2021 年 63 巻 3 号 p. 279-286
症例は74歳,男性.つかえ感を主訴に当院を受診.上部消化管内視鏡検査(EGD)を施行したが,異常は認めなかった.エソメプラゾールの内服を開始するものの,症状は持続し,半年後に食事をすることが困難となり入院となった.EGDを再検したところ,中下部食道に粘膜白濁浮腫,輪状狭窄を認め通過障害をきたしていた.各種検査から好酸球性食道炎(EoE)を疑ったが,生検で食道上皮に好酸球浸潤は認めなかった.超音波内視鏡検査(EUS)では筋層を含む食道壁の肥厚を認め,複数回の生検にて上皮下層に浸潤した好酸球を確認した.今回われわれは,半年間で重度の通過障害をきたし,EUSによる食道壁評価が診断に有用であった好酸球性食道炎亜型の1例を経験したため報告する.
好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis;EoE)は,食道上皮内に好酸球浸潤を認める慢性的なアレルギー疾患で,特徴的な内視鏡所見として縦走溝,輪状溝,白色滲出物が挙げられる 1)~3).食道生検で上皮内に好酸球浸潤を確認できる症例が大半であるが,稀にEoEに特徴的な内視鏡所見を認めずに,好酸球が上皮下深部へ浸潤している症例がある.そのような症例を好酸球性食道炎亜型(subepithelial eosinophilic esophagitis;sEoE),好酸球性食道筋炎(eosinophilic esophageal myositis;EoEM)としてSatoらは報告した 4)~6).近年,経口内視鏡的筋層切開術(Per-oral Endoscopic Myotomy;POEM) 7),経口内視鏡的食道筋層生検(Per-oral esophageal muscle biopsy;POEM-b)の普及に伴い,食道蠕動障害と診断された症例の中に好酸球が深部浸潤していたとの報告がみられるようになった 4).今回,われわれは上皮性変化が乏しく診断に難渋した好酸球性食道炎亜型の1例を経験した.内視鏡的に所見がなくても,症状が持続する場合には,CTやEUSで食道壁の評価を行う必要性を感じた症例であったので報告する.
症例:74歳 男性.
主訴:嚥下障害,嘔吐.
既往歴:糖尿病,心筋梗塞,高血圧症.
アレルギー歴:特記事項なし.
嗜好歴:飲酒歴なし,喫煙歴20本/日×40年間.
内服歴:メトホルミン,ピオグリタゾン,ルセオグリフロジン,ミチグリニド,デュラグルチド,シロスタゾール,アジルサルタン,カルベジロール,ピタバスタチン.
現病歴:半年程前から時折つかえ感を自覚するようになり,当院を受診した.上部消化管内視鏡検査(EGD)では異常を指摘されなかったが,非びらん性胃食道逆流症を疑いエソメプラゾール20mgが処方された.その後も症状は持続し,2カ月後に再度EGDを施行したが,初診時と比較して変化は認めなかった.しかし,症状は徐々に増悪し,初診時から6カ月後に食事することが困難となり入院となった.
入院時現症:体温36.2度,血圧120/50mmHg,脈拍100回/分,腹部平坦,軟,圧痛なし,皮疹なし.
初診時EGD(Figure 1):特に異常所見は認めず,生検は施行されなかった.

上部消化管内視鏡検査(初診時).
入院時EGD(Figure 2):中下部食道の粘膜白濁浮腫,輪状狭窄所見を認めた.内視鏡スコープの通過は可能であったが,送気での伸展は不良で詳細の観察は困難であった.6カ所から食道生検を行ったが,粘膜固有層に高倍率の顕微鏡視野で1視野当たり最大9個の好酸球浸潤を認めるのみで診断基準は満たさなかった.なお,胃,十二指腸からも生検を行ったが好酸球は認めなかった.

上部消化管内視鏡検査(初診時).
中下部食道の粘膜白濁浮腫,輪状狭窄所見を認めた.送気での伸展は不良で詳細の観察は困難であった.腫瘍性病変は認めなかった.
入院時血液検査所見:WBC 6,350/μl(Eosino 0.3%),RBC 562×104/μl,Hb 16.8g/dl,Plt 20.5×104/μl,CRP 0.04mg/dl,AST 76IU/l,ALT 14IU/l,BUN 30mg/dl,Cre 1.01mg/dl,BS 308mg/dl,HbA1c(NGSP)8.7%,non-specific IgE 442IU/ml,IgE-RAST(卵白,牛乳,小麦,ピーナッツ,大豆)陰性.
胸腹部CT(Figure 3):中下部食道に比較的均一な壁肥厚所見を認めた.食道拡張所見は認めなかった.

CT検査.
中下部食道に比較的均ーな壁肥厚所見を認めた.食道拡張所見は認めなかった.
EUS(上切歯列32cm)(Figure 4):中下部食道で粘膜下層深部の壁肥厚所見を認めた.筋層である第4~6層にも肥厚を認めた.

超音波内視鏡検査(EUS)脱気水充満法,細径プローブ20MHz.
中下部食道で粘膜下層から深部の壁肥厚所見を認めた.筋層である第4~6層が著明に肥厚していた.
食道造影検査(Figure 5):中部食道から下部食道にかけて数珠状にバリウムの停滞を認めた.

食道造影検査.
中部食道から下部食道にかけて数珠状にバリウム停滞を認めた.
高解像度内圧測定機器(High Resolution Manometry;HRM)(Figure 6):IRP(integrated relaxation pressure)は11.9mmHg以内と基準値範囲内で,食道胃接合部の弛緩不全は認めなかった.一次蠕動波のDCI(distal contractile integral)値は低下し,20%でfailed peristalsis,80%でweak peristalsisの所見を認めた.シカゴ分類v3.0 8)でIEM(Ineffective esophageal motility)に分類された.

High Resolution Manometry(Starlet, Starmedical社).
IRPは11.9mmHg以内と基準値範囲内で,食道胃接合部の弛緩不全は認めなかった.
一次蠕動波のDCI(distal contractile integral)値は低下し,20%でfailed peristalsis,80%でweak peristalsisの所見を認めた.
臨床経過:入院時のEGDと食道造影所見からは,EoE,びまん性食道痙攣(DES)等の食道蠕動障害が疑われた.入院時EGDの際に食道生検を行ったが,食道上皮に好酸球は目立たず,固有層に高倍率の顕微鏡視野で1視野あたり最大9個の好酸球が確認されるのみであった.EoEの診断基準は満たさず,後日EUSとHRM検査を追加した.EUSでは腫瘍性病変はみられず,粘膜下層から筋層にかけて壁肥厚所見を認めた.HRMでは,DESを疑う所見は認めず,シカゴ分類においては,Minor disordersに分類されるIEMの所見であった.半年間という比較的短い期間で,重度の通過障害をきたしたという臨床経過,採血でIgE高値であったこと,EUSで著明な壁肥厚所見を認めたことから,sEoEやEoEMの病態が鑑別として挙げられた.確定診断をつけるために食道生検を複数回行う方針とし,できる限り深部組織を採取するために,ボーリング生検も行った.食道生検を複数回繰り返した結果,中部食道の生検組織において,粘膜下組織に高倍率の顕微鏡視野で1視野あたり最大60個以上浸潤する好酸球を確認できた(Figure 7).入院前にエソメプラゾール内服をしていたが,症状の改善はなかった経緯から,第24病日よりフルチカゾン400μg/日の嚥下療法を開始した.症状は速やかに改善し,入院時より食事ができず高カロリー輸液を行っていたが,第26病日には経口摂取が可能な状態となった.症状の増悪や再燃することなく経過し,第40病日に自宅退院となった.

病理組織像(HE染色).
食道粘膜上皮に好酸球は認めず,食道粘膜の肥厚を認めた.粘膜下組織に高倍率の顕微鏡視野で1視野あたり最大60個以上浸潤する好酸球を認めた(×200).
フルチカゾン嚥下療法は退院後も継続とし,第58病日にEGD再検とした(Figure 8).浮腫状変化は著明に改善し,送気での伸展も良好であった.フルチカゾンはその後も継続としたが,血糖コントロールが悪化傾向(HbA1c 8.6%,BS 206mg/dl)であった経緯もあり,症状の再燃がないことを確認して第74病日に一旦終了とした.嚥下療法終了後,厳重に経過観察としたが,逆流症状が時折あるのみで,症状の増悪は認めなかった.半年後にEUSと食道造影検査を再検した.食道壁の肥厚所見は治療前と比較して改善を認め,バリウムの通過に問題はみられなかった(Figure 9).更に1年経過したが,症状の増悪は認めていない.

上部消化管内視鏡検査(治療後,第58病日).

a:EUS(治療半年後).
粘膜下層深部の壁肥厚所見は残存していたが,治療前と比較して改善を認めた.
b:食道造影検査(治療半年後).
狭窄所見は改善を認めた.蠕動異常は残存していたが,バリウムの通過に問題は認めなかった.
EoEは,食道上皮に多数の好酸球が浸潤し,慢性炎症により機能障害に起因した自覚症状を引き起こす疾患とされている.欧米では0.02~0.05%,本邦では0.01~0.13% 9)~11)の有病率と未だ少ない疾患である.診断基準の必須項目として,運動機能障害に起因した嚥下障害などの自覚症状を有することと,食道生検で高倍率視野の好酸球数が15個以上であることが挙げられている 1),12)~14).同様に,sEoEとEoEMも好酸球の浸潤により食道運動障害をきたす疾患として考えられている.IgEが高値である症例が多いことやステロイド治療で改善することからEoEと同様にアレルギー疾患であると考えられているが疾患概念を含め詳細は解明されていない.sEoEは粘膜固有層,粘膜筋板,EoEMは筋層を主体に好酸球が浸潤するため,EoEと異なり上皮性変化を伴わないことが多い.そのため,EUSやCTを使用しての筋層評価,HRMを使用しての蠕動障害が診断の一助となる 15).Satoらは,sEoEではIEM,EoEMではJackhammer食道に分類される食道蠕動障害を認めたと報告した.Jackhammer食道は時に本疾患と関与している可能性があり,POEMやPOEM-bで筋層組織を採取した報告 4),16)や,EUS-FNAで確定診断を行い,ステロイド治療で改善した報告がある 17).
本症例は,症状出現時から重度な通過障害へ進行するまでのEGD経過を追えた貴重な症例であった.初診時EGDでは異常所見を認めず,比較的短期間に通過障害をきたしたことからアカラシア類縁疾患等の食道蠕動障害としては非典型的な経過であった.食道生検で食道上皮に好酸球浸潤が認められなかったが,臨床経過,IgE高値,食道造影検査所見,EUS所見から好酸球の深部浸潤も否定できないと考え,sEoEやEoEMの病態を想定した.HRM結果はシカゴ分類上,IEMに分類され,tertiary contractionsと思われる蠕動波が確認された.食道運動障害の所見からも壁肥厚と食道痙攣が嚥下困難感の原因であったと考えられた.好酸球の確認ができた病理標本では,固有層から粘膜下組織に好酸球浸潤を認めたことから上皮下層好酸球浸潤を主体としたsEoEと診断した.EoEMは,Jackhammer食道やNutcracker食道に分類される運動障害の報告が多いこと,少量のフルタイド嚥下療法では改善が乏しくPOEMを治療とする症例が多いことからも既報のEoEMと比較すると非典型的であった.また,粘膜変化を伴うEoEでも筋層肥厚を認めることもあり 18),19),筋層肥厚の所見のみでEoEMと判断することは難しいと考えられた.しかし,一方で顕著に肥厚した筋層の組織採取ができておらず,治療後も筋層の肥厚が軽度残存していることから,EoEMも完全には否定できないとも考えられた.更に,sEoE自体が,疾患概念として定まってはおらず,EoEMへの移行段階をみている可能性もある.sEoE,EoEMは共に,上皮性変化を伴わないことが多いことは共通しており,今後も診断に苦慮する疾患概念と思われる.
EoEの初期治療としてPPI(proton pump inhibitor),P-CAB(potassium-competitive acid blocker)を選択することが多いが,通過障害をきたしたEoEやEoEMの治療は,ステロイド治療もしくはPOEMとされている 20)~22).EoEMの大半はPOEMを実施されている症例が多い.ステロイド治療の中止基準に関しては明らかとされていない.途中で中断すると症状が再燃する場合もあるとされ,食道壁肥厚が正常に近いところまで改善させた方が良いとの報告もある 15).
本症例では,フルチカゾン嚥下療法のみで筋層肥厚が改善した稀な症例であった.EoEの症例の中には,食道運動障害が自然に軽快する症例もみられるが,本症例はフルチカゾン嚥下療法開始後,数日で症状が改善しており,フルチカゾン嚥下療法による治療効果であることは明らかであった.本疾患の症状は,慢性的な炎症による線維化,リモデリングの進行が関与していると考えられている 23).治療が奏効した理由としては,線維化する前に治療できたことで筋層肥厚の改善につながった,肥厚自体が線維化によるものではなく,過収縮に伴うものであったなどが考えられた.治療半年後の食道造影検査,EUSでは改善傾向を確認できたが,一方で症状は完全に消失せず,治療後のEUSでは筋層肥厚が残存し,HRMではIEMに分類される運動障害が持続していた(Figure 10).血糖コントロール不良が理由で,嚥下療法は中止となったが,治療再開は御本人様の希望で控えている.自覚症状の聴取とEUSでの食道壁評価を続け,再燃傾向があればEoEMの可能性も視野にいれて精査加療が必要であると考えている.

High Resolution Manometry治療後.
症例を振り返って,入院時に至るまでの対応に反省点があった.EoEに関した過去の報告では,内視鏡的所見に異常を認めない症例は17~42%と報告されている 24).その場合,CTやEUSでの食道壁肥厚が,好酸球が深部浸潤したsEoE,EoEMのような病態を疑う所見となる.厚生労働省の研究班会議で作成されたEoEの診断指針案において,内視鏡所見に加えて,CTまたはEUSで食道壁の肥厚を認めることが提起されている.EoE患者と健常人のEUS所見を比較した報告では,壁肥厚の主座は,粘膜層と粘膜下層に多いが,中には固有筋層が主体の場合もあるとされている 25).本症例では,自覚症状を訴えていたが,初診時EGDで異常は指摘できず経過観察とされていた.もし,CTやEUSでの評価を初診時もしくは再診時に追加していれば,更なる精査,経過観察の方法も違っていたかもしれない.食道壁評価の必要性を感じさせられた症例であった.
sEoE,EoEMに関しては,症例報告も少なく未だ解明されていない病態である.EoEとは異なる疾患とも考えられているが,EoEと類似した点も数多くある.更なる症例の蓄積により,病態が解明されていくことが望まれる.
PPI/P-CAB治療に不応の嚥下時つかえ感が持続する場合には,内視鏡的に所見が乏しくても,食道運動機能や食道壁肥厚の評価を検討する必要性を感じた.食道運動異常症,食道壁肥厚を認めた場合には,好酸球の上皮下深部に浸潤したsEoE,EoEMも鑑別疾患に挙げる必要がある.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし