日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
大腸内視鏡検査後のサーベイランス間隔
堀田 欣一 松田 尚久斎藤 豊
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2021 年 63 巻 2 号 p. 165-171

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要旨

大腸内視鏡検査実施後のサーベイランスの大きな目的の1つは,検査実施後の大腸癌の罹患と死亡を抑制することである.大腸癌の罹患・死亡抑制効果とサーベイランスの負荷・コスト,検査のキャパシティーなどのバランスを加味して最適なサーベイランス・プログラムを構築することが求められる.日本においては従来,臨床現場において欧米よりも頻回なサーベイランスがなされてきたが,新たに発刊された「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」において初めてリスク層別化に基づくサーベイランス・プログラムが提唱された.今後,臨床の現場で広く普及することが期待される.

Ⅰ 大腸内視鏡検査後のサーベイランスの基本概念

大腸内視鏡検査実施後のサーベイランスの大きな目的の1つとして,検査実施後の大腸癌の罹患と死亡を抑制することが挙げられる.そのために,浸潤性大腸癌および前駆病変である進行腺腫(advanced adenoma)をサロゲートマーカーとした様々な研究のエビデンスから,大腸癌の罹患・死亡抑制とサーベイランスの負荷・コストなどのバランスを加味して最適なサーベイランス・プログラムを構築することが求められる(Figure 1).以前は腺癌ならびに腺腫を指標として,リスクの層別化が試みられていたが,近年,Sessile serrated lesionなどの癌化リスクを伴う鋸歯状病変も考慮したプログラムが作成されるようになった 1.当然,ポリープを切除するか否かにより,その後の大腸癌発生のリスクは変わる可能性があり,特に微小ポリープの取扱いが議論となる 2.欧米では,現行のガイドラインはすべて腫瘍性病変の全切除(クリーンコロン)を前提に作成されている 1),3),4.日本においては専門家の間で,微小腺腫の取扱いについてコンセンサスが得られていない状況が続いており,サーベイランスについても一定の方針が示されてこなかった.しかしながら,本学会により「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン(斎藤豊作成委員長)」が作成され,本年8月に発刊された 5.この新しいガイドラインにおいては,微小腺腫の全切除を前提として,初回の切除病変をリスク別にカテゴリー化を行い,その後の推奨サーベイランス間隔を提示した.なお,大腸内視鏡検査にて腫瘍性病変を認めない場合,大腸癌のリスクは低くサーベイランス対象には該当しないため,本稿では言及しない.

Figure 1 

サーベイランス・プログラムに必要な要素.

Ⅱ サーベイランス・ガイドラインを適用するための前提条件

サーベイランス・ガイドラインを適用するためには初回の大腸内視鏡検査の質が担保されていることが必要条件となる.大腸内視鏡検査後に発見された大腸癌(post-colonoscopy colorectal cancer:PCCRC)の原因として見逃し病変,不完全な検査および不適切なサーベイランス間隔,新規病変,内視鏡治療後の遺残再発などが報告されている 6.不完全な検査のなかには腸管洗浄不良および盲腸未到達が含まれる.また,病変回収のためにネットなどを用いた状態で抜去したために観察が不十分になる場合もある.

腸管洗浄不良のリスク因子として大腸憩室,高併存疾患(チャールソン)指数,高齢,女性,腹部骨盤手術歴などが報告されている 7),8.腸管洗浄不良症例では挿入困難や盲腸未到達症例が増加するだけでなく,10mm以上の腫瘍性病変の見逃しも増加する.前処置不良症例を把握し,適切に対処するためには,内視鏡レポートに腸管洗浄度をValidationされたスケールを用いて記載することである.最も客観性が高く臨床試験でも頻用されるスケールにBoston bowel preparation scale 9があるが,大腸を3つのセグメントに分けて評価するためにやや煩雑である.Aronchick global assessment scale 10は全大腸の洗浄度を5段階に分類する簡便な方法で日常的に評価することも容易である.腸管洗浄不良症例では短期間のうちに腸管洗浄法を見直して再検査を行うことが望ましい.

腸管洗浄度が良好にも関わらず,病変が見逃される要因としては,術者の観察技量が不十分,短い抜去時間などの要因が報告されている.現在,最もエビデンスが確立された質の指標(Quality indicator)は腺腫検出割合(ADR:adenoma detection rate)である.ADRとは大腸内視鏡検査にて1つ以上の腺腫を発見した症例の割合である.米国では50歳以上の平均リスク患者を対象とした際のADRの到達目標を25%以上(男性30%以上,女性20%以上)に設定している 11.ADRとInterval cancerの相関についてADRが20%未満の内視鏡医は20%以上の医師と比較し,Interval cancer発生のリスクが10倍以上となることが報告された 12.一方,内視鏡医毎のADRは7.4~52.5%と大きな格差があり,ADRが1%向上するとInterval cancer発生リスクが3%,致死的Interval cancerの発生リスクが5%減少する 13.また,6分以上の抜去時間を確保することにより,ADRが有意に向上することが報告されている 14.ADRは内視鏡経験とは相関しないことが知られており,ADRが常時低い検査医は,観察技術を改善することが求められる.施設としては,各検査医のADRを把握し,ADRが到達目標に達していない術者の技量改善を図る体制が求められる.日本消化器内視鏡学会が推進しているJED(Japan Endoscopy Database)の活用が期待される 15

Ⅲ サーベイランスの意義と腺腫性病変の全切除(クリーンコロン)の必要性

米国では大腸ポリープ切除後の検査間隔決定を目的としたNational Polyp Study(NPS)の結果が1993年に公表された.大腸ポリペクトミーおよび大腸癌の既往のない全大腸内視鏡施行患者のうち1つ以上の腺腫を有し,すべてのポリープを完全に切除された患者を対象とし,同意の得られた1,418名が,1年後および3年後の2回検査群と3年後の1回検査群に無作為割付された.Advanced neoplasia(AN)(腫瘍径>10mm,高度異型腺腫,癌)の発見率は2回検査群で3.3%,1回検査群で3.3%と相対危険度(Relative risk:1.0,95%C.I.:0.5-2.2)は2群間で同等であった 16.その後の長期コホート試験の結果,SEER(The Surveillance, Epidemiology, and End Results)データベースとの比較から大腸ポリープ切除により76~90%の大腸癌累積罹患率の減少が示された 17.さらに,2012年に15.8年の長期の経過観察から,SEERデータベースとの比較で,大腸癌死亡率が53%減少した 18.本研究から大腸ポリープ全切除後のサーベイランス間隔は3年が基本であり,それにより長期的に大腸癌の罹患と死亡が抑制されることが示された.一方,米国医療従事者データベースの大規模長期コホート研究の結果,大腸腫瘍内視鏡切除後に全大腸内視鏡の大腸癌罹患抑制効果は56%(右側27%,左側76%),大腸癌死亡抑制効果は68%(右側53%,左側82%)であった 19

また,サーベイランスの有用性を証明した臨床試験も複数ある.英国でスクリーニングS状結腸鏡にて大腸腺腫を切除後,サーベイランスを実施しなかった場合の直腸癌,結腸癌の標準化罹患比(Standardized incidence ration:SIR)(95%CI)はANを含む高リスク群ではそれぞれ2.0(1.0-3.6),3.6(2.4-5.0)であり,低リスク群の0.4(0.0-1.3),0.5(0.1-1.3)より有意に高率であった 20.一方,フランスで実施されたPopulation-based cohort studyの結果,AN切除後,サーベイランスを行わない場合,異時性大腸癌のSIR(95%CI)は4.3(2.9-6.0)であったが,1回でもサーベイランスを実施した場合には1.1(0.6-1.8)と約1/4に低下した 21.以上より,BaselineでANを有する場合にサーベイランスTCSが最も効果を発揮することが示唆された.

サーベイランスの主たる目的は大腸癌の罹患と死亡を抑制することであり,それに加えて,各国の内視鏡診療のキャパシティーやコストとの親和性を含めて至適のプログラムを構築する必要がある.クリーンコロンすなわち大腸内視鏡検査で腫瘍性ポリープを切除することは検査時間の延長や偶発症の増加をもたらす可能性がある.また,国立がん研究センターの検診内視鏡受検者を対象としたコホート研究において,5mm未満の腺腫のみを有する症例をポリープ切除せずに中央値60.9カ月経過観察したところ,腺腫がない群と同等のAN発生割合(1.4% vs 0.8%)であった 2.しかしながら,大腸癌の罹患と死亡抑制のエビデンスはすべてクリーンコロンを前提とした研究から得られた結果である.つまり,クリーンコロンをしない場合に,同様に大腸癌の罹患と死亡を抑制できるかどうか不明である.それに加えて,次回の検査間隔を短縮しなければならない可能性,放置したポリープを探す労力,PCCRCのリスクが上昇するなど,デメリットがメリットを上回る可能性が高い.近年,短時間で施行可能でかつ,出血の頻度が極めて低い,cold snare polypectomyが普及しており,クリーンコロンの労力もかなり軽減されているため,クリーンコロンを基本方針とすることは本邦においても理にかなっていると思われる.

Ⅳ Japan Polyp Studyと日本でのサーベイランスの現況

日本においても,サーベイランスの負担軽減のためのエビデンス構築のために2003年から多施設共同無作為化比較試験であるJapan Polyp Studyが開始された.研究の目的は,大腸腫瘍内視鏡的切除後の適正な経過観察期間を設定することである.陥凹型腫瘍についても精度の高い解析ができるよう集計した.対象は40~69歳の平均-高危険群の患者であり,TCSを1年毎に2回行い,発見したすべての大腸上皮性腫瘍を内視鏡切除(クリーンコロン化)し,その後,TCS結果からリスク別にA群(腺腫性ポリープなし)からB-D群(腺腫性ポリープあり)に層別する(Figure 2).3,926名が参加し2回検査群(1,3年後)1,087名,1回検査群(3年後群)1,079名に無作為化割付され,TCSによるサーベイランスを実施した.主要評価項目はIndex lesion(IL:10mm以上,高度異型腺腫,癌)の発見頻度である.試験デザイン上,NPSと異なるのは,Baseline TCSの1年後,全員にConfirmation TCSを行い,その後,無作為化割付を行った点である.先だって参加施設で実施した遡及的解析の結果,3年以内に発生した浸潤癌が無視できない頻度で存在したことをうけた倫理的な配慮からである 22.また,NPSには設定のないA群を対照群として設定した.最終的には2回検査群701名,1回検査群763名がプロトコール検査を完遂した.割付後に発見された病変は全腺腫性ポリープの頻度は2回検査群で有意に高かった(50.1% vs 37.9%).しかしながら主要評価項目のIL発生については両群で差がなく非劣性が証明された(1.7% vs 2.1%)(Figure 3 23.以上より,2回のTCSおよびクリーンコロン後には短くとも3年間隔をあけても良いことが示された.また,ランダム化後に発見されたILについては,局在が右側結腸13例,左側結腸11例,直腸5例であった.肉眼形態は18例(62%)が表面型腫瘍(Flat and depressed)であり,さらにそのうちの15例(83%)がLaterally spreading tumor, non-granular type(LST-NG)であった.したがって,クリーンコロン後に発生するILのなかで,重要な役割を果たすのは右側結腸のLST-NGと考えられた.この結果は欧米からのInterval cancerの報告が左側より右側に有意に高率であることとの関連が示唆された 24

Figure 2 

Japan Polyp Study試験デザイン.

Figure 3 

Japan Polyp Study結果.

Japan Polyp Studyの結果を踏まえて「大腸ポリープ診療ガイドライン2014」では大腸腫瘍切除後のサーベイランス間隔は一律3年間隔が推奨された.しかし,実臨床ではそれよりも短い間隔でサーベイランスを行っているのが現状である.本学会の内視鏡検診・健診あり方検討委員会で学会指導施設を対象に2018年に実施したアンケート調査の結果,米国のガイドラインと比較し,低リスク腺腫では95%以上,高リスク腺腫・ANでは80%以上が,短い間隔でサーベイランスを実施していることが判明した 25.日本の臨床現場ではサーベイランスの間隔を延ばすことに対する根強い抵抗感が存在すると予想される.しかしながら,いたずらにサーベイランス検査にキャパシティーを占有されていては,新たな検診対象者に大腸内視鏡検査を行うゆとりはいつまでも作れない.日本において,エビデンスに基づきながら,実臨床の現状も配慮し,利用しやすいサーベイランス・プログラムの存在が急務であった.

Ⅴ 大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン発刊

2020年8月に日本で初めてリスク層別化に基づくサーベイランス間隔を提唱した「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」が発刊された.欧米のエビデンスと日本のエビデンスをレビューし,作成委員のなかでの繰り返しの議論を経て,作成されたガイドラインの概要を解説する.サーベイランスに関連した3つのCQが掲載され,それぞれに対するステートメントならびに解説が記載された 5.本ガイドラインを適用する条件として,baselineとなる大腸内視鏡検査において十分なQualityが担保され,かつ発見されたすべての腫瘍性病変を切除していることを必須とした.つまり,前提条件を満たさない症例については個々の状況から担当医判断で決める必要がある.CQ16は「初回スクリーニング大腸内視鏡で腺腫(2個以内,advanced adenoma(AA)以外)を認め切除した場合のサーベイランスの方法・間隔は?」であり,それに対するステートメントは「3~5年後のTCSによるサーベイランスを提案する」である.このCQは一般的に低リスク腺腫といわれるカテゴリーについてであり,欧米では7~10年後のサーベイランス,またはスクリーニングプログラムに戻すカテゴリーである 1),3.本邦においては,3年以内のサーベイランスが汎用されている 25ことを考慮し,3~5年と幅を持たせた提案となっている.

CQ17は「初回スクリーニング大腸内視鏡で腺腫(3~9個,AA以外)を認め切除した場合のサーベイランスの方法・間隔は?」であり,それに対するステートメントは「3年後のTCSによるサーベイランスを提案する」である.このCQは一般的に“高リスク腺腫”といわれるカテゴリーについてであり,最もエビデンスの充実した領域で,欧米の推奨サーベイランス間隔と同様の3年が提案された 5

CQ18は「初回スクリーニング大腸内視鏡でAN,10個以上のnon-AAを認め切除した場合のサーベイランスの方法・間隔は?」であり,それに対するステートメントは「1~3年後のTCSによるサーベイランスを提案する」である.解説に詳細に記載されているが,本カテゴリーのなかでも,「Tis,T1,10個以上の腺腫,20mm以上の腺腫を,内視鏡的に完全切除した場合」には,1年後のサーベイランスが望ましいことから1~3年と幅を持たせた提案がされた 5.これらの3つのCQについてまとめたFigure 4を転記する.

Figure 4 

大腸腫瘍内視鏡切除術後のサーベイランス・プログラム(大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドラインより転載).

Ⅵ まとめ

従来の日本の大腸内視鏡サーベイランスは見逃しを恐れるあまり,コスト,労力,キャパシティーなどの観点が欠如していたと考えられる.新たなガイドラインで提唱されたサーベイランス・プログラムが今後,臨床の現場で広く普及することが期待される.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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