良好な理由として,被膜を有し膨張性発育により他臓器への浸潤や主膵管内進展が少なく,周辺臓器への浸潤や遠隔・リンパ節転移が少ないため,外科的切除率が高いことが考えられている 13),14).また,近年,通常型膵管癌(pancreatic ductal adenocarcinoma, PDAC)に対する破骨型巨細胞の免疫応答が生存率に関与している可能性がされて報告されており,PDAC成分を伴わない純粋な破骨型退形成性膵癌は長期生存率が高いとされている 15).本症例においてもPDAC成分は認めておらず,長期生存を得ている.本症例はStage ⅠAであったものの,免疫応答が長期生存に関与している可能性があると考える.
膵癌は手術侵襲度が高いうえに,炎症性膵疾患や神経内分泌腫瘍など他の膵腫瘍との鑑別が必要であることから,EUS-FNAによる術前の病理診断施行が望ましい 16).膵腫瘤に対するEUS-FNAの診断能に関するメタアナリシスでは感度91%,特異度96.5%,陽性尤度比14.8,陰性尤度比0.12と良好である 17).われわれが医学中央雑誌で「破骨」,「膵」をキーワードとして1983年から2018年7月の期間で検索した範囲(会議録を除く)で,破骨型退形成性膵癌と診断されたものは48例存在した(自験例を含める,Table 2).自験例を含む5例 18)~21)がEUS-FNAを施行しているが,そのうち破骨型退形成性膵癌と診断できたものは自験例を含む4例(80%)であった.佐野らはEUS-FNAで退形成膵癌の診断に至らなかった理由として,退形成癌成分が存在していたと考えられる内部不均一な低エコー領域が閉塞性膵炎として認識され穿刺対象にならなかったこととしたうえで,複数部位からの穿刺が望ましいと報告している 20).

本邦での破骨型退形成膵癌の報告例(n=48,自験例含む).
破骨型退形成性膵癌報告例の腫瘍長径は平均62mm(13-200mm)であった(Table 1).そのうちTS1は自験例を含めて2例 7)であったが,自験例は13mmであり,破骨型退形成膵癌の中で最小であった.EUS-FNAの膵腫瘍径別のEUS-FNA診断能の検討では,感度・特異度・正診率は≤10mmで73.1%・100%・82.5%,10-20mmで81.0%・100%・83.5%,>20mmで93.5%・96.8%・93.4%と,腫瘍径が小さいほど不良であった 22).われわれの施設では膵腫瘤に対して主に25G針を用いて迅速細胞診併用でEUS-FNAを施行している.2008年~2017年の間で25G穿刺針を用いてEUS-FNAを施行した膵腫瘤320症例を検討したところ,感度95.2%,特異度100%,正診率95%であった 23).また,確定診断が得られたのは腫瘍径>20mmで96.2%(202/210),≤20mmにおいても92.7%(102/110)で良好な成績であり,20mm以下の病変に対しても非常に有用な検査方法と考える.近年,播種の問題を含めて膵腫瘍の術前にEUS-FNAを施行するべきか再度議論がなされている.しかしながら,膵腫瘍の手術侵襲は大きいため,over surgeryを避けるべく当院ではEUS-FNAまたは膵液細胞診による術前病理診断は必須と考えている.また,本症例については十二指腸下行脚からの穿刺であり,術式を考慮すればneedle tract seedingは問題にならないと考える.
本症例は13mmと小さい破骨型退形成性膵癌をEUS-FNAで確定診断し早期の段階で切除が達成できた症例である.破骨型退形成性膵癌は他の組織型に比べて外科手術が切除率や生存率が高く,術前に破骨型退形成性膵癌と診断された場合は手術適応になるか迷うような症例でも外科手術の選択肢が増えると予想されるため,EUS-FNAによる術前診断は有意義なことであると考える.
今回われわれは,EUS-FNAで術前診断しえた本邦報告例で最小の破骨型退形成膵癌の1例を経験したので報告した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし