2021 年 63 巻 2 号 p. 242
【背景と目的】胃癌に対する外科的胃切除術後の異時性多発胃癌の発生に関する多施設・多数例での検討は行われていない.本研究では,多施設から集積した症例を用い,胃切除術後の異時性多発癌の発生状況と治療内容を明らかにし,胃切除術後の適切なフォローアップ法を考察することを目的とした.
【対象と方法】本研究は,胃外科・術後障害研究会の施設会員・個人会員を対象にアンケート調査を行い,各施設の結果を集計する後ろ向き疫学調査である.対象は各施設で2003年から2012年の期間に胃癌に対する手術が施行された症例とし,術式別の異時性多発胃癌の実数や発生時期,治療内容などが評価項目とされた.
【結果】52施設から33,731例の胃切除例が集められ,うち,5年を越える期間でフォローアップされていた症例は24,451例であった.異時性多発胃癌の発生率は,幽門側胃切除術で2.4%,幽門保存胃切除術で3%,噴門側胃切除術で6.3%,機能温存胃切除術(分節切除術と局所切除術)で8.2%であった.幽門側胃切除術においては,Roux-en-Y再建における異時性多発胃癌の発生率は他の再建法(Billroth-Ⅰ法,Billroth-Ⅱ法)より有意に低率であった(それぞれ1.6%,2.7%,3.2%).他の術式では,再建法による異時性多発胃癌の発生率に有意差は認めなかった.36.4%の症例で,異時性多発胃癌発生のタイミングは術後5年を越えていた.また,異時性多発胃癌に対する治療としては,噴門側胃切除術や機能温存胃切除術で高率にESDが選択されていた(それぞれ50.8%,67.9%).
【結論】残胃を大きく残す術式(噴門側胃切除術や機能温存胃切除術)における異時性多発胃癌の発生頻度は幽門側胃切除術後より有意に高率であるが,ESDで治療可能な場合も多い.また,異時性多発癌の発生は,術後5年を過ぎてもなお高率に認める.したがって,胃癌術後では長期の内視鏡サーベイランスによる残胃モニタリングが重要であることが示唆された.
ESD術後における異時多発胃癌発生率は,術後5年・7年・10年でそれぞれ9.5%・13.1%・22.7%とする報告がある2).一方,胃癌術後,特に機能温存手術後の異時性多発癌発生に関する研究は少なく,その実態は明らかでなかった.本報告では,アンケート調査解析という研究法そのものの限界は複数存在するも,術後異時多発胃癌発生に関するその実態や介入期間が明らかになったことは意義深い.胃癌術後の胃粘膜は発癌環境に暴露されていた前癌状態の可能性があり,残存胃粘膜が広いほど異時性多発胃癌発生の危険は大きくなる.本調査によって,適切な残胃のフォローアップ法が明らかとなり,今後の患者利益に資する可能性があると考えられた.