日本消化器内視鏡学会雑誌
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新型コロナウイルス感染症パンデミック状況下における大腸癌スクリーニングプログラム遅延による診断時癌進行度と生命予後への影響
中村 正直
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2021 年 63 巻 12 号 p. 2525

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【背景と目的】新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは医療全体にも重大な影響を及ぼしている.イタリアにおいては,パンデミックが起こって以来,大腸癌スクリーニングプログラムの運用が延期を余儀なくされている.本研究の目的は,スクリーニング自体が遅れることによって大腸癌スクリーニングプログラムのアウトカムにどのような影響があるか評価をすることであった.

【方法】筆者らは大腸癌診断の遅れに関するメタ解析モデルを作成した.イタリアにおける大腸癌統計をベースに,大腸癌診断の遅れ,大腸内視鏡までの期間など既報を収集したうえでモデルに当てはめて時間経過による大腸癌の進行に伴った生命予後への影響を評価した.

【結果】集積されたスクリーニングプログラムの既報によって発見された大腸癌患者の5年生存率は,ステージⅠ,Ⅱ,ステージⅢ,Ⅳで各々0.85(0.81-0.88),0.39(0.33-0.44)であった.プログラムの0-3カ月の遅れであればステージⅠ,Ⅱ,ステージⅢ,Ⅳの大腸癌は各々74%,26%であるが,7-12カ月,12カ月以上ではステージⅢ,Ⅳが各々29%,33%とその割合が有意に増えた.12カ月以上遅れた際には全大腸癌死亡が有意に増え(12%,P=0.005),生存曲線が有意に変化した.

【結論】4-6カ月のプログラムの遅延は進行癌の増加リスクを認め,12カ月以上の遅延は生命予後に影響を与えるかもしれない.本研究では新型コロナウイルス感染症や他のパンデミック状況下における大腸癌のような重要な疾患の診断過程を含めたマネッジメントの強化の必要性を提言した.

《解説》

大腸癌スクリーニングプログラムの生命予後改善効果が,その一時休止によって大きな影響を及ぼすことが示された.3カ月程度であれば影響は少ないが,6カ月,12カ月の遅延によりその影響が段階的に大きくなった.本解析を国内の検診事業にそのまま当てはめることはできないが,長期に延期されることがあれば癌の進行のみならず生命予後にも影響することが予測され得る.新型コロナウイルスは唾液や便中にも含まれることが示されており 2,上部消化管内視鏡検査のみならず便潜血陽性時の大腸内視鏡の際にも十分な感染防護が求められるが,陰圧室の確保や備品コストなど解決すべき課題もまだまだ多い.感染回避と大腸癌検診遂行のバランスも検討が必要そうである.本研究の結果から,少なくとも1年以上検診事業が休止することは避けるべきではないかと考える.一方,そのようなパンデミックに備え,検診便潜血陽性者による二次受診率の向上を目指すことも今後検討されるべきであり,精密な人工知能の導入と普及,優れた画像強調観察による大腸ポリープの検出率向上が期待される.

文 献
 
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