日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
ガイドライン
内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)
後藤田 卓志赤松 拓司阿部 清一郎島谷 昌明中井 陽介八田 和久細江 直樹三浦 義正宮原 良二山口 太輔吉田 直久川口 洋佑福田 眞作磯本 一入澤 篤志岩男 泰浦岡 俊夫横田 美幸中山 健夫藤本 一眞井上 晴洋
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2020 年 62 巻 9 号 p. 1635-1681

詳細
要旨

消化器内視鏡分野における鎮静のニーズがさらに高まり日常診療において重要度の高い医療行為となっている.この度,日本消化器内視鏡学会は日本麻酔科学会の協力のもと「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)」の作成にあたり,安全に検査・治療を遂行するためには何が問われているかを実地診療における疑問や問題として取り上げた.そのうえで,20項目のクリニカルクエスチョンを決定した.作成にあたっては「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」に従い,推奨の強さとエビデンスの質(強さ)を示した.現在日常的に行われている消化器内視鏡診療(以下,内視鏡)における鎮静の臨床的疑問と問題に関して現時点でのステートメントを示すことができた.なお,この領域における本邦からのメタアナリシスなど質の高い報告は少なく,専門家のコンセンサスを重視せざるを得ない部分も多かった.また,鎮静に主に使用されているベンゾジアゼピン系の薬剤は保険適用外であるのが現状で,費用負担に関する不利益の検討ができなかった.また,診療ガイドライン作成にあたって受益者である患者・市民の視点を反映することが今後の課題である.

なお,ガイドラインは現時点でのエビデンスの質(強さ)に基づいた標準的な指針であり,医療の現場で患者と医療者による意思決定を支援するものである.よって,個々の患者の希望,年齢,合併症,社会的状況,施設の事情や医師の裁量権によって柔軟に対応する必要がある.

1.内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)作成にあたって

「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン」の初版 1),2が2013年に刊行された.米国麻酔科学会(ASA)は「非麻酔科医のための鎮静・鎮痛薬投与に関する診療ガイドライン」を2002年に改訂した 3.その中で,①術前患者評価,②患者モニタリング,③鎮静担当者の確保とその訓練,④緊急用機材の準備と薬剤投与,⑤薬剤投与方法の原則,⑥回復期ケアの重要性を強調している.今回の第2版は,「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン」初版の内容を生かしつつ新たな作成委員によって「非麻酔科医のための鎮静・鎮痛薬投与に関する診療ガイドライン」の挙げる重要項目に準じて実地診療における疑問や問題となるトピックを取り上げた.そのうえで,クリニカルクエスチョン(CQ)を決定し新しいエビデンスを集積することとした.作成にあたっては「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」 4に従い,evidence based medicine(EBM)に基づいたガイドライン作成を心がけた.

診療ガイドラインに期待される役割は,診療,教育,研究そして医療政策への提案であることは「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」にも明記されている.今回のガイドライン作成にあたって本邦からのエビデンスが不足していることが明らかとなったテーマについては,優先度が高い研究課題である.本邦における医療の質は,医療機関や医療者の自主的な努力と医療保険制度などの公的な仕組みによる影響も大きい.したがって,診療ガイドラインが提案する推奨が,医療保険制度,医療政策の決定に際して配慮されることが望ましいと考える.

2.ガイドライン作成の目的

内視鏡は検査中心から治療の占める割合が増え,機能温存の観点から根治性と同時に患者のquality of lifeに貢献している.しかし,内視鏡治療は比較的長い時間を要し侵襲的な要素も加わり,鎮静下での施行が求められてきた.また,患者の価値観の変化や希望の多様性を鑑みると,検査においてすら患者に我慢を強いる時代ではなく非麻酔科医による鎮静薬投与が世界の潮流である.本邦でもすでに鎮静薬を用いた内視鏡検査および治療は一般的に行われている.今回のガイドライン作成の目的は,鎮静薬使用にあたっての安全性の確保,鎮静薬使用の有用性および適切な鎮静薬の選択について現時点でのエビデンスを示すことである.

3.ガイドライン委員会

日本消化器内視鏡学会ガイドライン作成委員として,消化器内視鏡医11名,外部委員として麻酔科医1名が作成を委嘱された.また,評価委員として消化器内視鏡医5名,麻酔科医1名,および外部評価委員としてガイドライン作成論の専門家1名で評価を担当した(Table 1).

Table 1 

委員.

4.ガイドライン作成の基本方針

本ガイドラインは「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」 4に準じて作成し,推奨の強さとエビデンスの質(強さ)を示した(Table 2).現時点でエビデンスの質(強さ)の高い文献と専門家のコンセンサスを統合して各項目の推奨の強さを決めた.しかし,一定のエビデンスの質(強さ)の評価は行っているものの,本邦の現状や医療保険制度など社会的要請を考慮せざるを得ない部分もあった.すなわち,①システマティックレビューによるエビデンス総体を重視した診療指針の作成,②エビデンスの質(強さ)と必ずしも相関しない推奨の強さの決定を基本方針とした.本ガイドラインの内容は,一般論として診療現場の意思決定を支援する目的で作成され,日常臨床で活用されてこそ本ガイドラインの意義が高まる.ちなみに,本ガイドラインの内容は,医療訴訟の根拠となるものではない.したがって,実際の診療行為の結果については各診療担当者が責任を負うものである.

Table 2 

推奨の強さとエビデンスの質(強さ).

また,大きく変化する社会的背景や診療報酬改訂を考慮すると,診療の内容や社会の要望などが大きく変化することもありうるので,本ガイドラインの内容は数年で改訂されることが望ましい.

5.ガイドライン作成の手順および作成方法

日本消化器内視鏡学会ガイドライン委員会のもとに内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン委員会を設置し,日本麻酔科学会にも参加を求め作成にあたることとした.まず,診療ガイドラインが取り上げる臨床上の課題(key clinical issues)として,鎮静薬の使用で得られる「益」によって検査・治療の完遂率の向上と苦痛や不安の解消が得られるかどうかを挙げた.さらに,鎮静薬の使用による偶発性などの「害」が惹起される可能性が高まるかどうかをアウトカムとした.なお,今回のガイドライン作成にあたって費用負担などの不利益については評価に加えていない.理由は,内視鏡で使用されている鎮静薬のうちデクスメデトミジン塩酸塩のみで保険償還が可能で,その他はいずれも適応外であること,および使用した鎮静薬の査定状況に地域差があり統一した評価が困難であったためである.

このような背景を考慮して,鎮静薬使用時の現場の体制や教育による事故防止への寄与も重要臨床課題に加え,作成委員がPICO(P:Patients/Problem/Population,I:Interventions,C:Comparisons/Controls/Comparators,O:Outcomes)を示した総数83個のCQを集めた.これらCQの内容を現時点の臨床での使用状況の観点から2回の検討を行い,さらに修正を行ったうえで最終的に20個のCQを作成した(Figure 1Table 3).最終のCQ決定の際,「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン」初版 1で示されており,かつ新しいエビデンスが得られる可能性の低い自明のCQについては割愛した.第2版で新規に採用したCQは,CQ 14,15,16,17,18,19である.

Figure 1 

鎮静下消化器内視鏡検査・治療のフローチャートとCQ対応.

Table 3 

CQ・ステートメント一覧.

CQごとにキーワードを抽出し検索式を決定して1990年から2019年(検索日:2019年6月9~12日)までの期間でPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webの各データベースから系統的な文献検索を行った.不足の文献に対してはハンドサーチも採用した.検索した文献を評価し必要な文献を採用し,各CQに対するステートメントと解説文を作成した.そして,作成委員は各担当分野の文献のエビデンスレベルおよびステートメントに対する推奨の強さを「Minds診療ガイドライン作成マニュアル 2017」 4に従って設定した.作成されたステートメントと解説文を用いてCQ形式のガイドラインを作成し,ステートメント案に対して作成委員と評価委員の合計17名により修正Delphi法 5に準じて無記名独立投票を行った.修正Delphi法は,1-3:非合意,4-6:不満,7-9:合意,とする9段階の数字から1つを選択し,中央値が7以上でステートメントとして採用した(Table 4).6点以下の評価の場合は,十分に議論したうえでステートメントあるいは推奨の強さを修正し,合意の水準に達するまで投票を繰り返した.完成したガイドライン案は評価委員の評価を受けたうえで修正を加えた後に学会会員に公開され,パブリックコメントを求めたうえでその結果に関する議論を経て本ガイドラインは完成した.

Table 4 

修正Delphi法による同意の度合い.

なお,今回のガイドライン作成において,ガイドライン作成グループはシステマティックレビューチームも兼務した.

6.初版と第2版の対応

「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン」初版 1のCQと対応するステートメントを参考のために示す(Table 5).第2版のCQとの対応も併せて表記する.初版のCQ 1とCQ 6は公知のことであり,第2版では採用しなかった.Figure 1の臨床フローチャートも参考に対応していただきたい.第2版で新たに加えたCQは,CQ 14,15,16,17,18,19である.なお,初版のエビデンスレベルと推奨グレードは「Minds診療ガイドライン作成の手引き2007」 6に従って作成されている(Table 6).

Table 5 

内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン初版のまとめ.

Table 6 

エビデンスレベルと推奨グレード.

7.ガイドライン公開後に取り組むべき事項(積み残した課題)

診療ガイドラインに期待される役割は,診療,教育,研究そして医療政策への提案であることは「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」 4にも明記されている.今回のガイドライン作成にあたって本邦からのエビデンスが不足していることが明らかとなったテーマについては,優先度が高い研究課題である.

また,内視鏡で使用されているほとんどの薬剤は保険の適用外である.つまり,公知として一般臨床で広く使用されているだけであり,使用された鎮静薬が査定されるかどうかには地域差などが介在し,鎮静薬に関与した重大事故が発生した場合の責任の所在は不明確である.また,今回のガイドライン作成でも明らかになったが,内視鏡治療では鎮静薬あるいは全身麻酔を使用しない状態では患者の不利益が大き過ぎるため実施不可能であり,鎮静薬使用と不使用の比較試験が存在しなかった.

一方で,残念ながら内視鏡時の鎮静に対する保険適用の承認を取得している薬剤はほとんどなく,主にベンゾジアゼピン系の薬剤が適応外で使用されているのが現状である.つまり,鎮静薬の使用が患者(=受益者)に対して「益」が示されたとしても,医療提供者(=施設および内視鏡施行医)にとっては費用負担や重大事故発生時に責任が問われるなど不利益となっているのが本邦の現状である.本ガイドラインは消化器内視鏡という一般的な医療行為に対するもので,すべての日本国民が受益者となりうる.費用的にも,日本の国家予算を揺るがすような甚大な経費を要するとも考えがたい.“個人として社会として,得られるものとそのための対価”を誰が負担するか,鎮静薬使用下における安全性の観点からも医療保険制度などの医療制度,医療政策の決定に際して配慮されることが待たれる.

また,胃内視鏡検診において日本消化器がん検診学会による「対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル2015年度版」 7では鎮静薬の使用は推奨されていない.今後,検診受診者を増やすためにも胃内視鏡検診における鎮静薬使用についての議論は行政および日本消化器がん検診学会とともに行っていく課題と考える.さらに,今後は日本麻酔科学会とも協力して「日帰り麻酔の安全のための基準」に,入院ベッドの確保ができない,あるいは麻酔科医が常駐していない施設でも鎮静下内視鏡が安全に施行できる運用方法などの提言も期待したい.

今回のガイドライン第2版では,利用対象として内視鏡を用いた検査および治療を行う機会のある医療提供者を想定している.しかし,医療者からの視点だけではなく,診療ガイドライン作成に患者・市民の視点を反映することが非常に重要である.「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」でもガイドライン作成への患者・市民参加の必要が明記されているが,今回の作成においてはその準備が間に合わなかった.内視鏡の中でも特に検査や検診においては,ガイドラインの対象集団の価値観や希望を可能な限り取り込んでいくことが次回改訂時の課題と考える.そのためには,患者参加のための教育・研修をはじめとした準備が必要になる.英国の国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Care Excellence)のような患者・市民参加を促すプログラムを提供し,診療ガイドライン作成への参加を支援することも学会として今後必要となる.

8.対象とガイドライン利用者

本ガイドラインの対象者は,内視鏡を用いた検査および治療を受ける患者である.なお,今回のガイドラインでは小児は対象外とした.本ガイドラインの利用者は,内視鏡を施行する臨床医およびその指導者および内視鏡に関わる医療従事者である.医療の現場で患者と医療者による意思決定を支援するために利用する.なお,ガイドラインは現時点でのエビデンスに基づいた標準的な指針であり,医療の現場で患者と医療者による意思決定を支援するものである.よって,個々の患者の希望,年齢,合併症,社会的状況,施設の事情や医師の裁量権によって柔軟に対応する必要がある.

9.利益相反

本ガイドライン作成委員,評価委員の利益相反に関して各委員には下記の内容で申告を求めた.

本ガイドラインに関係し,委員個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:

報酬(100万円以上),株式の利益(100万円以上,あるいは5%以上),特許使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料(50万円以上),研究費,助成金(100万円以上),奨学(奨励)寄付など(100万円以上),企業などが提供する寄附講座(100万円以上)研究とは直接無関係なものの提供(5万円以上)

後藤田卓志(講演料:富士フイルム),阿部清一郎(講演料:ボストン・サイエンティフィック ジャパン,研究費・助成金:オリンパス,富士フイルム),細江直樹(研究費・助成金:オリンパス),三浦義正(寄付講座:富士フイルムメディカル),磯本 一(講演料:武田薬品工業,第一三共製薬,奨学寄付:大塚製薬,日本イーライリリー),入澤篤志(奨学寄付:武田薬品工業,EAファーマ,アッヴィ),藤本一眞(講演料:ツムラ,EAファーマ,アストラゼネカ,第一三共,奨学寄付:アストラゼネカ,第一三共,アステラス,武田薬品工業,EAファーマ,旭化成メディカル),井上晴洋(特許使用料:オリンパス,講演料:オリンパス,武田薬品工業,奨学寄付:オリンパス,ボストン・サイエンティフィック ジャパン,武田薬品工業)

10.資金

本ガイドライン作成に関係した費用は,日本消化器内視鏡学会が負担しており,他企業からの資金提供はない.

11.鎮静・鎮痛の定義と運用

1)鎮静の定義

鎮静(sedation)とは,投薬により意識レベルの低下を惹起することである.一方,鎮痛(analgesia)は意識レベルの低下を来さずに痛みを軽減することであり,鎮痛と鎮静は明確に区別される.なお,オピオイド性鎮痛薬は鎮痛とともに軽い鎮静効果を発揮するので,今回のガイドラインでの鎮静にはオピオイド性鎮痛薬も含めて検討する.

2)鎮静レベルの定義

本邦で独自に制定した鎮静レベルの定義がないため,ASAの鎮静・麻酔レベルとその定義を採用する(Table 7 3

Table 7 

米国麻酔科学会 鎮静・麻酔の分類.

3)鎮静レベルの簡便な判定法

鎮静麻酔の深度を判断する方法としてRamsay鎮静スコアが汎用されている(Table 8 8

Table 8 

Ramsay鎮静スコア.

12.薬剤の種類,作用機序と効能一覧(Table 9
Table 9 

各種薬剤の種類.

Ⅰ.催眠鎮静薬

A.ベンゾジアゼピン系薬剤

ベンゾジアゼピン系薬剤[ジアゼパム(セルシン®,ホリゾン®),ミダゾラム(ドルミカム®),フルニトラゼパム(サイレース®,ロヒプノール®)]の一般的な特徴として,①生理学的pHでは高い脂溶性のために中枢神経作用は速やかである.②代謝は肝ミクロゾームによる酸化反応,グルクロン酸抱合による.③催眠作用,鎮静作用,抗不安作用,健忘作用,抗痙攣作用,筋弛緩作用を有する.投与量によって刺激に対して反応がみられる状態から,意識レベル,反射の抑制が生ずる麻酔のレベルまで様々である.抗不安作用はgamma aminobutyric acid(GABA)のレセプター占拠率20%以下で生じ,鎮静作用は30~50%,意識障害は60%以上で生じる.④呼吸への影響として,静脈麻酔にみられるように中枢神経抑制が用量依存性にみられる.二酸化炭素応答曲線(PaCO2が上昇すると換気が刺激される反応)の傾きを低下させる.投与速度が速いほど呼吸抑制は早期に強く起こる.慢性の呼吸器疾患を有する患者では,より強い呼吸抑制が早期から生ずる.⑤循環系への影響は非常に少ない.軽い末梢血管抵抗の低下で軽度の血圧低下が起こる.低下は用量依存性で生ずるが,ある濃度以上になるとそれ以上の血圧低下は生じないといわれている.⑥オピオイド性鎮痛薬との併用時には呼吸抑制は相互的,相乗的に起こる.

1.ジアゼパム

1)薬理作用

中枢神経系における抑制系神経伝達物質であるGABAの受容体を賦活することにより催眠作用,鎮静作用,抗不安作用,健忘作用,抗痙攣作用,筋弛緩作用を発揮する.

2)使用法

催眠量以下の量で患者の不安感を取る.鎮痛効果はないが,触覚と痛覚の区別ができなくなる状態にするといわれている.単独投与では,静注5~10 mgが一般的に使用されている.

3)注意点

・副作用:徐脈,低血圧,呼吸抑制,運動失調,薬疹,血栓性静脈炎,口渇などがある.

・一定の割合で血管痛がある.血栓性静脈炎を予防するために,なるべく太い静脈から緩徐に投与する.

・持続時間(半減期35時間)が長いので検査後の患者のケアに注意が必要である.

・5~10 mgの投与でも呼吸抑制を生じるので注意する.特に,肝障害や腎障害があると遷延することが多く,呼吸停止も生じるので注意が必要である.

・急性閉塞隅角緑内障患者や重症筋無力症患者は禁忌である.

・高齢者では運動失調などが発現しやすいため,少量から投与を開始する.

2.ミダゾラム

1)薬理作用

中枢神経系における抑制系神経伝達物質であるGABAの受容体を賦活することによって催眠作用,鎮静作用,抗不安作用,健忘作用,抗痙攣作用,筋弛緩作用を発揮する.

2)使用法

血管痛もなく,速効性,作用持続時間(2~6時間)も短い.半減期はジアゼパムの1/10である.0.02~0.03 mg/kgをできるだけ緩除注入する.

3)注意点

・副作用:嘔気,嘔吐,呼吸異常(一過性無呼吸,舌根沈下による呼吸抑制),血圧低下,心室性頻拍,アナフィラキシーショックなどがある.

・過剰投与による過鎮静,傾眠,錯乱,昏睡が疑われた場合には,必要に応じて拮抗薬(フルマゼニル)の投与を考慮する.

・プロポフォールとの併用で,麻酔・鎮静作用が増強され収縮期血圧,拡張期血圧,平均動脈圧および心拍出量が低下する.

・急性閉塞隅角緑内障患者や重症筋無力症患者は禁忌である.

・高齢者で,麻酔薬や鎮痛薬,局所麻酔薬,中枢神経抑制薬等を併用する場合は分割投与や,投与量を減ずる.

3.フルニトラゼパム

1)薬理作用

大脳辺縁系,大脳皮質,小脳などに分布するGABAの受容体を賦活することによって抗不安作用,抗痙攣作用,筋弛緩作用,鎮静作用,催眠作用を発揮する.ジアゼパムの約10倍の力値を有し,強力な催眠・鎮静作用を発揮する.半減期は7時間であり,循環器系への影響はほとんどない.

2)使用法

血管痛がジアゼパムに比べ少ない.使用法は,0.004~0.03 mg/kgを静注する.追加投与は,0.002 mg/kgを静注で行う.

3)注意点

・副作用:呼吸抑制,依存性,過鎮静,興奮,前行性健忘などがある.

・眠気,注意力・集中力・反射運動神経の低下を来すことがあるため,自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないように注意する.

・急性閉塞隅角緑内障患者や重症筋無力症患者は禁忌である.

・高齢者では少量から開始するなど慎重に投与する.

・妊婦・授乳婦には投与しないことが望ましい.

B.デクスメデトミジン塩酸塩(プレセデックス®

1)薬理作用

デクスメデトミジン塩酸塩はα 2アドレナリン受容体の完全作動薬であり,青班核や脊髄が作用部位である.鎮静作用,鎮痛作用,交感神経抑制作用がある.呼吸抑制作用は軽微であり,気道確保されていない症例でも安全性が高い.

2)使用法

シリンジポンプを用いて持続静注する.維持投与速度は,0.2~0.7μg/kg/hrを目安とするが,目的とする鎮静度を得るために,より多量を必要とする症例もある.効能効果として「局所麻酔下における非挿管での手術及び処置時の鎮静」が取得されている唯一の薬剤であり,診療報酬上内視鏡で使用可能である.

3)注意点

・呼吸系については安全な薬物であるが,循環系に関しては副作用が高頻度に発現するので注意を要する.

・副作用として,血圧低下,徐脈,冠動脈痙攣などが発現することがあるので,慎重に投与する.

・高齢者では,他の薬物と同様に,鎮静作用や副作用が強く発現することもあるので慎重に投与量を調節する.

Ⅱ.オピオイド性鎮静薬

1.ペチジン塩酸塩

1)薬理作用

モルヒネと同様にオピオイド受容体作動薬で,中枢性鎮静作用を示し,その鎮痛効果はモルヒネの1/5~1/10である.モルヒネと比較して,本薬の尿閉・便秘発現作用等は弱く,呼吸抑制は軽度である.半減期は4時間である.

2)使用法

1回35~50 mgを皮下または筋注する.あるいは緩除に静脈内に注射する.

3)注意点

・副作用:呼吸抑制,喘息発作の誘発,起立性低血圧,頻脈,眠気,めまい,ふらつき,便秘,排尿障害,胆道痙攣,嘔気・嘔吐などがある.

・急速に注射した場合,呼吸抑制,血圧下降,循環障害,心停止等が現れることがある.オピオイド受容体拮抗薬(塩酸ナロキソンなど)や呼吸の調節・補助設備のないところでは静脈内注射は行ってはいけない.

・肝障害や腎障害により,本薬の効果が遷延する可能性がある.

・高齢者では,低用量から投与を開始するなど患者の状態を観察しながら,慎重に投与する.高齢者では生理機能が低下しており,特に呼吸抑制の感受性が高い.

2.フェンタニル

1)薬理作用

強力な鎮痛作用を持つ高い力価(モルヒネの50~100倍)の合成オピオイドである.投与直後より外的刺激に対する深い鎮痛作用を示すとともに,呼吸抑制,徐脈,その他のモルヒネ様作用(嘔気,便秘,身体依存,迷走神経刺激効果,鎮静効果)ももたらす.作用出現は迅速であり,作用時間は30分~1時間と短いが,反復投与によって進行性に蓄積していく.塩酸ナロキソンによって拮抗される.

2)使用法

局所麻酔における鎮静補助として,1~3μg/kgを静脈内に注射する.

3)注意点

・副作用:呼吸抑制,徐脈,血圧低下,筋硬直,嘔気・嘔吐,尿閉などがある.

・肝臓で代謝されて排泄されるが,高齢者では肝血流量が低下しているため,排泄が遅延して作用時間が延長する可能性がある.

・妊産婦では母乳に移行しやすいので,授乳中の母体への投与は避ける.

Ⅲ.拮抗性鎮痛薬

1.ペンタゾシン

1)薬理作用

強力な鎮痛作用と弱いオピオイド拮抗作用を有する.ペンタゾシンの鎮痛作用はモルヒネのおよそ1/2~1/4の効力を持つ.15~30 mgの静注で中等度の鎮痛作用が生じる.

静注後15分以内に最大鎮痛効果が起こる.

2)使用法

使用法は,15 mgを静注する.追加投与は15 mgを静注で行う.

3)注意点

・副作用:呼吸抑制,血圧上昇,心拍数上昇,嘔気・嘔吐,尿閉,痙攣などがある.

・呼吸機能障害のある患者には,注意深く,低用量を投与する.

・肝障害や腎障害には慎重に投与する.

・高齢者では高い血中濃度が持続する傾向等が認められているので,低用量から投与を開始するとともに,投与間隔を延長するなど慎重に投与する.

Ⅳ.静脈麻酔薬(プロポフォール)

1)薬理作用

覚醒の質がよく,悪心・嘔吐が少ない.代謝の場は肝臓であるが,腎臓や肺にも代謝酵素が含まれており,このような代謝系が覚醒の良さを生んでいる.

2)使用法

投与量は,0.5~2.0 mg/kg静注で,少量では鎮静,大量では麻酔を生じる.ミダゾラムに比べてプロポフォールは鎮静と麻酔の幅が狭い.全血中濃度は3相性で,各相の半減期は2.6分(t1/2α),51.0分(t1/2β)および365分(t1/2γ)である.

3)注意点

・副作用:呼吸抑制,循環抑制(徐脈,低血圧),静注時の血管痛などがある.

・循環器障害のある患者および高齢者では,無呼吸,低血圧,徐脈などの呼吸・循環器抑制が起こる可能性があるので,少量を緩徐に投与する.

・ベンゾジアゼピン系薬剤との併用で,麻酔・鎮静作用が増強され収縮期血圧,拡張期血圧,平均動脈圧および心拍出量が低下する.

・高齢者ではプロポフォールの必要量は減少しており,血圧低下も起こりやすいので少量から緩徐に使用する.

Ⅴ.拮抗薬

1.フルマゼニル

1)薬理作用

中枢性ベンゾジアゼピン受容体に競合的に結合し,ベンゾジアゼピン系薬物に対して拮抗作用を示す特異的拮抗薬である.臨床的にはベンゾジアゼピン系薬物による鎮静,健忘,呼吸抑制に拮抗効果を示す.半減期は約50分である.肝臓で速やかに代謝されるために効果持続時間は短い.

2)使用法

0.2 mgを用い,必要に応じて0.1 mg追加する(総投与量1.0 mgまで用いる).

3)注意点

・副作用:臓器毒性,刺激性もなく安全性の高い薬である.

・フルマゼニルは代謝が速いために時間とともにベンゾジアゼピン受容体占拠率が低下し,ベンゾジアゼピン系薬物の作用が再び出現し,再鎮静が起こる.代謝の速いミダゾラムではこの現象が起こりにくいが,他のベンゾジアゼピンでは注意が必要である.

・てんかんなどの治療薬としてベンゾジアゼピンを服用している患者に用いると,てんかん発作が現れることがある.

・肝障害のある患者では薬物の作用消失時間が延長するので,覚醒後も患者の状態を十分に観察する.

・高齢者ではベンゾジアゼピン系薬物の作用に感受性が高いのでより再鎮静のリスクが高く慎重に投与する必要がある.

・妊婦に対する安全性は確立されていないので,治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合だけ投与する.

2.塩酸ナロキソン

1)薬理作用

モルヒネ,ペンタゾシンなどの拮抗性鎮痛薬による呼吸抑制に拮抗する.オピオイド受容体においてオピオイドの作用を競合的に拮抗することにより,これらの薬物に起因する呼吸抑制などの副作用を改善する.半減期は64分である.90分くらいの拮抗が認められる.

2)使用法

0.2 mg 1回を用いる.効果が不十分であれば,2~3分間隔で0.2 mgを1~2回追加投与する.

3)注意点

・副作用:肺水腫,胸部苦悶感,血圧上昇,心室性頻脈,心室細動など.

・高齢者で高血圧,心疾患のある患者では,本薬によってオピオイド等による抑制が急激に拮抗されると血圧上昇,頻脈などを起こすことがある.交感神経系の活動代謝ストレスを亢進するとされている.

・塩酸ナロキソンは拮抗性鎮痛薬と比較して代謝が速いために再鎮静が起こる可能性に留意する.

・塩酸ナロキソンの持つ有害作用は潜在的に生命に危険を及ぼすことから,安易な使用は推奨されない.

13.クリニカルクエスチョン(CQ)とステートメント

CQ1:鎮静前評価は,適切・安全な鎮静のために推奨されるか?

ステートメント1:

適切な深度の鎮静,偶発症の予防のために,鎮静前の病歴,全身状態の評価を行うことを推奨する.

修正Delphi法による評価:中央値9,最低値5,最高値9

推奨の強さ:1,エビデンスの質(強さ):C

解説:

鎮静に関連する重篤な偶発症の頻度は低く,本邦における消化器内視鏡関連の偶発症に関する第6回全国調査報告 1においても前処置に関連する偶発症472件のうち鎮静に関連した偶発症は219件(46.5%),鎮静に関連した死亡数は前処置関連死亡9件中4件(44.4%)である.総検査件数から換算すると偶発症率0.0013%,死亡率0.000023%とされ,以前の報告と比較しても減少傾向ではあるが死亡例も依然として報告されている.適切な鎮静を行うためには,予定手技に応じた目標とする鎮静の深度の把握とともに,鎮静関連の偶発症 2),3と関係するとされる患者の全身状態や病歴,合併症を事前に把握する必要がある.米国内視鏡学会(ASGE) 4およびASA 5のガイドラインにもあるように,Table 10に事前に評価すべき項目を挙げた.同様に身体所見として,バイタルサイン,心音・呼吸音の聴診,ベースラインの意識状態,気道評価を推奨している.気道評価については,Figure 2に示すmodified Mallampati score 6),7が用いられることが多い.全身状態の評価には,ASA術前評価分類[ASA physical status(PS)classification,Table 11]の有用性が以前から報告されており,ASGE 4およびASA 5のガイドラインではASA-PS分類Ⅳ以上の患者,欧州麻酔科学会(ESA)ガイドライン 8ではASA-PS分類Ⅲ以上の患者の偶発症のリスクが高いため,麻酔科へのコンサルテーションが推奨されている.その他の鎮静に関するリスク因子としてESAガイドライン 8では,心疾患・閉塞性睡眠時無呼吸・高度肥満・腎不全・肝不全・高齢者が挙げられている.ASGEは,高齢者に対する鎮静は配慮が必要としているものの,高齢者の明確な定義はされていない.ESAガイドライン 8では70歳以上の場合は鎮静に関連する偶発症のリスクが高いことから麻酔科へのコンサルテーションを推奨している.上記のような鎮静前評価を行うことで偶発症が減少するかどうかを検証した報告は認めないものの,内視鏡前にリスクを評価することにより得られる益が大きいと考え,本ガイドラインにおいても鎮静前評価を推奨することとした.

Table 10 

鎮静前の評価項目.

Figure 2 

気道評価のためのmodified Mallampati score(文献7より引用).

Table 11 

米国麻酔科学会術前評価分類(ASA-PS分類)(ASAホームページより改変して引用).

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.“endoscopy” and “sedation” and (“training” or “assessment”)のキーワードを用いて検索をかけた結果177編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン22編,臨床試験40編,その他の臨床研究/疫学研究99編,比較対照試験16編であった.スクリーニングの結果,新たにハンドサーチにて8編を加えたうえで,診療ガイドライン2編など,計8編の関連文献を引用した.

CQ2:合併症(COPD,心疾患,慢性腎不全,肝硬変,向精神薬服用,重症筋無力症など)患者,高齢者および妊娠患者における鎮静下内視鏡検査は安全か?

ステートメント2:

麻酔科や他診療科へのコンサルトも含めた術前評価を十分に行い,基礎疾患に配慮した鎮静薬を選択することで鎮静下内視鏡検査を安全に行うことができる.

修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスの質(強さ):D

解説:

基礎疾患の多い高齢者や,合併症を有する非高齢者に対する鎮静下内視鏡については,臓器への負担や内服薬剤との相互作用など,患者安全に留意して施行する必要がある.長時間かつ侵襲的な内視鏡を行う際には,鎮静下検査と比べて全身麻酔下での施行が偶発症発生率を軽減したとの報告もあり 1,選択肢として考慮すべきである.

2018年に改訂されたASAのガイドライン 2では,非麻酔科医が鎮静検査を行う際の偶発症を軽減するため,1)医療記録の確認(例;主要臓器の異常,肥満,睡眠時無呼吸症候群,解剖学的な気道の異常,先天的異常,呼吸器疾患,アレルギー,過去の鎮静検査歴,手術歴,服薬内容など),2)身体所見の評価,3)他検査結果の確認を行うことが推奨されている.ASA-PS分類Ⅳ(生命を脅かすような重度の全身疾患を有する)(Table 11 3や,高度の閉塞性肺疾患,虚血性心疾患,うっ血性心不全等の合併症を有する患者については,麻酔科医や各疾患の専門医に事前に相談することが推奨されている 4),5.鎮静下内視鏡の安全性は患者の全身状態や併存疾患の重篤度などによって様々であり,麻酔科や他診療科へのコンサルトも含めた術前評価を十分に行って基礎疾患に配慮した鎮静薬を選択し,術中および術後の適切なモニタリングを行うことが不可欠である.

COPDおよび睡眠時無呼吸症候群

重度の慢性呼吸不全を有する患者に対する内視鏡検査は,誤嚥性肺炎やCO2ナルコーシスを合併すると致命的になりうる.鎮静薬の使用についても,呼吸数低下につながる過鎮静を避けることが重要である 5.特にⅡ型呼吸不全(肺胞低換気)ではPaO2が高過ぎるとCO2ナルコーシスを誘発する可能性があり,酸素飽和度を88~92%に維持することが求められる 6

睡眠時無呼吸症候群については,中等度鎮静では偶発症増加リスクはないと判断されるが,深い鎮静では低酸素血症や血圧低下を来す可能性があり,麻酔科医による適切な管理が必要となる 2

心疾患

虚血性心疾患を伴う患者に対して,侵襲性の高い検査や長時間の検査は,狭心症発作や心不全の原因となりうるため,事前に心機能の評価を行うことが推奨される 2

慢性腎不全

GFR 60mL/分/1.73m2以下の腎機能が低下した患者では,通常よりも低酸素血症や呼吸不全を来す危険性が高いと報告されている.短時間作用型で肝代謝の薬剤(プロポフォール等)選択が推奨される 7

肝硬変

鎮静に使用されることの多いベンゾジアゼピン系薬剤は,薬剤によって作用時間が異なるものの,グルクロン酸抱合によって失活するため,肝機能の低下が鎮静薬の肝代謝に影響し,偶発症の頻度が高くなる 8),9.短時間作用型の薬剤(例:短期作用型:ミダゾラム,長期作用型:ジアゼパム)が推奨されるが,薬剤の半減期が延長することに注意が必要である 2.また,深い鎮静は,肝性脳症の発症リスクとなるため,中等度鎮静が望ましい 10

向精神薬服用

ベンゾジアゼピン系薬剤やオピオイド性鎮痛薬,向精神薬等を常用している場合,内視鏡検査時の鎮静薬の必要量が増加し,また患者満足度は低下する 11),12

重症筋無力症

重症筋無力症は,神経筋接合部のシナプス伝導が障害されている自己免疫疾患である.鎮静下内視鏡検査を安全に行うために,随意筋と呼吸筋を評価する.呼吸筋の評価は肺機能検査の中でnegative expiratory pressure(NEP:陰圧呼気圧)とforced vital capacity(FVC:努力性肺活量)を用い,呼吸予備能がほとんどない状態での鎮静下内視鏡は推奨されない 13.ミダゾラムやジアゼパム等のベンゾジアゼピン系薬剤は筋弛緩作用を有しており,病状を増悪するため禁忌である.プロポフォールについては,神経筋接合部に影響を与えずに短時間で作用する点で,有用性が報告されている 13

高齢者

高齢者では,加齢に伴う心臓,肺,腎臓,肝臓,内分泌,神経等の機能低下が鎮静に伴う偶発症を増加させるため,事前の評価が望ましい 14),15.若年者と比べると,血圧低下,低酸素血症,不整脈,誤嚥に注意が必要となる 16)~18.また,高齢者では,ミダゾラム等の鎮静薬への感受性が高くなることが知られており,若年者よりも適量が少量となる 19)~23.そのため,過量投与を避けること,術中および術後に慎重な管理を行うことが重要であり,短時間作用型の薬剤を選択することで術後安静時の低酸素血症発生の軽減が期待される 24

妊娠患者

鎮静薬による胎児の影響(低酸素血症,血圧低下,催奇形など)を考慮し,可能であれば延期すべきである.待機的に行える場合,第2三半期(14週から27週)が推奨される.鎮静薬の妊婦への安全性の評価については,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)のカテゴリーB(比較的安全)に麻酔科医によるプロポフォール,カテゴリーDにミダゾラムが分類されている.ジアゼパムについては,口蓋裂との関連も報告されていて推奨されない 25

なお,鎮静検査後の授乳については,鎮静薬の母乳中への移行があること(例:ミダゾラムの母乳/血漿比0.15),成人と小児では薬剤の半減期が異なること(例:ミダゾラム 成人半減期 約1.9時間,小児半減期6.5~23時間)もあり,特に生後2カ月以内の乳児には偶発症の報告が多いため鎮静後の授乳は推奨されない 26.鎮静から覚醒後に授乳する場合,半減期の短い鎮静薬を選択する必要があるが,短時間作用型のミダゾラムであっても投与後24時間までの排泄量が87.8%までに留まるとされている.覚醒後であっても,乳児への影響は,鎮静に使用した薬剤の種類,母親の代謝機能,乳児側の代謝機能に影響されるため,乳児のモニタリングを行うなど安全に配慮した対応が必要である.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.(endoscopy or digestive system) and (sedation or anesthesia or analgesia) and (elderly or cirrhosis or pulmonary or cardiac or renal disease or high risk or pregnancy)のキーワードを用いて検索をかけた結果404編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン18編,臨床試験96編,その他の臨床研究/疫学研究273編,比較対照試験17編であった.スクリーニングの後,RCT 2編,ハンドサーチにて診療ガイドライン4編など21編を加えたうえで,RCT 4編,診療ガイドライン4編など,計26編の関連文献を引用した.

CQ3:鎮静時の適切なモニタリングは何か?

ステートメント3:

鎮静時の適切なモニタリングとは,患者の意識レベル,呼吸動態,循環動態の継続的なモニタリングである.

修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9 

推奨の強さ:1,エビデンスの質(強さ):B

解説:

内視鏡検査および治療の目的で行われる鎮静は主に中等度鎮静(意識下鎮静)が推奨されており 1,鎮静の種類や治療の難易度,治療時間,患者の状態によっては深い鎮静が必要となる(Table 7 2

患者モニタリングにおいて重要なことは,視診と呼吸・循環動態の適切で継続的な観察である 3.偶発症の頻度は,鎮静に使用する薬剤や鎮静の深度により若干異なるものの,基本的にモニタリングが必要な項目としては,意識レベル,脈拍,血圧,酸素飽和度が挙げられる 2),4

ASAにおけるClinical Outcomes Research Initiativeのデータベースからは,内視鏡施行中の心肺イベントが致死的偶発症として最も重要であることが示されており 5,内視鏡室における鎮静下内視鏡に際しては,特に呼吸循環動態に関しては適切な患者監視が必要である.

中等度の鎮静と深い鎮静の両方について,少なくとも患者の意識レベルとバイタルサインの評価は,麻酔担当者によって麻酔前より開始し,血管確保,鎮静薬の投与後,内視鏡中に少なくとも5分ごと,内視鏡治療終了後,覚醒までは定期的,持続的に行う必要がある 4.中等度の鎮静中には麻酔担当者は短時間の処置が可能であるが,深い鎮静中には継続的なモニタリングに専任すべきである 1),6

呼吸器系のモニタリングに関しては,直接的な呼吸状態の監視は非常に重要であり,必要に応じて聴診・呼吸回数測定なども行う.また,パルスオキシメーターは的確に低酸素血症を数値化してモニタリングできるため重要な呼吸モニターであり 7,ASGEにおいてはすべての内視鏡処置においてパルスオキシメーターの装着が推奨されており 4,特に鎮静下での内視鏡施行では必須の項目である.低酸素血症を予防するために中程度の鎮静中には酸素投与を考慮し,深い鎮静中には酸素投与は必須である.

カプノグラフィーは呼気中の炭酸ガス濃度を測定し,換気不十分や低酸素血症を早期に検出できることが実証されているが 8),9,鎮静下内視鏡中の一時的な低酸素血症と重篤な心肺イベントとの関連性は明確ではない 10.中等度の鎮静を対象とした健常者への上下部内視鏡検査ではカプノグラフィーは低酸素血症の発生率を低下させなかったとの報告があり 11,また深い鎮静を対象とした下部消化管内視鏡検査ではカプノグラフィーによるモニタリングは一過性低酸素血症の発生率を著しく低下させたというRCTの報告がある 12.そのため,カプノグラフィーによるモニタリングは深い鎮静時に使用することが望ましい.

循環器系に関しては,不整脈のモニタリング,および深鎮静下での血圧測定が重要であり 1),13,特に重大な心血管疾患または不整脈を有する患者に対して,そして内視鏡が長時間化する場合の心電図等による持続的なモニタリングはASAおよびASGEのガイドラインでも推奨されている 1),3.リスクが高いと思われる患者に対しての鎮静下内視鏡においては,血圧や心電図を含めたより精度の高い機器によるモニタリングが推奨される.

また,主にプロポフォールを用いた内視鏡治療での深い鎮静の際には,脳波を測定し,客観的に数値化するbispectral indexモニタリングや脳波モニターも使用されており,内視鏡処置中の過鎮静のリスクを軽減し 14),15,プロポフォールの投与量を減少させることが報告されている 16),17

患者の視診,意識レベルと呼吸・循環動態の適切なモニタリングを行い,様々なモニタリングデバイスを組み合わせて,より安全な鎮静下内視鏡を目指すべきである.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.Monitoring[TIAB] AND Sedation[TIAB] AND (“Endoscopy, Digestive System”[MeSH Terms]) AND (English[LA] OR Japanese[LA]) AND “humans”[MeSH Terms])のキーワードを用いて検索をかけた結果365編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン43編,臨床試験164編,その他の臨床研究/疫学研究104編,コクランレビュー1編,比較対照試験53編であった.スクリーニングの後,ハンドサーチにて診療ガイドライン3編など7編を加えたうえで,RCT 6編,診療ガイドライン5編など,計17編の関連文献を引用した.

CQ4:鎮静下内視鏡を行う際に,監視専任者は必要か?

ステートメント4:

軽い鎮静もしくは中等度の鎮静下においては1名の監視者,高難度内視鏡においては1名以上の監視専任者を配置することが望ましい.

修正Delphi法による評価:中央値8.5,最低値5,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスの質(強さ):D

解説:

本邦においては,非挿管下の内視鏡における麻酔科医立会いの機会は非常に少なく,監視者は,医師,もしくは看護師を意味する.1名の内視鏡医と1名の監視者(看護師)によるプロポフォールを使用した中等度~深鎮静の安全性を報告した観察研究 1)~3が報告されているが,監視専任者を配置することにより,鎮静下内視鏡の安全性が増すという明確なエビデンスはない.しかしながら各国のガイドラインでは前提条件として軽い鎮静(minimal sedation)もしくは中等度の鎮静(moderate sedation)下の内視鏡においては,1名の監視者(生検,ポリペクトミーの介助など短時間の業務を兼務可),高難度内視鏡においては1名以上の監視専任者を配置することを推奨している 4)~7.ASA-PS分類Ⅲ(Table 11)以上の合併症を持つ患者に対してはこの限りではなく,状況に応じ内視鏡施行医および監視専任者を上級医とし,麻酔科医に相談し,鎮静法を検討する 8.監視専任者は,パルスオキシメーターや心電図を用い,術中はもちろん,内視鏡室より病棟等へ移動の際にも監視を継続する.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.(“endoscopy” or “Digestive system”)and(“sedation” or “analgesia”)and (“nurse” or “assistant” or anesthesiologist) and(monitoring)のキーワードを用いて検索をかけた結果124編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン24編,臨床試験37編,その他の臨床研究/疫学研究59編,比較対照試験4編であった.スクリーニングの後,ハンドサーチにて診療ガイドライン3編など5編を加えたうえで,診療ガイドライン4編など,計8編の関連文献を引用した.

CQ5:鎮静下内視鏡の監視解除の見極めは?

ステートメント5:

監視解除(退出)基準は確立されていないが,患者の意識レベル,呼吸動態,循環動態を評価し判断する.

修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスの質(強さ):D

解説:

鎮静・鎮痛のレベル評価として,observer’s assessment of alertness/sedation(OAA/S)スケール 1や,Ramsay鎮静スコア 2が用いられる.内視鏡における監視解除(退出)基準としてよく用いられるスコアは,Aldreteスコア 3とpostanesthetic discharge scoring system(PADSS) 4,modified post-anesthesia discharge scoring system(MPADSS) 5などがある.Table 12にAldreteスコアを提示するが,呼吸状態,酸素飽和度,意識状態,循環動態,活動度の5項目からなり,9点以上で退出可能基準を満たしているとされている.鎮静薬の有効性を評価するRCTにおける鎮静からの回復時間を評価する際にこれらの基準が使用されている.これらのスコアの有効性は,比較的少数の前向き試験によってのみ検証されている 6.したがって,これらのスコアの有効性に関しては十分に検討する必要がある.

Table 12 

Aldreteスコア(文献3を改変して引用).

実際,Willeyら 7は,外来にて鎮静下で上部消化管内視鏡を行った31名の患者に対し,Aldreteスコアを用いて退出基準を評価した.退出可と判断した患者のうち,精神運動機能回復は60~70%程度であったと報告している.

以上から,鎮静下内視鏡後の監視解除(退出)基準は確立されていないと言わざるを得ないが,患者の意識レベル,呼吸動態,酸素飽和度,循環動態,活動状態(運動機能)を評価し監視解除を判断すべきであり,判断した時点での評価を診療録に記載することが望ましい.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.(“endoscopy”)and(“sedation”)and (recovery assessment)のキーワードを用いて検索をかけた結果148編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン9編,臨床試験88編,その他の臨床研究/疫学研究49編,比較対照試験2編であった.スクリーニングの後,ハンドサーチにてRCTなど6編を加えたうえで,7編の関連文献を引用した.

CQ6:内視鏡医・内視鏡室スタッフに対する鎮静のトレーニングは推奨されるか?

ステートメント6:

鎮静に関与する内視鏡医・内視鏡スタッフに対して鎮静のトレーニングを行うことを提案する.

修正Delphi法による評価:中央値7.5,最低値5,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスの質(強さ):D

解説:

内視鏡手技に関連する鎮静を適切かつ安全に行うためには,各内視鏡手技に適した深度の鎮静の知識が必要となると同時に,頻度は少ないものの鎮静による偶発症が発生した際に適切に対応することが求められる.鎮静のためのトレーニングとして,鎮静前評価,内視鏡手技に適した鎮静の深度,鎮静のための薬剤・モニタリング,鎮静後監視解除の基準の知識,鎮静薬の拮抗薬の知識を得ると同時に,心肺偶発症が発生した際の応急処置の対応のために,一次救命処置(basic life support:BLS)や二次救命処置(advanced cardiovascular life support:ACLS)の資格も得ることが望ましい.内視鏡手技に関連する鎮静のためのトレーニング・カリキュラムは,Multisociety Sedation Curriculum for Gastrointestinal Endoscopy(MSCGE) 1,および欧州消化器内視鏡学会/欧州消化器・内視鏡看護協会(ESGE/ESGENA) 2からそれぞれ発表されている.その内容については若干違いがあるものの,いずれのカリキュラムにおいても,鎮静中の急変に対応するために一次または二次救命処置が項目として含まれている.トレーニング・カリキュラムによる鎮静に関する知識の向上を示した研究 3はあるものの,鎮静の安全性・有効性自体が改善したという報告はこれまでにない.しかし,特に急変時の対応など安全性を考慮すると,鎮静に関与する内視鏡医あるいは内視鏡スタッフに対するトレーニングを行うことを提案する.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.“endoscopy” and “sedation” and (“preoperative care“ or “preprocedural assessment” or “risk assessment” or “patient evaluation”)のキーワードを用いて検索をかけた結果65編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン8編,臨床試験5編,その他の臨床研究/疫学研究40編,比較対照試験12編であった.スクリーニングの結果,新たにハンドサーチにて3編を加えたうえで,検証研究など,計3編の関連文献を引用した.

CQ7:緊急内視鏡における適切な鎮静法は?

ステートメント7:

緊急対応ができる環境下で,確実なモニタリングを行い拮抗薬のある鎮静薬もしくは半減期の短い鎮静薬を使用することを提案する.

修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスの質(強さ):D

解説:

緊急内視鏡とは,「放置すると全身状態が悪化し重篤になると予想される上部・下部消化管,胆道・膵の急性症状に対して,原因の診断,治療,予後判定を目的とし,最優先になされる内視鏡検査および治療」と定義されている 1

基本的に,バイタルサインが安定していれば,特に興奮や不安状態にある場合に安全で確実な緊急処置を行うためには鎮静は有用とされているが 2,患者の全身状態や病状の度合いによっては鎮静が有用でない場合もある 3.特に,挿管下で行われるような緊急内視鏡の場合,麻酔科医・救命救急医や集中治療担当医による鎮静コントロールやモニタリングが望ましい.

鎮静を実施する際,安全性確保のために血管確保,生体監視モニターによる酸素飽和度,血圧,心拍数,呼吸数などの確認が望ましい 4),5.また,鎮静担当医師名,担当看護師名,鎮静薬品名,投与量,投与ルート,酸素投与量,などの記録も重要である.

最近では鎮静下でのCO2送気を用いた内視鏡治療が広く行われているが,CO2貯留のリスクが危惧されるため,カプノグラフィーによるモニタリングや非侵襲的かつ連続的な経皮二酸化炭素分圧モニターは,高二酸化炭素ガス血症の早期発見に役立つともいわれている 6),7

使用薬剤は,拮抗薬のある鎮静薬としてジアゼパム・ミダゾラム・フルニトラゼパム,鎮痛薬としてペチジン塩酸塩・ペンタゾシンなどが頻用されている.使用量については患者の全身状態,年齢,体重,施行する処置の種類や予想される処置時間など臨床状況を考慮して慎重に決定するべきである.

最近ではプロポフォールなどの薬剤がベンゾジアゼピン系薬剤を少量使用したいわゆる鎮静と同等以上の効果と安全性があるとの報告や 7)~16,デクスメデトミジン塩酸塩による鎮静は呼吸抑制や粗大な体動も少なく安全に内視鏡治療が行えるとの報告もあり 17)~19,緊急内視鏡でも有用であることが示唆される.しかしながら,デクスメデトミジン塩酸塩による徐脈性不整脈やプロポフォールによる呼吸抑制・血圧低下など注意を要するため,モニタリング担当者を配置し,適切なモニタリングと循環動態の管理が必要であり,気道確保や気管挿管への移行が速やかに行いうる状況下での鎮静施行が考慮されるべきである.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.(emergency endoscopy or urgent endoscopy)and(appropriate sedation or analgesia or anesthesia)and safety and(utility or availability)キーワードを用いて検索をかけた結果271編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン18編,臨床試験83編,その他の臨床研究/疫学研究116編,コクランレビュー2編,比較対照試験52編であった.スクリーニングの後,ハンドサーチにて偶発症に関するRCT 6編など17編を加えたうえで,RCT 6編,診療ガイドライン1編など,計19編の関連文献を引用した.

CQ8:鎮静は経口的な内視鏡に寄与するか?

ステートメント8:

経口的内視鏡の受容性や満足度を改善し,検査・治療成績向上に寄与する.

修正Delphi法による評価:中央値9,最低値8,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスの質(強さ):A

解説:

経口的内視鏡検査において鎮静を使用する概念は本邦において広まってきており,実際に鎮静を使用した上部消化管内視鏡検査の頻度は増加してきている 1),2.しかし,鎮静では低酸素血症,血圧低下などの偶発症が発生する可能性があることから,鎮静下経口的内視鏡検査・治療の際には適切な観察・鎮静深度の維持が重要であるとともに,高齢者や併存疾患の多い患者における鎮静では偶発症に対する注意がより必要である.

経口的内視鏡検査における鎮静は,患者側の観点から有用との報告が多く,鎮静下経口的内視鏡検査により不快感・不安の軽減,患者満足度の改善を認め,再検査の希望率が高いことがメタ解析にて示されている 3

内視鏡施行医側の観点からも鎮静は有用であり,上部消化管内視鏡検査において内視鏡施行医の満足度を向上させることがRCTにて示されている 4.これに対して,経口的内視鏡治療における鎮静の使用の有無での比較試験は存在しないが,これは長時間を要する経口的内視鏡治療では一般的に鎮静下に行われていることが要因と考えられる.欧米のガイドラインでは,内視鏡における診断の質の向上,治療の目的の達成のためには鎮静が有用であることが言及されている 5),6

鎮静に対する概念の世界的な広がりにより,経口的内視鏡検査においても鎮静を行う頻度が今後さらに増加することが予想される.しかし,鎮静を行うか否かの判断は,国や地域による社会的,文化的背景の違いや,患者側の期待度,費用対効果,施設の状況など様々な要素に影響されるため,一概に結論付けられるものではない.医療者側は,内視鏡前に鎮静の有用性と偶発症について十分に説明し,医療安全を考慮したうえで鎮静使用の有無について患者に選択する機会を与え,その意思決定を尊重することが望ましい.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.(“endoscopy” or “endoscopic” or “esophagogastroduodenoscopy” or “enteroscopy”) and (“routine” or “diagnosis” or “therapy” or “therapeutics”)and(“sedation” or “anesthesia” or “analgesia”)and(“quality” or “efficacy” or “time” or “acceptance” or “tolerance” or “satisfaction” or “pain” or “detection” or “complication”)のキーワードを用いて検索をかけた結果664編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン65編,臨床試験268編,その他の臨床研究/疫学研究281編,比較対照試験50編であった.スクリーニングの後,ハンドサーチにて偶発症に関する全国調査報告2編を加えたうえで,システマティックレビュー1編,診療ガイドライン2編など,計6編の関連文献を引用した.

CQ9:鎮静は経肛門的な内視鏡に寄与するか?

ステートメント9:

経肛門的内視鏡時の不安・疼痛軽減,満足度上昇に貢献し,検査・治療成績向上に寄与する.

修正Delphi法による評価:中央値7,最低値5,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスの質(強さ):C

解説:

経肛門的内視鏡時の鎮静に対する考え方や鎮静施行状況は,国や地域により異なるが,経肛門的内視鏡検査においても鎮静使用が世界的に広まってきている.本邦でも経肛門的内視鏡検査において鎮静を用いる頻度が増加している 1),2

患者側の観点では,鎮静によって経肛門的内視鏡に伴う苦痛・不安の軽減,患者満足度の向上や,再検査の希望率が高いことが示されている 3),4.特に,女性・若年・低body mass index・婦人科疾患術後・検査前に不安の強い患者では鎮静が有用である 5)~7.一方で,患者によっては経肛門的内視鏡検査中に鎮静を行わなくても満足感が得られることもあり 8,鎮静使用の有無については患者の意思決定に従うべきであるが,地域や施設によっては常に安全に鎮静を行うことが困難な環境にあることもある.偶発症に関しては,鎮静に伴い低酸素血症や血圧低下を認める頻度が多くなることから,適切な観察・鎮静深度を維持することが重要である.近年,全身麻酔あるいは麻酔補助下での経肛門的内視鏡検査では,それ以外の鎮静下検査に比して誤嚥性肺炎などの偶発症が多くなることが示されており 9),10,留意すべき事項である.

内視鏡施行医側の観点では,鎮静は経肛門的内視鏡における内視鏡施行医の満足度を向上させ 4),11,欧米のガイドラインでも診断の質の向上,治療の目的の達成のために鎮静が有用であることが言及されており 12),13,経肛門的内視鏡検査における盲腸到達率が特に女性において向上することが示されている 14.一方で,鎮静は検査における挿入困難性の改善や盲腸到達時間短縮,ポリープ発見率向上には寄与しないことが示されている 14),15

経肛門的内視鏡において鎮静を行う頻度は今後ますます増加することが予想される.鎮静の使用/不使用の判断においては地域や施設の状況を考慮せざるを得ないが,医療者側は鎮静の有用性と偶発症からその適応を検討し,医療安全を考慮したうえで鎮静使用の有無については患者の意思決定を十分に尊重することが望ましい.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.(“colonoscopy” or “enteroscopy”)and(“routine” or “diagnosis” or “therapy” or “therapeutics”)and(“sedation” or “anesthesia” or “analgesia”)and(“quality” or “efficacy” or “time” or “acceptance” or “tolerance” or “satisfaction” or “pain” or “detection” or “complication”)のキーワードを用いて検索をかけた結果514編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン32編,臨床試験163編,その他の臨床研究/疫学研究196編,比較対照試験123編であった.スクリーニングの後,ハンドサーチにて偶発症に関する全国調査報告2編など6編を加えたうえで,RCT 3編,診療ガイドライン1編など,計15編の関連文献を引用した.

CQ10:経口的な内視鏡検査において,適切なベンゾジアゼピン系薬剤は何か?

ステートメント10:

ミダゾラム,ジアゼパム,フルニトラゼパムのうち鎮静効果および患者の満足度からミダゾラムの使用を提案する.

修正Delphi法による評価:中央値8,最低値6,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスの質(強さ):C

解説:

本邦で経口的内視鏡の鎮静に選択できる静注用ベンゾジアゼピン系薬剤としてミダゾラム(ドルミカム®),ジアゼパム(セルシン®,ホリゾン®),フルニトラゼパム(サイレース®,ロヒプノール®)が挙げられる 1.上部消化管内視鏡検査を対象としてベンゾジアゼピン系薬剤のみを使用し非鎮静者と比較したRCTとして主に4つ挙げられ,2つのRCTで非鎮静,ミダゾラムおよびジアゼパムとの3群比較 2),3,1つのRCTで非鎮静とミダゾラムとの比較 4,また1つのRCTで非鎮静とフルニトラゼパムの比較 5が行われている.これらの2つのRCTではジアゼパムに比してミダゾラムが検査後の患者満足度の向上および検査への健忘効果,静脈炎の減少,術者の内視鏡の挿入や検査のつらさの軽減に有効であったと報告している 2),3.別のRCTでは,再検査時の同一鎮静薬希望率はミダゾラムでやや高く,検査への健忘効果はミダゾラムで有意に高かったとしている 4.さらにミダゾラム投与により非鎮静およびジアゼパムに比べ酸素飽和度が低下するため低用量の酸素の使用が望ましいことが報告されている 5),6.一方で,ミダゾラムについてのメタアナリシスではジアゼパムとの比較において検査への健忘効果のみが有意差を認め,検査への不安,不快,および痛みについては差異が認められなかったとしている 7.ベンゾジアゼピン系薬剤は副作用の1つとして不穏が挙げられるが,同研究では検査への非協力性についても2剤で差がなかったことが報告されている.

フルニトラゼパムを用いた本邦でのRCTでは,フルニトラゼパム低用量(0.25 mg)群およびフルニトラゼパム通常量(0.50 mg)群のいずれもで,患者満足度がプラセボに比して向上したとしている.また,低用量群では酸素飽和度90%未満の呼吸抑制はなかったとしている 8.さらに検査への健忘効果は通常量群で有意に高まったことが報告されている.

ASGE,スペイン消化器内視鏡学会(SEED)およびドイツ消化器病消化代謝疾患学会(DGVS)のガイドラインではジアゼパムおよびミダゾラムがベンゾジアゼピン系薬剤として標準的に使用可能だが,その違いについてはミダゾラムにおける速い効果発現,静脈炎の低さ,効果発現時間が短いこと,高い検査への健忘効果が挙げられている 9)~11.しかしながら,ベンゾジアゼピン系薬剤の使用にあたっての問題点として,ミダゾラム,ジアゼパム,フルニトラゼムのいずれも内視鏡における効能効果が記されておらず,保険の適用外として使用されているのが現状で査定される場合もある.

以上から,経口内視鏡検査における最適なベンゾジアゼピン系薬剤はエビデンスの多さ,その鎮静効果,および患者の満足度からミダゾラムが弱く推奨される.しかしながら,地域や施設の状況により使用可能な薬剤も種々違いがあることも加味したうえで使用薬剤を決定すべきである.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.(“benzodiazepines”[MeSH Terms] AND (“endoscopy, digestive system”[MeSH Terms]) AND English[All Fields] AND (“humans”[MeSH Terms] AND (“diagnosis”[MeSH Terms])のキーワードを用いて検索をかけた結果190編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン17編,臨床試験95編,その他の臨床研究/疫学研究73編,比較対照試験5編であった.スクリーニングの後,ハンドサーチにてRCT 3編など6編を加えたうえで,RCT 6編,診療ガイドライン2編など,計11編の関連文献を引用した.

CQ11:経肛門的な内視鏡検査において,適切なベンゾジアゼピン系薬剤は何か?

ステートメント11:

ミダゾラム,ジアゼパム,フルニトラゼパムのうち鎮静効果および患者の満足度からミダゾラムの使用を提案する.

修正Delphi法による評価:中央値8,最低値6,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスの質(強さ):C

解説:

本邦で経肛門的内視鏡検査の鎮静に選択できる静注用ベンゾジアゼピン系薬剤としてミダゾラム(ドルミカム®),ジアゼパム(セルシン®,ホリゾン®),フルニトラゼパム(サイレース®,ロヒプノール®)が挙げられる 1.経肛門的内視鏡検査に関する静注用ベンゾジアゼピン系薬剤を使用したRCTは主に3つ挙げられ,ミダゾラムとプラセボを比較したRCTにおいては,ミダゾラム群はプラセボ群に比して患者の苦痛・不快,内視鏡医の感じる検査遂行上の困難度・検査時間には差異がなかったとしている 2.しかしながら,同研究ではミダゾラムの投与量が年齢に応じて0.03~0.05 mg/kgと調整されており(60歳60 kgであれば2.4 mg/body)やや投与量が少ないことが指摘されている.一方で,ミダゾラムとジアゼパムを比較したRCTは2つあり,1つのRCTでは鎮静の程度,検査への耐用性,検査のしやすさ,回復の速さで2剤は同等の結果であったが,検査への健忘効果はミダゾラムで有意に高かったとしている 3.これらよりミダゾラムのほうが経肛門的内視鏡検査においてやや推奨されると考えられる.また,別なRCTでは2剤の静脈系の偶発症に関して検討しておりジアゼパムはミダゾラムに比して静脈炎の頻度,特に注射部位の疼痛(35% vs. 7%)が有意に高値であったとしており,この点からはミダゾラムが強く推奨される 4

ASGE,SEEDおよびDGVSのガイドラインではジアゼパムおよびミダゾラムがベンゾジアゼピン系薬剤として標準的に使用可能だが,その違いについてミダゾラムにおける速い効果発現,静脈炎の低さ,短い効果発現時間,高い検査への健忘効果が挙げられている 5)~7.一方で,欧米では大腸内視鏡検査においてはベンゾジアゼピン系薬剤に鎮痛薬が併用された研究は数多く実施されているもののベンゾジアゼピン系薬剤単剤を対象とした研究は少なくエビデンスが豊富とはいえない.本邦においても実臨床においてはベンゾジアゼピン系薬剤のみでは患者の苦痛が強いこともあるためペチジン塩酸塩やペンタゾシンのような鎮痛薬が併用されることも稀ならず行われている.

一方で,ベンゾジアゼピン系薬剤使用にあたっての問題点としてはいずれも副作用の1つとして不穏が挙げられるため,使用にあたり十分に注意が必要である.また,ミダゾラム,ジアゼパム,フルニトラゼムともに保険での効能効果には内視鏡鎮静が記されておらず,今後の整備が望まれる.

以上から,経肛門内視鏡検査における最適なベンゾジアゼピン系薬剤はその鎮静効果および患者の満足度からミダゾラムが弱く推奨されると考える.しかしながら,地域や施設の状況により使用可能な薬剤も種々違いがあることも加味したうえで使用薬剤を決定すべきである.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.(“benzodiazepines”[MeSH Terms] AND (“colonoscopy”[MeSH Terms] AND English[All Fields] AND (“humans”[MeSH Terms] AND (“diagnosis”[MeSH Terms])のキーワードを用いて検索をかけた結果143編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン9編,臨床試験77編,その他の臨床研究/疫学研究55編,比較対照試験2編であった.スクリーニングの後,ハンドサーチにてRCT 3編,診療ガイドライン4編の7編を加えたうえで,RCT 3編,診療ガイドライン4編の計7編の関連文献を引用した.

CQ12:経口的な内視鏡治療を受ける場合の適切なベンゾジアゼピン系薬剤は何か?

ステートメント12:

ベンゾジアゼピン系薬剤の選択に関するエビデンスはなく,適切な薬剤は確立していない.

修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9

推奨の強さ:なし,エビデンスの質(強さ):D

解説:

経口的な内視鏡治療としてEMR・ESD,内視鏡的消化管拡張術,消化管ステント留置術,内視鏡的胃瘻造設術,内視鏡的胆管膵管造影,EUS(EUS-FNAを含む),interventional EUS,経口小腸内視鏡等が挙げられる.経口的な内視鏡治療の疼痛の程度,所要時間,手技の難易度は,それぞれの手技ならびにその内容によって様々である.海外では,経口的な内視鏡治療は主に麻酔科医によるプロポフォールとフェンタニルなどの鎮痛薬を併用した静脈麻酔あるいは気管挿管による閉鎖循環式全身麻酔にて管理されており,特に上部消化管出血や胃内容物貯留例など,誤嚥のリスクの高い症例には後者が推奨されている 1),2

本邦では,経口的な内視鏡治療に静注用ベンゾジアゼピン系薬剤が広く用いられており,選択できる薬剤としてミダゾラム,ジアゼパム,フルニトラゼパムが挙げられる.しかし,いずれの薬剤も内視鏡時の鎮静に対する保険適用の承認を取得しておらず,適応外で使用されているのが現状である 3.短時間で比較的苦痛の少ない内視鏡治療では,ベンゾジアゼピン系薬剤単独あるいはペチジン塩酸塩などの鎮痛薬単独による鎮静で対応可能なことが多い.一方で,ESD等の長時間に及ぶ経口的な内視鏡治療では,安全かつ安定した状況下で治療を遂行するために中等度鎮静以上の鎮静が必要であり,ベンゾジアゼピン系薬剤+鎮痛薬が広く用いられている.海外では,消化管内視鏡検査の中等度鎮静においては,ベンゾジアゼピン系薬剤の中では,ミダゾラムが広く用いられている 1),2.ミダゾラム4~5mg前後とペチジン塩酸塩70~100 mgを用いた上下部消化管内視鏡,EUS,治療を含むERCPに対する内視鏡鎮静の前向き試験では,呼吸抑制を伴う深い鎮静(deep sedation,Table 7参照)の発生がERCPでは85%にも及ぶと報告されている.ERCPはEUSとならび,deep sedationの独立した危険因子であることが報告されており,十分な観察と監視が求められる 4

経口的な内視鏡検査においては,ジアゼパムに比するミダゾラムの検査への健忘効果,静脈炎の減少等の有効性が報告されている 5)~7.しかし,経口的な内視鏡治療の鎮静においては,これまでにベンゾジアゼピン系薬剤を直接比較した報告はない.経口内視鏡治療におけるベンゾジアゼピン系薬剤の選択に関する明確なエビデンスはなく,適切な薬剤は確立していない.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.(therapeutic endoscopy OR endoscopic treatment OR endoscopic therapy) and benzodiazepine and (randomized OR controlled OR meta OR guideline) and esophagogastroduodenoscopyのキーワードを用いて検索をかけた結果128編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン17編,臨床試験29編,その他の臨床研究/疫学研究71編,比較対照試験11編であった.スクリーニングの結果,新たにハンドサーチにて診療ガイドライン4編など7編を加えたうえで,RCT 3編,診療ガイドライン3編など,計7編の関連文献を引用した.

CQ13:経肛門的な内視鏡治療を受ける場合の適切なベンゾジアゼピン系薬剤は何か?

ステートメント13:

ベンゾジアゼピン系薬剤の選択に関するエビデンスはなく,適切な薬剤は確立していない.

修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9

推奨の強さ:なし,エビデンスの質(強さ):D

解説:

経肛門的な内視鏡治療として大腸EMR・ESD,経肛門小腸内視鏡,大腸ステント留置等が挙げられる.経肛門的な内視鏡治療の疼痛の程度,所要時間,手技の難易度は,それぞれの手技ならびにその内容によって様々である.経肛門的な内視鏡治療は,経口的な内視鏡治療と比較すると苦痛は軽度である.また,大腸EMR・ESD等では治療中に体位変換を要することがある.したがって,経肛門的な内視鏡治療の鎮静レベルは軽度~中等度鎮静で十分であり,治療の内容によっては非鎮静でも対応可能である.しかし,海外においては,経肛門的な内視鏡治療は主に麻酔科医によるプロポフォールとフェンタニルなどの鎮痛薬を併用した静脈麻酔あるいは気管挿管による閉鎖循環式全身麻酔にて管理されている 1),2

経肛門的な内視鏡治療のうち,短時間で難易度の低い治療は非鎮静,ベンゾジアゼピン系薬剤単独あるいはペチジン塩酸塩などの鎮痛薬単独による鎮静で対応可能なことが多い.しかし,難易度が高くかつ長時間に及ぶ内視鏡治療では,安全かつ安定した状況下で治療を遂行するために,ベンゾジアゼピン系薬剤+鎮痛薬が必要である.本邦では,経肛門的な内視鏡治療に静注用ベンゾジアゼピン系薬剤が広く用いられており,選択できる薬剤としてミダゾラム,ジアゼパム,フルニトラゼパムが挙げられる 3.しかし,いずれの薬剤も内視鏡時の鎮静に対する保険適用の承認を取得しておらず,適応外で使用されているのが現状である.欧米では,消化管内視鏡検査の中等度鎮静にはミダゾラムが広く用いられている 1),2.経肛門的な内視鏡検査においては,ジアゼパムに比するミダゾラムの検査への健忘効果,静脈炎の減少における有効性が報告されている 4),5.しかし,経肛門的な内視鏡治療においては,これまでにベンゾジアゼピン系薬剤を直接比較した報告はない.経肛門的な内視鏡治療におけるベンゾジアゼピン系薬剤の選択に関する明確なエビデンスはなく,適切な薬剤は確立していない.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.(therapeutic endoscopy OR endoscopic treatment OR endoscopic therapy) and benzodiazepine and (randomized OR controlled OR meta OR guideline) and colonoscopyのキーワードを用いて検索をかけた結果147編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン16編,臨床試験30編,その他の臨床研究/疫学研究41編,比較対照試験60編であった.スクリーニングの後,ハンドサーチにて診療ガイドライン3編など4編を加えたうえで,RCT 2編,診療ガイドライン3編など,計5編の関連文献を引用した.

CQ14:鎮静下内視鏡においてベンゾジアゼピン系薬剤の推奨量を超えても適切な鎮静深度が得られない場合の対応は?

ステートメント14:

ベンゾジアゼピン系薬剤のみを使用している場合は鎮痛薬(ペチジン塩酸塩,ペンタゾシン)の追加を検討する.脱抑制と思われる状態を認めた場合は拮抗薬を投与し覚醒下での施行または検査・処置の延期を検討する.

修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9 

推奨の強さ:2,エビデンスの質(強さ):D

解説:

海外においては侵襲的な内視鏡時などに麻酔科医や麻酔看護師などが鎮静のコントロールを行うことが一般的である.しかし,本邦では内視鏡時に鎮静を行うことは,そのための人的リソースを独立して確保する診療報酬上の裏付けに乏しく,また薬剤の選択についても保険適用となっている薬剤はデクスメデトミジン塩酸塩のみであるため,多くの困難を伴っているのが現状である.

鎮静不良の大部分は内視鏡検査・治療の際の違和感・疼痛などへの対策が不十分であることが原因である.文献的な検討でもベンゾジアゼピン単独投与群とベンゾジアゼピンにペチジン塩酸塩やペンタゾシンなどの鎮痛薬を追加した群による比較において鎮痛薬の併用が有用であるとの結果 1)~3が多い.ただし,鎮静薬および鎮痛薬の過量投与は上気道閉塞および呼吸抑制を引き起こしうるため,薬剤投与を追加しようとする前後には呼吸状態の断続的な監視が必要である.

鎮痛薬以外には,上部内視鏡検査・治療においてドロペリドールをミダゾラム・ペチジン塩酸塩と併用することで鎮静の質が上がったという報告 4),5があるが,QT延長などの循環器系副作用もあり,本邦ではドロペリドールの鎮静への使用は一般的ではなく,薬剤の適応としても使用は難しい可能性が高い.その他にベンゾジアゼピン系薬剤との同時使用が推奨できる薬剤は文献的には見つけられない.

脱抑制が発生した場合は,ベンゾジアゼピン系薬剤による鎮静を中止し拮抗薬を速やかに使用することが望ましい 6.覚醒下で検査・処置を続行することが可能かどうか検討し,別の鎮静方法を伴う施行が必要であればいったん中止として別の日に延期するほうが安全であると考えられる.

ベンゾジアゼピン系の代替として検討できる鎮静用薬剤としては,デクスメデトミジン塩酸塩とプロポフォールが挙げられる.

まず,デクスメデトミジン塩酸塩は保険適用として「局所麻酔下における非挿管での手術および処置時の鎮静」が追加で認められており,呼吸抑制も少ない.高価であり持続投与が必要なため内視鏡検査での使用は困難と思われるが,長時間かかる内視鏡治療などでは選択肢に入る可能性がある.

次に,プロポフォールの使用は保険の適用外となるため慎重に選択される必要がある.単回投与では不安定な鎮静状態が発生しやすいと考えられるため持続投与を原則とすべきである.

いずれも,ベンゾジアゼピン系薬剤とその他の鎮静用薬剤との併用では過鎮静による偶発症増加のリスクがあり,フルマゼニルによるベンゾジアゼピン系薬剤のリバースを常に考慮すべきである.

鎮静が困難な患者(特に循環器や呼吸器の合併症などを持つ患者)については,鎮静における薬剤の選択や挿管を伴う全身麻酔下での処置を行うべきかどうか,麻酔科医へコンサルトすることも考慮されたい.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.(“endoscopy” or “endoscopic”) and “benzodiazepine” and “insufficient sedation” and (“disinhibition” or “paradoxical reaction” or “paradoxical effect”)のキーワードを用いて検索をかけた結果92編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン10編,臨床試験26編,その他の臨床研究/疫学研究51編,比較対照試験5編であった.スクリーニングの後,RCT 4編など,計6編の関連文献を引用した.

CQ15:経口的な内視鏡時に鎮静薬に加えて鎮痛薬の使用は有用か?

ステートメント15:

ERCPにおいて,鎮静薬に加えて鎮痛薬の使用は有用である.その他の内視鏡においては,鎮静薬に加えて鎮痛薬の使用は有用な場合もある.

修正Delphi法による評価:中央値8,最低値5,最高値9 

推奨の強さ:2,エビデンスの質(強さ):B

解説:

1)高侵襲度経口的内視鏡:ERCP,食道拡張術,食道胃十二指腸ESD,胃瘻造設術,経口小腸内視鏡,interventional EUS,小腸内視鏡下ERCPなど

(ア)鎮静薬と鎮静薬+鎮痛薬の比較試験

ERCPを対象とした鎮静薬と鎮静薬+鎮痛薬の比較試験は,RCTが4つ 1)~4報告されており,ミダゾラムとミダゾラム+ペチジン塩酸塩の比較が1つ 1,ミダゾラムとミダゾラム+ペンタゾシンの比較が1つ 2,プロポフォールとプロポフォール+フェンタニルの比較が2つ 3),4である.完遂率・鎮静深度は両群で同等 1)~4,循環系 1),3),4・呼吸系 1)~4など偶発症も両群で同等であった.痛みは併用群で少なく 1),3),4,患者満足度は同等 4または併用群が高かった 1.術者満足度も同等 3),4または併用群のほうが高かった 1),2.ERCPでは,痛みが併用群で少ないこと,患者および術者の満足度が高くなる可能性があること,コストも高価ではないこと等から,鎮痛薬併用は有用である.一方で,RCTに参加した被験者の多くは80歳未満かつASA-PS分類Ⅱ以下(Table 11)であったことから,超高齢者やASA-PS分類Ⅲ以上の患者では慎重な対応が必要である.

ERCP以外の検査・治療を対象とした鎮静薬と鎮静薬+鎮痛薬の比較試験はない.疼痛や苦痛が強い,あるいは長時間に及ぶ内視鏡では鎮静薬に加えて鎮痛薬併用も選択肢となる.

(イ)鎮痛薬間の比較試験

現在本邦における内視鏡で主に使用されている鎮痛薬はペチジン塩酸塩,フェンタニル,ペンタゾシンと思われる.ERCPを対象とした,鎮静薬+鎮痛薬を使用する状況で鎮痛薬を比較した試験はRCTが1つ存在し,プロポフォール+ペチジン塩酸塩とプロポフォール+フェンタニルの比較である 5.完遂率・施行時間・リカバリールーム滞在時間・呼吸循環系の偶発症・患者満足度・術者満足度などはいずれも同等であった.プロポフォールの使用量はフェンタニル併用群で少なかった.プロポフォール使用量の観点からは,フェンタニルのほうがより安全となる可能性はある.ペンタゾシンを他と比較した試験はない.

2)中侵襲度経口的内視鏡:食道胃EMR,食道ステント留置,食道胃静脈瘤治療,消化管止血術,焼灼術,EUS-FNAなど

これらを対象とした鎮静薬と鎮静薬+鎮痛薬の比較試験はない.短時間で比較的疼痛の少ない検査・治療では鎮静薬のみでも施行可能と思われるが,鎮痛薬併用も選択肢となる.

3)低侵襲度経口的内視鏡:上部内視鏡検査(生検含む),診断的EUS

(ア)鎮静薬と鎮静薬+鎮痛薬の比較試験

上部内視鏡検査を対象とした鎮静薬と鎮静薬+鎮痛薬の比較試験はRCTが5つ 6)~10報告されており,ミダゾラムとミダゾラム+ペチジン塩酸塩の比較が3つ 6)~8,ミダゾラムとミダゾラム+フェンタニルの比較が1つ 9,ミダゾラムとミダゾラム+ナルブフィン(本邦では用いられていないオピオイド性鎮痛薬)の比較が1つ 10である.鎮静薬としてプロポフォールを使用したRCTや,鎮痛薬としてペンタゾシンを使用したRCTはない.完遂率・呼吸循環系などの偶発症・患者満足度は両群で同等であった 6)~10.術者満足度は併用群のほうが高いという報告が多かった 6),7),9),10.上部内視鏡検査では,鎮静薬のみで施行可能なことが多いが,術者満足度が高くなる可能性があること,コストが高価ではないこと等から,鎮痛薬併用も選択肢となる.一方で,RCTに参加した被験者の多くは80歳未満かつASA-PS分類Ⅱ以下であったことから,超高齢者やASA-PS分類Ⅲ以上の患者では慎重な対応が必要である.

診断的EUSを対象とした鎮静薬と鎮静薬+鎮痛薬の比較試験はない.鎮静薬のみで施行可能なことも多いが,EUS専用スコープは口径が太くやや苦痛が大きいと思われることから,鎮痛薬併用も選択肢となる.

(イ)鎮痛薬間の比較試験

上部内視鏡検査を対象とした,鎮静薬+鎮痛薬を使用する状況で鎮痛薬を比較した試験は3つ報告されている 11)~13.11),12)はいずれも小規模なRCTで,ミダゾラム+ペチジン塩酸塩とミダゾラム+フェンタニルを比較している.両試験で検査時間・患者満足度・偶発症は両群で同等であった.13)はRCTではないが1,963人と比較的大規模な前向き観察研究で,ミダゾラム+ペチジン塩酸塩とミダゾラム+フェンタニルを比較している.完遂率・術者満足度は同等だが,鎮静導入開始からリカバリールーム退室までの時間はフェンタニル群で有意に短く(79.8分 vs. 69.7分,P<0.001),特に鎮静導入開始から検査開始までの時間およびリカバリールーム滞在時間が短かった.これらから,ペチジン塩酸塩とフェンタニルでは,完遂率・安全性(偶発症)・患者満足度・術者満足度は同等と思われる.検査室の回転率はフェンタニルのほうが高くなる可能性がある.ペンタゾシンを他と比較した試験はない.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.(“endoscopy” or “endoscopic” or “ERCP” or “EMR” or “ESD” or “EUS” or “endoscopic therapy”) and (“sedation” or “anesthesia” or “benzodiazepine” or “midazolam” or “propofol” or “dexmedetomidine”) and (“analgesia” or “opioid” or “opiate” or “narcotic”) and (“meta-analysis” or “randomized controlled” or “RCT”) not (“colonoscopy”)のキーワードを用いて検索をかけた結果424編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン41編,臨床試験182編,その他の臨床研究/疫学研究189編,比較対照試験12編であった.スクリーニングの後,RCT 12編など,計13編の関連文献を引用した.

CQ16:経肛門的な内視鏡時に鎮静薬に加えて鎮痛薬の使用は有用か?

ステートメント16:

経肛門的な内視鏡においては,鎮静薬に加えて鎮痛薬の使用は有用な場合もある.

修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスの質(強さ):C

解説:

1)高侵襲度経肛門的内視鏡:大腸ESD,大腸ステント留置術,消化管拡張術,小腸内視鏡(処置含む)など

これらを対象とした,鎮静薬と鎮静薬+鎮痛薬の比較試験はない.疼痛や苦痛が強い,あるいは長時間に及ぶ内視鏡では鎮静薬に加えて鎮痛薬併用も選択肢となる.

2)中侵襲度経肛門的内視鏡:大腸EMR,消化管止血術,焼灼術など

これらを対象とした,鎮静薬と鎮静薬+鎮痛薬の比較試験はない.短時間で比較的疼痛の少ない内視鏡治療では鎮静薬のみでも施行可能と思われるが,鎮痛薬併用も選択肢となる.

3)低侵襲度経肛門的内視鏡:大腸内視鏡検査(生検,ポリペクトミー含む),大腸EUS(FNA含む)

(ア)鎮静薬と鎮静薬+鎮痛薬の比較試験

大腸内視鏡検査を対象とした,鎮静薬と鎮静薬+鎮痛薬の比較試験は,RCTが7つ 1)~7報告されており,ミダゾラムとミダゾラム+ペチジン塩酸塩の比較が2つ 1),2,ミダゾラムとミダゾラム+フェンタニルの比較が1つ 3,ジアゼパムとジアゼパム+ペチジン塩酸塩の比較が1つ 4,プロポフォールとプロポフォール+ペチジン塩酸塩の比較が1つ 5,プロポフォールとプロポフォール+フェンタニルの比較が2つ 6),7である.鎮痛薬としてペンタゾシンを使用した試験はない.完遂率・患者満足度は両群で同等であった 1)~7.偶発症は,循環系は両群で同等という報告が多く 1)~3),5),6,呼吸系は両群で同等 2),3),5),6または併用群で少なかった 1),7.術者満足度は両群で同等 1),4),6),7または併用群のほうが高かった 3),5.鎮静薬の使用量は同等 4または併用群のほうが少なく 5)~7,リカバリールーム滞在時間も同等 2または併用群のほうが短かった 5),6.大腸内視鏡検査では,鎮静薬のみで施行可能なことも多いが,疼痛を伴う頻度が高くなること,術者満足度や検査室の回転率が高くなる可能性があること,コストが高価ではないこと等から,鎮痛薬併用も選択肢となる.一方で,RCTに参加した被験者の多くは80歳未満かつASA-PS分類Ⅱ以下(Table 11)であったことから,超高齢者やASA-PS分類Ⅲ以上の患者では慎重な対応が必要である.

大腸EUS(FNA含む)を対象とした,鎮静薬と鎮静薬+鎮痛薬の比較試験はない.鎮静薬のみでも施行可能と思われるが,鎮痛薬併用も選択肢となる.

(イ)鎮痛薬間の比較試験

現在本邦における内視鏡で主に使用されている鎮痛薬はペチジン塩酸塩,フェンタニル,ペンタゾシンと思われる.大腸内視鏡検査を対象として,鎮静薬+鎮痛薬を使用する状況で,ペチジン塩酸塩とフェンタニルを比較したアームのある試験は3つある 8)~10.ペンタゾシンを他と比較した試験はない.スフェンタニル 11),12,アルフェンタニル 13)~17,レミフェンタニル 18),19,ケタミン 13),20,ナルブフィン 11,パラセタモール 21,トラマドール 19),22など本邦の大腸内視鏡検査では一般的ではない鎮痛薬を比較した試験も存在する.8)~10)はいずれもミダゾラム+ペチジン塩酸塩とミダゾラム+フェンタニルを比較したRCTである.安全性・術者満足度は同等であった 8)~10.患者の痛みは,両群で同等という報告 8),10と,ペチジン塩酸塩群のほうが少ないという報告 9があった.リカバリールーム滞在時間はいずれもフェンタニル群のほうが短かった.これらから,ペチジン塩酸塩とフェンタニルでは,安全性(偶発症)・患者満足度・術者満足度はほぼ同等と思われる.検査室の回転率はフェンタニルのほうが高くなる可能性がある.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.(“endoscopy” or “colonoscopy” or “endoscopic” or “EMR” or “ESD” or “EUS” or “endoscopic therapy”) and (“sedation” or “anesthesia” or “benzodiazepine” or “midazolam” or “propofol” or “dexmedetomidine”) and (“analgesia” or “opioid” or “opiate” or “narcotic”) and (“meta-analysis” or “randomized controlled” or “RCT”) not (“ERCP”)のキーワードを用いて検索をかけた結果468編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン33編,臨床試験221編,その他の臨床研究/疫学研究186編,比較対照試験28編であった.スクリーニングの後,RCT 3編,診療ガイドライン21編など,計22編の関連文献を引用した.

CQ17:内視鏡におけるプロポフォールの有用性は何か?

ステートメント17:

適切なモニタリング下で使用されれば偶発症は増加せず,回復・離床時間が短く,長時間手技の中断率が低く,医師・看護師・患者満足度が高い点である.

修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスの質(強さ):A

解説:

プロポフォールが本邦で使用されるようになって20年以上が経過し,閉鎖循環式全身麻酔ではかなり普及している.プロポフォールは覚醒の質がよいことが特徴で,これが一部の施設で内視鏡検査に使用されている理由ともいえる.しかし,「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン」(初版)におけるプロポフォールに関する記述は限定的であり,保険収載の問題や安全性の面から日本では内視鏡の鎮静で用いられることは一般的ではない.ゆえに日本人を対象としたプロポフォールに関する報告も必然的に限られてくることは先に述べておく.

一方,内視鏡におけるプロポフォールによる鎮静に関する多くのRCT,メタアナリシスが存在する.多くは海外からの報告であり,上部内視鏡検査に関する報告は非常に限定的である.今回のガイドラインにおけるCQ 17では,プロポフォールと既存の鎮静薬・鎮痛薬を比較した論文を主に検討した.プロポフォールvs. プロポフォール+他薬といった上乗せ効果を見たRCT,メタアナリシスは取り上げなかった.なお,“既存の鎮静薬・鎮痛薬”とはベンゾジアゼピン系薬剤(ミダゾラム,ジアゼパム等)やオピオイド性鎮痛薬(レミフェンタニールやペチジン塩酸塩等)を指す.

上部内視鏡検査,大腸内視鏡検査,ERCP/EUSの3群に大別して行われたプロポフォールと既存の鎮静薬を比較したメタアナリシスでは,大腸内視鏡検査では低血圧や低酸素血症の偶発症をプロポフォールで有意に減らすことが報告されたが,上部内視鏡検査,ERCP/EUSでは有意差はなかったと報告されている 1.この違いは挿入ルートの違いが関与していると思われる.近年,大腸内視鏡検査に限定したメタアナリシスが報告されており 2,鎮静到達時間,回復時間,離床時間,離院時間のいずれも有意に短縮され,偶発症の増加はなかったと報告されている.ERCPについては6編のRCTのメタアナリシスが報告されており 3,低血圧,低酸素血症の頻度に有意差はなく,回復時間の短縮が有意に認められたと報告されている.近年ではERCP,EUS,DBEといった先進的内視鏡に関するメタアナリシスも報告されている.9編のRCTのメタアナリシスでは 4,低酸素血症,低血圧,手技時間には差はないものの,回復時間の有意な短縮が報告されている.ESDに関してもメタアナリシスが存在し,3つのRCTが解析されている 5.RCTはすべて本邦からの報告であり,プロポフォールは不穏(体動にて手技の中断を余儀なくされたものと定義)の頻度が有意に少なく,術後1時間の完全覚醒率が有意に高かったと報告されており,低酸素血症,血圧低下では各々のRCTで定義が異なるものの有意差はなかったと報告されている.また,従来の鎮静薬では不穏の問題などで鎮静に難渋することが多かった食道ESDに関するRCTも本邦から報告されており 6,低血圧の頻度はプロポフォール群で多かったものの,低酸素血症や徐脈は両群で有意差はなく,ミダゾラム単独群では37.9%の手技中断がみられたが,プロポフォール群では手技の中断率が0%であったと報告されており,医師,看護師の満足度も高かったと報告されている.

高齢者に対するプロポフォールの有用性に関しては,80歳以上の高齢者を対象としたRCTが治療ERCPの分野から報告されている 7.回復時間はプロポフォールで有意に短かったと報告されているが,偶発症(低血圧,低酸素血症,徐脈,頻脈)に両群に差はなく,内視鏡医と看護師の満足度にも差がなかったと報告されており,高齢者においてはミダゾラムを基本とする鎮静でもよいと結論付けられている.

以上より既存の鎮静薬・鎮痛薬と比較したときのプロポフォールの優位性は,1)回復時間や離床時間がプロポフォールで短い,2)患者・看護師・医師満足度はプロポフォールで高いが,高齢者では差はない,3)ESDのような長時間手技においては中断時間が少ないということになる.しかし,CQ 18にも共通するが,気道確保に十分修練を積んだ者による使用が推奨されていることを付記しておく.プロポフォールによる鎮静が内視鏡室で非麻酔科医によって安全に行えるかどうかは,現時点での日本の医療現場,教育体制および現状の医療制度,医療政策では明言はできない.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.propofol [mesh] and endoscopy, digestive system [mesh] and (diagnosis [mesh] OR therapeutics [mesh] OR therapy [mesh]) and human [mesh] and (English [LA] OR Japanese [LA]) and (Outcome and Process Assessment [mesh] OR Safety[mesh])のキーワードを用いて検索をかけた結果538編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン68編,臨床試験187編,その他の臨床研究/疫学研究141編,比較対照試験142編であった.スクリーニングの後,RCT 1編,メタアナリシス5編など,計7編の関連文献を引用した.

CQ18:内視鏡室での非麻酔科医によるプロポフォールの使用は可能か?

ステートメント18:

鎮静深度に十分注意しASA-PS分類ⅠまたはⅡの患者に限れば,気道確保などの訓練を受けた医師によるプロポフォール使用は可能である.

修正Delphi法による評価:中央値8,最低値5,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスの質(強さ):A

解説:

このCQは麻酔科医による鎮静と麻酔科医以外による鎮静を比較した論文から作成した.非麻酔科医によるプロポフォール管理の位置付けについてはThe American Association for the Study of liver Disease,American College of Gastroenterology,American Gastroenterological Association,American Society for Gastrointestinal Endoscopyの合同声明があり 1,麻酔科医以外のプロポフォール鎮静はnon-anesthesiologist administration of propofol(NAAP)と記載されており,non-anesthesia provider-administered propofol,nurse-administered propofol sedation(NAPS)等の用語も非麻酔科医によるプロポフォール鎮静として同義語として扱った.

スクリーニング上部・大腸内視鏡検査に限定した内視鏡医と麻酔科医によるプロポフォール投与を比較したメタアナリシスが存在する.多くの論文がASA-PS分類ⅠまたはⅡ(Table 11)の低リスク患者が多くを占めていた.内視鏡医によるプロポフォール投与群では,徐脈になる頻度は有意に高いが,気道確保処置の頻度や低血圧の頻度は増加しないと報告されている.内視鏡医でプロポフォールの使用量が有意に少なく,検査の記憶の頻度は内視鏡医によるプロポフォール投与のほうが有意に高かったとされている 2

侵襲性の高い内視鏡手技においては,16編のNAAPと10編のanesthesia provider-administered propofol(AAP)のRCTによるメタアナリシスが報告されている.低酸素血症の頻度は両群で同等であるが,気道確保処置を必要とした比率はNAAPに比較してAAPで高かったと報告されている.しかし,プロポフォール使用量は前述したメタアナリシスと同様に,AAP群でより多くの使用量であったと報告されており,患者と内視鏡医の満足度はともにAAPによるプロポフォール投与のほうが優れていたと報告されている 3

プロポフォールと既存の鎮静薬とで呼吸循環器系の偶発症を比較したメタアナリシスにおけるサブグループ解析では,消化器内科医師による麻酔,消化器内視鏡医師の指導のもと内視鏡看護師(endoscopy nurse)により行われた麻酔と麻酔科医,ICU専属医による麻酔とで比較・解析が行われ,呼吸循環器系の偶発症に関しては麻酔科医やICU専属医と比べても消化器内視鏡医,または消化器内視鏡医師の指導のもと内視鏡看護師により行われた鎮静でも偶発症に違いはなかったと報告されている 4

治療域の狭いプロポフォールを麻酔科医以外が安全に投与するためにはいろいろな支援機器を用いることも重要であると考えられるため,いくつかのRCTを紹介する.Target controlled infusion(TCI)ポンプを使用したNAAPによるプロポフォールによる鎮静とミダゾラムによる鎮静とを,大腸内視鏡検査と上部内視鏡検査について各々double-blindで比較検討したRCTが報告されている 5.大腸内視鏡検査ではプロポフォール群で離院時間が有意に短く,医者・患者満足度ともに有意にプロポフォールが高い結果であった一方で,上部内視鏡検査では,患者・医師満足度は両方でプロポフォールが有意に高い結果であったが,離院時間には有意な差はなく,プロポフォール鎮静群のほうが次回も同じ鎮静を希望したと報告されている.この結果からはTCIポンプを用いたときにNAAPによるプロポフォール鎮静では経口挿入と経肛門挿入で鎮静効果に差があることを示唆している.カプノグラフィーの有用性について検討したRCTも存在する.ERCPにおけるカプノグラフィー使用した群と使用しなかった群で比較したときに酸素飽和度低下に差はみられなかったが,15秒以上の無呼吸の検出率がカプノグラフィー群で有意に高かった(64.5% vs. 6.0%,P<0.001)と報告されている 6

以上より,1)ASA-PS分類ⅠまたはⅡでの非麻酔科医によるプロポフォール管理の安全性については麻酔科医によるプロポフォール管理と同等であり,2)プロポフォールの使用量は麻酔科医で多いがdeep sedationには優れているということになる.特にASA-PS分類Ⅲ以上の患者に関しては麻酔科医管理下のプロポフォールを推奨する.しかし,内視鏡におけるNAAPによるプロポフォール投与に関するガイドライン 7が存在する欧米に比較すると,本国では非麻酔科医がプロポフォールを安全に使用するための教育システムや指針がないため,現時点で本邦でも同様に安全に施行できるか明言はできない.

今回の文献抽出については,CQ 17の検索結果を使用した.538編の論文をスクリーニング後,RCT 2編,診療ガイドライン2編,メタアナリシス3編の計7編の関連文献を引用した.

CQ19:デクスメデトミジン塩酸塩は長い鎮静が必要となる内視鏡治療時の鎮静に有用か?

ステートメント19:

長い鎮静が必要となる内視鏡治療時の鎮静に有用である.

修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9

推奨の強さ:1,エビデンスの質(強さ):B

解説:

内視鏡治療には様々な手技があり,疼痛を伴う頻度,治療の難易度により治療時間が異なるため,内視鏡治療の種類によって鎮静の必要性は異なる.短時間で終了する大腸ポリペクトミーなどの内視鏡治療では鎮静を行わずに治療遂行が可能であり,鎮静は必須ではない.一方で,食道および胃ESDやERCPでは疼痛や苦痛を伴うため,安全かつ安定した状況下で治療遂行するために鎮静が必要となる.鎮静レベルは中等度鎮静が基本であるが,治療上長時間体動なく安定した状態が必要な症例では全身麻酔も選択肢となりうる.

デクスメデトミジン塩酸塩はα 2アドレナリン受容体作動薬であり,脳橋の青斑核や脊髄に作用して鎮静作用を発現する 1)~3.ミダゾラムなどのGABA作動薬とは異なり,デクスメデトミジン塩酸塩では呼吸抑制がほとんどなく,鎮静作用,鎮痛作用,交感神経抑制作用を有する 4

本邦においては局所麻酔下における非挿管下での処置時の鎮静に対して,保険の適用が認められており,内視鏡時の鎮静にも使用されている 5.なお,添付文書においても,本剤の投与に際しては非挿管下での鎮静における患者管理に熟練した医師が,本剤の薬理作用を正しく理解し,患者の鎮静レベルおよび全身状態を注意深く継続して管理すること.また,気道確保,酸素吸入,人工呼吸,循環管理を行えるよう準備をしておくこと.と明記されている.

内視鏡におけるデクスメデトミジン塩酸塩とミダゾラムのメタ解析 1では,治療を中断するような体動発生率は,ミダゾラム群に比較し,デクスメデトミジン塩酸塩群において有意に低かった.Ramsay鎮静スコアはミダゾラム群に比べてデクスメデトミジン塩酸塩群で有意に高かった.低酸素血症,血圧低下,徐脈などの偶発症に関しては,両群において有意差は認めなかった.また上部および大腸内視鏡検査において体動発生は両群に有意差を認めなかったが,長時間を要する内視鏡治療(ESD,ERCP)においてはデクスメデトミジン塩酸塩により体動が抑制された.

胃ESDにおいては,デクスメデトミジン塩酸塩群,ミダゾラム群,プロポフォール群の3群での比較で,デクスメデトミジン塩酸塩群において,体動,治療時間,追加投与したミダゾラム投与量が有意に減少したと報告されている 6.ERCPでは,デクスメデトミジン塩酸塩群とデクスメデトミジン塩酸塩非投与群の2群比較で,酸素飽和度低下の頻度,ミダゾラム,ペンタゾシンの追加投与量がデクスメデトミジン塩酸塩群で有意に低かったと報告されている 7.いずれもデクスメデトミジン塩酸塩群では呼吸抑制による検査中止例は1例も認めなかった.同様にこれまでの鎮静・鎮痛薬にデクスメデトミジン塩酸塩を併用投与することで,鎮静薬の追加投与,全体的な総投与量が減少し,酸素飽和度低下の頻度が減少することが報告されている 8)~10

これらの報告より,デクスメデトミジン塩酸塩は内視鏡(特に30分以上の長時間を要するESD,ERCP)において,呼吸抑制を増やすことなく,優れた鎮静効果を有することが示されている.

しかしながらデクスメデトミジン塩酸塩にはいくつかのデメリットもあり,交換神経遮断作用により,徐脈や血圧低下など循環動態に影響を及ぼす副作用があり 11,ERCPや食道,胃ESDにおいてもデクスメデトミジン塩酸塩投与群のほうが血圧低下,徐脈の頻度が高かったとの報告もあり,投与時には循環動態に十分注意する必要がある 2),12),13.また,10分間の初期負荷が必要で投与方法がやや煩雑であり,単剤投与では循環動態が不安定になること 14,他の薬剤よりも高価であることも投与時に考慮する必要がある.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.“Dexmedetomidine”[MeSH Terms] AND “Sedation”[TIAB] AND “endoscopy”[MeSH Terms] NOT “bronchoscopy”[MeSH Terms] NOT “laparoscopy”[MeSH Terms] NOT “ureteroscopy”[MeSH Terms] AND (English[LA] OR Japanese[LA]) AND “humans”[MeSH Terms]のキーワードを用いて検索をかけた結果126編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン12編,臨床試験56編,その他の臨床研究/疫学研究20編,比較対照試験38編であった.スクリーニングの後,ハンドサーチにてRCT 2編など4編を加えたうえで,RCT 6編,メタアナリシス1編など,計14編の関連文献を引用した.

CQ20:鎮静・鎮痛施行例では拮抗薬の使用を推奨するか?

ステートメント20:

ベンゾジアゼピン系薬剤およびオピオイド性鎮痛薬により誘発された呼吸抑制に対する拮抗薬として,それぞれフルマゼニルおよび塩酸ナロキソンの使用を推奨する.

修正Delphi法による評価:中央値8,最低値5,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスの質(強さ):B

解説:

フルマゼニルはベンゾジアゼピン系薬剤の拮抗薬であり,ベンゾジアゼピン系薬剤により誘発された呼吸抑制の緊急回避および覚醒時全身状態の早期確認のために有用である.ミダゾラムにより誘導された呼吸抑制に対する拮抗作用は,フルマゼニル静注後120秒には発現し,呼吸抑制をただちに軽減解除させることができる 1)~3.しかし,フルマゼニルは肝臓で速やかに代謝されるため効果持続時間が短く,再鎮静に留意する必要がある.

ただ,ミダゾラム鎮静下で上部内視鏡検査を受けた50症例で,検査後と30分後にフルマゼニルあるいはプラセボを投与したところ,フルマゼニルを投与された症例では,投与5分後には記憶力,精神運動機能,調節機能が著しく改善したものの,3.5時間後の再評価では両群間に差を認めなかったとの報告 4や,上部内視鏡検査終了10分後にフルマゼニルあるいはプラセボを投与したところ,フルマゼニル投与群では有意にリカバリールーム滞在時間は短かったが,それ以外(痛み・視覚アナログスケールによる満足度・処置の記憶・精神状態・当日および翌日の不快な症状)に関しては有意差を認めなかったとの報告もあり 5,フルマゼニルは呼吸抑制よりもベンゾジアゼピンによる鎮静および健忘に対してより強い拮抗作用を示し 6,フルマゼニルの投与は検査後の患者観察時間の大幅な短縮に有用との報告もある 7.さらにフルマゼニル投与のタイミングに関しては,内視鏡直後と15分後の投与の2群間で比較検討したところ,15分後投与群が患者の満足度が高いとの報告があり 8,フルマゼニルの投与は呼吸抑制の速やかな解除のみならず,鎮静や健忘に対する速やかな回復にも有用であることが示唆される.

フルマゼニル使用上の問題は,フルマゼニルの持続時間がミダゾラムの作用時間より短いことにより再鎮静が生じる可能性があること 1)~3,フルマゼニルの投与により痙攣発作や不安発作(抗不安薬の服用者)が誘発される症例があること 3などであり,注意を要する.

塩酸ナロキソンはオピオイド受容体拮抗薬であり,肝臓において代謝され,ナロキソン-3-グルクロニドになり,オピオイド受容体拮抗作用を発揮することにより,鎮静,呼吸抑制,胃排出能遅延,乳頭括約筋収縮,鎮痛などの作用を減弱消失させる 9.塩酸ナロキソン使用上の問題は,オピオイド依存性の患者では急性離脱症候群を惹起し,高血圧,頻脈,心室細動,肺水腫,過呼吸,吐き気,嘔吐および痙攣などを生じることもあり,塩酸ナロキソン自体により呼吸抑制と鎮静が起こりうる 9.塩酸ナロキソンの持つ有害作用は潜在的に生命に危険を及ぼすことから,安易な使用は推奨されない.

今回の文献抽出については,databaseはPubMed,Cochrane Libraryおよび医中誌Webを用いた.(endoscopy or Digestive system)and(sedation or analgesia)and (Antagonist or reversal agent or flumazenil or naloxone) and(usefulness or utility or availability)のキーワードを用いて検索をかけた結果132編の論文がヒットし,うちメタアナリシス/システマティックレビュー/診療ガイドライン9編,臨床試験59編,その他の臨床研究/疫学研究52編,比較対照試験12編であった.スクリーニングの後,ハンドサーチにてRCTなど3編を加えたうえで,RCT 7編,メタアナリシス1編など,計9編の関連文献を引用した.

 

 

文 献
 
© 2020 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top