日本消化器内視鏡学会雑誌
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経験
2本の弾性牽引糸を内蔵した新規先端フードを使用した大腸内視鏡的粘膜下層剝離術の経験
藤田 欣也 竹下 雅浩森山 榮治落合 智志木下 陽亮
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2021 年 63 巻 2 号 p. 207-212

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要旨

安全で効率的な内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を行うには,剝離部の良好な視野の確保と的確なカウンタートラクションを得ることが有用であり,これまで種々の牽引法が報告されてきた.今回,われわれは,より有効な牽引を行うために,複数のリングと伸縮性を有する牽引糸を2本内蔵した新規先端フードを使用して深部大腸腫瘍のESDを施行した.今回,経験した3症例の各々に,種々の高周波ナイフ,クリップを使用したが,スコープの抜去や再挿入を要することなく2箇所で牽引し,偶発症なく一括切除をし得た.今回,その実際と本フードの特徴について若干の考察を加えて報告する.

Ⅰ 緒  言

内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD) 1),2を安全でかつ効率的に行うには,粘膜下層剝離部の良好な視野の確保と的確なカウンタートラクションを得ることが重要であり,種々の牽引法を用いたESDが報告されている 3)~10.今回,われわれは,スコープの抜去・再挿入を要さずにより効果的な牽引を行うために,複数のリングと収縮性を有する牽引糸を2本内蔵した新規先端フード(Figure 1 11を使用して3例の深部大腸のESDを施行した.

Figure 1 

a:DTフードをスコープに装着した際の正面像.

b:DTフードをスコープに装着した際の側面像.サイドポケットに牽引糸を内蔵している.

本フード内面の4つのストッパー(aの→)のうち,2本の牽引糸の間に設けられたストッパー(aの⇒)が鉗子孔に最も近づくようにしながら,4つのストッパーがスコープ先端に均等にあたる深さまで(bの→)真っ直ぐ装着する.

代表例として,困難部位とされる盲腸端部の虫垂口を含む0-Ⅰs+Ⅱa病変に本フードを使用したESDの実際を提示した.今回経験した3症例を表にまとめ,本フードの使用法,特徴,各種デバイスとの相性,注意点とその対処法について検討した.

Ⅱ 経  験

症例:71歳男性.

既往歴:虫垂炎にて虫垂切除術(17歳時).

主訴:腺腫の内視鏡治療後の経過観察.

現病歴:上行結腸の腺腫の内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection;EMR)後のフォロー目的に全大腸内視鏡検査を施行した.盲腸端部に0-Ⅰs+Ⅱaを認め(Figure 2-a),内視鏡治療適応病変と考えられた.切除範囲内に虫垂口を含んだ切除になること,虫垂炎の既往から粘膜下層に線維化を伴っている可能性があることから,患者および家族にインフォームドコンセントを得たうえで,弾性を有し,複数のリングからなる牽引糸をそのサイドポケットに2本内蔵したDual Traction Hood 11(DTフード,薬事承認済,Adachi Co., Ltd., Osaka, Japan and Nomura Medical Device Co., Ltd., Nagano, Japan)(Figure 1)を使用してESDを施行した.スコープはPCF-Q260AZI(Olympus, Tokyo, Japan)を使用した.本フードを使用するにあたり,最も重要な点はスコープへの装着法である.本フードは,その内面に4つの突起が設けられており,スコープに装着する際のストッパーとして機能する.2本の牽引糸の間に位置するストッパーが,スコープの鉗子孔開口部に最も近づく位置(Figure 1-a)で,4つのストッパーがスコープ先端部でとまる深さまで真っ直ぐに装着させる(Figure 1-b)ことで,2本の牽引糸をクリップで捕捉しやすい位置に本フードを装着することができる.局注に関しては,インジゴカルミンとボスミンを加えた生理食塩水にて粘膜下層に局注されたことを確認したうえで,追加の局注に,アルギン酸ナトリウムであるリフタルKⓇ(Kaigen Pharma Co.,Ltd., Osaka, Japan)を生理食塩水にて50%に希釈して使用した.高周波発生装置はVIO300D(AMCO, Tokyo, Japan)を使用し,設定は切開波として,Endocut-Q Effect3,Duration time 2,Interval time 2,凝固波として,Forced Coagulation 30Wとした.切開・剝離操作は肛側から順行性に行った.Dual knife J 1.5mm長(KD-655, Olympus, Tokyo, Japan)を主な切開・剝離デバイスとして用いた.病変の周囲切開と粘膜下層剝離を行い,1つ目の牽引を行った(Figure 2-b,c).すなわち,スコープ先端の鉗子チャンネルから出したSure Clip(ROCC-D-26-195-C, MC medical, Tokyo, Japan)を閉じたまま本フードの先端部の先の外側まで突出させ,クリップの羽を広げ,牽引糸を把持できるように回転軸を手元操作で回転させた.次に,クリップを閉じた状態にして,本フード内まで引き戻し,フード内であらためてクリップを広げ,スコープの画面にて本フードに装着した牽引糸を把持できていることを確認しながら,前方にクリップを押し進め,病変粘膜にクリッピングし,固定した(Figure 2-b 11.その後,スコープを手前に引くことにより,本フードのサイドポケットに収納された牽引糸を展開し,2つ目のSure Clipにて適切なリングを把持して対側粘膜にクリッピングし固定することで牽引を実施した(Figure 2-c 11.その際,対側健常粘膜にマーキングを兼ねて生理食塩水を局注しておくことで,牽引する方向や長さを意図した通りに実施しやすくなるばかりでなく,切除を終えて病変を回収する際にも,剝離デバイスによる切開波で牽引糸を切離する方法に加えて,把持鉗子等で鈍的にクリップごと外す選択肢も担保できた.粘膜下層剝離を追加した後,本フードに内蔵された2本目の牽引糸を同様に使用して2つ目の牽引を行い,2箇所での牽引を実施した(Figure 2-d,e).良好な視野とカウンタートラクションの作用のもと剝離を継続し,一括切除を得た(Figure 2-f,g).主に使用した剝離デバイスはDual knife Jであったが,粘膜下層の線維化と病変が正面に対峙するため,粘膜下層をかき分けた状態で固有筋層と適切な距離を維持することが困難の部位もあり,一部はITknife nano(KD-612, Olympus, Tokyo, Japan)も併用した.

Figure 2 

症例1のESD時の内視鏡所見.

a:ESD前の内視鏡所見.

b:周囲切開とトリミングの後,1本目のクリップで病変粘膜に牽引用糸を固定している.

c:2本目のクリップで牽引用糸を対側粘膜に固定を行うことで牽引を実施している.

d:本フードを使用して2箇所で牽引が行われた際の内視鏡所見.牽引に使用された2本のクリップが内視鏡画面上方向に確認されている(→).

線維化を伴いながら正面に対峙する粘膜下層をより直視するため,2箇所での牽引に加え,牽引糸ごと本フードでめくりあげている.

e:2箇所で牽引した際の対側粘膜.マーキング目的で施注された生理食塩水により膨隆した部位にクリッピングされている.

f:ESD後の潰瘍.

g:切除された病変.

切除困難部位症例であり,110分の切除時間を要したが,一括切除をし得た(Figure 2-d,e).病変を回収するために,ITknife nanoを使用し,切開波(VIO300; Endo-cut Q,Effect3,Duration time 2,Interval time 2)にて牽引糸を切離し,回収した.出血や穿孔などの偶発症は認めなかった.切除径は25×23mmで病変径は20×18mmであった.切除標本の病理組織学的所見はsessile serrated adenoma/polypで切除断端は陰性であった.虫垂口は切除標本内に含まれていたが,非病変部であった.

他の2病変の治療成績を含めてTable 1に提示する.

Table 1 

DTフードの治療成績.

Ⅲ 考  察

既報の牽引法はひとつの工夫またはひとつのデバイスによりひとつの牽引を行うことで安全なESDを行うことを可能としている.しかしながら,1箇所で牽引を行う場合,時に剝離過程にある左右両側辺縁まで牽引効果が十分及ばずに剝離に難渋することがある.2箇所で牽引できれば,剝離過程にある正面中央部のみならず,左右両側の辺縁部にも作用する広い牽引を実施することができ,ESDの難度を下げることが期待できると考えられた.実際,食道と胃の病変に,複数の牽引が安全なESDの実施に寄与したとする報告もある 12

大腸のESD 13),14でも同様に,複数個所の牽引が有用と考えられる.特に深部大腸では,スコープの抜去と再挿入を必要とせず,さらに,体外からの牽引では,その長い牽引長のため牽引が十分できない可能性があり,近傍の腸管腔内から直接牽引できる処置具の効果が期待される.

現在,スコープの抜去と再挿入を要さず近傍の消化管腔内から牽引を行う方法として,絹糸やナイロン糸をスコープの鉗子チャンネル内を挿通させて病変部までdeliveryする方法 15),16,S-Oクリップ 17),18が報告されている.

本フードも,スコープの抜去と再挿入を必要とせず,消化管腔内で牽引を実施することが可能である.

S-Oクリップと異なる本フードの特徴として,以下の4点があげられる.1つ目は,2箇所の牽引実施を前提としたESDが可能であることである.その際,広い範囲での牽引を維持するため,剝離粘膜の左右を牽引の起点として,グリコのロゴマークのように万歳のような形態になるように牽引を実施することが望ましいと考えられる.著者らは,グリコトラクションサインと称している.2つ目は,牽引糸が複数のリングを有することから追加のクリップを用いて新たに別のリングを異なる対側粘膜にクリッピングすることで牽引を補強する等の調整が可能であることである.実際,複数のリングを有する牽引糸に追加のクリッピングを行うことで,緩くなった牽引を補強できたとする報告もある 16.3つ目は,切除が終了し病変を回収する際に,牽引糸のどの部位でも切断が可能なことである.4つ目は,牽引糸もその編み方により弾性を有していることである.

本フードにも使用する際に懸念されることがある.フード先端部に装着されている牽引糸によって,スコープの視野の一部を妨げられてしまうことである.この点について,実際に使用してみたが,スコープの挿入性には問題なく,切開・剝離や止血を行う際もデバイスの作用点の視野を妨げられることなく,今回使用したDual knife J,ITknife nano,SB knife Jrやつかみ直し機能のあるSure Clip,SB Clipの操作と干渉することなく,問題なく使用できた.つかみ直し機能のないEZ Clip(HX-610-135L, Olympus, Tokyo, Japan)も,使用が可能であることは確認できている.また,牽引を行う前に本フード先端部の牽引糸が外れてしまうことも起こりうる.しかしながら,牽引糸はサイドポケットに収納されているため,完全に脱落することはなく,本フード先端を粘膜に軽く接触させながら,スコープを引くことで視野内に牽引糸を誘導しクリップで捕捉し牽引に使用することは可能である.また,反転操作を伴う観察や操作の際には,牽引が外れてしまう可能性があるので注意したい.実際に,外れてしまった際には,クリッピングを新たに追加して牽引を再開することは可能である.また,初学者は,牽引のため病変粘膜をクリッピングする際に,固有筋層ごとクリップをかけてしまうことを避けることは他の牽引法と同様である.それを回避するために牽引すべき粘膜層を認識しやすいようにする目的で,クリッピング前に病変粘膜に局注しておくことが有用なこともある.

今回,新規牽引糸付き先端フードをESDに使用した深部大腸腫瘍3例を報告した.さらに,今回の3例にとどまらず,本フードを使用するうえでの起こりうること,注意点とその対処法について述べた.

最後に,本フードの現状でのlimitationは,この報告が単一施設の使用経験であることである.今後いろいろな施設やいろいろな状況で使用されることで本フードの新たな問題点や改良点が指摘され,より安全で効率的なESDの実施に寄与することを期待したい.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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