2021 年 63 巻 3 号 p. 313-318
近年,内視鏡治療後潰瘍に対して様々な縫縮法が報告されているが手技が煩雑であったり高価なデバイスが必要であるため,まだ定まったものはない.われわれはdouble-loop(D-L)clipsテクニックを用いた大腸ESD後潰瘍に対しての縫縮法を考案した.後出血(特に抗血栓薬内服患者)などのESD後偶発症予防において,内視鏡的縫縮術が欠かせない技術になるのではないか,と考えている.内視鏡的縫縮術の確立,普及が期待される.
大腸ESD後の炎症はESD後潰瘍を閉鎖することにより軽減できることは複数の報告により示されている 1)~5).近年,様々な縫縮法が報告されているが手技が煩雑であったり,高価なデバイスが必要であるため,まだ定まったものはない 6)~10).Moriらのリング糸による縫縮法に触発され 7),われわれは新たに,接着剤を用いないdouble-loop(D-L)clipsテクニックを用いた大腸ESD後潰瘍に対しての縫縮法を考案し 11),その実現可能性,有用性を報告してきた 12).本項では,大腸ESD後潰瘍の新しい縫縮法としてD-L clipsテクニックの手技について解説する.
筆者がESD後潰瘍を閉鎖しようと思い至ったのは,北海道大学大学院時代に多発性骨髄腫の化学療法導入を控えている患者さんの大腸ESD症例があり,どうにか早くESD後潰瘍を治し,早く化学療法導入をできないか,と思ったのがきっかけである.Moriらのリング糸による縫縮法 7)を知っていたが体内でリング糸を拾うのが少し煩雑であった.そこで体外でリング糸をクリップに結ぶ方法を考えた.その後,釧路労災病院に赴任し,初めてチューターがいない施設で大腸ESDを施行することとなった.赴任当初は,穿孔や筋層損傷が多く,ESD後潰瘍を縫縮することも多かった.完全縫縮が可能であると,術後,非常に安心感があった.最初はsingle loopを使用していたが,ループがしわくちゃになってしまい,拾うのが難しいことがときどきあった.D-Lにすることによって,遠位側のループの重みで近位側のループラインが適度に伸ばされるので,拾うのが簡単にできるようになった.また,仮に近位側のループを拾うことができなくても,遠位側のループを拾いにいけた.このような経緯でD-L clipsテクニックの手技を開発した.
われわれは以前にD-L clipsテクニック 11)について報告した中では,オリンパスのスタンダードクリップを使用していたが,現在,ショートクリップ(HX-610-90S;Olympus)に切り替えた.ショートクリップは,より強いグリップ力を有し,手技の邪魔になりにくい.D-L clipのループ長が長すぎると結紮が緩んでしまい,ループ長が短すぎるとクリップをループに通すのが難しくなる.そこで,糸を注射針カバーに結び付けて,適切な長さのD-Lを作成するようにした.さらに,以前に使用していた糸である編組ポリエステル(USP 3-0;Natsume Seisakusyo, Bunkyo-ku, Japan)は販売中止となったため,市販の3-0シルクを使用していた.現在,糸はループの形状を一番維持しやすく,クリップに装着しやすいと思われる5-0ナイロンを使用している.
Sudoらのマルチループ法に触発された 13),modified D-L clipsテクニックはD-Lを簡単かつ迅速にショートクリップに付けることができる.よって,modified D-L clipsテクニックでは,最初のD-L clipを粘膜に上手くクリッピングできなかった場合,次のD-L clipを従来のD-L clipと比較して,より簡単かつ迅速に作成できる.以下にmodified D-L clipsテクニックを示す.
板に2個並んで取り付けた注射芯カバーを用いて2個のループを作成する(modified D-L).次にショートクリップを回転クリップ装置に装着する.クリップを展開し,すべて展開し切る前にクリップの根元にある,クリップのアームが交差している部分にmodified D-Lを通す.クリップを回転クリップ装置に収納する.これで接着材を使用せずにmodified D-L clipが完成する(Figure 1-a~g).modified D-L clipをESD後潰瘍の肛門側にクリッピングする.近位側のループに別のクリップを引っ掛けて口側粘膜にクリッピングを行う.空気を十分に抜いて口側粘膜を十分にひきよせて,クリッピングする.縫縮を強くするためにクリップを追加して終了する(Figure 2-a~f)(GIE Author Interview Seriesからであればmodified D-L clips techniqueのビデオをfree accessで視聴可能: https://www.youtube.com/watch?v=1Ydv1gy0Vys).

modified double-loop(D-L)clipの作成方法(Abiko S et al. Gastrointest Endosc 2020;92:415-21. を一部改編).
a:2個の注射針カバーをテープで板に張り付ける.
b:自分の膝の間にボードを置く.
c:2個の注射針カバーの間に糸を通し,上の注射針カバーに糸を結ぶ.
d:その後,板を回転させ,もう一方の注射針カバーに糸を結ぶ.
e:余分な糸を切って,注射針カバーからループを取り出す.
f:これでmodified D-Lが完成となる.
g:次にショートクリップを回転クリップ装置に装着する.クリップを展開し,すべて展開し切る前にクリップの根元にある,クリップのアームが交差している部分にmodified D-Lを通す.クリップを回転クリップ装置に収納する.これで接着材を使用せずにmodified D-L clipが完成する.

大腸ESD後潰瘍に対してmodified D-L clipテクニックを使用した縫縮法の実際(糸は5-0ナイロン使用症例).
a:切除標本長径27mmの大腸ESD後潰瘍を認める.
b:まずmodified D-L clipを展開する.
c:modified D-L clipをESD後潰瘍の肛門側にクリッピングする.
d:近位側のループに別のクリップを引っ掛ける.
e:口側粘膜にクリッピングを行う.
f:縫縮を強くするためにクリップを追加して終了する.
ESD後潰瘍の肛門側にクリッピングするD-L clipは潰瘍の辺縁から約1cm離れた通常の粘膜にクリッピングするのがコツである.潰瘍の辺縁付近の正常粘膜にD-L clipをクリッピングすると,ループに別のクリップを通して口側の粘膜にクリッピングしたときにD-L clipが横に倒れて邪魔になり,残りの潰瘍の閉鎖が困難になることが多い.
本手技は,2019年4~9月に釧路労災病院で施行した大腸ESD35例中,D-L clipsテクニックによる縫縮法を施行した26例を対象として,後ろ向きに実現可能性を検討した 12).結果は,切除標本長径:median 3.2(interquartile range[IQR],2.8-3.8)cm,完全縫縮率88.5%(23/26),下部直腸症例を除いた場合は完全縫縮率95.5%(21/22)であった.縫縮時間:median 20(IQR,16-24)min,遅発性偶発症はPost-ESD coagulation syndromeの1例のみ,不完全縫縮は第一ヒューストン弁から肛門縁の間の症例で頻度が高かった(p=0.0269).壁の可動性が少ない下部直腸において,この縫縮術は難しそうであるが,近位結腸では良好な成績であった.
われわれの検討は,少数例で後ろ向きな検討という2つの主なlimitationがある.将来的には,切除標本長径が大きい病変に対するわれわれの縫縮方法の有用性を評価するために多数例での前向きな研究を施行することが必要である.
Horiiらは,デンタルフロスを用いたOリングによる縫縮が有効であると報告した 9).しかし,デンタルフロスは医療材料ではなく,それが体内に残ってしまう.また,過フッ化アルキル物質およびポリフルオロアルキル物質を含むデンタルフロスの使用によって,血液中の毒性フッ素を増加させるということが報告されている 14).この縫縮法はデンタルフロスという非医療材料が体内に残るため,倫理的な観点から問題となる.D-L clipsテクニックでは,医療用の糸を使用しているので問題はない.
Moriらが報告したリング糸による有用な縫縮法がある 7)が,体内でリング糸を拾う手順があるため,手技が少し煩雑となる.われわれの方法は,体外でクリップにループを付けることができるため,手順が1つ少なくなる.また,接着剤を用いずに作成できるので,簡便であり,糸とクリップがあれば,世界中,どこでも作成することができる.
Endoscopic string clip suturing(ESCS) 15)とline-assisted complete closure(LACC) 16)は,類似のアプローチを採用する有用な縫縮方法である.ESCSに関する前向きの研究では,平均縫縮時間,完全縫縮率,遅発性偶発症発生率がそれぞれ23.4±13.8分,100%(10/10),0%であると報告されている 17).LACCに関する後ろ向き研究では,縫縮時間中央値(範囲),完全縫縮率,遅発性偶発症がそれぞれ14(6-35)分,95%(58/61),1例(post-ESD coagulation syndrome)であると報告されている 18).しかし,われわれは以前にESCSで予期しない問題が発生したことがあり,報告している 19).具体的には,ESCSに使用される糸がループカッターのブレードの間に挟まれ,切断できなくなった.幸い直腸の病変であったので,糸とループカッターを体内に残したまま内視鏡を肛門外に抜去し,別の内視鏡を肛門から挿入した.フラッシュナイフで糸を切断し,合併症なく手技を終了した.この問題が近位結腸で発生した場合,解決するのは難しいかもしれない.そこで,当院ではD-L clipsテクニックを用いた縫縮を行い,この問題を克服している.
最近の研究では,underwaterでのクリップ縫縮法 20)とclip-on-clip閉鎖法 8)が報告されている.underwaterでのクリップ縫縮法の後ろ向き研究では,縫縮時間中央値(範囲),完全縫縮率,遅発性偶発症発生率がそれぞれ9(6-21)分,100%(21/21),0%であると報告されている 20).一方,clip-on-clip閉鎖法の前向きな研究では,縫縮時間中央値(範囲),完全縫縮率,遅発性偶発症発生率は8(3.5-29.2)分,97%(31/32),0%であった 8).どちらの方法も有用な縫縮法である.しかし,underwaterでのクリップ縫縮法は穿孔がある状況では使用できない.D-L clipsテクニックを用いた縫縮は穿孔がある状況でも使用することができる.さらに,underwaterでのクリップ縫縮法は,水を貯めるために数分を必要とする.ModifiedされたD-L clipsテクニックでは事前に作成されたD-Lを使用し,すぐに縫縮を開始することができる.clip-on-clip閉鎖法では,他のクリップをクリッピングする手順が体内で実行されるため,やや手技複雑になることが問題である.われわれの方法では,D-Lを体外でクリップに接続できるため,手順の1つが減る.
通常のクリップのみを用いたendoscopic mucosa-submucosa clip closure法の後ろ向き研究では,平均縫縮時間,完全縫縮率,遅発性偶発症発生率はそれぞれ9.6±4.4分,96%(24/25),0%であったと報告されている 21).しかし,彼らの考察で,この方法は50mmを超えるESD後潰瘍には有効ではないと述べられており,完全縫縮率は50%(1/2)であった.われわれの方法は,50mmを超えるESD後潰瘍に対しても有効であり,完全縫縮率は100%であった(2/2).
一般的に下部直腸,特に第一ヒューストン弁から肛門縁の間の領域は,直腸壁の可動性が低いと考えられており,われわれの縫縮法では縫縮困難かもしれない.したがって,ESCSまたはLACCのような他の縫縮法が,下部直腸の病変に必要とされる可能性がある.
大腸ESD後潰瘍の新しい縫縮法としてD-L clipsテクニックの手技について解説した.D-L clipsテクニックを用いた新しい縫縮法は実現可能な方法で,糸とクリップを用いて接着剤を使用せずにループ付きのクリップが作成でき,簡便かつ安価で明日の臨床からすぐに使用できる.
後出血(特に抗血栓薬内服患者)などのESD後偶発症は,重篤になることが多いと思う.安全なESDを目指すために,また,日帰りESDなどを実現し,内視鏡医療が発展していくために,内視鏡的縫縮術が欠かせない技術になるのではないか,と考えている.
今後の本手技および内視鏡的縫縮術の普及を願っている.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし