日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
O-リングバンド結紮による内視鏡的創面縫縮法(Endoscopic Ligation with O-ring Closure:E-LOC)のコツ
西山 典子 小原 英幹
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2021 年 63 巻 10 号 p. 2222-2230

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要旨

高度内視鏡治療手技の発展や抗血栓薬服用者の増加に伴い,穿孔や後出血等の偶発症対策がさらに求められる.内視鏡的創閉鎖の目的として主に医原性穿孔,切除後偶発症予防が挙げられる.現在,創面のクリップ縫縮法やシート被覆法等の方策が多角的に模索されている.外科領域においては‘傷を閉じる’が基本であることからも,人工創面の内視鏡的縫縮が理想的である.しかしながら,大きな創面の確実な閉鎖において1本の鉗子チャンネルを介したワンアームでの手技的限界や費用対効果のあるデバイスなどの課題が挙げられる.さらに,厚みのある胃壁は,創閉鎖が難しく粘膜縫縮後の粘膜下ポケット形成のため縫縮効果が十分とは言えない.本編では,single channel scopeによるO-リングとリング糸を用いた新たな内視鏡的創面縫縮法の手順やコツを解説する.

Ⅰ 緒  言

内視鏡治療手技は画期的な進歩を遂げる 1一方で,より高いクオリティーの偶発症マネージメントが求められている 2.医原性穿孔や術後偶発症の方策として内視鏡的創閉鎖が試みられる.臨床的には,主に医原性穿孔や十二指腸遅発穿孔予防の目的で工夫を加えた多様な止血用クリップ縫縮法が考案されている 3.各クリップ縫縮法として,留置スネアを用いた巾着縫合 4),5,Hold-and-drag閉鎖法 6,糸付きクリップ縫縮法 7,Line-assisted法 8,Mucosal incision法 9などの有用性が報告されている.さらに,欧州では医原性の消化管穿孔に対する治療指針がEuropean Society of Gastrointestinal Endoscopy から提唱されている 10.発症12時間以内,腹膜炎(-),10mm以上の穿孔例は,Over-The-Scope Clip(OTSC)システム(Ovesco Endoscopy GmbH, Tüebingen, Germany)の適応 10とされ,機械的クリップの有用性 11も示されている.その一方で,two channel scopeの制限使用,両端を把持したクリップが縫縮時に横倒れになること,コストベネフィット,大きな創面縫縮に必要な技術的ハードルなどの課題が挙げられ,縫縮が一筋縄でいかないことも多い.特に,胃ESD後潰瘍は,面積が大きく,厚みのある胃壁という解剖学的特性から縫縮の難易度が高い.粘膜縫縮後の粘膜下ポケット形成もその要因の一つである.従って,後出血予防を目的とした胃ESD後潰瘍縫縮の有用性が報告されているものの,クリップ単独での完全縫縮成功率は62%と十分ではない 12.費用対効果の側面から,胃ESD後出血リスクが高いとされる抗血栓薬服用例や人工腎透析例 13が,予防的創面縫縮の対象と推測される.

そこで,本稿では,これまでの課題を踏まえ考案したO-リングバンドとリング作成糸を用いた内視鏡的創面縫縮法(Endoscopic Ligation with O-ring Closure: E-LOC) 14の手順や手技上の細かなコツを解説する.さらに,本法の予防的縫縮に加え,医原性穿孔の有効例を例示する.

Ⅱ 準備すべきもの(Figure 1-a
Figure 1 

E-LOC準備事項.

a:準備備品.

EVLデバイス,2cmリング状糸,EZクリップ,鰐口鉗子,ループカッター.

b:EZクリップ内へのリング糸の装填方法.

EZクリップを半開きにし,2cmリング糸の結び目が収納される形で装填する.

① 内視鏡スコープ機種:鉗子チャンネル径3.2 mm以上を有するスコープ.

② ニューモ・アクティベイト EVLデバイス(カフ無しタイプ)(MD-48720U;Sumius, Tokyo, Japan).

③ 2-0ナイロン外科糸,20mlシリンジ(テルモ):糸をシリンジに巻き付けて2cmのリング状糸を作成(2-5個).

④ EZクリップ(HX-610-090;Olympus, Tokyo, Japan).

⑤ EZクリップを半開きにし,リング糸の結び目が収納される形で装填しておく(Figure 1-b). *結び目が露出していると内視鏡鉗子口内のクリップ通過に抵抗が生じる.

⑥ 把持鉗子:リング糸把持目的.鰐口鉗子,止血鉗子で可.

⑦ ループカッター(FS-5L-1;Olympus).

Ⅲ E-LOC手技手順(Figure 2
Figure 2 

E-LOC手技手順のシェーマ.

a:創面両端への2cmリング糸のクリップ2点固定.

b:把持鉗子によるリング糸の結び目把持.

c:固定クリップをEVLフード内に収納.

d:フード内に収納されたクリップの基部へO-リングバンド結紮.

e:創面中央部での筋層含む3点固定縫縮.

f:創面間隙にクリップを追加し完全縫縮.

① デリバリー:鉗子チャンネル内に挿入したリング糸装填EZクリップを創部へデリバリーする.

② リング糸のクリップ固定:近位側の創面両端に2cmリング糸をEZクリップにて2点固定(Figure 2-a).*糸固定の際,結び目が内視鏡側に位置するように固定.

③ EVL装着:内視鏡スコープを一度,抜去し,EVLデバイスをスコープ先端に装着.

④ 糸結び目把持:スコープを再挿入し,把持鉗子にてその固定リング糸の結び目を把持(Figure 2-b).

⑤ 創面短縮:把持したリング糸を鉗子口内にゆっくり引き込んでいくと,固定クリップ間の糸の距離が縮まり両端固定クリップが近接化することで創面が短縮する.

⑥ 固定クリップのフード内トラップ:すべての固定クリップをEVLフード内に収納させる(Figure 2-c).*糸を牽引しながらフード内に固定クリップを迎え入れるイメージでスコープを創面へ近づけていくことがコツである.この操作によりクリップが横倒れしないことのメリットが得られる.

⑦ 固定クリップのO-リングバンド結紮:フード内に収納されたクリップの基部へO-リングリリースによる創面の部分縫縮(Figure 2-d).

⑧ ループカッターによる余剰のリング糸を切断.

⑨ 順次,遠位側へ手順を繰り返す.

* O-リングバンド結紮個数=創面最大径(cm)を目安に,3cm創面径には3個結紮,4cm創面径には4個結紮とするとよい.

⑩ 中央部での筋層含む3点固定縫縮:創面中央部では,創面両端のみならず中央の筋層把持クリップ追加による3点固定を行い(Figure 2-e),④-⑧の手順を繰り返し,筋層を含めた創面縫縮(粘膜下ポケット形成の回避).

⑪ クリップ間隙の創面には,クリップを補填し完全創面縫縮を完了する(Figure 2-f).

Ⅳ 胃ESD後潰瘍縫縮の臨床成績

抗血栓薬服用後出血ハイリスク35症例の早期胃癌ESD後潰瘍に対し,E-LOC予防縫縮を施行した臨床成績を示す(Table 1).施行医は,卒後6年以上で手技動画によるレクチャーを受け,E-LOCの特別な手技トレーニングを受けていないESD術者が施行した.腫瘍長径中央値(範囲);15(2-44)mm,切除長径中央値(範囲)27(10-65)mm,局在部位は穹窿部1例,体上部2例,体中部7例,体下部7例,胃角部9例,前庭部9例.周在部位は,前壁7例,後壁5例,小彎12例,大彎11例.後出血率は,0%であった.完全縫縮率94%(33/35)であった.術翌日の縫縮維持率は,94%(内視鏡評価しえた33例中31例)で縫縮が維持されていた.7-10日後の縫縮維持率は,38%(内視鏡評価しえた29例中11例)であった.その部位別の縫縮維持率は,前壁28%(2/7),後壁0%(0/5),小彎16%(2/12),大彎64%(7/11)の結果で,大彎部で縫縮維持効果が高い傾向にあった.総縫縮時間中央値(範囲);33(10-60)分,E-LOC手技関連偶発症は認めなかった.

Table 1 

抗血栓薬服用胃ESD後潰瘍底に対しE-LOC施行35例の臨床成績.

胃ESD後潰瘍に対するE-LOC施行2例を例示する.

症例1:(Figure 3

Figure 3 

胃角部小彎の30mmESD後潰瘍に対するE-LOC.

a:近位側の潰瘍両端へリング糸のクリップ2点固定.

b:2個の固定クリップをEVLフード内にトラップ収納.

c:クリップの基部へO-リングバンド結紮.

d:創面中央部の筋層クリッピング(青矢印)による3点固定.

e:3個の固定クリップをEVLフード内に収納後,O-リング結紮.

f:リング結紮縫縮3カ所と間隙への追加クリップ併用で完全縫縮.

胃角部小彎20mm大,0-Ⅱc癌のESD後,30 mm潰瘍底に対しE-LOC施行(Figure 3-a~e).O-リング結紮縫縮3カ所と間隙への追加クリップ併用で完全縫縮(Figure 3-f).縫縮時間は34分.術翌日に創面離開はみられず,術後偶発症も認めなかった.

症例2:(Figure 4

Figure 4 

胃体上部大彎の40mmESD後潰瘍に対するE-LOC.

a:術当日でのESD後潰瘍の完全縫縮.

b:術翌日での完全縫縮維持.

c:術7日後での完全縫縮維持.

胃体上部大彎25mm大,0-Ⅱb癌のESD施行後40mm潰瘍底に対しE-LOC施行.O-リング結紮縫縮4カ所と,追加クリップ併用で完全縫縮(Figure 4-a).縫縮時間は20分.術翌日(Figure 4-b)及び7日後(Figure 4-c)で縫縮は維持され,術後偶発症も生じなかった.

Ⅴ E-LOC応用編

a.十二指腸ESD後潰瘍縫縮

胆汁,膵液暴露による偶発症予防策として欠かせない十二指腸ESD後潰瘍底縫縮 15には,耐久性のある縫縮強度 16が求められる.大きな創面縫縮にTwinGrasper補助鉗子(Ovesco Endoscopy GmbH)を用いたOTSCが有用 17),18とされるものの,この鉗子の扱いは,習熟度,管腔径や創面径に制限を受けやすい.E-LOC手技にて創面を仮締め短縮後,OTSC補強を行う2ステップ法によるE-LOC併用OTSC縫縮法を紹介する.

症例:(Figure 5

Figure 5 

十二指腸ESD後潰瘍に対するE-LOC併用OTSC.

a:十二指腸下行脚乳頭側の30mm大ESD後潰瘍.

b:E-LOCによる創面中央の部分縫縮.

c:スリット状に短縮した創面に対する容易なクリップ完全縫縮.

d:中央固定O-リング結紮クリップ上にOTSCを1個配置した補強縫縮.

十二指腸下行脚Vater乳頭から3cmやや肛門側に局在する20mm 0-Ⅱa腫瘍のESD完遂後,30mm潰瘍底(Figure 5-a)に対しE-LOC併用OTSC施行.

1.E-LOCによる創面中央の部分縫縮(Figure 5-b).2.スリット状になった創面のクリップ縫縮が容易となり,クリップ追加にて創面完全縫縮(Figure 5-c).3.クリップ脱落・早期離開予防,縫縮補強目的に中央固定したO-リング結紮クリップを包み込むように簡易な吸引法にてOTSCを1個配置し終了した(Figure 5-d).縫縮手技時間は35分であった.術3日及び7日後に縫縮維持が確認された.関連偶発症及び術後偶発症はみられなかった.

b.胃ESD術中穿孔

10mm未満の小さな穿孔径は,クリップ縫縮可能な場合が多い.一方,10mm以上の場合,腸管虚脱による術視野不良または,穿孔部辺縁が腹腔側に外反し逸脱するためクリップ縫縮が困難な場面にしばしば遭遇する.また,穿孔リスクの高い高度線維化を伴った下層剝離中に穿孔が発生した場合,穿孔部辺縁組織硬化が要因でクリップが弾かれ縫縮が困難なことも多い.穿孔部両端の漿膜-筋層(全層)をクリップ2点固定することによるE-LOC手技で,縫縮成功した症例を提示する.

症例:(Figure 6

Figure 6 

胃ESD術中穿孔に対するE-LOC.

a:胃角部小彎50mm,瘢痕合併0-Ⅱb癌.

b:高度線維化による10mm大の術中穿孔2カ所(黄・赤矢印).

c:穿孔部両端の全層に2cmリング糸をクリップ2点固定しE-LOC.

d:穿孔部2カ所の完全縫縮成功(黄・赤矢印).

e:術翌日,創面離開を認めず保存的治癒.

胃角部小彎50mm,瘢痕合併0-Ⅱb癌(Figure 6-a)に対しESD施行中,高度線維化による10mm大の穿孔を2カ所生じた(Figure 6-b).穿孔周囲組織は硬く,通常クリップ縫縮を試みるも不成功に終わった.穿孔部両端の漿膜-筋層に2cmリング糸をクリップ2点固定し,E-LOCによる全層縫縮を行った(Figure 6-c).穿孔部2カ所のE-LOC縫縮が成功し(Figure 6-d),その後の剝離を続行しESDを完遂した.術翌日の内視鏡にて創面離開を認めず(Figure 6-e),緊急外科手術を回避しえた.

Ⅵ 手技上の注意点

① 縫縮の順序は,可能な限り近位側→遠位側が望ましい.遠位側から施行した際,先に縫縮固定したクリップが近位側に横たわり,次のE-LOC手技の妨げになる場合がある.

② 把持鉗子にて固定リング糸の結び目を必ず把持する.E-LOCは,固定クリップ間でリング糸が可動し,創面が短縮する機構であるため,結び目の上にクリップ固定しないように注意が必要である.

③ O-リングバンド結紮に適したクリップは,短径が太いEZクリップ,シュアクリップ(エム・シー・メディカル)を2個以上3個以下の使用が適している.

*掴み直し可能なシュアクリップは,EZクリップに比し,ややコストがかかるもののリング糸の固定が容易となるため,スコープの取り回し不良部位,重力の逆部位や穿孔例において有効なことが多い.

Ⅶ E-LOCの長所と短所

長所として,①Single channel scope使用可.②筋層クリップ固定による粘膜下ポケットを形成しない.③EVLフード内に固定クリップを収納するため縫縮時にクリップが横たわらない.④特別な手技トレーニングを要しない簡便な手技.⑤身近にある安価な機材利用.

短所は,①O-リングが単回使用であるため内視鏡スコープの再挿入を要すること.②EVLフードが不透明なため内視鏡視野が,やや狭いことが挙げられる.

Ⅷ おわりに

ESD後潰瘍から医原性穿孔まで応用可能な新たな内視鏡的創面縫縮法としてE-LOC手技を解説した.内視鏡治療手技をより発展させるとともに,偶発症管理にも重点が置かれる昨今において創閉鎖は,メインテーマの一つである.E-LOCは,多くの施設で採用している汎用デバイスにて実施可能であり,技術的難易度も高くない手技である.本法がより安心感のある内視鏡診療の一助になればと願う.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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