胃十二指腸潰瘍は古くから出血や疼痛などの症状とともに難治性病変の恐ろしさが知られてきた.しかし潰瘍治療の歴史は,H2受容体拮抗薬の開発と潰瘍の主原因であったヘリコバクター・ピロリ菌の発見によって大きく変化し,従来難治性で外科的手術の適応とされたものも内科的治療で治癒せしめることが可能となった.また潰瘍の診断と治療のいずれにおいても内視鏡の存在を欠かすことはできず,現在特に潰瘍出血の治療の中心は多彩な内視鏡的止血術にあるといえる.完全に克服されたと思われた胃十二指腸潰瘍であるが,本邦の超高齢社会において,併存疾患の存在や抗血栓薬ならびに非ステロイド性抗炎症薬内服患者の増加によって,患者背景が少しずつ変化していることに注意しなければならない.出血症例では今日においても内視鏡止血困難で血管内治療(IVR:Interventional Radiology)や手術への移行症例は存在し,ハイリスクな高齢症例では慎重な対応が求められる.本稿では主にこの四半世紀における胃十二指腸潰瘍治療の歴史を振り返るとともに,患者背景の変化と注意点についても概説する.
共焦点レーザー内視鏡(Confocal laser endomicroscopy;CLE)は,消化管領域では既に有用性が確立されている拡大内視鏡の一つであるが,確定診断が困難な胆管狭窄や膵嚢胞性腫瘍に対しても有用性が報告されてきた.胆道・膵臓疾患においては,内視鏡的逆行性膵胆管造影(Endoscopic retrograde cholangiopancreatography;ERCP)ガイド下,超音波内視鏡(Endoscopic ultrasonography;EUS)ガイド下に,細径プローブをカテーテルあるいは穿刺針内を通して病変にアクセスすることで画像診断を行う.胆管狭窄の良悪性の鑑別,膵嚢胞性腫瘍の膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal mucinous papillary neoplasm;IPMN)や膵漿液性嚢胞腫瘍(Serous cystic neoplasm;SCN)などの特徴的な画像所見がこれまでに報告されており,臨床研究においても高い診断能が示されてきた.また最近になり膵嚢胞性腫瘍異型度の診断も可能であるという報告も出てきており,治療方針に直結する診断が可能となる可能性がある.また最近では胆道狭窄に対しては経口胆道鏡(Peroral cholangioscopy;POCS),膵嚢胞性腫瘍に対しては超音波内視鏡下経穿刺針的鉗子生検(EUS-guided through-the-needle biopsy;EUS-TTNB)などの有用性も報告されており,今後はこのような他のモダリティとCLEの比較あるいは組み合わせなどの検討も待たれる.コスト・保険適応などの問題はあるが,今後胆膵疾患における大規模臨床試験により本邦におけるCLEの位置づけが確立されることを期待したい.
症例は34歳男性.前庭部にびらん様の陥凹を伴う10mm大の隆起性病変を指摘されたが質的診断は困難であった.制酸薬投与後に再評価を行ったところ,narrow band imaging併用拡大観察で明瞭な腫瘍境界内に,不整な微小血管構築像と表面微細構造が確認された.部分的にlight blue crestおよび不整なwhite opaque substanceを認め,腸型分化型癌と診断し内視鏡的粘膜下層剝離術を行った.背景粘膜の内視鏡および組織所見に萎縮・腸上皮化生を認めず,血清H. pylori抗体,便中抗原も陰性であった.最終病理診断は,H. pylori未感染粘膜に発生した腸型分化型胃癌(粘膜内癌)であった.
症例は66歳男性.全大腸炎型の潰瘍性大腸炎と診断され,確定診断より9カ月後に大腸全摘術+回腸人工肛門造設術を施行された.術後2日目に人工肛門からの出血を認め,十二指腸と回腸の広範囲に自然出血を伴う潰瘍性大腸炎類似の粗ぞう粘膜を認めた.内科治療に反応せず出血性ショックにより永眠された.病理解剖にて小腸全域にびらん,潰瘍の多発と,病理組織では潰瘍性大腸炎類似の粘膜所見を認めた.腸管感染症やクローン病,腸管虚血を示唆する所見を認めなかった.大腸全摘術後に小腸出血をきたした際には大量出血に移行し致死的な経過をたどる可能性があるため,速やかな内視鏡検査と検査結果に応じた迅速な治療を行うべきと考えられた.
症例は70歳,女性.カツオを生食した2日後に水様便を認め,腹痛と嘔吐が出現したため救急搬送された.腹部造影CTにて遠位回腸は上行結腸に陥入しており,腸重積症と診断した.内視鏡的整復目的に緊急下部消化管内視鏡を施行したところ,回腸粘膜に穿入しているアニサキス幼虫を認め,生検鉗子を用いて摘出した.その後症状は速やかに改善した.回腸アニサキス症による腸重積症は極めてまれで,内視鏡的治療にて外科的加療を回避し得た報告は自験例のみである.問診から小腸アニサキス症による腸重積症が疑われる場合には,内視鏡的整復と虫体摘出による保存的加療を考慮すべきである.
大腸ステントは大腸悪性狭窄に対する手術前の腸管減圧や緩和治療目的に使用される.主な偶発症に穿孔,逸脱がある.症例は78歳,男性.腹部膨満感,腹痛を主訴に来院し,S状結腸癌による大腸閉塞と診断した.緩和目的の大腸ステント留置を希望されたが,留置時に腫瘍口側へ逸脱をきたした.直ちに2本目のステントを適切な位置に留置し,後日内視鏡的に回収を試みる方針とした.逸脱ステントを安全に回収するため,腫瘍部のステントにバルーン拡張を併用し,スライディングチューブを挿入し,スネアで逸脱ステントを把持し,チューブ内に収納し回収した.スライディングチューブを用いた内視鏡的な逸脱ステント回収は安全かつ有用な方法と考える.
高度内視鏡治療手技の発展や抗血栓薬服用者の増加に伴い,穿孔や後出血等の偶発症対策がさらに求められる.内視鏡的創閉鎖の目的として主に医原性穿孔,切除後偶発症予防が挙げられる.現在,創面のクリップ縫縮法やシート被覆法等の方策が多角的に模索されている.外科領域においては‘傷を閉じる’が基本であることからも,人工創面の内視鏡的縫縮が理想的である.しかしながら,大きな創面の確実な閉鎖において1本の鉗子チャンネルを介したワンアームでの手技的限界や費用対効果のあるデバイスなどの課題が挙げられる.さらに,厚みのある胃壁は,創閉鎖が難しく粘膜縫縮後の粘膜下ポケット形成のため縫縮効果が十分とは言えない.本編では,single channel scopeによるO-リングとリング糸を用いた新たな内視鏡的創面縫縮法の手順やコツを解説する.
EUSは,当初はメカニカルラジアル走査方式であったが,電子走査方式へと移行し,カラー/パワードブラ断層法など,経腹壁式超音波で使用されている技術がEUSにも応用されEUS下に血流情報の評価が可能になった.さらに,2007年1月に発売された第二世代超音波造影剤SonazoidⓇ(GE Healthcare Pharma)の登場は,低音圧にて二次性高調波信号を発生する性質より,造影ハーモニックイメージング法による長時間の観察を可能とし,微細な血流情報の評価も可能にした.通常のBモード観察に加え,EUS下にSonazoidⓇによる造影を行い,造影イメージングを評価することで,胆膵疾患に対するEUS診断能が向上すると考える.
本稿では,造影EUSの方法の実際および主な胆膵疾患の造影EUS所見を解説する.なお,胆膵疾患に対するSonazoidⓇの使用は,保険適用外に相当するため,施設のIRBの承認のもと,十分なインフォームド・コンセントを取得し施行する必要がある.今後,胆膵疾患にもSonazoidⓇの保険適応が認められれば,造影EUSは胆膵領域の精密診断法としてさらに発展していくものと考えられる.
【目的】ピルカムパテンシーカプセル(PillCamTM patency capsule:PPC)は,消化管の開通性を評価するために使用される検査である.本研究の目的は小腸カプセル内視鏡(small bowel capsule endoscopy:SBCE)滞留を防ぐためのPPCの適正使用を検討することであった.
【方法】この前向き多施設共同研究では,小腸狭窄が疑われる,または既知の小腸狭窄を有するSBCEの適応となる患者を継続的に登録した.PPCの原形排出または大腸における存在は,消化管開通性ありとみなされた.本研究の主要評価項目と副次評価項目は消化管開通性が確認された後のSBCE滞留率と,開通性,SBCE滞留に影響する因子の検討であった.
【結果】研究に登録された1,096人の患者のうち,開通性は976名(89.1%)で確認された.PPC原形排出は579名の患者で認めた.残りの517名のうち,401名は画像診断法を使用して開通性が確認された(77.5%).SBCEの滞留は,SBCEを受けた963名の患者のうち5名(0.51%)で認め,既知のクローン病(Crohnʼs disease:CD)患者1.0%,CD疑い例0%,腫瘍0%,および原因不明の消化管出血1.6%であった.これらはPPCの局在を画像診断で誤って解釈されていた.消化管開通性なしは,既知のCD,画像上狭窄,腹部膨満,血清アルブミンレベル<4.0g/dL,および以前の小腸閉塞(調整オッズ比:4.21,2.60,2.47,2.12,および2.00)に関連した(95%信頼区間:それぞれ2.62-6.78,1.62-4.17,1.43-4.27,1.32-3.40,および1.15-3.47).
【結論】PPCは,ほとんどの患者でSBCEの滞留を防ぐために有用であったが,PPC未排出症例では,その正確な位置特定が不可欠であった(StudyはUniversity Hospital Medical Information Network,#UMIN000010513に登録されていた).
日本消化器内視鏡学会は,ガイドライン委員会の下部組織としてワーキング委員会を設立し,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術ガイドライン」を「小腸内視鏡診療ガイドライン」の追補として作成した.バルーン小腸内視鏡の登場により深部小腸での内視鏡治療が可能となり,外科的手術に代わる低侵襲治療として,クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術が近年普及しつつある.本ガイドラインでは,その標準的な方法について,バルーン内視鏡の挿入経路とそれに応じた腸管前処置,適応判断,偶発症,有効性,目標拡張径,拡張時間,狭窄多発例に対する対応,併用療法や代替治療の現状と,今後に残された課題をまとめた.
【背景】内視鏡スリーブ胃形成術(Endoscopic Sleeve Gastroplasty:ESG)は肥満治療の有効な選択肢であるが,長期的な有効性と安全性は知られていない.
【方法】単施設(New York-Presbyterian Hospital,USA)で2013年8月から2019年8月までESGを受けたBMI>30kg/m2(併存疾患がある場合>27)の患者216人(68%女性,平均年齢46±13歳,平均BMI 39±6kg/m2)を前向き登録し,最大5年間追跡した.
【結果】216人のうち203人,96人,68人が1年,3年,5年のフォローアップの対象となり,1年,3年,5年の完全なフォローアップ率はそれぞれ70%,71%,82%であった.5年後の総体重減少率(TBWL,%)は15.9%(95%CI,11.7-20.5,p<.001)であり,患者の90%と61%がそれぞれ5%と10%のTBWLを維持していた.重度または致命的有害事象はなく,全体で1.3%の中程度有害事象(2例にESG直後ドレナージ・抗生剤治療を要する胃周囲炎症,1例に1.5年後発症腹痛;縫合糸切除で改善)が発生した.
【結論】ESGは安全で効果的な肥満治療であり,処置後少なくとも5年間は長期的な結果が持続することが示唆された.ESGは肥満治療の信頼できるオプションとして考慮されるべきである.